「今週分の調整は終わったのかね?」
「最も症状の酷い、800名の対処は終了しました。
しかし、53名には改善の余地があります」
「それは来週のメンテナンスで対応だな」
「来週は第16群の再調整ですが」
「併せてやれば済むだろう。
16群は比較的、活動的だと言っていたな」
「はあ…… 16群で引き篭もっているのは、約300名ですから。
でもチェックする作業自体が、減るわけじゃないんですがね」
「チェックは減らなくても、対処する数は減るだろう。
それとも、今から50と…… 3名? を修正しなおすか?」
「勘弁してくださいよ」
「じゃあ、今日は上がっていいぞ」
やれやれ、スケジュール的には許容範囲内と言った処か。
まあ、突発事故のメンテナンスなんだ。
スケジュールがどうだろうと、対処するしかないんだがな。
「主任!」
ん? 朝倉か、漸く帰れると思ったが…… 問題か?
「どうかしたか?」
「テスターたちの事です。
彼ら、プレイヤーの記憶が、障害でデータとして残っていたのは仕方ありません。
あえて削除せずに、テスターとして残したのも……
しかし、記憶の改竄まで!」
「朝倉くん、記憶…… ではなく、記録だろう?
彼らはただのデータ群だ。
改竄ではなく、デバック。
テスト用に用意されたデバックプログラムの、処理効率の低い部分や、他の障害を引き起こしそうな部分を。
テスト前に改善するのは、当然のことだろう」
「しかし彼らは、人格を持っています。
パニックになったり、引き篭もったりしているからと言って、人格の一部を書き換えるなんて…… 」
「そう!
我々は、彼らの人格とも言える部分を、書き換えている。
それが可能と言う事実こそが、彼らが人でも生物でもなく、プログラムに過ぎないと言う事を、証明しているのではないか?」
「しかし…… 」
「第一、もうプロジェクトは進んでいるのだよ。
止めたいと思うのなら。
何故、開始される前に止めなかった。
君だって、彼らをテスターとして使うのを、納得したのだろう?
今更、人権うんぬんとでも言うつもりか?」
「正直、テスターの改変までするとは、考えていませんでした。
これは、後で問題にはなりませんか?」
「何故?
プレイヤーの皆さんには、通知しているだろう?
プログラム障害によって、彼らのプライベート情報の一部が、消えずにコンピュータ内に残ってしまった事。
当然、弊社としては、細心の注意を払って、情報を処理すると。
お詫びの告知を、ホームページにも、メールマガジンにも書いて出しているだろう?」
「でも、これが世間にばれたら」
「世間にばれる?
これは企業機密だ。
この情報が世間に出ると言う事は、誰かが背任行為をすると言う事だ。
まさか君、バカな事を考えてはいまいね」
「…… いえ、心配になっただけで」
「まあいい、ここまで来た以上、この事を知る人間は一蓮托生、全員同罪だよ。
もちろん、プログラム修正に罪があるとすれば…… だがね」
「…… はい」
朝倉くんも、悪い奴ではないんだが、気が小さくていけない。
だいたい、彼らの傾向が人格と言えるものなら。
我々がプログラムしたNPCを始めとするA.I.たちも、充分にそう言えるものを持っている。
とにかく半年後までに、テスターたちの稼働率を8割以上にもって行かなくては。
大型アップデートに、間に合わなくなるしな。
しかし、余り弄りすぎるのも問題か。
都合がいいだけのプログラムに、意味はない。
出来る限り、原型を損ねないように、アクティブな冒険を楽しんでもらわなくてはな。