今日の俺は嘆きの塔4階に、3人で挑んだ。
「おつー」
「もつー」
「もつかれー」
「そう言えば、風弓出てたよな」
今日一緒に狩りをした、聖騎士のポップルⅡが言った。
「ああ、俺持ってる」
同じく一緒に狩りをした、アーチャーのバルショットが答えた。
ちなみに聖騎士は、神聖魔法を修得した騎士と言った処。
「ん? 店売りでいいんじゃないの?」
固定PTの時はいつもそうしてたが。
ちなみに、このゲームで店売りと言うとPCの店で出品する事ではなく、NPCの店に売ることを言う。
「おいおい、一応レア武器だぞ?
これ店売りとか、どこの廃人様PTだよ」
「…… え? 俺いままで、その手の物は全部店売りだけど?
みんなゴミと変わらんって言ってたし」
「いやいやいや、確かに別キャラの為に取って置くって事は無くなったけど、充分に売れるから。
まあ、低レベルの武器が更に値下がりしてるのは確かだけど、店売りはないんじゃない?」
…… そういえば、あいつら皆、廃人様?
「あれだったら買い取るよ?
俺アーチャーだし、以前の相場って訳にはいかないけど、7割くらい?」
「いいんじゃねえの?
ヨシヒロもいいよな、店売りに比べたら全然高値だし」
「ああ、バルショットがそれでいいなら」
レアが出ないと思ったら、気付かずに売ってた?
まあ、みんなゴミ扱いしてたし、たいした武器でもないもんな。
アジトに戻るとチルヒメが居たので、その辺を聞いてみた。
「確かに私達の感覚では、レベル80以下を対象としたレア装備は、あまり意味が無い様に思ってしまいますね。
駆け足でこのレベルまで来た事もありますが、塔まではレア装備が出にくい場所で戦ってましたし」
やっぱり廃人感覚だったんだね、みんな。
でも、そう聞いたらレア装備を出したいな。
それに、そろそろ武器も買い替え時かな、とも思ってたし。
「なあチルヒメ、レア装備が出やすい敵っているかな?」
「出やすいと言うのは難しいですが、塔以外ですと王蟲なども出しますね。
ブルーメタルアーマーと言う鎧でサムライは着れませんが、それなりの値段で売れました……
ログアウト事件以前は、ですが」
アイツ、レア出すのか。
ふぅむ、あれならソロで狩れそうな気もするな。
滅多に出ないからレアって言うんだろうが、明日1日狙ってみるか。
うん、それからは朝公園で臨時PTを組めなかった日は、王蟲狩りばかりしてたよ。
まあ王蟲は非アクティブだし、ソロで何とか狩れるしね。
危ない時は抜刀術を使うし。
そしてレベルが74になった頃。
おおお、ついに出ましたよ、ブルーメタルアーマー。
…… 相場ってどうなんだろ、ゴン爺にでも聞いてみるかな。
「…… 微妙だな。
もう直ぐアップデートで、相場はどう変わるか判らん。
普通に考えれば落ちるが、狩りで予備が必要な程消耗するなら、上がるやも知れん。
だいたい、この世界では皆が1日中狩りをしておるが、外の世界ではそうではない。
当然、アップデートは外の世界に併せた仕様のはずじゃ。
それがこの世界にどう影響するかは、まだ判らん」
「つまりアップデート前に急いで売った方がいいか、後からゆっくり売った方がいいか判らないって事か」
「…… いっそ物々交換も手かもしれんぞ?
お主なら、正宗あたりと交換できれば旨いのではないか?」
「出来るの?」
「普通なら、ちょっとムリ目じゃな。
だがキャラチェンジが出来ない現状で、倉庫に眠る正宗を持つ騎士もおる筈じゃ。
どうせ2度と使えんなら…… と、交換する者も出るやも知れん。
それに、もう直ぐアップデートと言うこの時期、相場がどう変わるか判らんからの。
確実に手に入るなら…… とな。
何より今は皆、情報が手に入りにくい状態だからな。
時間をかければアップデート前後の混乱で、行けるかもしれんな。
まあ本当に鎧が高騰して、武器が下落したら損する事になるがな。
それでも使えん鎧を抱えておるよりはマシじゃろ」
ふぅむ、なるほどな。
「公園に行ってみる」
ついにアップデートの日が来た。
耐久度の詳細は、NPC武器屋や修繕NPCが教えてくれた。
装備によって5から10の幅があり、0になると装備できなくなる。
修理すると、耐久度が上限値より1減った状態まで回復するが、今度はその数値が上限値になる。
上限値が1になった装備は修理できなくなるが、製造職ならば上限値を増やす事ができるそうだ。
「どうやら、ゴーレム系が”修復素材”というアイテムを出すらしいが。
砂ゴーレムだと、耐久度の上限値が1増えるアイテムが出るようだの。
岩で3、鉄で5、鋼で7、ミスリルで10の上限値を増加する素材が確認されておる」
「ちなみに鎧も武器も同じ素材で回復できるよ」
ゴン爺の説明に、あるるかんが補足を入れた。
「耐久力は、俺の場合1日半くらいで1ポイント減ったけど、普通なのかな?」
「今のところ適正レベルで狩って、1日~2日で耐久力が1つ減ると言う情報が入っておる。
修復素材の方はデス娘が、例のハンマーで砂ゴーレムを昨日1日狩ってきて。
素材を4つ拾得したそうじゃ。
どのゴーレムが一番効率がいいかは、判ってはおらん。
しかし耐久力を上げる対象の装備に対応した、製造の熟練度が一定以上でなければ。
耐久力の上限値を、大きく増やす事はできん」
「例え上限値が10上がる素材を使っても、製造職の熟練度が5までしか対応してなかったら。
耐久力の上限値は5にしかならないんだよね。
例えば上限が7まで、盾の耐久力を上げる事のできる人がいるとするよね。
耐久力を+3する素材があって、元の盾が耐久力2なら5になる。
でも元が5なら7にしかならない。
元が8なら素材が消えるだけだね」
「まあ、失敗しても素材が消えるだけなのは、親切仕様かもしれんな」
ふむ、ゴン爺とあるるかんが交互に説明してくれたが……
「で、ゴン爺たちだと、耐久力を幾つまで増やせるんだ?」
「実践してみんと判らんのぅ。
明日デス娘とチルヒメが、ペアで岩ゴーレムを狩りに行ってくれる。
素材が無いと実験もできんからな。
ちなみに、耐久値8のハンマーに+1素材で試してみたが、上限値は上がらんかった。
熟練度を上げとらんから、予想通りじゃがな」
「しかし、ゴーレム系は刀だと磨耗が激しいんだよな。
長柄武器って、結構需要が高くなる…… か?」
「お主なら弓があるじゃろう、それに砂ゴーレムくらいなら木刀でもよかろう。
あれならば、使い捨てても黒字じゃろうからな」
あ、それもそうか。
「でも騎士とかは大変かな?」
「まあ、そのうち市場にも修復素材は出るじゃろうしな」
「じゃあ、俺たちはこの情報を持って、また寄り合いに出かけてくるよ」
がんばってくれ。
俺は早速、木刀を買って砂ゴーレム狩りに出かける。
今の俺ならば、ソロでも楽勝…… なんだけど。
流石に皆、狩りに来てるな。
まあ、しばらくすれば落ち着くか。
人が多くて狩り難かったけど、素材は3つゲット。
こちらの被害は目に見えてはなし。
木刀は鈍器扱いなのでゴーレムに強いし、耐久度が減っても直ぐに買い替えられる。
服の耐久度に関しては、当たらなければどうということはない。
しばらくはここに通ってみるかな。
レベルは上がらないけど熟練度は上がるし、素材はギルド倉庫にでもいれておけば、製造組が使うだろう。
1週間ほど期間が過ぎたころ、正宗とブルーメタルアーマーを交換したいと言う人から連絡が来た。
正宗! ゲットだぜ!
ログアウト事件から使ってないと言う事で、耐久値は10。
レベル75からが対象なので、上げなくちゃな。
そしてクリティカル率+20%の腕輪を2つ、美々子から安値で購入。
レベル75になったら、クリティカル率100%だな。
与作から、庭園が完成したと聞いたので見に行った。
うん、西洋風の庭園だな。
中央に噴水、それを囲む様に設置された花壇には、数々の花々が咲き誇り見事な美しさを披露している。
ベンチなんかも設置されて、かなり立派に出来ている。
農作業をしながら、よくここまで見事に作ったもんだ。
流石にこれまでは、誰も入れなかっただけの事はあり、自慢の一品と言う所だろう。
でも、美々子はおっそろしく似合うけど、俺やチルヒメには似合わんな。
日本庭園なら逆だったろうが。
「ここでパーティーでもするかな?」
「ふむ、日本庭園であれば、巫女パーティーが似合ったでしょうに」
「キール、お前どんだけ巫女が好きなんだ」
「いえいえ、パーティーをするなら、必然的に巫女会を呼ぶことになりますから。
彼らの期待に応える為にもですね。
なにより我々のギルドは、最早『巫女食堂を経営しているギルド』と認識されていますから。
パーティーともなれば…… 」
「ハイハイ」
パフンとミッシェルに、ハリセンで後頭部を叩かれるキールは置いておいて、ミラのんが言う。
「パーティーは良いかもしれないわね。
友好ギルドを呼んでさ、庭園開設記念とかでパーッと…… 」
「…… ああ、考えてみると難しいな」
「何で?」
「…… 派閥」
デス娘の突っ込みに、ミラのんも理解したようだ。
友好ギルドを呼ぶとして、レクイエムと花鳥風月。
どちらかだけを呼ぶ訳にはいかないし、両方呼ぶと大変な事になる。
うん、内輪だけにしよう。
今日は適当な募集が掲示板に無かったので、自分で募集する事にした。
『臨時PT)74前後で狩場未定。 全職募集』
何故か応募が殺到した。
一瞬で俺を入れて5名が書き込んだので、募集中断と追記してレスを確認する。
『弓職です、レベル75、火力高め』
『召喚師のレベル74です、入れてください』
『レベル72吟遊詩人です。 入れますか?』
『ネタキャラですが回復できます。 レベルは76』
『盾持ち戦士、レベル70入れますか?』
…… 何かアッと言う間に集まった割りには、バランス良さそうだな。
『全員OK 募集〆』
とりあえず全員集まったよ。
「レンジャーのロビンソンフットだ、ロビンと呼んでくれ」
レンジャーは初めて見たけど、彼は普通っぽいな…… うん。
名前はちょっとアレだけど。
「召喚師の生命です、よろしく」
晴明の捩りかな?
永続召喚はしていないので、オーソドックス(?)な召喚師かな。
別に狩衣を着ている訳でもないし。
「吟遊詩人のElise♪です、エリーゼと呼んでくださいね」
彼女は何と言うか、美々子タイプ?
髪は紫でドリル付き、ドレスのスカートは当然の如く傘を差した様に広がっている。
ちなみに高級感あふるるバイオリンなどを手にしてらっしゃる。
「ドッジだす、回復とか出来るだす」
…… 彼はピエロだ。
見たまんまピエロだ。
でも、普通っぽく見えるのはエリーゼと…… 彼女のせいかな。
「レディμであります! レディと呼んで頂けるとうれしいであります!」
彼女は、何と言うか、非常に、ナイスバディのお姉さん…… なんだけど。
売れてたんだ、あるるかんが作ったあれ。
うん、そこには女性用のビキニ型アーマーを装着して、ゴン爺の作った付属剣まで揃えた女性が。
「すごいだすな、レディどん、オラが霞んじまうだ」
「こう見えても、かなり高性能な防具であります、ターゲットはお任せであります」
まあ、集まってしまったものは仕方がない。
気を取り直して今回の狩場、迷宮ことラビリンスへと向かった。
「…… なあ、迷宮って言う割りには、全然わき道がない。
て言うか、一直線なんだが?」
「もしかして、ヨシヒロどんは初挑戦だすか?」
「うん、俺これが1stキャラだし」
「ここはずっと一直線だす。
もう戻っても、永遠に一直線の通路しかないだす」
なぬ?
「ここを生きたまま出るには、一番奥まで行ってBOSSを倒すしかない。
まあ、俺たちには無理だがな」
「無理ってロビン、じゃあどうするんだ?」
「死に戻りがあるじゃないか」
「ちょ、ロビン。
…… 皆も判っててここに来たのか?」
「まさか知らない人がいるとは、思っていませんでした」
「ここは諦めて死に戻るしかありませんよ、まあ充分に経験値はプラスになりますから」
「問題ないであります」
「でも、死んだら防具とか壊れないかな?」
「…… そう言えば、その仕様変更がありましたね」
ってエリーゼ。
「大丈夫だす、お金も充分に儲かるだすよ。
赤字にはならないだす」
そう言うものか。
…… まあ、諦めよう。
少し広い空間に出た。
ここはPTが狩りをしている。
「ここは埋まってるな。
次に行こう」
「このダンジョンは、狩場1つに1PTってオヤクソクなんですよ。
ちなみに、さっきみたいな空間が1つの狩場になります。
通路は殆ど敵が出ませんから」
セイメイが説明してくれた。
今回のPTは人格的には当たりっぽい?
うん、人は見かけで判断しちゃいけないな。
「お、ここは空いているだすな」
「よし、ここにするか。
前衛はヨシヒロとレディでいいよな」
「ああ、後衛は任せる。
エリーゼは何の曲ができる?」
「歌系は取っていませんので、高揚の曲を披露しますわ。
これで攻撃力と防御力が上昇します」
「じゃあオラも、カード手裏剣で応戦するだす」
「召喚師が魔術師に劣らない事を見せてあげよう」
「行くであります!」
いやいやいや、かなり強いよ、このPT。
固定してた時と同じ様な感覚で狩れる。
「このPTは結構当たりだな、最近臨時PTの質が落ちたと思ってたが。
居るところには居るもんだ」
ロビンも同じ様に思ってたらしい。
「オラみたいなピエロは、固定なんか無理だすから。
臨時の質が落ちたのは痛いだすよ」
「まったく、私のような吟遊詩人にしても固定PTはおろか、ギルドにすら入れませんよ。
稀に誘われても、下心を隠そうともしない方々か、隠せもしない方々ですし。」
「それは僕みたいな召喚師にしても同じですね。
どうしても魔術師に劣って見られてしまいます。
何とかギルドに入れたので、固定PT狩りも出来る様になりましたが」
「ではセイメイが今日、臨時PTに来ているのは偶々だすか?」
「ええ、今日は皆、合戦の準備で忙しくて。
僕は準備が特にないので、PTに来ましたがね」
「皆、大変でありますな。
自分は普通の戦士なので、固定PTやギルドにも誘われるでありますが。
PTは最近崩壊したであります」
普通、なのか。
「レディは何処かギルドに、入っているのですか?」
「今まではレベルが低かったので、断っていたであります。
そろそろ考えてはいるのでありますが…… 」
「問題でもあるのですか?」
…… エリーゼは、良く音楽を引きながら会話できるな。
戦いながら会話してる俺たちも一緒か?
いや、難易度はあっちの方が高いはず。
「今ひとつ、コレダ! と言うギルドがないであります」
「それは贅沢な悩みだと思いますよ?
私達から見たら」
「そうだす、オラたちは入りたくても入れないだすよ」
「2人ともギルドに入りたいのなら、うちに来てもいいよ?
まあ、合戦は無しの狩りギルドだけど」
うん、つい言っちゃった。
「本当だすか?
でも狩りギルドってことは、ヨシヒロどん固定PTがあるだすか?」
「前は固定してたけど、今はバラバラだな。
まあ合戦無しが前提だけど、それでいいなら」
「でもオラはネタキャラだすよ?」
「何でか、うちは結構ネタが多いから」
「私のようなタイプでも、受け入れて貰えますでしょうか…… 」
「いや、もう1人いるから、同じタイプ」
「…… 面白そうでありますな。
ヨシヒロ殿、是非自分も受け入れて欲しいでありますが」
「うん、枠的には大丈夫だし。
まあ一応はギルメンと相談してからになるけど、合戦は無しだよ?」
「合戦なら、別ギルドの者に混ぜてもらえばいいであります」
「そう言う事なら、うちの同盟ギルドに話は通せるけど」
「おおー、大漁じゃないの、ヨシヒロ。
俺もギルドに入ってなきゃ乗ったんだがな」
「じゃあ、狩が終わったら3人はアジトに連れて行くから。
他のメンツと相談して問題がなければ入会って事で」
なんだか、増やしまくってるかな?