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No.11484の一覧
[0] INNOCENT~林の中の象~ 【異世界ファンタジー/転生】[南果](2019/11/09 11:23)
[1] プロローグ[南果](2009/09/01 10:41)
[2] 第1章-1[南果](2009/09/01 10:59)
[3] 第1章-2[南果](2009/09/22 21:32)
[4] 第1章-3[南果](2009/09/03 11:53)
[5] 第2章-1[南果](2011/03/14 22:45)
[6] 第2章-2[南果](2009/09/04 08:07)
[7] 第2章-3[南果](2009/09/22 21:39)
[8] 第2章-4[南果](2009/09/07 01:10)
[9] 第2章-5[南果](2009/09/22 21:41)
[10] 第3章-1[南果](2009/09/10 14:07)
[11] 第3章-2[南果](2009/09/10 18:17)
[12] 第3章-3[南果](2009/09/12 20:41)
[13] 第3章-4[南果](2009/09/15 23:56)
[14] 第3章-5[南果](2009/09/18 06:24)
[15] 第3章-6[南果](2009/09/28 07:10)
[16] 第3章-7[南果](2009/09/27 23:03)
[17] 第3章-8[南果](2010/11/15 01:41)
[18] 第3章-9[南果](2011/01/17 23:46)
[19] 第3章-10[南果](2010/11/15 02:13)
[20] 第3章-11[南果](2011/01/18 00:04)
[21] 第4章-1[南果](2010/12/05 01:51)
[22] 第4章-2[南果](2011/01/18 01:08)
[23] 第4章-3[南果](2011/02/14 23:43)
[24] 第4章-4[南果](2011/02/23 21:18)
[25] 第4章-5[南果](2011/03/13 23:36)
[26] 第4章-6[南果](2014/09/21 13:44)
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[11484] 第4章-4
Name: 南果◆92736a0a ID:bff098dc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/23 21:18
「……いったい、あれらはどこにいったのだろう?」

 イシュラを供にし、機関室を目指して歩きながらシェスティリエは怪訝そうに首を傾げる。

「別に騒ぎの起こっている気配もなし。大丈夫じゃねえの?」
「そうなのだが……」

 巡礼ばかりの船内で、シェスティリエはちょっとした有名人だった。
 その幼さで洗礼を受け、更にはこうして本国へ巡礼の旅をしてきたというだけで、どういうわけか人は脳内で勝手にドラマティックなストーリーを展開するらしい。
 しかも、イシュラのような騎士も従者についている。……とはいえ、イシュラは確かに叙任こそされてはいたが、最前線で野放しにされていた不良騎士なので、正直に言えば、一般の人々が思う『礼儀正しく、規律を遵守する立派な騎士』からはだいぶはずれている。
黙ってシェスティリエの供をしているだけならそれなりに見られるので、実は、野性味があってちょっと素敵!なんて声だってあったりするのだ。生憎、イシュラは化粧くさい貴族娘は好みじゃないので何とも思わなかったが。

 アルネラバでの一件は、既に噂になりはじめているらしく、シェスティリエとイシュラはなにやら興味ありげな視線を向けられこともしばしばだった。シェスティリエがまったく気にも留めなかったので、イシュラとしては普通に護衛として警戒する程度に留めている。
 こうして船長からの招待を受けているのも、おそらくはアルネラバの一件と無関係ではないだろう。
 船長から招待を受けるというのは、ある種の特別な客という扱いをされているということであり、名誉なことでもある。シェスティリエは名誉など気にしないだろうが、こういう招待に応じることもまた聖職者にとっては仕事の一環だった。

(けど、これはたぶん、あのバカ君が何か手を回したんだろうけどな……)

 お坊ちゃん育ちの大司教様は、あれだけ言われてもへこたれることなく港にまで着いてきた。既に乗船券が売り切れていた為に同じ船に乗ることは諦めたようだったが、この船の船長を動かすことくらいはわけなかっただろう。
 
(一応、大司教サマだし)

 ティシリア聖教の大司教というのが、実のところどれくらいの地位なのかイシュラにはよくわからない。

 帝国における国教はシュリアーゼ教で、これは母女神の十三人の子を崇める多神教だ。
 その十三人の御子の中でも、末子であるローラッドを最高神と定めており、帝国の建国神話によればこのローラッドこそが帝国の始祖であり、代々の皇帝はその血をひいているとされている。
 その為、帝国では過去の皇帝は神格化されていて、笑い話にもよくされるのだが、帝都では100歩歩けば神殿にあたると言われるほどに神殿が多い。
 当然、聖職者の数も多く、『大司教』と言われたところでイシュラにはあまりピンと来ない。
 ルドクの口ぶりから何かエラそうだと思っているが、信仰心のかけらも持ち合わていないから、崇めるとか尊ぶとかという態度からはほど遠い。ようは、エラそうな聖職者だからそれなりの権力はもってるだろう程度の認識だ。

 おそらく、その大司教がわざわざ見送りに来た……傍目にはそう見える……ことも、噂に拍車をかけているだろう。

(まあ実際に姫さんの境遇はドラマティックだから、ネタになりやすいんだけどな)

 『戦火の中で両親を失った幼い美貌の姫が、己の騎士と二人、敵地を突破して聖堂に辿りつき、洗礼を受ける』というだけでも何だか物語のようだが、洗礼を受けた姫君が数々の苦難に遭遇しながらも聖地を目指して旅をする……となると、更に話が劇的だ。

「今、他の者にファナのお連れの方々を呼びにやらせておりますので、ご安心を」
「ありがとう」

 シェスティリエの礼の言葉に、彼らの先に立つ案内の男はかすかに笑った。
 笑うと左顔面を斜めに走る大きな傷がゆがむ。それは無残な傷は刀傷で、子供が目にしたら泣き出しそうなほど酷いものだったが、シェスティリエに気にした風は無い。

(まあ、うちの姫さんは肝座ってんから……)

 男の年のころは四十歳前後だろうか。おそらく水夫の頭か何かなのだろう。先ほどからすれ違う船員達が軽く頭をさげていく。肌は日に焼けて浅黒く、鍛えていることが一目でわかる筋骨たくましい体格をしている。

(でも、残念なことに、剣を持つ手じゃあねえんだよな……)

 闘うことにこだわるイシュラは、つい、相手をはかるときに剣の腕ではかってしまうようなところがある。イシュラは、強い人間と戦うことを好んでいるが、やはり他の武器よりも剣を持つ者と闘うのが理想だ。

(何の刺青だろうな……)

 男の骨ばってがっちりとした手の甲に、青黒い文様が描かれているのが目をひく。
 水夫に刺青があること自体は別段珍しいことではない。大概が、海神や海神に関わりのある紋章や聖句だが、愛人や恋人の名をいれる人間も居るという。

(けど、手の甲にいれるってのは珍しいな)
 
 イシュラ的には、剣を持つ手にそんなことするのは言語道断だ。少なくとも紋が定着するまでの間、まともに剣が握れなくなる。それは、イシュラには食事を抜くよりも辛いことだ。 

(こいつ、剣もなかなか使いそうなんだけどな)

 海の男は船を守る為に剣をとることも多く、また、我流が多いとはいえ、かなりの使い手も多い。
 まったく剣が使えないという人間は船員として一人前ではないし、海賊が横行する昨今、彼らはある意味、常時前線にいるようなものだ。常に実戦で鍛えられている。
 だが、おそらく目の前の男の獲物は……少なくとも最も得意なのは、剣ではあるまい。その指には剣を持つ者とは違うタコがある。

(たぶん、斧だな)

 イシュラはあたりをつける。
 よほどの技量がなければ戦場でそれを使う者はいない。斧を振り回すのは相当のスタミナが必要だし、それを使いこなすには剣以上に修行が必要となる。
 両手斧であれ、片手斧であれ、斧は剣以上に扱いが難しい武器だ。ましてや、船上の狭いスペースでの戦闘だ。よほど扱いに気をつけねば、同士討ち……というよりか、誤って仲間を巻き込む恐れもある。

(そういや、斧を使うヤツとはあんまり闘ったことねぇな)

 それに気づいたら、最近使わない利き手の左がうずいた。

「……ダメだからな」

 じろり、と紫の瞳がイシュラを睨んだ。毎度のことながら、下から見上げられているのにも関わらず見下ろされているような気がしてしまう。

「あー、何のことです?」
「しとう(私闘)はまかりならぬ、といっているのだ」
「ほんのちょっと手合わせ願おうかな、とチラッと思っただけですがね」
「それをダメだといってる」

 ちっと舌うちするイシュラに、シェスティリエは冷ややかな視線を向ける。

「しばらくめだつことはきんしだ。のうのきんにくにしっかりいいきかせておけ」
「へい」

 イシュラのふざけた返事に、シェスティリエの眦はつりあがったが何も言わなかった。言うだけムダだと思ったに違いなかった。




「おまねきをありがとうございます、せんちょう」

 シェスティリエが案内されたのは操舵室だった。勿論、通常ならば関係者以外が足を踏み入れることなどありえない。
 自走船の操舵室は、ある意味、アルネラバの最大の秘密である。
 何らかの理由があるにせよ、その操舵室に入れてくれるというのだから、アルネラバの聖職者に対する優遇……乃至、気遣いというのは相当なものだった。

(あのバカが言っただけじゃなくて、襲撃事件の謝罪の意味もあんのかもな)

 例の一件において、シェスティリエは狙われた被害者ということになっている。
 皇国の機嫌を損ねるわけにはいかないアルネラバがそういう気遣いをしてもまったくおかしくない。

「いえいえ。私のほうこそお呼びたてをして申し訳ありません、ファナ。私はこの真紅の竜姫号の船長のロッゾ、こいつは操舵長のライと言います」

 船長であると名乗ったロッゾは、ライとさほど年齢が変わらないように見える四十がらみの男だった。
 水夫と混じっていてもおかしくないようなよく鍛えた体をしているが、濃紺の上着と白い手袋が、彼が船長であることを示す。

「わたくしは、シェスティリエ。このものは、わたくしのきしでイシュラードです」
「お二人の御名は既に有名ですよ。アルネラバでのご活躍は聞きました。何でも、ファナを攫おうとした盗賊団をお二人で壊滅させたとか」
「…………そうなのですか?わたくしたちは、ただひっしでおそってくるあいてにたちむかっていただけです」

 イシュラが守ってくれたのです、とシェスティリエはわずかに笑みを浮かべて言う。
 彼らの語る内容は、イシュラの知る事実からはかけ離れていただが、それを否定することはなかった。どのように噂されようとも真実が明らかになることはないだろう。

「恐ろしくはありませんでしたか?」
「おそろしかったですけれど、イシュラがいましたから」

 シェスティリエはわずかに振り返って、イシュラに笑みを向ける。それは、幼い少女が己の騎士にいかにも頼りきっている様子に見えて微笑ましかった。
 ロッゾもライも可愛らしいというように笑みを浮かべている。が、中身を知っているイシュラはなかなかに複雑な気分である。

(いやいや、姫さんは一人でもぜってーあれを壊滅できるから)

 それに、鼻歌でも歌いだしそうな気楽さだったはずだ。
 だが、たとえそれを知っていても、その様子がポーズだとわかっていても、頼られる様子を見せられると嬉しいと思ってしまうのが男の性だ。
 イシュラもその例外ではない。むしろ、単純な方だったのですぐに機嫌がよくなってしまう。

「ファナは魔術の使い手でいらっしゃるとお聞きしました。それで、自走船には興味があるのではないかと思い、お招きした次第です」」
「はい。まじゅつをつかうものとしては、じそうせんのしくみはとてもきょうみぶかいです。そうだしつをみせていただけるということで、たのしみにしてきました」

 シェスティリエは自身が魔術の使い手であることを隠さない。隠すことは無意味だからだ。
 かつてのようマナに満ちていた世界であるならまだしも、今のそういった要素の薄い世界においては、その力は他の何かにまぎれようもない。
 しかも、少しづつ循環させることができるようになってきているとはいえ、今のシェスティリエは魔力がだだ漏れ状態だ。
 
「生国で魔術師に習っていたのですか?」

 シェスティリエは、それにははっきりと応えないで微笑む。
 習っていたと答えることも、そうでないと答えることもなかった。
 かつてもその傾向はあったが、魔術というのは秘匿されることの多いものだ。シェスティリエが答えなくとも、船長はそれ以上問いただすことはしなかった。

「……どうぞ、操舵室はこちらになります」

 ロッゾが二人を誘ったのは、操舵室の中央だ。中央は一段床が高くなっていて金属色の鈍い光を放っていた。
 イシュラのような素人が見ても、それは何らかの魔力を帯びていることがわかる。
 床に彫りこまれた細密な文様が、青白い光を帯びて浮かび上がっていた。

(魔方陣か……)

 シェスティリエが目を輝かせている。
 おそらく、彼女の知らないものであるのだろう。
 シェスティリエは知識欲が旺盛だ。特にそれが『魔術』に関するものであれば、尚更だ。
 それが可愛らしくもあり、危険でもあるとイシュラは思う。

 一段高くなっている床の中央には、シェスティリエの身長よりも頭一つ分くらい高い円柱が据えられ、その上には、不思議な色合いの光の球が浮いていた。
 光球は不思議な色合いをしていてぐるぐると回転している。同時に、忙しない点滅を繰り返してもいて、見ていると何だかひどく不安がかきたてられた。

「私共はこれを虹球(こうきゅう)と呼んでます。これが、自走船のすべての要となっています」
「……イシュラ」

 シェスティリエはイシュラに向かって手を伸ばし、抱き上げるように要求する。シェスティリエの身長では、よく見えないのだ。イシュラは当たり前のようにその小さな身体を抱き上げた。
 いつものことながら、小さな身体はおそろしく華奢で軽い。
 目をきらきらと輝かせ、身を乗り出して虹球を見る様子に、イシュラはシェスティリエがまるで普通の子供であるかのようなありえない錯覚を覚えて苦笑をもらした。

「……どうりょくには、まりょくいたをつかっているのですね」
「良くおわかりに」
「ゆかにぎん。ほりこまれたまほうじん。そして、そのてのもん……」

 シェスティリエはライの手に視線を向ける。

「せんちょうがてぶくろをしているのも、そのてにおなじものがあるからでは?」

 軽くクビをかしげて問うた。

「驚きました。おっしゃるとおりです、ファナ」
「そのもんが、『こうきゅう』をうごかす『かぎ』なのですね?」
「そこまでわかるものなのですか?」
「ええ、まあ……」

 シェスティリエの言葉に、ロッゾとライは心底驚いた表情を見せている。

「昔は風の精霊と契約してその力で海を渡っていたと聞きます。私たちの祖父の時代はそうだったのだと」
「しっています。でも、せいれいはもうこのせかいではいきていけないですから……」

 それは、シェスティリエがこの世界で目覚めてすぐにわかったことだった。
 神なき世界で、その眷属たる精霊が生きていけるはずがない。神の眷属ではない大精霊もいることはいたが、彼らとてマナのない世界では生きにくかったはずだ。あれから五百年以上を経た今、彼らがまだ存在しているかは不明だ。
 もはや、自分の声を聞く精霊も、力を貸してくれる精霊もいないのだろう、と思うと淋しい気持ちがした。

「そうです。理由はわかりません。魔術師達も、精霊が姿を消したのは、マナが枯渇した事が原因ということはわかりましたが、なぜマナが枯渇したかまではわからなかった……ですが、私達は、精霊たちがいなくなったからといって、海を渡ることを諦めるわけにはいかなかったのですよ」

 アルネラバは海運を国家の柱に据えている都市だ。
 船が動かないなどということは到底認められなかったし、だからこそ、精霊に代わり船を動かす術を見つけることは都市をあげての大事業だった。

「まあ、アルネラバでは、精霊を使わずに海を渡る術を元々研究してはいたのですが……幸いなことに、精霊たちがまったくいなくなる前に、それを完成させることができました。それが、この虹球です。虹球のおかげで、マナがなくとも船は動くのです」」
「こうきゅう……」

 溜め息にも似た声音でつぶやく。
 確かに、それは虹色に輝く球だ。
 もっと近くに、というようにシェスティリエはぎゅっとイシュラの服の胸元を掴む。イシュラは心持ち近づいて、見やすいように身体を傾けてやった。

「にじいろにかがやくということは、4げんそすべてのまじゅつしきがつかわれているということだから……」

 シェスティリエは球を覗き込み、何やらぶつぶつと呟きはじめる。
 その右手が時々空中に何かの文字を描き、それは一蹴だけ光の粒子を放って消える。
 そんな不思議な光景も、シェスティリエと旅をしていれば見慣れたものになる。

「もうよいです、イシュラ」
「なあ、姫さん、さっきから話に出てる『まな』ってのは、何なんだ?」

 床に下ろしながら、イシュラは先ほどから疑問に思っていることをたずねた。

「『かみのいぶき(神の息吹)』とか『かみがみのおんちょう(神々の恩寵)』とか『ばんぶつのこんげん(万物の根源)』と、いわれているものです。わかりやすくいうなら、まりょく……エネルギーのかたまりというのがいちばんちかいかもしれない。せいれいたちのえいようにもなるものとかんがえればよいです」

 おそらく専門的には違うのだろうが、シェスティリエはイシュラにわかりやすいように説明してくれる。その語尾がお姫様モードなのがちょっとむず痒く感じられた。

「あー、魔術の元になんのか?」
「んー、そういうまじゅつもあります。でも、いまとなってはマナをつかうじゅつはムリでしょう。いまいるまじゅつしたちはみな、じしんのまりょくをしょうひしてじゅつをつかっているにちがいありません」
「姫さんのように?」
「そうです」

 こくんとうなづく。

「マナはなくても、まりょくのもととなるもの……しょくばいは、いろいろあります。しょくばいをつかえば、まりょくはちょっとですみます。これは、りゅうのほねをしょくばいに、え-と、ぜんぶで88のまじゅつしきをかさねてつくられています」

 指折り数えている仕草が、幼さを感じさせる。
 イシュラが横目で見たロッゾとライの目は、驚きを通り越し、驚愕に見開かれていた。

「……姫さん、くわしいなぁ、さすが」
「たぶん、かず、あってるはずだけど……」

 目を凝らして、再度指折り数えている。
 うん、88だ。とつぶやき、うなづいている仕草に、イシュラは思わず微笑を誘われる。

「……でも、これをつくったひとはてんさいですね。すごい」

 わずかに頬を染め、きらきらと目を輝かせて振り返る。

「虹球を最初に作ったのは、ジルベリウス=ダーエ……後に、皇国で赤の塔の長となったラグフィア枢機卿です」
「まだいきてらっしゃいますか?」
「あー、お亡くなりになってます」

 思いっきりその表情が曇り、肩が落ちた。
 見るからにがっかり、といった様子に、ロッゾは彼が悪いわけでもないのに思わず罪悪感を抱いてしまう。

「その……100年以上前の方ですので……」
「姫さん、そりゃあムリな話だって。普通の人間は百年なんて生きられねえよ」
「でも、すうききょうということは、ほうじゅつがつかえるんだし、ほうじゅつはまじゅつの一けいとうなんだから、ながいきでもおかしくないはず!」
「……そうか?聖職者は、能力が高いほど長生きしないって聞くぜ?」

 イシュラの言葉に賛同するようにロッゾとライがうなづく。

「ながいきしない……?」

 シェスティリエはしばし考えて、それで軽く眉を顰める。

「……そうね……そうなのかもしれません」

 考えながら自分なりの結論が出たのか、納得したような表情で一人うなづく。

「姫さん?」
「ざんねんだわ。いきていたら、ぜったい、でしにしていただいたのに……」
「そんなに凄いのか?」
「すごいです!つかわれているじゅつのなんいどじたいはさほどではないけれど、はっそうとこうせいがすごいの!」
「ふーん」

 イシュラには何が凄いのかまったくわからなかったが、シェスティリエは小さな拳を握り締めて、何度もすごいと繰り返す。
 手放しの褒めように、ロッゾとライは嬉しそうにうなづいている。
 アルネラバの技術力の高さを褒められるのは彼らにも嬉しいことなのだろう。

「そのてのもんとこれは、どのようにはんのうするのですか?」
「これはですね……」

 三人は和気藹々と専門的な話をはじめる。
 熱心に話しこんでいるシェスティリエたちを横目で見ながら、イシュラは周囲を見回した。
 操舵室には、扉が一つしかない。
 出入り口が一つというのは、襲撃する側よりも守備側に不利な条件だ。襲撃してくる敵を正面から突破しなければ逃げられないというのは、それなりの犠牲を覚悟しなければならないということで、守る側であるイシュラとしてはあまり有り難くない。

(俺だったら、まず出入り口を確保するだろ)

 守ることを考えるというのは、襲撃する事を考えるのと同じだ。
 イシュラは、まず自分ならどうやって襲撃をするかを考え、それに対処するにはどうしたらよいかに思いをめぐらす。

(で、複数を相手どらないようにして各個撃破だな)

 普通ならば、真っ先に狙うのはシェスティリエだ。子供な上に、人質としても使える。
 だが……。

(中身知ってるからなぁ……)

 まっさきにシェスティリエを捕まえて人質にするとする……。

(ムリ、ムリ。ありえねえ)

 シェスティリエが簡単に人質になってくれるとは思えない。むしろ、触れようとした瞬間に吹っ飛ばされそうだ。

(かといって、姫さんに刃を向けるってのも……)

 シェスティリエと対峙した自分というものを想像しようとして、イシュラは諦めた。
 自分が主に剣を向けられないという以前に、シェスティリエには勝てる気がまったくしなかった。



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 2011.02.23 更新

 何も起こらないけれど必要な回。


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