実に説得力のある感想を頂いたので、このまえがき文章だけへろっと修正。
また違う回でネタバレ臭いのをやっちゃうかもしれませんが、今回は調整自重。
タイトル通り、魔法使い登場の話です。
……表題考えてたら、何か魔法少女モノの第一話みたいな見出しになったので、少しだけ悩んだという裏話があります。
あと、短め分割で進めますんで、前中後編ではなく番号振りでいきます。
多くの学生や魔法使いが通う、都立アーミゼスト学習院。
時刻は夕刻にも関わらず学生食堂は、帰宅前の生徒らや徹夜予定の研究員でそれなりに混んでいた。
そしてその食堂の一隅は、ある意味非常に目立っていた。
「……なるほど、よく分かった」
長い金髪、紅眼の美しい青年が、香茶に口付ける。
純白の貴族衣装に、赤金の刺繍が入った同色のマント。
恐ろしく派手であり、椅子まで何故か学食のモノではなく、豪華な造りになっている。左右に赤と青のドレスを着た美女を侍らせながら、彼は目の前の少女の話を聞き終え、目を鋭くさせた。
「つまり、そのシルバ・ロックールという男が、女の敵という事だな。断じて許せん」
カップを皿に戻すと、青年は勢いよく立ち上がった。
「え、あ、あの……」
「任せておけ。このカナリー・ホルスティンは、常に女性の味方だ。すぐにそのロックールという男を探し出し、始末を付けてこよう」
自信満々に言うと、マントを翻して美女達と共に食堂を出て行くカナリーであった。
学習院付属の図書館で予約してた資料を借りたシルバ・ロックールは一人、キャンパスを歩いていた。
白い軽装法衣を羽織った、収まりの悪い髪の少年だ。
初心者訓練場での戦いから三日、冒険者ギルドで後衛候補を募ったり、何だか出来てしまった19ある初心者パーティーで構成された{団体/グループ}をまとめたり、教会への報告でなかなか{学習院/ここ}に来る機会がなかった。
まあ、予約期限が切れて、資料が流れなかっただけ御の字としよう。
そう思う、シルバであった。
「……ま、読むのは晩飯食ってからかな」
書物の入った革袋を軽く叩き、のんびりと宿の方角を目指す。
ふと、正面に夕日を背に誰かが立っているのに気がついた。
「シルバ・ロックールだな」
逆光になって見えないその人物が、問う。
「は?」
ひょい、と相手は手に持っていた長物を投げた。
抜き身のサーベルが弧を描き、シルバの足下に突き刺さった。
「なぁ……っ!?」
危うく自分自身に刺さりそうになったのを、かろうじて退いて避けられホッとする。
その彼を、白いマントをはためかせた青年は赤い目で見据え、指差した。
「僕の名前はカナリー・ホルスティン。由緒あるホルスティン家の正当継承者だ。君に決闘を申し込む」
「……は、い?」
「君に弄ばれたエーヴィ・ブラントという少女の名を忘れたとは言わせない。彼女の名誉の為、成敗を下す」
聞き覚えのない名前だった。
誰? と混乱するシルバに、青年――カナリーは自身もサーベルを抜いた。
相手はやる気満々のようだが、シルバとしてはいきなりそんな喧嘩を売られても困る。今日はもう宿に戻って、晩飯食ったら読書に勤しむ予定なのだ。
切った張ったをするつもりはないし、それは前衛の仕事である。
何より、身に覚えのない因縁だ。
「い、いや、忘れたというか……聞き覚えがないんだけど。え、海老……何? 誰?」
「とぼけるというのか!」
メチャクチャ叱られた。
「いや! 本当に覚えがないんだって! 本当に、どこの誰だよ!」
激昂したカナリーは、シルバの足下に刺さるサーベルを指した。
「ならば、その身に教えてやる! まずは{剣/サーベル}を取れ!」
問答無用であった。
「ちょっと待てーっ!?」
「どうした! 臆したか!」
「臆すも何も、意味が分からねーっつーの! 理由も分からず戦えるか! 第一、学校の中だぞ?」
見ると、ちらほらと学生や研究員が自分達に注目していた。
しかし、カナリーは空気を読まない人間のようだった。
「理由ならばこちらにはある! 戦いなど知らぬ少女に代わり、僕が剣を取ったまで! そして戦いとは決断した時に、場所など選んでおけない!」
「そこは選ぼうよ!? 退学になったらどうするんだ! それにもう一回言うけど、その海老なんとかに心当たりがないんだって!」
「そうか……どうしても、武器を取らないのだな」
「大体、俺は剣なんて使えねーし……」
シルバの術は、基本補助と回復に限っている。
白兵戦はもっての他、戦闘用の呪文すら――一部の例外を除いて――持っていない。
「だが、それはそちらの都合! 大人しく刃の錆となれ!」
「っておいーっ!?」
サーベルを水平に振るい、カナリーは滑るような素早い動きでシルバに迫ってくる。
術を唱えようとしたが、それよりも懐に入られる速度の方が圧倒的だ。まるで猫のような機敏な動作に、シルバはとにかく無我夢中で仰け反り――
「くっ!?」
――カナリーのサーベルが空振った。
「……あれ?」
驚いたのはむしろ、シルバの方だった。今のはほぼ確実に命中する距離だったのに、何故外れたのか。
わずかにたたらを踏んだカナリーだったが、すぐに体制を整え剣を構え直す。
「逃げるな!」
「っと……」
刃が風を切る音が、耳元で響く。
今度は落ち着いて避ける事が出来た。
「くぅっ、はっ、このっ!」
カナリーは勢いよくサーベルを振るうが、その動作はどれも直線的で、シルバですら回避は用意だった。
「ちょ、ちょっと待て。もしかしてお前……」
「はぁ……はぁ……」
「メチャクチャ弱い?」
さすがに連続して空振りを続けるのは疲れるのか、息を荒げるカナリーに、シルバは核心を突いた。
「そ、そんな事はない! 元々僕は剣など使わないのだ!」
何か、メチャクチャ動揺していた。
「じゃあ、使うなよ!?」
「決闘と言えば剣だろうが! それとも銃が望みだったか!」
なら出すぞ、と懐のホルスターからフリントロック式の拳銃を取り出そうとする。
「どっちもやだよ!? っていうか戦う事前提で話進めるのやめろよ!? まずは、落ち着いて話を」
シルバの台詞を遮り、カナリーは再びサーベルを握りしめた。
「問答無用っ!!」
腰だめに構えて突進してくる。
「必要だろっ!」
単純な攻撃だが、恐ろしく速度がある。
迫る刃を前に、シルバはどうする事も出来ず、
「シルバ殿に何をする」
キキョウに助けられた。
細身の鋭利な刀がサーベルの刃を難なく受け止めていた。