「やあ、ゴン爺、店番ごくろう」
「お、戻って来たか、どうだった?」
「流石に城には大勢いたね。
まあ、90上MAPの情報は置いておくとして。
製造系の情報だが、耐久力が下がった装備の修理は、NPCが置かれるらしい。
つまり彼ら以上に安価な値段でないと、儲ける事は難しいだろうね」
「むぅ、あまり期待できんのぅ」
「だが、耐久力も上限があってね。
修理すればするほど、その上限が下がるんだ。
最後は壊れて修理できなくなる」
「と言う事は、装備の買い替えは起こるか……
しかし最終的に壊れると言う事は、装備品の価値自体が下がるのか?」
「絶対とは言えないけど、価値は下がらないと思うよ。
新しく追加される、修理用のドロップアイテムを使用すれば。
俺たち製造職のスキルで、耐久力の上限をMAXまで戻せるらしい。
課金アイテムでも出来るらしいけどね」
「課金アイテムは考えんでも良かろう。
しかし耐久力の上限を戻せるのなら、結局の所、装備品は売れんと言う事にはならんか?」
「それはどうかな?
耐久力の上限を戻すのに、充分な金額を取ればいい。
それが装備品の買い替えと、どっちが安くなるかは相場次第になるだろうけど。
儲けさえ出るのなら、そっちで儲けてもいいんじゃあないか?」
「ふぅむ、ワシとお前、そして美々子とで手分けをして。
友好ギルドの製造職とも、話し合ってみるかのぅ」
「そうだね、ウロボロス派にレクイエム派、花鳥風月派にそれぞれ当たれば。
かなりのギルドと連携が取れるんじゃあないかな。
一大コミュニティーを作れば、市場の方向性も左右できるかな?」
「何、大それた事など考えてはおらんよ。
ワシらにそんな器量などはあるまい」
「ま、それもそうだね」
…… デス娘が変な服を着ている。
「デス娘、何だ? それ」
「…… 買って来た」
デス娘が手に持った大金槌を、ズイッと掲げてみせる。
いや、確かに、得物もいつもの大鎌じゃないが。
「事前情報では装備の耐久力上限を、修理するアイテムはゴーレム系がドロップするそうなんです。
でも彼らは、鎌などの刃物で戦うと、武器の損傷が激しいとか。
それで比較的損傷の少ない、鈍器を用意したそうです。
私達は弓を使った方が良さそうですがね」
チルヒメが教えてくれた。
うん、言ってる事は判る。
同じ長柄武器だし、スキル的には変わらないだろう。
慣れる為に、早めに使ってみるって処か。
でも、俺が知りたいのはそこじゃなくって。
「何で、いつもと格好が違うんだ?」
「…… 様式美」
…… 済まんデス娘、理解できん。
今日のデス娘の服は、赤を基調に黒のアクセントが施された、ゴスロリ? 的な服装で。
赤い帽子には、黄色い十字架? と白いウサギの顔みたいなものが、両端に付けられてる。
何故か髪をおさげにしてるし。
「説明しましょう」
お、キール、判るのか?
「かつて、とらいあんぐるh…… 」
「そこからかい!」
速攻で強烈な突っ込みを入れたのは、アルベストだが、すまんが更に判らなくなった。
「まあヨシヒロ、昔ああいう格好のアニメキャラが居た、って事だけ覚えてれば充分だろ」
「ああ、そうなのか」
「デザイン画を渡されましたので、可能な限り再現をしたつもりですわ。
ただの服ですので、耐久力は無きに等しいですが、それは今までも同じですものね」
美々子が作ったのか。
漸く白Dも卒業か、うれしいな。
「次はドコへ行くんだ?」
「そうだな、嘆きの塔はどうかな」
「行けなくはありませんが、性急すぎませんか?」
「すまんな、60を超えた辺りから、更にせっつかれてるんだ。
はっきり言って、パンドラも有名ギルドの仲間入りをしているからな。
ありえないとは言え、早めに俺をギルドへ戻したいんだろう」
「ありえないって、何が?」
「グラッチェ君がパンドラに入る事が、ですよ。
まあ、安心したいって処ですね」
「考えすぎたと思うけどなー」
嘆きの塔は8階までの塔で、マミーやグリフォン、レイスやランドドラゴンなど。
湧きは少ないが、強敵が多い狩場だ。
敵が3匹も同時にやってきたら、全滅の可能性もある程だ。
しかも皆アクティブだし。
デス娘も本気モードか、得物を大鎌に戻している。
服も死神風に戻しているのは、やはり様式美だろうか?
「なあ、ヨシヒロ」
「ん、何だ?」
「お前の所のゴンザレス。
彼がうちのギルメンと、えらく熱心に話し込んでいたが、次回の大型アップデートの件だよな。
うちの友好ギルドを含めて、かなり大きく動いているようだが。
うちの奴等は、まだ流動的だとか言って、話そうとせんのだ。
何か知らんか?」
「アップデートって事は、装備の耐久力の事だろ?
製造職同士で打ち合わせするのは、不思議じゃないと思うが」
「ふむ、今は彼らのやり方を信じて待つか」
「今回の増設は、いよいよ庭園ですね!」
「まあまあ与作、そう興奮するなよ」
「だって、前回は釣堀の設置、前々回は倉庫の拡大、前々々回はまあ、農場の拡大でしたが。
その前は牧場の拡大で、漸く今回、庭園の設置ですよ」
「どうどうどうどう」
「馬じゃないですよ!」
「めずらしいな、与作があんなに興奮してるなんて」
「まあ、優先順位を下げるのは判ってたことじゃろうが、前のギルドでも実現出来なかった庭園が。
ここに来て、漸く実現するのじゃから、まあ無理はないと言った処かの」
「へぇ、まあ確かに庭園は趣味の世界だからな。
でも現実がゲームと重なった今は、それなりの意味はあると思うよ」
「…… なるほどのぅ」
「そう言えば、追加の料理人は未だ見つからないのですよね?
ピリカはともかく、ノヴァの方は限界が近いのでは、ありませんの?」
「だ、大丈夫ですよ、美々子さん! 俺はまだまだまだまだまだまだ元気ですから!
戦士はタフさが売りですからね! ハハハハハハハハハハハハハハハハハ…… 」
うん、限界は近いらしいな。
「しかし、こればかりは、募集を掛け続けるしかないですからね。
巫女会の皆さんも、充分に協力してくれていますし」
「でもさー、チルちゃん、ピリカちゃんは全然平気なんだよ?
単にノヴァ君が、へたれなだけでない?」
「いえ、何と言うか、ノヴァさんは要領が悪いところがあるので。
同じ作業でも、負担が大きくなりがちなのですよ」
「なんだピリカ、それじゃあノヴァさんが慣れれば解決じゃない」
「いえ、プシけ、その慣れるというのが中々…… 」
「…… そのうち慣れる」
「じゃあ、今回は庭園の増設って事でOKだな、みんな」
反対はいなかった。
ある日、工房を覗いてみると、美々子しか居なかった。
「美々子、ゴン爺やあるるかんは、他のギルド?」
「ええ、ゴン爺はレクイエム、あるるかんは花鳥風月へ行っていますわ」
「最近はずいぶんと行き来が激しいみたいだけど、揉めてるの?」
「そこまで言うほどでは無いのですが、装備品の修理にかかる相場を決めているんですから。
一筋縄では行きませんわね」
「相場って、自分達で決めれるもんでも無いだろう?」
「それが、友好ギルド、同盟ギルドをたどっていけば、かなりの方々と連絡しあえるので。
決められそうな勢いなのですわ」
「…… その辺の市場操作が、良いか悪いかは置いておいて。
一度、来れる人全員を集めて、どこかで会議でも開いたらいいんじゃない?」
「あら、市場操作なんて人聞きが悪いですわ。
私達はそれぞれの製造職の方々と、意見調整をしているだけですわ。
それに今の状況では、一同に集めるのは無理ですわね。
ギルド間のいがみ合いは、奥深いものですわ。
だからこそ私達も、奔走している訳ですけれど」
「うーん、市場なら放って置いても決まると思うけどな」
「みんな焦っているのですわ、勿論私も。
特にギルド内にいる製造職の方々は。
元々は一般スキルを得た方々よりも、ギルドの役に立っていました。
優越感、とまでは行きませんが、それなりの自負はしていた筈です。
それが今では、どのギルドでも逆転しています。
私は裁縫スキルを持っていますから、それほどでもありませんが。
気持ちはわかりますわ」
ふぅむ、そういうものだろうか。
「もうネタグッズは作らないの?」
「いえ、アップデートまで時間はありますし。
アップデート直後から、修理が直ぐに必要になるとも限りません。
実際にはどの程度、私たちが必要とされるのかも……
でもネタ装備も、能力をネタにした物は、本当に微妙で」
と言って、美々子は腕輪を取り出した。
「これは、MPを回復する効果のある腕輪で、『チャージ』と唱える毎にMPを回復するのですが。
変わりにHPを10ポイント消費します。
しかも増えるMPは1ポイントだけ。
回復職が使うにしても、微妙すぎますわ」
正にネタ装備だな。
ネタだが……
「じゃあそれ、俺が買うよ。
使えるかもしれないし」
「差し上げますわ。
どう見ても失敗作ですし」
うーん、うまく行かないかもしれないしな。
「じゃあ、貰っておくよ、ありがとう」
夕食の後は熟練度上げの時間。
今日の俺は、HP回復POTを購入して修行に臨む。
抜刀術。
シャァァアン!
「チャージ」
シャァァアン!
「チャージ」
シャァァアン!
「フッハハハハハ、これであと10年は戦える」
うん、そうなんだ。
MPも自然回復じゃなきゃ、回復する訳で。
MP回復POTを使うよりも、遥かに安上がりだ。
おっと、調子にのってHPが0になる処だったぜ。
POT飲まなきゃ。
「グラッチェ君、向こうからハーピーが来ています!」
「もう無理だぞ、流石に8階はまだ辛かったか」
嘆きの塔も最上階となると、流石に手強い。
「1度7階に戻ろう」
「しかし、こいつ等を何とかしないと」
「ハーピーは俺が行く」
「無理だヨシヒロ。
グリフォンはどうするつもりだ!」
「こうする」
抜刀術。
そう、ここに来るまでにコツコツ熟練度を上げた、抜刀術が火を噴くZE。
ズッパァアアアン!
「うお! SUGEEEEE!」
「ちょっとヨシヒロ君、いつの間に抜刀斎になっちゃったのよ」
「普通は、そんなに早く抜刀術の熟練度は上がらないんですが。
ヨシヒロ君、いったいどうやったのですか?」
「ヨシヒロさん、今のは相当に熟練度が高くないと、出ないダメージですよ。
レベル80以上の抜刀術使いと、同じくらいは出ていましたよ」
フフフ、もっと言ってくれたまい。
「…… ハーピー」
おっと、そうだった。
俺はグラッチェと夕食をしに、NPCの食堂へ行った。
巫女食堂は、パンドラのアジトでもある為。
正式にレクイエムへ入るまでは、グラッチェも来難いみたいだ。
副マスのレティーシャさんは偶に来てるのに。
「冗談じゃあ無いわよ!
なんであたしが、そんな格好をしなきゃならないのよ!」
ん? 隣のテーブルが騒がしいな。
女の子が1人に男が3人だが。
「そうは言うがな、ミラのん。
現実に売り上げは落ちてるんだ、何とかしなきゃならんだろう」
「あんた等、外回りが稼いでくりゃいい話でしょ。
稼ぎが落ちてるって言っても、あたしは充分にギルドに貢献してるわよ!」
「俺たちだって、ちゃんとギルドに経験値を入れてるじゃないか。
お前は金、俺たちは経験値、これまでもそうして来たし、それでいいだろ?」
「あたしが稼いだお金で、装備とか買ってるくせに。
それだけの働きを、してるのかって事でしょ?」
「なあ、ミラのん。
ログアウト事件からこっち、俺たちは24時間ここに居る。
当然、前より経験値を稼いでいる。
お前の食堂での利益も大幅に上がったが、ここ最近は落ち込んでいる。
何とかしなきゃ、ならないんじゃないか?」
「だからって、何でそんな格好で料理しなきゃならないのよ」
「お前だって知ってるだろう?
向こうの通りに出来た、巫女食堂。
毎日行列が出来てるそうじゃないか」
「うちは味で勝負してんのよ!
キワものと一緒にしないで!」
「味も良かったぞ、向こうは」
「行ったのかよお前、どうだった?」
「いや、それがな…… 」
「ふざけないでよ!!」
ドン! とテーブルを叩く彼女。
それを横目にしながら、俺たちは小声で会話していた。
「おい、ヨシヒロ。
巫女食堂って言ってるぞ?
お前んトコに客を取られた店のやつらか?」
「判んないけどさ、彼女に何かのコスをさせて。
巻き返しを図ろうとしてるみたいだな」
「でもさ、お前んトコが儲かってるのはさ。
半分は巫女会の奴等じゃないのか?」
「いや、それがさ。
食堂を始めて、巫女会も倍以上に膨れ上がったらしい」
「…… すげーな、おい」
「たださ、純粋に巫女さんが好きって言うよりも、ギルドに入りたい気持ちが大きいみたいだ。
ログアウト事件以降、人間関係はゲーム内が全てじゃないか。
ここでPTもギルドも入れないと、そうとうキツいらしいよ」
「ああ、精神状態が不安定な上にボッチだとキツいな、確かに」
「他のギルドは戦力とか製造の熟練度とか求められるけど、あそこは巫女好きならOKだし。
人間関係も、煩わしく無い割には、連帯感もあるらしい。
実際はそれほど巫女好きでなくても、うちの食堂に3度3度通うだけで、アピールできるしな」
「なるほど、そう考えると、ヤツらも役にたってるんだな」
「いやぁ、うちなんか、巫女会様々だよ」
「だから!
スク水食堂ってなんなのよ!」
「ほら、エプロンしてたら、目立たないから…… 」
「おおお! スク水エプロン!」
「ふざけないでって言ってるでしょ!」
「じゃ、じゃあさ、上だけはセーラ服を着てても可にするから」
「ほっほーぅ、通ですな!」
「な…… ナメンナーッ!
もういい、あんたたちのギルドなんか辞めてやるわよ!」
「ま、まあ落ち着けよ、ミラのん。
俺たちも悪乗りしすぎたし…… なっ」
「うるさい、もう脱退したっ!
あんた達は、もう関係ない人だから!
どっか行けっ!」
それから、男達は顔を見合わせて、やれやれと言った感じで席を立った。
いや、お前らが、やれやれだろう、どう見ても。
「ミラのーん。
寂しくなったら、戻ってきていいからなー」
「消えろ!」
男達が消えた後、残された彼女がぽつりと零した。
「まいったな…… 今ドキ、料理人の募集なんかしてるかしら」
ふむ、原因はうちのギルドにも…… 無いとは思うが、話題に出てたしな。
まあ、返って煙たがれるかもしれんが、声をかけてみるか。
「なあ君、料理人として働き先を探してる…… て言うか、これから探すの?」
「ん? ああ、みっともない処、見せたわね。
今見てた通り、ギルドから出たんでね。
料理スキルしか上げてないキャラじゃ。
どっかのギルドに世話になるしかないわよ。
もしかして、あんた達、料理人探してたりする?
こう見えても店出してたから、腕には自信あるわよ」
「まあ、俺のギルドで料理人を探してる事は、探してる。
君さえ良ければうちに来るか?
一応、料理場を仕切っているギルメンに、面通ししてもらうけど。
腕があるなら、大丈夫だと思うよ」
「ふぅん…… あ、あたしは魅羅埜と書いてミラノ。
他からはミラのんとか呼ばれているわ」
「ああ、俺はヨシヒロ、パンドラの壷って言うギルドのマスターをしている、宜しくな」
「俺はグラッチェ、ヨシヒロとは違うギルドに入る予定だが、一緒に狩りをしているんでね。
宜しく頼むよ」
「ちょっと!
ここって巫女食堂じゃない!
騙したのね!」
「え? 騙してはないと思うが」
「だって、あたしに巫女の格好をさせるつもりでしょ!
絶対いやよ!」
「ああ、大丈夫。
君の職性だと、したくても出来ないから」
「…… ハッ!
そう言えば、チーフはネコミミメイドって聞いたわっ!」
「…… まあ、そうしたいなら止めないけど」
「だれがよ!」
「とりあえず、話は中でしよう。
裏から入れるから」
うーん、結構面倒な性格してる?
もしかして。