「他のギルドでも庭園の話は上がったみたいですが、自分の所で作ろうとするギルドの話は聞きませんね」
チルヒメがそう言うが。
「何で?」
「やはり今でも、無駄だと言う意見が多いみたいですよ」
チルヒメの答えにノヴァが補足する。
「まあ、庭園なんか造らなくっても町毎に公園はあるしな。
スキルを取るのも増設するのも難しくはないが…… 普通はいらんわな」
「そんな事ありませんよ!
現にウロボロスさんも、あんなに喜んでたじゃないですか!」
ムッハー! と与作は主張するが、デス娘が切って捨てる。
「…… その時だけ」
うん、そうなんだ。
田畑用の農場や牧場もそうなんだけど、庭園や釣堀も含めてバカにならない維持費がかかる。
うちでそれが維持できるのは、巫女食堂の頑張りによるものだ。
まあ、食堂からすれば食材が無料で手に入るので、庭園以外は大きくプラスだろうが。
それに庭園はアルケミストたちにも実益があるので、うちにとっては無駄ではない。
でも他所にとっては、パーティーなどの余興をガンガンやる様なギルドじゃないと、無駄に写るんだろうな。
「で、結局庭園は予約制の貸し出し会場として、経営する訳?」
俺の質問にキールが答える。
「そうですね、基本的に友好ギルドを対象にします。
友好ギルドの範囲は、同盟ギルドと更にその同盟・もしくは従属ギルド。
そしてパンドラの従属ギルドとその同盟ギルド。
後はメンバー個人と直接の友好があり、パンドラと敵対していないギルド…… ですね」
「敵対ってさ、今の処パンドラに敵対ギルドはないじゃない」
ミッシェルが突っ込むが、それは将来の可能性として決めているだけだろう。
「今の処は、ですね。
これに伴い、庭園直属のサポート部隊を設立します。
料理等は巫女食堂に引き続きピリカさんたちにお任せしますが。
庭園の総合管理として与作君。
サポート部隊の管理としてプシけさん。
彼女はそれに伴って、巫女食堂のチーフウェイトレスから抜けてもらいます。
代わりに巫女ウェイトレスの管理はミラノさんにお任せします。
またBGM担当としてエリーゼさんを筆頭にチームを作ってもらいます。
サポート部隊はプシけさん直属ですので、ネコミミメイド隊を結成する事になります。
また、BGM部隊と併せて、従属ギルドにアルバイトを依頼しています」
確かにティルなノーグであれば、吟遊詩人の確保は出来るだろう。
また、ネコミミメイド服は巫女服と違って、着脱に規制がない。
…… が、あえてメイド服にネコミミを付ける必要はあるのか? キール。
「しかし判らんだすな。
他のギルドが作らないと言う事は、大して必要を認められていないと言う事だす。
あえて、パンドラから借りる人たちがいるだすか?」
ドッジの意見にキールが答える。
「自分で作る人は居なくても、あるのならばそれを利用しようという人はいるでしょう。
少なくとも借りる事ができるのであれば、造るよりは借りたほうが安上がりです。
もちろん、うちがやろうとしている様に経営用として庭園を造れば、儲けが出ますので話は別ですが。
とは言っても、うちがそれで成功出来ると考えるのは。
豊富なギルド間のネットワーク…… 特に有力な大手ギルドのモノを多く所持している事。
それと実績のある食堂を抱えてるが故に生じた高い評価の料理。
これがあるからこそ、会場の貸し出しによる利益も現実的になります」
「つまり会場だけ造っても、料理とネコミミメイドは付いて来ないでござるな」
肝臓が変な納得をしている…… いや、ある意味真理か?
「待って欲しいであります。
他の方は居残り組でありますが、エリーゼ殿は狩り組であります。
BGMを引き受けて、狩が出来なくなっては困るでありますよ?」
「ありがとう、レディさん。
でも事前に相談を受けて、BGMそのものではなくアルバイトの人選を中心に対応して。
具体的なアルバイトの管理を、与作さんとプシけさんにお願いする形を取ることで。
対応できると判断しました。
大丈夫ですわ」
「それならば良いでありますが」
まあ、本人が出来るというのだから、大丈夫だろう。
「あの、それなら…… 日本庭園も、増設してみては、どうでしょう?」
ポトフが言ってきた。
「いやいや、順番的には今度こそ牧場の拡大でしょ?」
アルベストがイマイチ意味のない反論をするが……
「何故ですか?」
チルヒメの問いにポトフが答える。
「うちは、巫女食堂で、人気があります。
だから…… 」
と、そこまで言った処でキールが割って入る。
「なるほど!
確かにパンドラと言えば巫女食堂!
そして巫女が似合うのは西欧庭園より日本庭園なのは道理!
となると…… 更なる巫女の募集が必要になりますね!」
いやいやいや、飛ばしすぎだから、キール。
「そうですね、今の庭園を拡大するのもいいですけど、増設するのも…… 」
与作は乗り気だが……
「それはちょっと待って欲しいです。
万が一、パーティーが2つ同時に開かれて食堂もとなると……
ちょっと無理ですねぇ」
とピリカ。
確かに大変そうだ。
「とりあえず、今の庭園を開放して成り行きを見てからでも遅くはありませんね」
とチルヒメは結論を付けた。
今日は嘆きの塔6階でソロ狩り。
活法スキルの技、”応急手当”を回復魔法の代わりに使う事ができるので、ソロも楽になった。
この技は擬似的にHPを回復させる技で、応急手当の持続時間内のみ擬似的にHPが回復する。
持続時間が切れると同時に擬似的に増やされたHPは消滅する。
しかし持続時間内に受けたダメージは擬似的なHPから先に削られていくので、回復魔法の代わりに使えるのだ。
応急手当中もHPの自然回復はするし、重ねがけもできるしな。
…… 効率は悪くないが、やっぱりPTの方が面白いな。
「でもさ…… 花鳥風月が文句を言うのっておかしくない?
確かにレディちゃんたちが参戦する合戦はレクイエムの方が多いけど、それは合戦の数自体が全然違うんだから。
参加数に偏りが出るのも当然でしょ」
ミッシェルが言っているのは、花鳥風月からきたレディたちの合戦参加についてのクレームの件だが。
今グラッチェがギルドに復活して、最盛期の活性化を見せているレクイエムと。
ログアウト事件以降、未だに合戦数を控えている花鳥風月では。
開催される合戦数自体が段違いだ。
結果、レディたちがお邪魔する合戦先も偏ってくる。
「とは言え、このギルドが出来た経緯を考えると、彼らの言っている事も間違いではありませんよ。
事実はどうであれ、それを見た周りの人は、レクイエムの友好ギルドが花鳥風月の合戦にも参加している。
そう考えておかしくないですね」
キールの言葉にレディが答える。
「つまり自分たちがレクイエムの合戦に出る事を自重すれば良いでありますか?」
「今後はそうしてもらえると助かりますね。
もちろん、花鳥風月側に傾きすぎるのもダメです。
バランスよくお願いします。
…… 面倒でしたら、いっそウロボロスを中心に置いてもいいかもしれませんね」
キールがそう結論付ける。
「じゃあこの件はそれで解決かな?」
俺がそう言うと、チルヒメが待ったをかける。
「それがそう言う訳にもいかないのです。
とりあえず1回、パンドラのマスターであるヨシヒロさんに、50人規模で花鳥風月の合戦に参加していただきたいのです」
「つまり、それでレクイエム側に傾いていた天秤を引き上げようと?」
「そう言う事になります。
50人はパンドラだけでは無理なので、巫女会とティルなノーグに協力を依頼します」
まあ仕方ないか。
「50人となるとギルドとして参戦って事になるから、レクイエムには話を通しておいた方がいいね」
と言う事で、俺は合戦に出ることになった訳だ。
今回パンドラから、俺、キール、ポトフ、レディ、肝臓の5人に加えて、従属ギルドから有志45名が参加してくれた。
「か、合戦は初めてです…… 緊張します」
「大丈夫だよポトフ。
俺も初めての時は緊張したけど、まあ大した活躍は出来ないうちに終わっちゃったし。
2度目はキールと話しているうちに、いつの間にか終わってたし。
…… あんま参考にはならないか。
でもまあ、そんなモノだと思えばいいよ」
今回、俺たちの位置は魚鱗の陣、第2陣の右。
合戦が始まって先鋒同士が激突し、しばらく叩き合いが続くうちに敵が左右から先鋒に挟撃を仕掛けてきた。
「出番ですね」
キールの合図に俺は弓での抜刀術で、右から突撃する部隊のリーダーっぽい相手を見事にHIT!
「パンドラ部隊! 突撃!」
構わず突っ込む敵の、更に横から突撃を仕掛けた。
しかし、先ほど沈めたはずの敵リーダーも司教の蘇生魔法で復活。
合戦は、互いの大将を落とした方が勝つが、大将以外は蘇生が可能なので時間がかかる。
「司教です! 回復役を先ずは狙うのです!」
キールは言うが、お前も司教だろうに…… 狙われるぞ?
こちらも敵も範囲魔法で辺りは地獄絵図に。
まあ、回復役の範囲回復魔法との競争だな。
俺もトライデントに持ち替えて、敵司教を中心にSATUGAI。
レディは回復役の護衛組、肝臓は忍法での範囲攻撃組だ。
ぶっちゃけMPを回復しながら抜刀術を使うより、月白の上からトライデントの範囲攻撃を連打した方が効率がいい。
俺自身、何度か殺されながらも何とか戦線を維持していた。
「ニンと、あちらの方に敵のハイディング司教部隊が来ているでござる」
肝臓の報告に、全員に指定位置へ範囲攻撃を指示した。
やつらに寄られては、戦果が全部無駄になる。
とは言え、硬い。
「一人でも生かして置いては、蘇生して全部復活しますよ!
確実にしとめてください!」
キールの支持に、さらに攻撃の勢いが増す。
「ポトフ殿、焦る必要はないであります。
自分らが後衛の皆さんを死守します故」
「は、はい。
レディさん、宜しく、お願いします」
いやー、何とか右側は死守しました。
中央の主力が敵を突破して、何とか勝ち。
ポトフは何度か死んでいたが、キールが確実に生き延びたのは、やはり経験の差か?
レディーも肝臓も死んでたと言うのに。
しかし、合戦の勝敗として勝ちは勝ち。
何とか面目は保てたよ。
結局、褒賞として貰ったレアアイテムは全部、従属ギルドに渡した。
まあうちは、自分から合戦しないギルドだし。
今回の様に他所の合戦にギルドとして出るのも、可能な限り避けたい。
つまり滅多にない、従属ギルドに対する褒賞の機会だからって事だ。
ある日刹那さんがアジトに来た。
「実はうちの知り合いのギルドに、パンドラに従属したいと言うギルドがあるのです」
「と言うと?」
「リーングラットから、この町と反対方向に同じくらい離れた町で、ヨトゥンと言う町があるのですが。
その町を本拠にした、小規模ギルドがあるのですが……
最近、食堂を開こうとしているのです。
その町も冒険者たちは多いのですが、やはり何かウリがなければ成功し難いのも事実です。
それで、そこのギルド員のうち料理スキルを持つメンバーが、全員女性と言うこともありまして。
この際、全員スパルタ上げでレベル20まで持って行って、浪人になろうか…… と」
「つまり。巫女食堂?」
「流石にこちらに無許可では拙いですし、例え許可を得ても二番煎じやフェイクの謗りは免れない…… と。
例え他の制服を用意しても、ここがこの世界でのパイオニアには変わりませんし。
いっその事、ギルド的に従属して正式に支店と言う形で運営してはどうか…… と」
「なるほどねぇ、皆はどう思う?」
「巫女食堂の支店という形で参加したいのであれば、ピリカの意見を先ず聞くべきですわ」
と美々子が言う。
「ピリカ?」
「食堂の支店…… と言う事でしたら料理の腕は一応、確かめなければなりませんね。
利益から上前を撥ねるのはやり過ぎな気もしますから…… どうでしょう、食材は原則うちからの購入にすると言うのは。
その上で、ウェイトレスの質をプシけに判断してもらって、合格であれば…… 」
「従属ギルドにしてやンよ…… って処か?」
「アルベスト…… どんだけ~」
「そう言う話なら、今度こそ牧場は拡張だな!」
「そうなるかな」
「だったら農場の拡張に、関連スキル持ちの増加もした方がいいと思う」
とは与作の意見。
確かに拡張すると、人員も必要になるか。
「まあそれは、実際に件のギルドが巫女食堂の名に相応しいか、それを見てからでもいいでしょう」
とはキールの言だが、ホクホクしてるな、キール。
それからしばらくして、めでたく巫女食堂ヨトゥン支店は開かれたのだが。
更にしばらくして、支店の近くにシスター食堂ができた。
うん、そうなんだ。
ウェイトレスが、シスターさんなんだ。
それから程なくして、バニーさん食堂、メイドさん食堂、ナースさん食堂、婦警さん食堂etc……
いつの間にかヨトゥンは大食堂街と生まれ変わっていた。
とは言え、殆どはパイの奪い合いで瞬く間に消えていく。
アニメキャラの制服やコスプレの食堂は、一部信者やアンチの熱すぎる視線に即消えていく。
信者からすれば、ただ格好だけ真似しても、かえって許せないらしい。
そしてアンチも非常に湧きやすく、速攻で消されていく。
そして、ここまで類似品が増えれば、格好だけの店は当然の様に淘汰される。
奇抜な格好をしていれば儲かると思った人たちも多く居たが、結局は味の差で潰れていく。
このゲームは全年齢対象なだけに、あまり露骨な営業は出来ない仕様になっている。
ある程度、露出の高い制服の店も残ることには残ったが、結局は味の勝負になってくる。
そうなってくると、今度は露出の少ない方が喜ばれたりもするから判らない。
更には、他の町でも同じ現象が起こりかけたが、最初の数件が格好だけのマズー食堂だったのが災いし。
結局は殆ど残らなかった。
ちなみに、うちに無許可で出来た巫女食堂もあったらしいが、一瞬で潰されたらしい。
…… 何があったんだか。
「…… で、うちの従属ギルドになって、正式に巫女食堂を始めたい人たちが?」
「ええ、結構きてますよ。
どうしますか?」
どうしますかって、チルヒメ。
「1つ許した以上は、2つ目以降がダメと言う訳にもいかないだろう。
料理の判断はピリカに任せて、対外的に問題ないかは…… キールに頼む。
あと、同じ条件にするなら、早急に酪農業スキル持ちを増やさないとな」
こうして、なんだかギルドは大きくなっていくが…… 冒険者組は殆ど入ってない罠。
今日は久しぶりにグラッチェとペア狩り。
俺はまだ90に届かないが、80代後半に来てるからな。
「そうなんだよ、ギルドもなんだかゴタゴタしててさ」
「まあ、パンドラは大きくなる前に有名になってしまったからな。
それも仕方あるまい」
「レクイエムはどうだったんだよ」
「うちは凄く地道に大きくなって行ったぞ?
まあ、花鳥風月の件で有名にはなったが、その時は既にギルドとして安定していたからな。
大した問題にもならなかったかな」
「ふーん…… じゃあ従属ギルドとかは?」
「同盟はともかく、従属したいって言うギルドは純粋に戦力で選んでいるな。
うちは合戦で強いギルドを目指すと公言しているから、逆にそれ以外の選び方はできない」
「難しいんだか簡単なんだか」
「まあ、どう言うやり方も、それなりの苦労はあるって事だろ?」
「そういうものか」
とか何とかいいつつも、グラッチェは本当に強くなったな。
凄く安定した狩りをしている。
与ダメ自体は俺の方が大きいんだが、何と言うか山の様な安定感だ。
「ヨシヒロは正宗に攻速服とクリティカル装備だっけ?
童子切があれば攻速装備で更に強くなれるな」
「手に入り難いんだろ? 童子切」
「今まではな…… だが今となってはカンストした冒険者も増えている。
つまりは高レベルレア武器も、市場に出やすくなったと言える。
それに…… ずっとやってれば、間違いなく手に入るからな」
間違いなく手に入る…… か。
その後はどうなるんだろうな、グラッチェ。