今日も昨日と同じメンバーで狩りです。
まあ、臨時ってことで集めたけど、インしっぱなしなので集めなおす意味もそれほどない。
俺とグラッチェにとっては、回復魔法を持つチルヒメも、後に盗賊技能を充実させて行くだろうデス娘も得がたい存在だ。
チルヒメとデス娘にとっては、ネタキャラと言うだけでPTから敬遠される可能性もあるので、別れたくはない。
特に、ゲームではあっても、遊びではない現状にあって、ネタキャラの肩身は尚、狭くなる。
昨日の議論は、結局は俺が判断する事だと言う事で、一応落ち着いた。
…… え? どう判断すればいいの?
「で、どうするんだ?」
朝飯の時にグラッチェが聞いてきた。
「昨日の話か?
今まで使ってなかったから、無理に上げるのはよすけど、今後必要と思ったら道場に通うよ」
結局、意見としてはグラッチェ寄りだな。
「貴方が、そう判断するのでしたら、無理にとは申せませんね」
「いや、チルヒメの意見も参考になったよ、うん」
「ふむ、それで今日も北ダンジョンでいいよな」
「場所はいいですけど、位置をもっと中央にしませんか?
充分狩れる事は、昨日で判ったのですし、レベルも少し上がっていますから」
「確かに俺は21に上がって、他3人は20だ……
俺とヨシヒロは槍マスタリーを追加したんで、戦力的には昨日と変わらないな。
そっちは何を取ったんだ?」
「私は魔法学校で”召喚魔法”を修得しました」
「…… ”解除の極意”」
「解除も戦力的には昨日と同じだな。
…… しかし、召喚魔法? ”永続召喚”か?」
すまん、さっぱり判らん。
「質問だが、まず解除の極意って?」
「罠外しや鍵外しなどの、正にシーフ御用達スキルだ。
解除と言っても、罠の探知や隠し扉の発見能力なども修得する」
「ふむふむ、で、召喚魔法…… は何となく判るけど、永続召喚ってのは?」
「召喚魔法は通常、一度の魔法で一定期間の間、召喚獣を召喚できます。
つまり時間が過ぎる毎に、召喚し直す必要があるのです。
ですが永続召喚は一度召喚すると、召喚獣が死ぬまでは再召喚の必要がありません」
「そっちの方が便利そうだね」
「いえ、実は永続召喚は不便…… と言うか、かなり不利な魔法なのです。
通常の召喚では、それに因って倒した敵の経験値は全て召喚主に入ります。
しかし永続召喚で召喚した召喚獣は、召喚主に入る経験値の半分を自分の経験値にします。
例えば、このPTで私に入る経験値は、PT全体の1/4です。
永続召喚をすると私に入る経験値が1/8、私の召喚獣に入る経験値も1/8となります。
臨時PTならともかく、恒久的な固定PTであれば、レベルの差が出てしまいますね」
「もっとも、それは俺たちが騎乗スキルを覚えて、馬や騎獣に乗っている時も同じだ。
ちなみにハンターのペットなんかもね。
一番不利なのは、召喚魔法の最も有効な部分が無意味になるところだな。
普通の召喚魔法は敵の属性に合わせて、狩場毎に召喚する召喚獣を変える事ができる。
それが永続召喚では、最初に選んだ召喚獣しか召喚できない」
「他の魔法は狩場毎に属性を変える事はできないの?」
「普通の魔術師は、”火の魔法”や”水の魔法”と言った具合に、複数のスキルで様々な狩場に対応するんだ。
それが召喚魔法は、1つのスキルで様々な属性の召喚獣を召喚できる」
「もちろん魔術師の魔法は、色々なバリエーションがある事が強みですから。
召喚獣に攻撃しろ、としか命令できない召喚魔法より、ずいぶんと効果的な戦いができますわ。
巧く使えれば、ですけれど。
永続召喚を解除する事はできますが、再召喚しても最初に選んだ召喚獣が召喚されます。
まあ、成長させているのですから、そうでなくては困りますが。
しかも永続召喚中は、他の召喚魔法が使えません」
「それに召喚も召喚解除も、MPが満タンでないと使えないしな。
召喚主の全MPと引き換えの魔法だ。
戦闘中に使うのはキツイから、戦況に応じて使い分けるなんて出来ない」
何だか、こいつらヤケに息が合ってる様な……
「じゃあ永続召喚は意味ないんじゃないか?」
「いや、当然メリットもある。
使い続ければ経験値によって、召喚獣が成長するのもメリットの一つだが。
攻撃命令でMPを使わないと言うのが、最大のメリットだな」
「ああ! 回復魔法の為にMPを温存できる訳か」
「…… そう言うこと」
…… デス娘さん、最後の一言だけもって行くなんて。
「たしかに後々は永続召喚をするつもりですが、まだ修得していませんし。
戦闘中のMPは回復魔法に専念致しますので、私も戦力的には昨日と同じ。
と考えてください」
「ふむ、なら中央に行くのはキツくないかな。
確かにレベルは上がったが、漸く適正だし人数も4人と少なめだ。
少し火力に欠ける様な気もする」
「火力に関しては、私とヨシヒロさんが属性矢を用意しましたので、それなりに上がるはずです」
「なるほど、それでは中央に出てみるか」
いや、まいったね。
昨日は信じられない程、敵が湧くと思ったけど、今日は更に湧いてるよ。
息を付く暇もないほどだ。
でも、みんなは楽に敵を処理してるんだよね。
これが経験の差か。
「ヨシヒロ、矢の属性間違えてるぞ、黒狼は水に弱いが、茶狼は風に弱い、水は殆ど効かないぞ」
「ら、らじゃー」
「ヨシヒロさん、落ち着いて矢を選べば大丈夫ですよ。
そのうち慣れますし、弓準備を修得しているので、ロス分は取り戻せますから」
「が、がんばる」
『voooffoofff』
『vaoooooffaooofffooovvvvooo』
中央は狼が多いな。
しかもイモ虫は全部、毒イモ虫だし。
「いや、しかし何とかなったな」
俺たちはダンジョンを一度出て、昼食を食っていた。
「ヨシヒロも大分なれてきたし、レベルもまたあがったしな。
午後はもっと楽になるさ」
「明日はどうします?
私としては、もう少し戦力を増やしたいのですが」
「充分狩れていると思うが?」
「確かにここは大丈夫ですが、次はきのこ岳ですよね」
「…… 熊か」
「ええ、きのこ達は火矢でなんとかなりますが、熊の事を考えると足りませんから」
「? ここで適正までレベルを上げるんじゃダメなの?」
「うーん、実は熊の適正レベルと、きのこの適正レベルで開きがあるんだ。
4人で熊を狩れるまで、ここで上げてもいいが、ちょっと大変な上に、きのこが不味くなる。
それなら人数を増やして、より多くのきのこを狩った方が美味いんだ。
熊もなんとかなるしな」
「なるほど」
「それに、フレンド登録している人たちにも聞いたんですが、PTに臨時が減り始めているそうです」
「そうなの?」
「まあ、考えられるな。
毎回違うPTで、反りが合わない相手に当たるよりは、固定PTの方がいいよ。
現に俺たちも臨時で募集したけど、当たり前の様に明日の狩りを話してるし」
「固定PTの一番のネックは、ログイン時間の相違ですからね。
人当たりのいい人や、高いプレイヤースキルを持つ人は、早々に固定PTになって行くでしょう。
私はこのPTが気に入ってますから、長く居たいと思います。
だからこそ、戦力の充実は早めにしておくべきかと考えます。
…… それに、私とデス娘はネタキャラだから、PTを見つけ難いと言うのもありますし」
「…… 気にするな」
いや、デス娘ちゃん、そこは俺たちのセリフであって……
「なるほどな。
確かに早めに戦力の充実を図らないと、後から集められる人材は推して知るべし…… か。
オリジンとか来たりしてな」
「いやいや、ナイから」
「よし、明日は先ずPTの追加募集にしよう。
2人募集して、後衛が2人来たらヨシヒロが刀持てばいいし。
回復役が来ても、チルヒメに召喚魔法を使ってもらえばいい」
「そうですね。
永続召喚を取得するまでは、普通に使えばいいですし」
さて、午後の狩りだ。
このゲーム、食べなくちゃならないけど、出さなくてもいいのは便利だよな。
「…… すまん、矢が無くなった」
「む、デス娘がもうすぐレベルが上がるはずだから、それまで刀に持ち替えててくれ。
そうしたら全員レベル23だ。
今日は終わりにしよう」
「判った」
よし、木刀の錆にしてくれる。
…… ううむ、属性が乗らないためか、少し火力が弱いか?
回転率はいい筈なんだが。
それよりも、前衛に出た為の被ダメが問題かな?
狼は速い。
毒イモ虫は華麗に避ける事ができるが、狼の攻撃は喰らってしまう。
それに引き換え、デス娘は昨日こそ被ダメをそれなりに喰らっていたが、今日は敵も増えたと言うのにあまり喰らってない。
もちろんレベルが上がった事もあるだろうが、レベル自体は俺の方が1つ高い。
慣れ? デス娘は無言で踊るように、ザクリ! ザクリ! と狩っていく。
「なんでデス娘は、あんなに簡単に狼を避けれるんだ?」
「盗賊のスキルじゃないか、”軽身”っていうスキルで回避力をアップするんだ」
「そんなのがあるのか」
「アクティブな技は覚えないが、移動力やジャンプ力もアップする様になるし、攻撃速度も上がる。
まあ、”攻撃速度+”はまだ修得してないだろうが」
「すごいな…… 俺も修得できるかな?」
「サムライになれば、”見切り”と言うスキルで、回避力や攻撃速度を上げる事はできますよ?
どうしても盗賊系のスキルを修得したいなら、サムライでなく忍者に進む方がいいですね」
「忍者のスキルも一部なら、サムライに転職しても修得できるからな。
俺やチルヒメに相談して決めた方がいいだろう」
「なるほど、その時はよろしく」
夕食の後はみんなバラバラになる。
昨日は全員がレベル20を超えたので、新しいスキルを修得しに行ったんだよな。
グラッチェは今日、ギルドに行くって言ってたっけ。
マスターは大変だな。
チルヒメは魔法学校で召喚魔法の修行と言ってたから、熟練度を上げに行くんだろう。
俺も道場で槍の熟練度を上げるか。
デス娘は…… 謎だな。
まあ、彼女も新スキルの熟練度上げだろう。
俺は道場に行く前に、武器屋へ寄った。
俺の武器は全て道場の支給品だ。
ブルームーンライトに貰った金には、まだ手をつける心算はないが、狩りだけでもそれなりに稼いだ。
ここらで武器を一気に新調してもいいだろう。
防具は貰った服でサムライまで行けるしな。
「レベル23の浪人か、刀と素槍、そして長弓だな」
武器屋のおやじは、これ1択だと言った感じで、武器を出してきた。
「他に浪人が使える様な武器は、どんなのがあるの?」
「今のレベルだと薙刀や棍、手裏剣などもあるな。
気をつけないといけないのは、薙刀や棍は槍マスタリーではなく、長柄武器マスタリーで能力が伸びることか。
手裏剣は”投擲”だな。
西洋刀などは、浪人やサムライには使えんし、スキル的にも片手剣マスタリーの範疇に入る」
そういえば、デス娘は槍じゃなく長柄武器のマスタリーだったな。
「槍と長柄武器ってどう違うの?」
「簡単に言えば、突くか薙ぐかだ。
もちろん槍で叩き斬ることも、薙刀で刺し殺すこともできるが、攻撃力が若干低くなるな。
それにアクティブな技が、突き型と薙ぎ払い型で違うな。
後、騎乗長柄は騎乗槍よりも、修得する為に必要な熟練度が高い。
まあ、長柄武器の方がバリエーションが多いから、それが長柄武器の利点だな」
ここはオーソドックスに、刀と素槍に長弓を買っておこう。
後は属性矢の補充をして、道場に向かうか。
翌日、公園で追加人員の募集を始めた。
「なあ、なんで臨時って書いてるんだ?」
「確かに固定の為に募集しているのは事実だが、最初から固定として募集するのは危険だよ。
せめて1度なり一緒に狩って、人となりを見てからじゃないと」
「そうですね、反りの合わない方と御一緒しても、臨時で募集しておけば、その1回で済みますし」
「なるほどねー」
お、レスが来た。
当方、火・風魔術師、レベル22、狩場は?
と。
修道士です、レベル19ですが大丈夫ですか?
と言うものだ。
「どうする?」
「2人とも採用しましょう。
ヨシヒロさんに刀を持ってもらって前衛を。
回復は修道士さんに任せて、私が召喚魔法と弓を使えばバランスが取れます」
「では、きのこ岳だな」
「はじめまして、Mr.ロンリーだ。
呼び名はロンリーで頼む、見ての通り魔術師だ」
「はじめまして、キールです。
”神聖魔法”と”信仰”を修得しています」
「はじめまして、ヨシヒロです。
神聖魔法って、回復魔法と違うの?」
「グラッチェだ、よろしく。
神聖魔法は回復の他に、魔族や死霊に対する攻撃魔法も含まれる。
その分、ヒールなどの回復魔法自体は”回復魔法”のスキルには敵わないがな」
「宜しくお願いします、木花知流比売と申します、呼び名はチルかチルヒメでお願いします。
回復魔法は神官系以外の職が、神聖魔法の代わりに修得できるスキルなんです。
神官系の方は信仰スキルで、神聖魔法の効果を強化できますから、結局は本職の方には回復力は敵わないのですよ」
「…… デス娘」
「…… フン、ヨシヒロは初心者みたいだが、それはまあ仕方ないとして。
ネタ職が2名…… いや、浪人もネタみたいな物か。
まともな職が半分で大丈夫なのか?」
このセリフはロンリー。
浪人ってネタだったのか。
「…… いやなら帰れ」
「デス娘……
すみません、本来はPTに私たちが入る方が筋違いなのは判っているのですが。
キャラクターを換えることも出来なくなりましたので、グラッチェさん達にお願いして入れてもらっています」
「まあまあ、ネタキャラと言っても未だ低レベルなのですから。
影響は殆ど無いはずですよ。
普通のキャラより弱いとばかりも言えませんし。
文句はお互いに実力を見せてからにしましょうよ」
これはキールのセリフだが、宥めているのか煽っているのか……
兎にも角にも、やって来ました、きのこ岳。
腰の辺りまでも背丈があるキノコのおばけが、わらわらと集まってくる…… が。
「この辺りは他のPTがいるな、もっと奥にいこう」
「モンスターは無視して一気に抜けるんだ!」
いやー、ここは他の人も多いので、狩場を定めるのに結構苦労したよ。
「ここにしますか」
空いている場所を見つけて、キールがほっとした様に言う。
今のレベルじゃあ、歩きながらのヒールはMPが追いつかないらしい。
「少し湧きが甘くないか?」
ロンリーは不満のようだが、無いものは仕方ない。
「とりあえず、ここで狩って様子をみてみよう」
「そうですね、他に場所もないようですし」
グラッチェとチルヒメが、ここでの狩りに賛成したので、決まりだな。
俺はこの狩場は始めてで、他の人の意見に合わせるだけだし、デス娘はデス娘だし。
「仕方ないか」
ロンリーも、とりあえず納得したようだ。
さて、新調した刀の出番だな。
「背が低いと狩りにくいな…… 」
「槍を使ったらいかがですか?
盾を持っているグラッチェはともかく、貴方は槍の方がいいかもしれません。
デス娘は特に狩り難いようではないでしょう?」
ふむ、チルヒメのアドバイスに従って、槍に換えてみた。
「おおっ、大分楽だな」
刀より熟練度の分、攻撃力は落ちるが、姿勢が楽だ。
「ヨシヒロ! 槍は振るんじゃない! 刺すんだ!
突いた方が、攻撃力が高いのも知らないのか!」
ロンリーが叫んだ。
「そ、そうなのか、そういえば長柄武器は薙いで、槍は突く武器だと言っていたな」
「それからデス娘! 前衛は後衛の盾なんだから、あまり俺たちから離れるんじゃない!」
デス娘はロンリーを、じーっと見た後に…… プイ、と顔を逸らして狩りを続けた。
「ロンリー、壁は俺とヨシヒロでやるよ、デス娘は大鎌だから、少し離れた方が動きやすいだろう」
「…… これだからネタキャラは」
「私の召喚獣も周りを守っているのですから、これ以上の盾は必要ないでしょう。
デス娘には、敵の群れを散らして貰った方がいいはずです」
「デス娘さん、HPが危なくなったら近くに来てくださいね」
それから暫く狩っていたが、どうもロンリーは自分の常識を相手に押し付けるタイプらしい。
細かい処や些細なミスで、かなり文句を言う。
俺は壁としては薄いし、プレイヤースキルも足りていないと。
チルヒメも弓職にしては敏捷度が低く、召喚獣はいるものの全体的に中途半端だと。
デス娘は壁もせず、コミュニケーションを取ろうとしないと。
いや、デス娘に至っては、ロンリーを完全に無視してるんだけどね。
確かにロンリーのプレイヤースキルは、目を瞠るものがあるんだけど……
流石にグラッチェやキールについては、余り言わないけど…… それでも偶に言うし。
「熊だ!」
「タゲは俺が取る!
キール、回復宜しく。
ヨシヒロは、弓に持ち替えて火矢だ!
チルヒメ、召喚獣は後衛の守りに回してくれ。
デス娘は、可能な限り遠くから攻撃を。
ロンリー、ファイヤーボールは使うなよ」
俺は指示通り、火属性の矢を熊に連射しながら聞いた。
「なあグラッチェ。
なんでファイヤーボールはダメなんだ?」
「爆発系は、タゲを一気に引き寄せるからな。
さっきまでは俺がタゲを引き受けれたが、熊で手一杯になるから。
ファイヤーボールなんて出したら、きのこに集られて即死だな」
「へー、色々あるんだね」
…… お、倒れた。
「熊って思ったより弱かった?」
「いやいや、PT全員でフルボッコですから。
これで時間かかってたら、ここじゃ狩れませんよ」
「ああ、なるほど」
まあ、結果からしたら、無事に狩れたって処かな。