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No.11180の一覧
[0] 城塞都市物語[あ](2009/10/11 14:02)
[1] エックハルト公爵家伝[あ](2009/09/24 22:14)
[2] 子爵令嬢手記[あ](2009/09/24 22:14)
[3] 軍師公爵帰郷追記[あ](2010/07/14 20:32)
[4] 公妃誕生秘話[あ](2009/09/30 21:50)
[5] 隻眼騎士列伝下巻[あ](2009/09/24 22:15)
[6] 名人対局棋譜百選[あ](2009/09/30 21:51)
[7] 弓翁隠遁記[あ](2009/09/26 12:36)
[8] 従者奉公録[あ](2009/10/03 15:50)
[9] 小村地獄絵図[あ](2009/11/01 20:33)
[10] 迷走研究秘話[あ](2009/11/01 20:28)
[11] 王公戦役[あ](2009/11/01 22:05)
[12] 城塞会議録[あ](2012/01/09 20:51)
[13] ナルダ戦記[あ](2012/05/01 00:46)
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[11180] 弓翁隠遁記
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:80292f2b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/26 12:36
誰にも等しく訪れる終わり、『死』と言うモノから人は逃げる事が出来ない。
だが、人は『死』を克服することは出来る。

その終結点を『幸福な死』にするのか、『不幸な死』にするのかは、
人がそれまでの日々をどのように送って来たかで決まるのでは無いだろうか?


無為に漠然とした日々を送り、前を見る事も無く後ろばかりを見ながら
言い訳と後悔を友にして最後を迎えることほど恐ろしいことは無い。


『死』を受け止め、超えて行くために人々は研鑽を怠ることを許されない・・・




【日向ぼっこ】


「ぽっかぽっか~、やっぱり日向ぼっこしてダラダラするのって幸せ~」

『そうねぇ、夏も終わりだし、大分陽射しも弱まってきたから
 こうやってお茶しながら、中庭で寛ぐのも気持ちが良いわね』


相変わらず暇な公爵夫婦付きの侍女を務める二人は、公爵家別邸中庭の芝生で
日々を無為にだらだらと過ごそうと寝転がっていた。
ミリアの方も大分エリカに毒されてきたのか、普通の貴族令嬢がしないような、
庭でひっくり返るという行為をすることに余り抵抗を感じなくなって来たようである。




『でも、武官長の所に行かなくていいの?暇な時間は鍛錬にあてなきゃ
いけないのでしょう?こんな所でごろごろと油を売っていても良いの?』


「あぁ~、それなら大丈夫よ。なんでも古い知り合いが訪ねてくるから
 今日の鍛錬は夕方の暇な時間にでも来てくれれば良いって言ってたから」



エリカがサボりで武官長に起こられたりしないのかと心配するミリアであったが、
問題ないとエリカが答えたため、それ以上は何も言わず、かわいらしい寝息を立て始める。
どうやら、親友に心配事が無いのなら一緒に思う存分昼寝でもして、時間つぶしをすれば
良いと考えたらしい。

そんな暢気な貴族のお嬢様の寝顔に毒気を抜かれたエリカは、大きく伸びしながら
欠伸をし、横の少女と同じようにごろんと芝生に寝転がり睡魔に身を任せる。


中庭の木陰で二人の妖精さん達は、幸せそうに寝息を立てていた。
もうそろそろ、どこかもの悲しさを感じさせる秋の訪れを予感させる
静かで平和な昼下がりであった。





【業はただ深く、未練は尽きず】


「黙っていないで座ったらどうだ?大分、足腰も弱っているのだろう?」

『隻眼の名将にお招き頂くだけでも恐悦至極であるのに、老い先短いこの身を
労わってまで下さるとは、このニヤック・ニヤード感激の余り言葉もありませんな」


「憎まれ口はいいから座れ、ニヤード。道楽で商売をやっている
貴様と違って、わしは忙しいからな。さっさと要件を済ませたい」

『ふん、久方ぶりに訪ねた客人を老いぼれ扱いしておいてよう言うわい』



自分以上に口が減らない相変わらずのニヤードの姿にゼスクは苦笑いを零していた。
そんな二人がいる一方で、入室早々に目の前で繰り広げられる舌戦というか、
軽口の応酬に退室の機を逸したアーキスは、ゼスクがその存在に気が付いて
彼にお茶の準備を頼むまで、その場に立ち尽くさざるを得ず、とんだ災難を被っていた。






『お前さんらしくないのう。小僧っ子が居ることも忘れて本題を切り出そうとするとは
 自慢の隻眼も曇って周りが見えなくなったか、それとも、ようやくボケが始まったか?』

「ふぅ、ボケてはおらんが・・・、当たらずも遠からずという所ではあるな
最近、よく気が急いてな。昔と比べて、周りを見る余裕が無くなったわ」


『悪いのか?』




ゼスクはただ頷いて、先程とは打って変って鋭い視線を向けた男が発した言葉を肯定した。


一瞬、目の前に座る『老人』の背が急に縮んでしまったのではという錯覚にニヤードは捕らわれたが、
直ぐに、そんな馬鹿な事はあるまいと思いなおし、頭をほんの少しだけ振って
俄に浮かび上がった下らぬ感傷を思考の隅から追い払う。
目の前に座る男の老い先に想いを馳せて感傷に浸るなど失礼極まりない行為であろう。



また、自分が果たさなければならない責務は安っぽい感傷に浸る事などではなく、
死期を悟ってなお、何かを残そうと自分を頼みにする男に応えることではないか?と考え、
ニヤードは隻眼の老人の言葉を静かに待つ。




「恐らく・・、冬は越せぬであろう。散々足掻いて、生にしがみ付いて
ここまで生き永らえたのじゃから、今更、命数の長さには文句を言うまい
 だが、春に咲く花が気に為ってしょうがなくてな。その世話を貴様に頼みたい」

『ひょっひょっひょ、花の世話とな?その年になっても色を好むとはの
 お主も大した英雄じゃ。じゃが、老い先短いのは此方もそう変わらぬぞ?』


「その心配はない。後三年、いや二年もせぬ内に、誰かから水や肥料を
与えられなくとも、自分の力だけで、大輪の花を咲かせるようになる」

『野に咲く花の強さを持つ子か・・・、合い分ったお主の頼み、しかと引き受けよう』




共に半世紀以上を武人としての生涯に充て、その四半世紀を敵味方と立場を何度も変えながら、
時には争い、肩を並べ、恐れつつも、また、頼りにもするという奇異な縁で結ばれた
関係の終わりを、いつか咲くであろう一輪の花が飾る。



血みどろの道を、屍を踏み散らしながら進んできた自分達にとって、
『是ほど似つかわしくないことは無かろう』と、老人達は皺枯れた笑い声をあげる。
己の刻んだ業の深さを自嘲した寂しい笑いであった。



◆◆



『そうそう、先王陛下の恩に報いる為、最後の戦奉公に行かねばならなくてのう
 ちと、店を空けることになる。春までに戻る心算じゃが、どうなるかは分らん』

「そうか、そのニヤケ顔を見るのもが此れが最後かもしれぬと思うと
 感慨もひとしおと言うものだな。年寄りの冷や水に為らぬようにな」


『ふん、お主に心配されるほど腕は鈍ってはおらん。最後まで口の悪い男だ
 向こうに着いたら文を送る。せめて、それ位までは足掻いてもらわねばな』

「相変わらず貴様は無茶を言うわい。ニヤック・・、頼むぞ」



『あぁ、お主も達者で、体を労われよ・・・』




めっきりと薄くなった頭髪の上に帽子を軽く被り、マントを羽織った馬上の老騎士を
見上げながら、
ゼスクは重ねて後のことを頼んだ。

死を受け入れ覚悟したと思ったら、今度は死後の事を心配し始める。
これほど欲深く未練たらしい生き物は人間以外におるまいと自嘲の笑みを浮かべながら・・・


一方、背中が心なし丸くなったように見える隻眼の老人を見下ろしながら
最後の別れを終えたニヤックの心は既にこれから向かう戦場へと向いていた。

既に武人では無く、好々爺然とした穏やかな顔を見せるようになった友の顔を、
これ以上、目に焼き付けたくは無かった。




愛馬に一声駆けて前に進むニヤックは振り返ること無く、その場を後にする。
そのいつまでも武人であり続ける友の姿が見えなくなるまで、ゼスクは一人立ち尽くし見送った。



再び彼等二人が顔を合わせる事は無かった。






長弓を携え自分と同じように年老いた馬に乗りながらニヤックが目指したザスツール王国は
圧倒的な戦力を率いてイクセリア聖王国に攻め込んだにも拘らず、
聖王国が誇る三名将に率いられた軍勢に無残に敗れ、逆に押し返されていた。
老人が辿り着いた時には、既に十の町と五の砦を焼かれ、三つの城を奪われるという劣勢に立たされていた。
開戦当初にあった二倍の戦力差も逆転し、イクセリアは勝利の女神の後ろ髪をほぼ掴んでいた。


だが、老人が放った矢によって首都に迫る三名将が瞬く間に討ち取られたのを機に、
再びザスツールに流れは傾き、逆侵攻を仕掛けたイクセリアは軍を立て直すために国境付近まで撤退したが、
ザスツールにはそれを追撃する余力は既に無く、戦線は膠着することになる。


こうして、夏の中頃から始まったイクセリア・ザスツール戦役は痛み分けに終わり、
両国は憎しみと恨みを分厚い面の皮で隠しながら、一時的な休戦協定を結ぶことになる。



そんな報せがグレストンに齎されたと同じ頃、ゼスクには一通の封書がザスツールから届いていた。
その友人からの封書は、彼が人生の最後に受取る手紙となった。


再会することは叶わなかったが、最後の約束は果たすことは叶ったようである・・・



【老将の最後】


数多の戦場を駆け、その度に武勲を立てた老将の最後は血生臭い戦場ではなかった。


別邸副武官長のロベール・ヨーク子爵が武官長の執務室を訪れた際、
別邸武官長ゼスク・ルーデンハイム准伯爵は既に事切れていた。
その死に顔は普段の厳しそうな表情と違って穏やかな顔であったと今に伝えられている。


享年は76歳、この時代としては長命の部類に入り、先ず大往生と言って良かった。
だが、そのような客観的な事実も残される者達の悲しみを薄める事は出来ても、
全てを消す事は出来ない。


彼の葬儀には多くの弔問者が訪れ、故人が生前に残した偉功を人々に改めて知らしめていた。
グレストン中の高官達は言うに及ばす、首都や隣国からも多くの弔問の使者が訪れていた。


そんな盛大な葬儀の中で、一際目立っていたのはエックハルト公爵でも、次期当主のレオンでも無く、



養女にして、唯一の遺族として人々に紹介された少女、エリカ・ルーデンハイムだった。




◆◆



『エリカさん、無理をしなくても良いのですよ?後は私達に任せてくれれば・・・』

「ありがとう御座いますシェスタさん。私、大丈夫ですから
 無理してでもちゃんと武官長の葬儀を無事に務めて見せます」



師と突然の別れに涙を零す暇も無い内に、遺言でルーデンハイム家の養女と成ってしまったエリカは
その驚愕の事実を受け止める時間も与えられずに、葬儀の主役として祭り上げられていた。


正直な所、尊敬し、慕っていた師ゼスクの死を彼女は静かに悼みたかった。
だが、ゼスクに師事した短い期間でエリカはそんな甘えが許されないことをしっかり学んでいた。


彼女は黒い喪服に身を包みながら、ピンと背筋を伸ばした姿勢を保ちながら、
弔問に訪れた人々の貴賎を問わず、遺族として参列者に感謝の言葉を一人一人に丁寧に掛けていた。

その毅然とした彼女の態度はどこか故人を彷彿とさせ、
さすがは『隻眼のゼスク』の娘だと参列者達を唸らせる物であった。



もっとも、弔辞の場面でだけは溢れ出る涙を止める事は出来ずに、クシャクシャの顔で
何度も言葉に詰まりながら、途切れ途切れでようやく読み終えると言った体であったが、
それが、逆に参列者の涙をより誘うという結果を齎していた。




『城塞都市グレストン』に来て初めての別れは、エリカにとって悲しいものになった。




◆◆



『ほぉ、『クレト』であのレオンの小僧を負かすとは、さすがワシの弟子よ!
始めは処女の如く、後は脱兎の如し!相手の油断を誘うのは立派な兵法じゃ』

『この1ヶ月、みっちりと戦術のイロハを仕込んでやろう。暫くは侍女の仕事を
休んで構わん。無論、レオン達の許可も取ってある。なんじゃ、その嫌そうな顔は?』



朝から続いた葬儀を終えて、ようやく家に戻った時は既に日が傾いていた。

エリカを出迎えた心配顔のサリア達には食事はいらないとだけ言うと、
部屋を駆け上がってベッドにうつ伏せになって寝転がったのだが、
この一ヶ月、妙に自分との時間を取ろうとした厳しくも優しい老人の言葉が
頭には浮かんでは消えるため、中々。寝付くことが出来そうに無かった。




「死に掛けてんなら、ちゃんと言ってよ・・!!そしたら、もっと良い子になってあげた
 退屈そうな顔せずに軍学だってなんだって勉強したわよ!ほんのちょっとだったのに
 大好きにさせるなんて酷いよ。養女なんかにしてくれなくて良いから、生き返ってよ」




ほんの数ヶ月、それだけで名将と呼ばれたゼスクはエリカの心を落としていた。
彼女の涙でくしゃくしゃになった遺書には何度も書き直した後が見受けられ、
故人のエリカに対する深い愛情が滲み出ていた。

彼に取って始めての女の子の弟子は、手は掛かるがかわいくて仕方がない孫みたいなものであったのだろう。
そして、それを何となく察したエリカも優しい祖父に持つような親愛の感情を向けるようになっていく。
エリカにとって、家族としての絆をゆっくりと深めていこうとしていた矢先の別れだった。





『エリカちゃん・・。入って良いかな?』 「うん・・・」



部屋を優しく二度ノックしたサリアの呼びかけに、エリカは小さく返事を返した。
正直、一人で悲劇のヒロインぶってもう少し泣き伏していたかったが、
優しい姉の気遣いを無碍にするような事は故人の教えに反すると考え、
素直にサリアの好意を受取ることする。



『ホットケーキ焼いたから一緒に食べようかなって、エリカちゃん前作ったとき
 凄く喜んでくれたから・・・、えっと、その少しでも食べた方が良いと思うし・・・』

「うん・・、お姉ちゃん。心配かけてごめんなさい。あと、ありがとう」



予想より酷い顔をしているエリカを前にサリアはどう慰めて良いものか盛大にテンパリ
しどろもどろとした言葉を発することしか出来なかったのだが、
どんな着飾った言葉よりも、その愛情に溢れた家族の言葉の方がエリカにとって嬉しかった。

サリアは姉として優しく妹のエリカを黙って抱きしめつづける。
エリカの腹ペコ虫が横にあるホットケーキを食べたいと大きな鳴き声をあげるまで・・・






朝起きてサリアに元気に朝の挨拶と昨日の礼をするエリカは『いつものエリカ』だった。

今日は彼女のことを気遣った公爵家から特別の休みを与えられていたので
盛大に朝寝坊をしていても良かったのだが、うじうじとベッドの上で塞いでいるのは
自分らしくないと考えたエリカは朝の散歩でもするかと早起きしていた。


サリアが用意してくれたパンに切込みを入れ、自分が焼いた熱々のベーコンと
半熟の目玉焼きを挟んで作った物を一気に平らげると、
カップに入った牛乳を立ったまま腰に手を当て一気に飲み干して『プハァッー』とする。

ちょっとお行儀の悪い行いだったが、エリカが無理して勢いをつけようとしているのを
何となく察した目の前に座る二人はその所業に敢えて目を瞑り『行って来ます!』と
笑顔で元気良く外に出掛けて行くエリカを優しく、少し寂しそうな表情で見送った。


近い将来、貴族の娘となってしまった彼女がここを出て行くことになるのを
二人は良く分っていた。



【叙勲式典】



ゼスクの喪が明けたエリカは故人となった養父が自分のために用意してくれていた
白と赤を基調とした騎士装束に身を包み、
自分のために開かれる叙勲継承式典に参加する為、グレストン総督府を訪れていた。


式典の主役たる彼女の出立ちは並み居る列席者を唸らせる物であった。
白銀の胸当てに刻まれた赤い家紋は良く映え、赤いスカートが揺れるたびに覗く
彼女の太腿に付けられた名剣アイスダガーはセクハラ紛いの視線の良い言い訳にもなっていた。
『別に太腿にハァハァしてるんじゃないよ!アイスダガーを見たんだよ』と
エリカの叙勲式典に参加したエロオヤジ達は同じような見苦しい弁明を繰り返していた。


彼女に薄く化粧を施したシェスタと彼女の肩より少し下まで伸びた黒髪を丁寧に結ったミリアの苦労も
この周囲の反応を見れば充分報われているといって良さそうである。
作られた美少女ポニテ女騎士エリカを芋臭い田舎女と笑う者は誰も居なかった。


ただ、エリカがどこの者とも分らぬ平民の出であったため、
大半が選民思想に凝り固まっている特権階級の人々からの強い侮蔑の視線は消す事は出来なかった。







『エリカ・ルーデンハイム准子爵』



グレストン総督の横に控えるエックハルト公爵に呼ばれたエリカは『はい!』と
ゼスクが良く褒めてくれた元気の良い返事をして総督の前に進み出て跪く。



『エリカ・ルーデンハイム、汝を大功あるゼスク・ルーデンハイム准伯爵の養女として認め
准子爵に叙す。フリード公国に忠誠を尽くし、このグレストンのためにその命を捧げよ』



呼びかけに跪いたまま面を上げたエリカは再び頭を下げ、
総督が彼女の両肩に右、左と一度ずつ乗せた細身の剣を差し出した両手で受取り、
それをフリード公国国旗に向かって掲げると腰に付けた空の鞘に収める。



この瞬間、エリカはルーデンハイム准子爵としての一歩を踏み出すことになった。
出自が平民故にそのままの爵位ではなく二段下がっての継承であったが、
養父と同じように武勲を挙げさえすれば、幾らでも階位を進める事が出来る。
無限に広がる可能性を少女は手に入れたのだ。



ルーデンハイム家叙勲継承式典、これはエリカ・ルーデンハイムの名が
公式に刻まれた最初の出来事であった・・・







ゼスクの養女となったことに対しては、エリカに批判的な愚かな学説を唱える者達も
財産目当てだとか、色ボケ老人を若さで垂らし込んだ等と言う下劣な抽象を行うものは居ない。

これは当然のことであろう。もし、そのような誹謗中傷を行えば己の低脳振りを全世界に
知らしめ事になることが自明の理であるからだ。


純真無垢にして可憐なエリカに、厳格にして高潔な武人として知られるゼスクの間にあるのは
祖父と孫の間にあるような美しい親愛な情しかなかったであろう。


ただ、残念なことにこの素晴らしき老人と少女が、如何に敵を効率的に殺すか等といった
血生臭い軍事の話ばかりをしていたという俗説もある。

私は断固たる決意を持ってそのような事実は無く、
その節は不当に歴史を歪曲した物であると主張したい。


そんな血みどろで、恐ろしい話を共にする少女を自分の全てを受継がせる養女などにする訳が無い。
数々の戦で己の業を良く知る隻眼の老将は、最晩年に出会ったエリカという
清らかな聖女の純真さに惹かれ、彼女の持つ自愛によってその業を許されたのだ。


その素晴らしき少女の救いに報いる為、彼は彼女に己の全てを託したのだろう。








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