当日、俺たちは相手方と、合戦前の打ち合わせを行った。
「ヨシヒロ、よくも俺の前に顔をだせるな」
「おお、オリジン、久しぶりだな。
ちょっかい出して来たのは、今回もお前の方からだろ?」
「! …… お前にとっては久しぶりでも、俺にとっては……
まあいい、今日はお前のギルドが解散する日だからな」
「君がパンドラの壷のマスター、ヨシヒロ君か。
俺が今回の代表ギルド、”アルビオン”のマスター、ジョンブル岡田だ」
「ええっと、岡田さん」
「ジョンブルで結構」
「…… ジョンブルさん。
今回の大将は、そちらが貴方で、こちらが俺。
でいいんですね」
オリジンは未だ合戦に出れるレベル…… と言うか、職ではない。
「そうだ。
そして、負けた方がギルドの解散となる。
これは試合の勝敗条件として、NPCが管理する事になるから。
敗者のギルドは自動的に消滅する。
ごねる事はできんぞ……
正直、今回の話は、俺にとっても本位ではない。
だが金も受け取ったし、義理もある。
悪いが潰れてもらう」
「こっちとしても、そう簡単には潰される訳にはいかないので」
「…… いいだろう」
「なあ、グラッチェ」
「何だ?」
「何かドキドキしてきた」
「心配するな、どう考えても負けはない。
いっそ、圧倒的ではないか…… とか言ってみるか?」
それ負けフラグ。
「まあ、実際に圧倒的ではありますが、油断だけはしないでくださいよ」
とはキール。
「俺を含めて、歴戦の者ばかりだ。
弁えてはいるつもりだ。
じゃあ、俺は配置に付くから、お前はどっしり構えていれば、それでいい」
先鋒の中央は、ウロボロスを中心に。
その下部組織の皆さんと、友好同盟の皆さんが左右に展開している。
更に外側前方、右側をレクイエムと、その友好同盟の皆さん。
左側を花鳥風月と、その友好同盟の皆さんが展開している。
第2陣はブルームーンライトと戦国乱世、そしてその友好同盟の皆さん。
第3陣は、解散したチャーリーブラウンと愉快な仲間たちの伝で、集まって来てくれた皆さん。
その他、有志の皆さんも、第3陣に組み込まれている。
そして本陣は、全日本巫女愛好会リーングラット支部と、その友好同盟の皆さん。
Y字型の鶴翼陣を敷いている。
すごい人数になったな。
「何なんだ! あいつらは!」
「ちょ、聞いてねぇよ! 何であんなにいるんだよ!」
「おい! 真ん中の奴等、ウロボロスじゃねぇか! あいつら味方じゃなかったのか?」
「今確認している!
『今回は親ギルドが、そちらの敵方に付く事になったため、味方することはできない。
親ギルドに事情を説明した上で、不参加となった。
これは、当方の精一杯の誠意だと思って欲しい』…… だとぉ?
何だそりゃあ!」
「それにしても、多すぎだろぉよ」
「大変だ! 敵の左はレクイエムだ!」
「な、なんだってー!!」
「バカな事を言うな! 右側の敵には花鳥風月がいたんだぞ! ありえんだろう!」
「ありえんと言えば、この人数自体がありえんのだ!」
「…… どう言う事だ? ジョンブル。
今回の戦は、弱小ギルドを揉み潰すだけだと言ってなかったか?
本来は、俺たち同盟ギルドを呼ぶまでもないとか。
それとも、俺たちが揉み潰される側だったってオチか?」
「ま、待ってくれ、こんなハズじゃあ…… 」
「俺たちが待っても意味ないだろ?
まあ、お前らはここで終わるみたいだし。
最後の戦に付き合うくらいはしてやるさ」
「…… クソがっ!
いいか! 相手の大将は、火トカゲ狩ってるようなレベルだ!
何とか…… 何とか敵大将の所までたどり着くんだ!
それだけで勝てる!
速攻で行く! いいな!」
「伝令! 先鋒が敵陣と接触! 敵陣形は偃月陣!」
「ごくろうさまです」
「あ、ありがとう」
むぅ、明らかにキールの方が慣れている。
「敵は大将共々、突っ込んできたようですね」
「この人数にか?」
「万が一にも貴方に届けば、形成の逆転もありえますからね。
と言っても、抜けませんよ、これは」
「任せてください、うちのマスターより、万が一にも負けぬようにと、厳命されていますから」
これは巫女会のワイズメンさん。
浪人で参加できない、刹那さんの代わりに巫女会を率いて参加している。
「いやぁ、巫女会もたくさん来てくれて、助かります」
「いえいえ、自分達の半分にも満たないギルドに、親ギルドが潰されたとあっては。
恥どころの話ではないですからね。
まあ参加できるのは、70名そこそこですが」
いや、それを言うのなら、うちは敵の1/5しかいないんだけど。
「しかし流石は我等の親ギルドですな、ここまでの動員力を持っているとは……
いや、実際はパンドラに従属する事に、否定的な者もいたのですよ。
もちろん、あなた方に巫女食堂を運営していただいて、その数はグンと減りましたが。
しかし、これで決定的に、従属に対して文句を言う者はいなくなるでしょうな」
「いや、俺もここまで集まるとは……
正直、思っても見なかったよ」
ワイズメンさんに、素直な気持ちを答えると、キールがこう言った。
「この人数は不思議ではありませんよ。
例えばレクイエムですが、彼らに取っても全力で戦う理由があります」
「どんな?」
「まず、この戦い自体ですが。
アルビオンがパンドラに対して売った喧嘩を、実際に買ったのはグラッチェ君ですよ。
彼自身、切れてた節もありますが。
正義の味方を象徴するレクイエムとしては、願ってもない敵でしょうね。
そこそこ有名になった『毒蜘蛛の森の粘着PK』が、運営が用意したペナルティーを喰らって尚。
復讐の為に金で雇ったギルド。
何と言うか、見事なまでの悪役ですよね。
レクイエムも実力のあるギルドですが、マスターがロストしている今。
トップギルドの認識から転落しない一番の方法は、正にトップギルドとして認められた所以。
『正義の側に立つギルド』として、周囲に再認識させる。
絶好のチャンスと言える訳ですよ。
僕たちと違って解散こそ懸かっていませんが、意気込みは僕たち以上かもしれませんね。
ここで負けたら、トップどころか一流と呼ばれる事も危ういですから」
「正義の味方も大変なんだな……
じゃあ、花鳥風月はどうなんだ?」
「彼らこそ、我が事以上に必死ですよ。
だいたい、パンドラを作ったのは彼らですよ?
ここで解散なんかされた日には、泣くに泣けませんよ。
それにレクイエムが本気ならば、それ以上に本気で僕たちを支援しないと。
パンドラが結局はレクイエム寄り、なんて言われたら。
またチルヒメさん達が、裏切ったの見捨てたのと言う話になります。
まあ、こう言う処でレクイエムと共闘するのも。
花鳥風月がパンドラと同盟している理由の一つだと、僕は考えていますがね」
「そうか、パンドラのギルド開設費は花鳥風月が出したんだもんな。
ギルド経験値は巫女会が稼いでるし……
俺ら何もやってなくね?」
「同盟やギルド員を増やしたりはしているでしょう?
一時的とは言え、これだけの人数を動員できるギルドは、他にありませんよ」
「今一つ実感が湧かないが……
ウロボロスもかなり協力的だよな」
「ああ、彼らに協力を要請に行ったのは僕ですが。
実は敵方の同盟ギルドに、彼らの従属ギルドがあるらしいんですよ。
それで、レクイエムと花鳥風月にも当然協力を要請している、と告げると。
立場を明確にしなければ、悪者側に分類されるとでも思ったんでしょうかね?
積極的な協力を約束してくれましたよ」
「キール?
まさか脅したりしたのか?」
「いやですねぇ、ヨシヒロ君…… 」
…… え? その後は?
脅してませんよ、とか言わないの?
「それから、ブルームーンライトが協力的なのは、言うまでもありませんね。
この合戦の原因がオリジンにある以上、追放したとは言え、他人事ではありませんよ。
元ブルームーンライトのオリジン。
在籍期間が長かっただけに、後々まで尾を引くでしょうね」
「なるほど……
じゃあ、戦国乱世の人たちや、第3陣に居る人たちはどうなんだ?
彼らには、そこまでの理由が無いと思うが」
「祭りですね」
「…… 祭り?」
「先程も言いましたが、これだけの規模を動員できるギルドは他にありません。
うちとしても、余程の理由がなければ、2度とこれはできません。
まあ、歴史に残る戦いと言っても、過言では無いですね。
その戦いに、勝利が確定している側から誘われたらどうします?
乗るでしょう? 普通」
「じゃあ…… まあ、戦国乱世の人たちは同盟ギルドだから、比較的に積極的だとしても。
第3陣の人たちは、お祭り気分なのか」
「まあ、数は力ですからね。
それに、祭りだからこそ奮闘してくれる人たちも多いと思いますよ?」
まあ、それもそうか。
と、前の方が騒がしくなったな。
敵が来たか?
アナウンス?
「合戦の終了をお知らせします。
勝者、ギルド、パンドラの壷。
敗者、ギルド、アルビオン…… 」
ええっと。
何もしない裡に、終わっちゃった。
本陣は一人も動いてないよ? うん。
それじゃあ、あんまりなんで、言い方を変えてみるかな?
『この戦いは伝説の戦いとなった…… 』
合戦のメリットとしては、ギルド経験値の(通常の狩りと比べて)大幅増加。
そして、勝者側の参加数と敗者側の参加数、及び敗北のペナルティーに応じて、レアアイテムの配布。
今回は勝者として、かなりの数のレアアイテムをゲットしたが、全てを参加してくれた味方の皆さんに渡した。
俺もキールも、話してただけだもんな。
まあ、分配はチルヒメとキールに任せたので、俺は本当になにもやってない。
そして、合戦場の控え室から出ると……
アルビオンの人たちが、オリジンを吊るし上げていた。
まあ、ゲームだから実際のダメージは無いはずだが。
どうしよう、声をかけた方がいいのかな?
無視するのも何だが、勝者から声をかけるのもな……
とりあえず、通路なので、近づくしかない。
「ヒ、ヒィーッ! ま、まってくれ。
俺たちの負けだ、もうギルドは解散されちまった。
もう勘弁してくれ。
オリジンの奴は、キッチリと制裁しとく。
もう、俺たちからアンタらに関わる事はねぇよ。
約束する!」
トラウマになったようだ。
「判った。
今回の件はコレで終わりだ。
それでいいな」
「あ、ああ、もちろんだ」
元アルビオンの人たちが、ガクガクと頷く。
うむ、一件落着。
今回の件で、俺たちのギルドは結構な噂になった。
味方をしてくれた人たちと、友好な関係にはなったが、同盟は結ばなかった。
どうも花鳥風月の同盟者たちは、アンチレクイエム派らしい。
花鳥風月は、派手にレクイエムと戦い合っただけに、アンチレクイエム派の盟主的位置にいるのだとか。
だからこそ、レクイエムの同盟者たちとは折り合いが悪く。
他のギルドも含めて、ヘタに同盟者を増やすと微妙すぎる関係ができてしまうのだ。
本当に、今回の動員は奇跡みたいなものだったんだな。
今日の獲物もロックゴーレム。
グラッチェがタゲを取って、俺とデス娘を含めて、毒武器アタック。
チルヒメは風矢と水魔法で、ミッシェルは矢を入れ替えながら。
キールの支援の下で倒していく。
「やっぱ、こう言う普通の狩りがいいよね」
「そうだな、だがお前も、もう有名ギルドのマスターだ。
厄介ごとは増えるかも知れないぞ?」
「嫌なこと言うなよ」
「…… 事実」
デス娘まで。
「ギルド員の補充?」
「うん、ピリカも頑張っているけど、予想以上に食堂が繁盛してね。
料理スキルを持っている人を補充してほしいんだ。」
とはプシけの意見。
「一応、枠に余裕はあるが、皆はどう思う?」
「そうですね、いずれはグラッチェさんの代わりの前衛を募集するとしても、現在の定員枠は15名。
後から定員枠を増やすこともできますし、いいのでは?」
「しかし、農場や牧場、それに倉庫の増築も待ってもらっている状態です。
ここは募集するとしても、最大2名に留めるべきでしょうね」
「そうじゃの、ワシらも色々な武器・防具・装飾品を研究しておるが、うまく行っておるとも言い切れん。
冒険組のレベルが上がれば、レアアイテムの拾得も出てくるじゃろうし、倉庫の拡大は必要じゃの」
「そういえば、俺達まだレアアイテム出したことないよな」
「レベル上げ優先で、レアを出さない敵を相手にした方が多かったですからね。
まあ、低レベルのレアなど出すだけ無駄という感覚が、僕たちにあったのは事実ですが。
おっと、話がそれてしまいましたね」
「とりあえずさー、募集するだけしてみたら?
巫女萌え会の連中も頑張ってる事だし、ギルド経験値はあんまり問題にならないと思うなー」
「でもミッシェル、巫女会の厚意に甘え続けるのもなんだか…… 」
「そうは言ってもさ、現状は経験値集めを競い合っても、勝ち目ないし」
「まあ、その辺りは追々考えるとして、現状ピリカが困っているのは事実でしょう。
料理スキルのある定員を2名補充、と言う事でいいのでは?」
「でも一つ問題があると思うよ」
「あるるかん、問題って?」
「今、結構な人数がパンドラに入りたいって、言ってきてるのは知ってるよね。
でも俺たちは、今ギルド員を募集していないと全て断ってきた」
「実際に、私達はあの方々を受け入れるだけの定員枠を、用意できませんから」
チルヒメに美々子が続ける。
「しかし今回は、こちらから募集する。
大半の方々は納得できるでしょうが、納得しない方も絶対に出てきますわ。
その辺りはどう考えていますの?」
「いっそギルド員は増やさずに、巫女会の料理スキルを持ってる人に手伝いを頼めば?」
俺が言うと、ピリカが返してきた。
「当面はそれでも乗り切れますが、やっぱり専門の料理人としてギルド内に居てもらった方が。
安心できます」
「まあ、手伝いより本職として居て貰った方がいいよな」
とは言っても、流石に引き抜く訳にもいかないしな。
「募集は、ギルド名を伏せて行いましょう。
基本的に厨房担当ですから、目立ちませんし」
とはキールの意見。
「そんな事をして、後でバレた方が問題にならないかな」
これは与作。
「ギルド名を伏せて募集するのは、パンドラに入りたい人を募集するのではなく。
巫女食堂で、料理を作りたい人を募集するからです」
「いや、キール、巫女食堂で、って言うのも伏せるから」
「まあ、いいんじゃないの?
いつかは、グラッチェの代わりを募集するんだろ?
遅かれ早かれ出てくる問題だって。
料理人の募集でオタオタする様なら、前衛の募集なんて出来ないぜ」
これはアルベスト。
確かにその通りだ。
「皆ごめんね、私が頼りないばっかりに」
「…… 気にするな」
デス娘の言う通りだ。
ピリカが気にすることはない。
『料理スキル持ち2名募集。
当方、ギルドアジトで食堂を経営しております。
現在は中規模の食堂で、料理人が1名しかおりません。
ギルドへの参入が可能な、料理スキル持ちを募集しております。
高熟練度の方、歓迎。
詳細は、掲示板に書き込みのあった方から、順次連絡させて頂きます。
尚、定員になりましたら、締め切りとさせていただきます』
とりあえず、こんな物でいいだろう。
「確認は、時間的な余裕のある製造組で頼むよ。
実際の面接はピリカが主で、俺かチルヒメが立ち会うって事でいいかな」
「はい、ありがとうございます。
食堂の拡張も含めて、私ばかり、なんだか悪いですね」
「いやいや、それが一番巫女会の喜ぶことだしね。
実際、経験値は彼らが稼いでくれてるんだし」
「それに情けないが、ワシら製造組は不振じゃしのぅ。
ネタ装備も売れん事はないが、ニッチ商売には変わりない。
一番売れておるのが、美々子のパチグッズじゃが。
あれは装飾加工で作った高価な品より、裁縫の技術で作った安物の方が売れておるからのぅ」
「まあ、装飾加工で作った物だと装備アイテム扱いで、能力を付加して高価にもできるけど。
服みたいな裁縫の技術で作るものは、あくまでも趣味のものだからねぇ。
それでも普段着として売れるけど、デザインがパクリ物なのが割れてるから、高くもできない」
「すまんの、マスター。
そのうち、必ずなんとかするわい」
「まあ、焦らないでよ、ゴン爺。
今は試行錯誤の時だけど、その内きっと波も来るさ」
つーか、一番ギルドに貢献してないのが、俺たち冒険組だったりするんだけどね。