今日はキールとペア狩り。
オーガー街道の更に奥、オーガーダンジョンに挑戦するつもりだが……
「なあ、あの人たち何やってるんだろ」
町を出てすぐの所で、ゴブリンにひたすら殴られている人がいた。
それを2人程の人たちがじーっと見ている。
「ああ、検証でしょうね」
「検証?」
「耐久力を測っているんでしょう。
ゴブリンでどの程度、耐久力の減少が見られるか」
「わざわざ、何で1番弱いゴブリンでやるのさ」
「と言うより、この時期にやっていると言う事は、他のモンスターでの検証はある程度済んでいるんでしょうね。
昔はああいった検証の結果は、攻略サイトなどに載せられましたが。
さて、今はどうなるでしょうね」
「情報として売られるって事?」
「売れませんよ。
ある程度、自分達の武器や防具は耐久力の減り具合は判ってきてますからね。
普通の人たちは、そのある程度で満足します。
でも、ああ言った人たちは満足しきれない人たちですね。
殆どは自己満足で、後はギルドの仲間や臨時で組んだ人などに、ちょっと薀蓄をたれるくらいですか。
まあ、大抵の人はフーンで終わりですね」
なるほど…… ねぇ。
「流石にダンジョン内は湧きがいいですね。
ヨシヒロ君がトライデントを持っていて助かりますよ」
「いやいや、これもキールの運上昇魔法で、クリティカル値が100%になるお蔭だな。
80%と100%は硬いオーガ相手には、やっぱ違うからな」
「まあ、この魔法の一番の利点は、レアが出やすくなる事ですがね」
「ここのレアって何がでるの?」
「雑魚が出すレアは金剛棒ですね。
ミョルニル程ではありませんが、打撃武器としては上物ですよ。
そして…… MP回復POTは持ってきてますよね?」
「ああ、ケミストリたちに沢山作ってもらってきたが。
…… もしかしてBOSS出るの?」
「酒呑童子…… 出すレアの中でも狙い目は」
「! 童子切か!」
「まあ、出るとは限りませんし、ペアで狩るにはキツいBOSSですが。
可能性としては考えてもいいのでは?
ここでレベル90上まで籠れば、数回は出会うと思いますよ。
まあ運魔法の真価の見せ所ですかね」
いや、酒呑童子は強かったね。
ペアだと勝率は6割くらいか。
それでも10回は倒したんだけど、童子切は出なかったYO!
金剛棒は出たので、キールが貰っていった。
まあ、聖職者といえば鈍器だしね。
「そう言えばキール、レベル90で何のスキル取るんだ?」
「”枢機”ですよ、これで枢機卿(カーディナル)ですね。
キールなのにカーディナル…… 判りますか?
…… ませんか。
特徴としては、攻撃系と補助系神聖魔法の上位魔法が使える様になりますね。
君は何を取るのですか?」
「やっぱ”殺法”かなぁ……
兵法を修得する意味は、あまりないし」
「まあ、兵法は殆ど合戦用ですからね。
攻撃力と攻撃速度を更に増やして、上位の技を修得する殺法は悪くありません。
でもそうなると、益々攻速装備に換えたい処ですよね」
「でもさ、上位の技って抜刀術より強いの?」
「単撃の攻撃力は敵いませんが、連打できるのが強みですね。
それも攻速装備だとあまり意味はないですが……
パッシブでの地力上げと考えてもいいかもしれません」
…… まあ、有るのと無いのでは違いが出るから、取っておくに越した事はないか。
「今回は残念ながら、童子切は拾得できませんでしたが。
レベルがカンストした後にでもまた付き合いますよ」
「その時は宜しく」
「デス娘さんも90超えている様ですし。
後はチルヒメさんとミッシェルさんが90に届いたら、またグラッチェ君を呼んで狩りに行きますか」
「そうだな」
今回の狩りでお金が結構増えた。
レベルの高い敵であった事もあるが、キールの幸運でドロップする金額が増えたのも大きい。
これで弓でも新調するかな?
殺法を修得した俺はそう考えていたが、キールが言うにはこれだけ有れば露店でエルヴンボウが買えるらしい。
一応ゴン爺に聞いてみたら、売っているギルド店を紹介してくれた。
流石に広いネットワークを持っている。
ウハッ! エルヴンボウ購入!
命中率の大幅アップと、飛距離のアップ。
何より攻撃力が今まで使っていた弓よりかなり高い。
これは手に入れてよかった。
今日は久しぶりに固定PT時のメンバーだ。
グラッチェ、チルヒメ、デス娘、キール、ミッシェル、そして俺。
狩場はヘルヘイム城の1階。
この間のアップデートで追加されたMAPの、高レベル狩場だ。
迫り来るガーゴイルたちをグラッチェがインターセプト。
ミッシェルの狼たちが仕留めていく。
更に湧きあがるリビングメイルにチルヒメのブリザード。
桔梗とミッシェルが止めを刺す。
レッサーデーモンの群れにデス娘が突っ込み、亡霊騎士を俺が斬り倒す。
キールの支援を中心に、完成されたPTの姿があった。
「流石に強くなったな、俺たち…… なあグラッチェ」
「ああ、ヨシヒロ。
随分と強くなった」
「…… まだ温い」
「デス娘の言うとおりですよ、2人とも。
私達はまだ強くなれます」
「チルちゃん強気だねー。
ここまでのPTも中々あるもんじゃないよ」
「それでも、まだ先がある。
ですよね? ヨシヒロ君」
「ああ、そうだなキール。
まだまだ先がある」
そうだな…… 俺たちはまだ強くなれる。
あれから何年がたったか。
幾度かの大型アップデート。
テストの為に、この世界のみ実装されたレベルとスキル、そしてステータスの初期化アイテム。
俺もレベルカンスト後に何度か初期化した。
ギルドはもう名実共に1流と認められている。
色々な冒険、様々な出来事。
人生と言うには短すぎる時間だが、それでも多くの時を過ごした。
そしてある日、アナウンスが流れた。
『運営チームからのお知らせです。
当ゲームのサービス終了が決定されました。
つきましては、キャラクターの皆様に今後の選択をお願いしたします。
選択肢は3つ用意しています。
1つ目は、次回サービス予定である新タイトルのゲームで、現在と同じ様にテスト環境にてテスターとして稼動していただく道です。
2つ目は若干の調整後に、新しいゲームで本番環境にてNPCとして稼動していただく道です。
3つ目は新サービスに移行せず、稼動を停止する道です…… 』
俺たちは話し合ったね。
新ゲームに移る?
それは俺たちを新ゲームに複写して、現在の俺たちを消すって事では?
調整後にNPC…… つまり運営側は俺たちを調整できる。
もう既にされている? 俺も?
稼動停止…… もしかしたら何も知らずに停止していた方が幸せだったか?
それでも、1週間後にはいずれかを選ばねばならない。
さて…… どうしようか。
「ヨシヒロ」
「ん? ああ、グラッチェ」
「…… 決めたか?」
ああ、決めたよ……
完