「さて、そろそろお開きにするか?」
ロビンが言った。
もうそんな時間か、ダンジョンは相変わらず時間が判り難いな。
「だすな、じゃあ奥に進むだか?」
「…… ここのBOSSって何なんだ?」
「ラビリンスのBOSSなのですから、ミノたんに決まってます」
エリーゼが教えてくれたのだが……
「ミノたん?」
「ミノタウロスですよ、最初見た人は大抵ビビリますが、どうせ死に戻りです。
突っ込みましょう」
生命がフォローしてくれた。
…… ミノたんヤヴェえ、絶対無理。
『vvvvuummmmmoooooaaaaaaaaooooooobbbbbmmmmoooooooo!!!』
既に10人近くがミノたんと対戦してらっしゃる。
「みんな死に戻りみたいだな、ここはマジ対戦以外の時はPT関係なく突っ込んで大丈夫だから」
「運が良ければ、多勢に無勢で殺れない事もないだす」
「行くであります!」
…… レディは速攻で潰された。
ここは抜刀術の後に弓で遠距離だな、死に戻りにしても狩る努力はしたい。
シュパーーーン!
「うぉ! SUGEEEEEE!」
「ネタキターーーーーー!」
「行ける! 行けるぞぉ! これであと10年はあべし!」
結構好評だった。
でも満タンMPのクリティカル抜刀術でも、ミノたんはまだ全然動いてる。
距離を取って…… と。
ん? ミノたんは大きく振りかぶって、地面に…… 範囲攻撃か!
ヤバイ! ドッジがすかさず回復してくれたが、あれはヤバイ。
タゲに頑張ってた前衛が、3割死んだ。
後衛は7割減だ、生命とロビンも撃沈。
ここに到ってはPTも何もない、生き残った皆で一斉にミノたんに挑んでいく。
ええい! 弓の連打だ!
…… うん、頑張ったよ。
でも範囲攻撃3連打は無いよね、ミノたん。
「ヨシヒロ殿、ここは自分がこの鎧一式を買った店でありますよ?」
「ここがうちのギルドだから」
「こ、ここは巫女食堂でないだか?」
「そうだよ」
「…… 一度入ってみたかっただすが、勇気がなくて断念してただすのに」
「ああ、ここで食べ難いなら、会議室に持って行って食べればいいよ」
「あ、いや…… 」
「いやあ、ちょうど今日は僕もメンバーに入れて貰おうと、連れて来たんですよね」
キールよ、お前もか。
彼が連れて来たのは2人。
何というか…… うん、そうなんだ。
1人は忍者。
判りやすく、これでもかって言うくらい忍者。
「拙者、服部肝臓でござるニンニン」
貫蔵じゃないのか。
まあ、ある意味判りやすいな。
もう1人は女の子なんだが。
レンズの向こうが、白くて見えない様になっている黒縁眼鏡をかけているのは…… ファッションとして。
高校の制服みたいなブレザーの上から、ダブダブの白衣を羽織ってる。
「アルケミストのケミストリです、宜しく」
ふむふむ。
「忍者はなんとなく判るけど、アルケミストって何だ?」
「錬金術師ですね、毒で敵を攻撃したり、薬で味方を治癒や補助します。
他にも薬を作ったり色々できるのですが、それにはギルドに研究室を作らなければなりませんね」
キールが解説するが。
「研究室って、経験値足りるのか?」
「経験値自体は充分に足りていますよ。
もちろん、彼女の入会も含めて皆さんの了解が出なければ、増設できませんが」
「じゃあ、俺が連れて来た3人も含めて、皆で決めよう」
結局、5人とも入る事が決まり、夕食も含めて庭園で歓迎パーティーを開く事になった。
パーティーも半ばになってくると、エリーゼは徐ろに楽器を弾き始めたし、ドッジはジャグリングなどを始めた。
レディはあるるかんと鎧について語り合い、肝臓はノヴァと酒盃を交わしながら愚痴を聞いたりしているようだ。
…… ケミストリはキールやゴン爺、美々子と一緒にいる。
ゴン爺がニヤリとした後、ケミストリが眼鏡をキラリとしながら何事かを呟く。
それにキールが答えたと思ったら、美々子が突然高笑いをする。
オーッホッホッホッホッホって…… 生で聞いたのは初めてだ。
うん、見なかった事にするよ。
みんな溶け込んでいる様で何よりだ。
「ヨシヒロさん、最近はギルド員集めに熱心ですね」
チルヒメが話かけてきた。
「熱心って言うかさ、前にうちのギルドに入りたいって人が沢山来たじゃない。
その時は募集してないからって断ったけどさ、食堂にいると声かけられたりするんだよね。
でもさ、そんな人たちは、うちが合戦しないって言うと大半は諦めるんだよね」
「確かに、私たちは合戦をしない約束でギルドを設立していますからね。
この前みたいな例外は…… もう無いといいですが。
前の合戦を聞いて来た人は、実情と噂のギャップで諦めるでしょうね」
「うん、伝説の合戦をしたギルドとか言われても、これ以降合戦をしないんじゃあね。
それでも入りたいって人は、うちが有名だからって、意味の無い理由なんだよね」
「そうですね、有名だからって入っても、有名になった原因である合戦はもう無い…… ハズですから。
入っても意味がないんですよね」
「でもさ、俺やキールが連れて来た連中は、ギルドに入りたくても入れない奴らだからさ。
…… 若干ノリで来たやつもいるけど。
うちのギルドの噂を知らずに、それでも小規模なギルドでいいからって入って来るなら。
入れてやりたいじゃない?」
「…… そうですね。
でも、断った人たちには何と言いますか?」
「正直に言うさ。
うちは合戦をしないから、それ目当てで来た人は断る。
ただ有名だからって理由で来た人も断る。
それ以外でうちに入りたい理由があるなら、話くらいは聞くってな」
最近はケミストリとペア狩りが多くなった。
他は万能型のチルヒメと、支援特化のエリーゼがペアを組むことが多いらしい。
デス娘は肝臓とドッジを連れて3人狩り。
前衛型アサシンのデス娘と後衛型忍者の肝臓、シーフ型で回復魔法もあるドッジは相性が良い。
ミッシェルとキールはレディを連れて3人狩り。
これもバランスが取れたチームだ。
レベルが上がって正宗を持つ事で、クリティカル率が100%になった俺はザックザックと敵を狩っていく。
嘆きの塔も、ペア狩りならまだまだ旨い。
敵に囲まれたらケミストリの麻痺・混乱・衰弱毒を混合した特性毒薬に、弓に持ち替えた俺のシャワーアローで一掃。
ペア狩りを始めてから、弓も槍もランクの高い物に買い換えた。
クリティカルの腕輪も含めて、所持金が底を突きかけたが、ペア狩りウマー。
所持金もガンガン貯まって行く。
逆にケミストリは薬を大量に使うので、赤字では? と思ったが。
「与作が庭園の隅に、薬草と毒草の栽培をしてくれてね。
材料費が殆ど只なの。
今の処、ギルドに経験値も入れてない私が、申し訳ないくらいよ」
「あー、経験値は俺も同じ…… つーか未だ巫女会におんぶにだっこなんだよな。
80超えた辺りから、皆で経験値いれるかな?
でも不足もしてないんだよな」
「まあ、その時は会議でも開けばいいんじゃない?
私としては、経験値以外にもギルドに貢献する方法はありそうだけど」
「ん? 何かするの?」
「実はアルケミストの”錬金”スキルに、くず鉄を装備品の素材に変更できる技があってね。
くず鉄自体はゴーレムや人形などのドロップ品として、かなりの数が出る…… まあゴミなんだけど。
錬金自体は非常に成功率が低くて、普通の鉄や鋼に変えるくらいなら、鉄や鋼を買ったほうが早いって技なの。
NPC鍛冶屋でも売ってるしね、まあ今までは捨てスキルと言われていたわね。
アルケミスト自体がネタ職扱いではあるんだけど。
ただ、この前の仕様変更で、作ることが出来る素材に修復素材が追加されたのよね。
もちろん成功確率は低いわ。
熟練度を上げても10%と言った処かしら」
「でも、需要はあるよな」
「まあね、キールが魔法をかけてくれたら、効いている間は+20%。
運装備を美々子が用意してくれるから、フル装備で合計60%の確立まで上げられるわね」
「くず鉄が2つに1つは修復素材になる訳か」
「アルケミスト自体の数が少ないし、外ならアルケミストの別キャラを作る人も増えるんでしょうけど。
流石にこの世界で、1からアルケミストを作り直すのは、根性いるものね。
それに作れる修復素材は、耐久力上限が+1のものだけだし」
最近、巫女会は元より同盟ギルド、友好ギルドに職人寄り合いの関連も含めて、色々な所からくず鉄を輸入している。
対価として錬金した修復素材の一部を渡しているが、大半は売っているので、かなりの儲けになっている。
当然、装備品の修復業もしているが、『修復素材を安定して売っている店』としての地位を築いた今。
有名になれば、当然客も増える。
以前より武器も売れる様になって来たし、他の製造職より多くの修理を頼まれる様になった。
「と言う事で、製造職を増やして欲しいんじゃ。
このギルドはいつの間にか、製造職の中心的立場になってしもうての。
依頼も多いことじゃし、ワシらだけでは廻しきれなくなっておる程じゃ」
ふぅむ、いつの間にそんな事に…… まあ、冒険組も増やして来たんだから、製造組を増やしたいと言うのなら。
いいよ、と言おうとした処でキールが発言した。
「問題が3つありますね。
1つ目は、当然ですが際限なく増やす事はできませんので、誰を入れて誰を弾くかを選定しなくてはいけません。
熟練度だけでなく、人間性や相性なども含めて。
弾かれた方は反感を持つかもしれません…… 熟練度が高くても人間性などで弾かれた場合は特に。
当然それは、僕たち冒険組が増やした人たちにも言えますが。
今回は自分達から入りたい人の中から選別ですからね。
2つ目として、5名以上増やすのであれば、工房を拡大する必要があります。
倉庫も定員枠も拡大が必要ですが、ギルド経験値の問題から一気に増やすのは難しいですね。
3つ目に、用意できる修復素材の数も問題になります。
修理する品目の数が増えると言う事は、修復素材の必要数も増えると言う事です。
ケミストリさんだけでは、錬金が追いつかなくなりますよ」
「まず1つ目の問題じゃが、あまり考えなくてもいい。
と言うのが…… さっきも言った通り、パンドラは製造職の中心的立場になってしもうておる。
職人たちの中から、パンドラに入りたいと言う者が出始めてから、各派閥同士で色々…… の。
今は各派閥が代表を選別して、パンドラに送り込もうとしている状態じゃ」
何それ。
「それって、おかしくない?
うちのギルドに入る人を、他の関係ない人が決めるって言ってるのよね。
そんなの受け入れられないでしょ」
ミッシェルの突っ込みに美々子が答えた。
「確かにその通りだとは思いますわ。
しかし製造職の寄り合いで、私たちが影響力を持ちすぎましたの。
元々うちのギルドは立ち位置が微妙ですし、拒否すると伝説が後3つくらい追加されそうな勢いですわ」
更にあるるかんが補足する。
「花鳥風月の職人さんとかもさ、元々パンドラはギルドの緩衝地帯的な設立のされ方をしたんだから。
ここで製造職の派閥にとっても緩衝地帯的役割を果たすべきだ…… とかさ。
実際に花鳥風月もレクイエムも、それぞれ大きな派閥の中心にいるんだよね」
ゴン爺も畳み掛ける。
「何しろギルド所属の職人たちは、殆どが大規模ギルドの者達じゃからな。
影響は強いわ、我は強いわ。
かなり複雑なギルド間の対立をそのまま持ち込みつつも、それぞれの利益で付いたり離れたり。
そう言う状況では…… 断れんかったよ。
すまんな」
「そう言う状況でしたら、受け入れざるを得ませんね」
と、これはチルヒメ。
「2つ目の問題は、定員だけでも増やして貰って、受け入れた後に工房を拡大の方向ではどうかの?
それと3つ目じゃが、フリーのアルケミストを5人ばかり確保しておる。
情報が流れておらん今は、アルケミストはギルドに受け入れてもらい難いでの。
今はこっちを入れる方が先決かもしれんの」
「…… やれやれ、研究室も拡張しなければなりませんね」
これはキール。
「なあ、2番目の問題について案があるんだがよ」
「ん、何かあるのか? アルベスト」
「俺のフレンドにネタ職の奴が居てさ。
普通のギルドに受け入れて貰えない、ネタキャラを集めたギルドを作りたいって言ってるんだ。
でもギルドを作るのって金が結構かかるじゃん。
何処か金を持ってるギルドがあれば、従属ギルドになってもいいから提供して欲しいって言ってた。
うちなら出せるんじゃね?」
「確かに出せますが、どれくらいの効果が見込めるのですか?
効果が薄いようならば、巫女信仰を深めた方が」
キール……
「確認してみるか…… 」
「ふむ、有志は40人くらい居るそうだ…… うちより多いな。
高レベルから登録して積極的に定員枠を増やすそうだから、悪い結果にはならないと思うが?」
「本当に40名集められるなら、悪くは無いですね。」
「いいんじゃないでしょうか、食堂や修復素材で資金は潤っていますし。
経験値が入れば、元は取れると思いますよ?」
アルベストが確認した答えに、キールとピリカは賛成のようだ。
他も特には否定する意見は無いようだが。
「…… 面接」
デス娘が相変わらすの調子で言ったが、確かに事前に会っておく必要はあるだろう。
代表は超マッチョな武道家だった。
「武道家のSUGURUです。
ギルド経験値の件は聞いています。
ネタキャラではありますが、充分にお役に立てるかと」
何と言うか、額に『肉』の字が書かれた、たらこ唇の覆面をしている。
「予定では40名を集めることが出来るとか」
「現在、実際にギルドが存在しない状態で40名以上の同士がいます。
それだけネタキャラに関して、ギルド入会が厳しい状況と言う事ではありますが。
実際にギルドが設立できれば、更に積極的に勧誘に励めますので、最終的には100以上を目指しています」
「うちの、もう1つの従属ギルドも130名を超えていますので、非現実的な話ではないと思いますね」
キールの言葉は、スグルさんに対する援護と言うよりも。
100人レベルの従属ギルドは既に持っていると言う、牽制に近い意味だと思う。
親ギルドより多くなってもナメんなよ、とか。
100人と言った以上は割るんじゃないぞ、とか。
なんだかんだで、ギルド”ティルなノーグ”の設立が決まった。
名前はネタキャラたちの安住の地と言う意味が込められている…… そうな。
「これからは、ネタキャラの人たちはティルなノーグを紹介した方が、いいかもしれませんね」
「キール殿、すると拙者たちが親ギルドに入れたのは幸運でござったな」
「それは判りませんよ? 肝臓君。
うちはうちで、色々と抱えていますからね」
「でもさ、従属ギルドが増えるってことは、食堂の利用者も増える可能性があるんじゃない?
料理人も増やす必要はないの?」
「おいおい、ミラのん。
それだったら農場や牧場の従業員確保の方が、先じゃないか?」
「アルベストどん、アルケミストの増加と研究所の拡大が先だすよ」
「そうですよ、製造職の方々も増えるのですし…… でもそうなると庭園の拡大も」
「ないから、与作君、それはないから」
「ミッシェルさん、2回も言わなくても…… 」
嘆きの塔8階、ここにもペアで来れる程強くなりました。
「ヨシヒロ君はレベル80になったら、何のスキル取るの?」
「俺は”活法”かなぁ、自分が死に難くなるだけじゃなくって、回復魔法に似た効果もあるって言うし」
「なるほど、合戦をしないなら”兵法”はあまり意味がないからね」
「そう言うケミストリはどうするんだ?」
「私は勿論”創造”だよ。
ホムンクルスを作れば、アルケミストとしての力は倍増するからね」
「ああ、戦いにも研究にも役に立つって言ってたな」
「まあ、育て方次第だから両方って訳にはいかないけどね。
単体能力はチルヒメさんの桔梗みたいな、永続召喚獣には敵わないけど。
アルケミストのサポートとしては非常に優秀だよ」
そう言いながら、ケミストリは俺に攻速上昇のドーピング。
辺り一帯には防御力劣化の毒を撒く。
ムッハー、俺TUEEEEEEEEEEEE!
「お、ヨシヒロ、久しぶり」
「ん? グラッチェ?
久しぶりだな…… って、お前もしかしてソロ?」
「おー、レベル90超えたからな。
お前はペアか?」
「ああ、まだ80まで行ってない」
ちょっとショボーン。
「何、焦るなって。
言ったろ? 俺はスパルタで無理無理に90まで上げたんだ。
今80なら遅い成長じゃないさ」
「…… まあ、80になったらレベル上げより、レアの取得とかを中心に動くつもりなんだけどな」
「そうだな、合戦に出ないならその方がいいかもな。
じゃあまたな」
まあ、ゆっくり上げて行けばいいさ。