「さて、そろそろ今日の狩りは終わりにしようか」
「そうですね、私も久しぶりに随分とレベルをあげました」
きのこ岳から帰る途中、ロンリーがグラッチェとキールに話しかけた。
「なあ、グラッチェ、キール。
これからも一緒に組まないか?
君らと俺が組めば、これからも効率良く狩りが出来ると思うんだが」
おやおや、2人だけに声をかけますか。
「他の3人は誘わないのか?」
「女の子2人はネタキャラじゃないか。
臨時はともかく、高レベルになった時を考えたら、固定PTは無理だろ?
それにヨシヒロは初心者だからな、俺たちに付いて来れないだろ」
「そんな事は無いと思いますよ?
ヨシヒロ君は初心者と言いましたが、誰だって初心者の時はありますよ。
逆に、変なオレ様ルールを持っていないだけ、固定PTは組みやすいと思いますね。
女性2人にしても、確かに正攻法のスキル取りではありませんが、充分に戦える事を考えて取ってます。
それに、固定PTで一番大事なのは、戦力や効率ではなく人間関係ですからね。
その点、美しいお2人は高いアドバンテージを持ていると言えるでしょう」
「アドバンテージ?
デス娘など、全然しゃべらないじゃないか」
「それがイイ人もいるみたいですよ。
まあ、このPT内に居るかは謎ですが」
「ふん、で?
結局どうするんだ?
グラッチェ、お前は判るよな」
「ん? ああ、ロンリー、もちろん判るさ。
君とは組めないよ」
「…… ち、もういい。
じゃあ、ここで解散だな」
そしてロンリーは、1人町へと違う道で帰って行った。
まあ、ロンリーと固定は無理そうだったから、いいか。
「しかし何で判らないんですかね?
僕とロンリー以外は、初めから固定組んでたんでしょうに。
それとも判ってて、引き抜こうとしてたんでしょうか」
「どうだろうね。
それでキール、君はどうする?
俺としては、君ならこのまま固定で狩りを続けてもらいたいんだが」
「他の人はどうでしょうか?」
「俺はキールさえ良ければいいと思うよ」
「私も回復役が増えるのは、歓迎ですわ」
「…… どっちでも」
「ふむ、まあ固定と言っても抜けれない訳じゃないですし。
とりあえず宜しく頼みます」
俺は夕飯を食いながら、キールに聞いてみた。
「そう言えばキールは、レベル20を超えたんだよね。
次は何のスキルを取るの?」
「”宗教知識”と言うスキルですね。
このスキルは悪魔や死霊などの呪いを払拭したり、状態異常の抵抗力を高めたりしてくれます。
しかしまあ、死にスキルですね」
「え? じゃあ何で取るの?」
「神聖魔法と信仰、そして宗教知識が揃うと、修道士から助祭と言う職に転職します。
助祭でなければ司祭に転職できないので、前提条件ですね」
「まあ、俺やお前が槍スキルや騎乗スキルを取るのと同じだな。
槍や騎乗は合戦で役に立つけど、宗教知識はなあ…… 」
「完全に死にスキルと言う訳でもありませんよ。
特に一部のダンジョンでは、無いと話になりませんし。
それに宗教知識スキルのパッシブ能力は地味に効きますからね」
チルヒメが肯定的な意見を出す。
「それで司祭になると、高レベルのスキルが修得できるの?」
「高レベルというより、宗派に副ったスキルですね。
慈母神なら、より高い効果の回復魔法が使えますし、戦神なら、一時的な能力上昇などの魔法ですね。
他にも知識神や光神など、8つの神から選べるんですよ」
「どれにするんだ?」
「まだ決めかねてますね。
このまま、このPTで固定するなら、みなさんの意見も聞きたいですね」
「でも、俺なんかもうレベル25だし、キールも23だよね。
直ぐに30になるんじゃない?」
「そう考えると、レベルが上がるのが早いですわね、私たち。
前はもっと時間がかかった気がするのですが、何故でしょうか?」
「IN率の違いじゃないかな。
100%なんだから、廃人なみの稼動率だし。
それに臨時で、集めたり分かれたりの時間も、随分と短縮されているし」
「ああ、確かにそうですわね」
やっぱり、普通にゲームする時より成長速度が高かったんだな。
さて、今日もきのこ岳だ。
「昨日より火力が減ったから、慎重にいくぞ」
「まあ、レベルも上がっているので、狩れない事はないでしょう」
「問題は熊ね、2匹同時に来ない限りは大丈夫だと思うけれど」
でも何とか狩れるみたいだ、危なげなく狩っている処に……
「た~す~け~て~!」
「! 気を付けろ、トレインだ!」
「た~す~け~て~!」
「助けてって言ってるよ」
「おそらくPTが全滅したか、釣り過ぎてPTまで持っていけなくなったか」
「PTからはぐれた可能性もありますよ?
死に帰りして狩場へ戻る時に、処理できなかったとか」
「どちらにしても、迷惑な事に変わりありませんがね」
チルヒメの擁護っぽい一言を、キールが斬って捨てる。
「こっちに来ているな」
「…… 殲滅」
「するしかないな」
「ヨシヒロ、刀に持ち替えて攻撃速度で対応するんだ。
デス娘、出過ぎると囲まれるぞ。
チルヒメは召喚獣で守りを固めつつ、ヨシヒロの回復に専念してくれ。
キールは俺とデス娘の回復を頼む」
「私は回復に専念した方がいいですか?」
「1人でも死んだら、全滅すると思う。
無理に殲滅戦をするよりも、持久戦で乗り切る方がいいと思う」
まあグラッチェやデス娘に比べて、やわらかくて回避も無い俺が一番死に易いからなぁ。
「…… 来た」
「すみません、巻き込んでしまって」
「とりあえずここで潰しますから、貴方も手伝ってもらえますか?」
「は、はい、お願いします」
追われていたのは弓職の女の子だった。
狼のペットを連れているから、ハンターだろう。
「…… うっわー、すごいですね皆さん。
みるみる裡に殲滅されていきますよ」
何が凄いって、デス娘がすごい。
俺の目の前でブンブンと大鎌を振りながら、踊るようにきのこ達を狩っていく様は、まさに死神。
俺とグラッチェは、デス娘のサイドから漏れてくるきのこを狩っていく。
それでも狩り切れなかったきのこを、チルヒメの召喚獣が燃やしていく。
ハンターの子の援護もあって、殲滅できそうだ。
「ありがとうございます、PTの前衛が熊に殺されて、その後はきのこに集られて崩壊しちゃったんですよ。
私は何とか生き残ったものの、みんな解散しちゃいまして」
「それで逃げてきた訳か」
「まあ、よくある話でしょう」
キールの言う通り、たしかに珍しくもない話だろうな。
「あの、もし良かったら、みなさんのPTに入れてもらえませんか?
私はレベル26のハンターでミッシェルっていいます。
本当は名前の後ろに♪が付きますけど」
名前の前後に記号が付いたりするのは珍しくない。
ブルームーンライトのアッシュさんが、本当はアッシュvさんなのと一緒で。
登録済み名として蹴られたから、色々変えるのだ。
チルヒメも本当は木花咲耶姫にしたかったそうだ。
佐久夜毘売、開耶姫など色々試して全滅だとか。
「どうする?
俺は別にかまわないと思うが」
「いいのではないでしょうか。
元々昨日より火力が低かった訳ですし」
「僕も依存はありませんね」
「じゃあ決まりでいいかな」
デス娘がコクリと頷いて、ミッシェルの加入が決まった。
「ありがとう、この仔はブラウン、よろしくね」
「白い狼なのにブラウンなのですか?」
「なんとなくねー」
ミッシェルの加入で、随分と狩りが楽になった。
「殲滅が早くなったな。
ヨシヒロ、釣ってきてもらえる?」
「おお、釣りか、やったこと無いけど行ってみる」
「無理はしないでくださいね」
「てら~」
釣りの時は弓がいいだろう。
お、あの辺に結構いるな。
「シャワーアロー」
俺は弓の範囲攻撃技で、敵を一気に引っ張ってくる。
熟練度も低いので、攻撃力はあまりないが、タゲを取るのは充分だ。
俺がPTに戻ると、釣って来た群れにデス娘が突っ込む。
チルヒメとミッシェルの援護で、瞬く間に殲滅する。
「釣りって結構面白いな」
「ヨシヒロ君、熊をお願いします」
キールからリクエストが来た。
「了解、見繕ってくる」
夕方まで狩って、俺、グラッチェ、チルヒメ、ミッシェルがレベル28、デス娘が27でキールが26。
結局ミッシェルも固定メンバーに入りそうだ。
「いやー、ここのPTは安定度が高いよね。
みんなプレイヤースキルが高い高い」
「1stキャラは俺だけだしな」
「いやいや、低い人は何人作っても低いままだって。
それにヨシヒロ君も、1stとは思えない程うまくこなせてるよ」
「いや、ミッシェルこそ凄くプレイヤースキル高いじゃないか」
「私はこれでも1stキャラが、トップレベルのギルドに所属してたしね」
「へぇ、何てとこ?」
「葬送曲 ~レクイエム~ って処なんだけどね」
その瞬間グラッチェが固まった…… あれ?
「そう言えば、グラッチェ。
レクイエムって…… 」
「…… ああ、俺のトコだ」
「え? グラッチェ君もレクイエムにキャラ持ってんの? 誰?」
「…… メルスィーだよ、君こそだれだ?」
「…… 。
…… 。
…… 。
…… 。
…… え?
えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!111 」
「驚きすぎだよ」
「だって、メルスィー姐さん?
だって、全然違うじゃないッスか!
あたし、姐さんは本当に女と思って…… いや、今がおかしいッスか?」
「RPGなんだから、ロールプレイをするのはあたりまえだろ?」
「ってことは…… どっちがロールプレイッスか?」
「さあね、両方じゃない?
それより、その話し方は…… エミューか?
何でギルドに顔を出さなかったんだ?」
「いやー、エミューッス。
ギルドに行かなかったのは、雑魚になっちゃったッスからね。
せめてレベル70↑まで持って行ってから、顔を出そうかと」
「でもハンターは合戦に出られないから、そのままじゃギルドに戻れないかもしれないぞ?
うちは合戦ギルドだからな」
「しょうがないッス。
このキャラは、合戦しないときの暇つぶしで作ったキャラだし」
「まあギルドでも、俺やお前を含めて主力が何人か消えたから、合戦自体が減ってるしな…… 」
グラッチェとミッシェルが話し込み始めたので、チルヒメに話を振ってみた。
「そういえばチルヒメ、スキルはどういう風に伸ばしていくの?
俺やグラッチェは騎乗を取るし、キールはどこかの宗派スキルを取るって言ってたし。
デス娘とミッシェルは、それぞれシーフとハンターのスキルを取るみたいだし」
「私は回避率を上げる為に、シーフの軽身を修得しようと思っていましたが。
先に”水の魔法”を修得する事にしようと考えています」
「魔法中心のキャラになるって事?」
「元々そういう初期パラメータでしたし。
強力な範囲攻撃が、PTに1つは欲しい処ですしね。
回復役はキールさんが来てくれましたし、壁役としてはグラッチェさんとブラウンちゃん、召喚獣もいます。
それならば回避力の向上よりも、殲滅力の底上げの方が良いと思いまして」
「なるほど、PTの一員としてのスキル取りか。
俺もサムライになった後は、その辺も考えないとな」
「デス娘はアサシンになってしまえば、前衛と言うより遊撃に向くようになりますから。
ヨシヒロさんは攻撃型の前衛として、スキルを考えるといいですよ」
「そうなのか。
キール、お前は何の宗派にするんだ?」
「そうですね、幸運神か暗黒神か…… その2つが候補ですね」
「どういうチョイスだ?」
「幸運神の特徴は、隠しパラメータのラックを、一時的に上げる魔法が使えるんです。
他にも各種抵抗力を上げる力もあります。
暗黒神の特徴は、何と言っても敵モンスターを下僕に出来ることですね。
ブラウンやチルヒメさんの召喚獣を見ていたら、うらやましくなって」
「暗黒神は…… まあ、判らなくもないが、幸運神は製造職もいないのに、意味あるの?」
「ヨシヒロ君やデス娘さんが、いるじゃあありませんか」
「…… クリティカル」
デス娘がまたボソリと言った。
「そう、サムライもアサシンもクリティカル率の高い職ですからね。
幸運神の魔法で、更にクリティカル率を上げる事ができます。
具体的には100%くらい」
「全部の攻撃がクリティカルになるのか?」
「もちろん、君たちも然るべきスキルを修得して、熟練度を上げたら…… ですが」
「是非、幸運神にするべきですね。
クリティカルは良いものです」
何故かチルヒメがプッシュしてきた。
「え? キール君、幸運神の司祭になるの?
ブラウンも、クリティカル率が高いから役に立つよ」
ミッシェルも話に入って来て、どうやらキールの宗派は幸運神になりそうだ。
それから3日、昨日の狩りで全員がレベル30になった。
今日はPT狩りをお休みして、みんなスキル修得や転職に勤しむ事になった。
「つ・い・に・来たな! 若人よ!
SA☆MU★RA☆I! そう! 君は今からサムライになるのだっ!」
相変わらずだな、このNPCも。
「さあ! この推薦状を持って登城するのだ!」
「じゃあ、いただいて行きます」
ここが城か。
思えば、ここに来る途中で道場に入ったのが、サムライになる切欠だったな。
寄り道…… と言う訳でもないか。
俺は城の中で、兵士のNPCに話しかけた。
「あの、サムライになりに来たんだけど」
「スキルは達成しているようですね、それでは右の階段から上がって、サムライ登録所に行ってください」
「ありがとう」
ここから2階に上がって…… あの部屋か。
「サムライになりに来て、ここに来るように言われたんだけど」
「うむ、スキルは問題なく達成しているな。
それでは推薦状を出したまえ」
「はい」
「うむうむ、問題は無いな、それでは君はサムライだ」
「…… えっと、これで終わり?」
「何かあるかね?」
「いや、サムライになって何か変わったとか…… 」
「ん? ああ、ステータスの職業欄が、浪人からサムライになっている筈だが」
…… 確かになっている。
「これだけ?」
「ああ、城の庭に行ける様になったな、サムライ詰め所に行ってみるといい」
「…… ありがとう」
とりあえず、サムライ詰め所に行ってみた。
詰め所と言っても、ガランとしているな。
NPCのサムライに聞いてみよう。
「あの、さっきサムライになったんだけど、何が変わるの?」
「うむ、サムライになると城勤めになるので、合戦に出られる様になる。
合戦は、大人数のプレイヤー対プレイヤーの、熱きバトルだ!
合戦のスケジュールは、城の掲示板を見るといい」
「他には?」
「サムライ特有のスキルを、道場で得る事が出来るな。
後、装備も浪人の服から、サムライの服に替えられる」
「それだけ?」
「それだけだ」
…… 帰るか。
つまり就職したからって、それまでの俺と劇的にナニかが変わるわけじゃあない、って事か。
ゲームの転職なんだから、ステータスパラメータが伸びるとか、職の特性が付くとか…… 無いですね。
まあいい、服をサムライの物に替える事はできるんだ。
武器屋に行って、買ってみよう。
「ん? ウチにはサムライの服は売ってないぞ?」
「え? どこで売ってるの?」
「サムライの装備と言えば、山門(やまと)の町か、水門(みなと)の町だな」
…… そう言えば、ここ以外の町に行ったこと無かったな。
グラッチェに聞いてみよう。
ふむふむ、結構遠いから、馬か騎獣を買ってから行った方がいい…… か。
とりあえず、グラッチェと合流して、騎獣の購入と行こう。
「おお、こっちだ!」
「やあ、グラッチェ…… もう買ったのか?」
「ああ、こいつを買うのは前から決めてたしな。
名前はブルームだ、よろしくな」
ブルームは2足走行の恐竜? だ。
「強そうだな」
「いや、これより強いのも速いのもいるが、合戦では一番使いやすくてな。
まあ、違う意見の奴も多いが、俺は選ぶとしたら、やっぱりこれかな」
「へえ、俺はどうしようかな、見栄えなら馬…… かなあ」
「ユニコーンは男には似合わんしな、ペガサスもPTじゃ微妙だし…… でも普通の馬は安い分、能力がなあ。
NPCに掘り出し物が無いか、聞いてみるか」
「掘り出し物とかあるのか?」
「ランダムでな、キャラ1人につき1種類だけ、掘り出し物が設定されている。
普通に買えるものより優秀なのもあるが、殆どはハズレだな」
「ハズレの掘り出し物って…… 」
「いや、普通のより能力は高目なんだ。
ただ種類が微妙で、能力の高い農耕馬を出されても…… 軍馬の方が絶対にいいし」
「なるほど」
「まあ、運試しと思って聞いてみたら?」
ふむ、聞いてみるか。
「なあ、掘り出し物はあるのか?」
「掘り出し物? ああ、いい馬がおるぞ、グラニって言う品種でな。
馬の中では最高級じゃ。
この品種を持つものは他におるまい」
「おい! レア品種が当たったぞ!」
「? すごいの?」
「凄いかどうかは判らないが、最後の一言は、激レアが出た時のセリフだ」
「そ、そうなのか、よし、それにしよう。
馬って言うから、問題ないだろう」
「13000Gじゃ」
「高っ! …… どうなんだ?」
「買いだな。
馬としては破格だが、それだけに期待が持てる。
足りなければ貸すぞ?」
「いや、何とか持ってる…… よし、買おう」
高い買い物だったが、グラッチェが太鼓判を押したから、大丈夫だろう。
名前を付けないとな。