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No.11180の一覧
[0] 城塞都市物語[あ](2009/10/11 14:02)
[1] エックハルト公爵家伝[あ](2009/09/24 22:14)
[2] 子爵令嬢手記[あ](2009/09/24 22:14)
[3] 軍師公爵帰郷追記[あ](2010/07/14 20:32)
[4] 公妃誕生秘話[あ](2009/09/30 21:50)
[5] 隻眼騎士列伝下巻[あ](2009/09/24 22:15)
[6] 名人対局棋譜百選[あ](2009/09/30 21:51)
[7] 弓翁隠遁記[あ](2009/09/26 12:36)
[8] 従者奉公録[あ](2009/10/03 15:50)
[9] 小村地獄絵図[あ](2009/11/01 20:33)
[10] 迷走研究秘話[あ](2009/11/01 20:28)
[11] 王公戦役[あ](2009/11/01 22:05)
[12] 城塞会議録[あ](2012/01/09 20:51)
[13] ナルダ戦記[あ](2012/05/01 00:46)
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[11180] 公妃誕生秘話
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:80292f2b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/30 21:50
【花嫁の部下】



准公爵の地位にあるレオン・エックハルトに嫁ぐことになったシェスタは、
出来る侍女から、一気に次期公爵夫人へと立場を変えることになった。

この劇的なビフォーアフターの変化はエクッハルト公爵家に仕える人々にも
少なからぬ影響を与えることになる。


どの者を次期公爵夫婦付きにするか、家宰と侍従長はその人選に慌しく追われ、
その他の人々もレオンとシェスタの婚儀の準備に、公爵邸の直ぐ隣にある
次期公爵夫婦用として代々使われてきた別宅の手入れ等で慌しく動いていた。


そんな俄かに慌しくなったエクッハルト公爵家に仕えるエリカも安穏と過ごせる訳も無く、
婚儀や夫婦の新生活に必要な物品の調達を次期公爵夫人から直々に拝命し、
彼女のサポート役として任命したミリアを扱き使いつつ、
良い物をより安くという大方針の下、ハードなお買い物に精を出していた。







エリカはうんうん♪と上機嫌に頷きながら、大分様になってきたミリアの値切り方を
見ながら、自分が購入した品をテキパキと記録し、過不足が無いか確認していく。


この次期公爵夫婦の婚礼や住居絡みの調達を一手に任されたことは、
エリカにとって大きな結果を与えることになる。


城塞都市グレストンの時流に聡い商人達は、この彗星の如く現れた年端も無い侍女が
未来のエックハルト公爵家の調達セクションのキーマンになる可能性を、
その打算に優れた頭脳で正確に弾き出し、彼女のご機嫌を取ろうと活発な行動に出始める。




エリカが馬に乗ってこの城塞都市を訪れた後、愛馬を手放したという情報を手に入れた
商人は彼女に惜しげも無く名馬を一頭贈り、彼女が下宿生活と知った商人は彼女に
住居を提供するために空家を整備し、その家の鍵をエリカに渡そうとして
『余計なことをするな!』と激怒したサリアに追い払われたりしていた。

そんなこんなで、商人達のエリカに対する贈物攻勢はレオンとシェスタの婚礼の日取りが
近づけば近づくほど、日増しに激しくなっていった。


もしも、エリカがその贈られた品を全て受け取っていれば、自分専用の蔵の二つや、
三つくらいなら楽に建てられたのだが、現実はそうならなかった。


彼女は贈り主が分かる品については、丁重に熨斗を付けたままの状態で送り返し、
分からない物ついては全てシェスタに贈られた物として献上した後に、
彼女に代わってミリアにその品々を売却させ、すべて金銭に換えた。


こうして生まれた金銭は全て彼女の実家のバクラム准男爵家に送られ、
公爵家に輿入れするかわいい娘に恥をかかせたくないが、どうにもならない家計に
頭を悩ませていたバクラム准男爵はエリカの配慮に娘共々深く感謝した。



エリカが請け負った次期公爵夫婦に関する物品調達で得た報酬は
日々の給金とシェスタから受け取った心からの感謝の言葉だけであった。




◆◆


『ちょっと貴女のこと見直したわ。どうせ卑しい平民のことだから
 贈物だけじゃ満足せずに、自分から賄賂を要求して私腹を肥やすと
 思っていたのに、一つも受け取らないなんて感心するほど無欲よね』



信じられない物を見たと言った驚き交じりのミリアの賞賛を受けたエリカは
少々失礼な仕事のパートナーの物言いに特に気分を害することも無かった。

エリカ自身もミリアと同じ立場から自分の行動を見れば、同じような感想を持ったに
違いないと確信していたので、その当たり前な反応をむしろ微笑ましく思った位である。



「まぁ、今の生活に不満も無いし。三食付いてやさしい姉夫婦まで漏れなく付いてくる
 下宿生活は50000レルポッキリ!今のお給金で十分ゆとりある生活が送れるてるしね」
 
『ふ~ん、そんなものなのね。平民ってお金掛からなくっていいわね』


「うん、ミリアが悪気はないのは分かってるから今回は軽く流すけど
 次に何にも考えずに同じような事いったら、拳骨お見舞いするからね♪」



ただ、エリカも完璧な人間には程遠く、世間知らずなお嬢様発言を再度するミリアに
ちょっとカチンと来てしまったので、エリカは『この子はアホな子アホな子だから』と
心の中で念仏のように唱え、なんとかポカポカせずに文句を言うだけで怒りを抑える。


そんなエリカの胸の内にある葛藤と自分がどんだけ平民を見下して失礼な発言をしたのか
全く気付いてないミリアは、ぷぅっと頬をかわいく膨らましながら、
理不尽だと思ったエリカの発言に対してぶーぶー文句を言っていた。



大量のお買い物を一緒に協力してこなして行くうちに、相変わらず言い合いの数は
減ってはいないが、二入の間に以前あった険悪な空気はいつのまにか無くなっていた。
周りの二人のことを知らない人達の目からしたら、ぶーぶー言い合う彼女達はまるで
仲の良い子猫がじゃれあっている様にしか見えないだろう。
仲良し二人組みの微笑ましい光景に、周囲の人々は和みその目じりを下げていく。



エリカはこの婚礼によって尊敬する先輩上司を失ってしまったが、
その代わりに遠慮する必要の無い可愛いけどちょっとアホな同僚を手に入れたようである。




◆婚礼前夜◆



盛大な婚礼を前夜に控えたエックハルト公爵家は、既にその準備を終え、
屋敷内は数日前までの喧騒が嘘のような静けさを保っていた。


エリカもミリアを供にして当った調達の任を概ね完璧な形で済ませており、
家宰から特に何もしなくても良い新婦の部屋に通ずる部屋で番を命じられていたため、
特に何をする訳でもなく二人は仲良くだらけきっていた。


そんなゆる~い時間が午前中一杯続き、午後もこのままだらけれるなぁと思い始めた
矢先に、明日の主役でもあるシェスタにエリカは呼ばれ、隣の部屋に足を運ぶ。




『エリカさんごめんなさいね。疲れている所を呼び付けたりして
 どうしても話したいことと、お願いしたことが少しあったから』

「全然大丈夫ですから、気にしないでください。元気一杯です!」



心底申し訳なそうな顔をするシェスタに対して、エリカは全く気にする必要がないと答え、
『では遠慮なく話しますね』と微笑みながら言う彼女に半瞬ほど見惚れた後、
どうぞどうぞと気にせず話を続けるように促した。



『先ずは貴女にお礼を述べさせて下さい。エリカさん本当にありがとう
 本来なら貴女が仕事の対価として受け取っても誰も文句を言わないような
 品々の数々を、私の実家の窮状を憂いて婚礼祝いとして贈ってくれた配慮
 貴女のやさしい心遣いが本当に嬉しかったです。エリカさん、ありがとう』



エリカの手を両手で包み込むようにやさしく握りながら、シェスタは彼女の大きな瞳を
真剣に見つめながら心からの感謝を伝えた。
実家の苦しい台所事情を分かるが故に、輿入れ費用を頼むこともできず、
かといって、倹しい嫁入れ道具を持って権門のエックハルト公爵家入ろうものなら、
自分や実家が恥をかくだけでなく、公爵家やレオンに恥をかかせる事になってしまう事を
シェスタは心底恐れていた。自分がどのような謗りを受けようとも耐えられるが、

貧乏貴族の娘などを嫁に貰った等の謗りを、愛する人や大恩ある公爵家が受ける事は
彼女には耐え難いことであった。



また、それを避けるためにレオンや公爵家に実家に対する援助を願うような事も
彼女はする訳にはいかなかった。もし、彼女がそれを頼めば彼等は諾として
快く引受けるに違いなかったが、その事実が周囲に漏れればそれこそ
『エックハルト家は金で女を買った』などの謗りを受けかねない。
金が無いのは首が無いとは良く言ったもので、シェスタは幸せな婚礼の前に
八方塞の状態になっていた。


そんな彼女の窮地をエリカが颯爽と解決してしまったのである。
エリカに対する感謝の念が途轍もなく大きいものになっても不思議ではなく、
エリカは尊敬するシェスタから最大限の謝意を受けて快感に身を震わすことになった。




◆◆





ぬふふふ・・・、平民が無欲ですって?やっぱりミリアは愛すべきアホな子ね。
今にもその吐息が届きそうな距離で両手を握り締めながら、シェスタさんから感謝の念を
伝えられる。この素晴らしさは筆舌にしがたく、その価値は万金に勝って当然!


どこの欲ボケ商人が送りつけてきたか分からない贈物の権利を放棄するだけで、
それが手に入るなんてほんと安過ぎるくらいだわ!
あ~もうっ!嬉しすぎて頭がおかしくなっちゃいそう!



『エリカさん?その、聞いています?エリカさん!』
「すっ、すみません!ちょっと嬉しくてぼーっとしてました!」




『もう、しょうがない子ね♪でも、エリカさんのそういうトコが可愛くて
 貴女のことをつい抱きしめたくなったりしてしまうのかもしれませんね』


うわっうわっ~ぁ、なにこの超展開?嬉しすぎて、正直たまりません!
シェスタさん柔らかくて暖かいし、それに凄く良い香りがするし、
もう、このまま抱擁されたまんまずっとクンクンしてたいよ~








シェスタの熱い抱擁を受けながら彼女の胸に顔を埋めるエリカに
もしも尻尾があれば盛大に振られていただろう。


そんなシェスタという飼主に懐きまくっている子犬のようなエリカは
続いて聞かされた『自分達夫婦付きの侍女になって欲しい』という彼女の願ったりな
お願いにぶんぶんと首を縦に振って快く引受け、飼主の笑顔を再びゲットする。


こうして、素晴らしい一時を過ごしてミリアの待つ部屋に戻ったエリカであったが、
横の少女が食詰めて何か変な物でも拾い食いしたんじゃないかしら?と心配するほど
頭の中がお花畑になっており、上機嫌でニコニコし続けていた。




ミリアへの一撃で直接的な嫌がらせは無くなった物の、所詮は成り上がりの平民と言う
謗りを幾度と無く影で受けてきたエリカに取って、最初から首尾一貫して彼女の頑張りを
正当に自分を評価してきてくれたシェスタに対して、誰よりも強い尊敬と感謝の念を
向けるようになっていたのだ。

そんな彼女が幸せに繋がる切符を手に入れたと知って、
エリカはじっと何も手助けせずに傍観できるような性格をしていない。


エリカがシェスタを助け、彼女に子犬みたいに懐くのは自然の成り行きであった。





◆妖精は踊らない◆



遂に次期公爵夫婦が誕生する日を迎えたエックハルト公爵家には、二人を祝福するという
名目で城塞都市グレストンの各界の名士は勿論のこと、フリード公国内の要人だけでは
収まらず、隣国からも少なくない人々が、婚儀に出席するため集まっていた。



そんな超セレブな人々が集まる式は、肥溜めがいたる所にあるような鄙びたどこかの村で
見ることができるような豪華な式とは規模も格も遥に違っており、その村でクイーンの
称号を一応得ていたエリカですら、自分が調達した品々の多くを一回の式で使うんだと
ただただ驚くだけであった。



リーファスの女神に愛を誓う式場は歴代の公爵が式を挙げてきた大広間で、
吹き抜けの天井を突き破ろうとするほどの高さを持つ金色に輝くパイプオルガンが
荘厳な音楽を奏でるため鎮座し、中央にある女神を祭る祭壇はその宝石類の重みで
崩れ落ちないか要らぬ心配を抱かせるほどの装飾が施されていた。


これをみた参列者達は皆、エックハルト公爵家が一体どれだけの隆盛を誇っているかと
驚嘆せずには要られない。どうやら驚くのは平民のエリカだけではないようである。




大貴族エックハルト公爵家が主催する婚礼の儀は壮大で豪奢な式となる。




だが、驚きを人々に与えるのは婚礼の儀の豪奢さだけではない。
隣室の披露宴会場では式に参列した来賓達を持成すため、
テーブルの上には贅を尽くした料理が山のように並び、逸品物のワインのボトルが
まるで林のように立ち並んでいた。



エリカがシェスタのため、自らの評価を上げるために用意した最高級品々を惜しげもなく
使った料理に、グレストン中のワイン倉を引っくり返して手に入れた名酒の数々であった。


もっとも、彼女はこれらの品を揃えるに当って商人を競合させ、変動する商品相場の
最新情報を収集するなど、いままでの機械的な発注から一歩踏み込んだ調達活動を
ミリアと行っていたので、過去最低の予算で過去最高のクォリティの披露宴を実現する。



最高の準備によって整えられた最高の舞台で、最高な結婚式の幕が揚がろうとしていた。




◆◆




「その、何ていうかシェスタさんホント綺麗です。私ちょっとドキドキしてきました」

『ふふ、ありがとうエリカさん。貴女も凄く可愛いわ。素敵なドレスね』

『馬子にも衣装って感じですけど、平民とは思えないぐらいのカワイさですよね!』

「ミリア~、服貸してくれて感謝してるし、カワイイって褒めてくれたのも
 凄く嬉しいけど、式と披露宴が終わったらちょっとお話でもしましょうか?」

『えー?終わったら直ぐ家の者が迎えに来るから、直ぐに帰ろうと思ってるんだけど
 明日じゃ駄目なの?エリカがどうしてもって言うなら、今日でも別に構わないけど』

「あー・・、うん、もう良いわ。そんな大したことじゃないから・・」




いつものミリアが発する無意識な腹立たしい発言にカチンと来たエリカが、
ちょっと頭冷やそうかといった感じで話し合いの場を設けようと要求したのだが、
まったく、そのことに気付かないミリアの返事に毒気を抜かれて脱力してしまう。



『ふふ、二人は本当に仲がいいみたいですね』 「『違います!』」



そんな二人を見ながらシェスタは心底楽しそうに笑う。
婚礼の儀を目前にして多少なりとも緊張して肩に入った力が抜けたようである。
花嫁のドレスの長い裾を持ち上げるリーファスの妖精レルルとラルルの大役を担う二人は、
抜群の相性を発揮して式が始まる前から良い仕事をしていた。


音楽が鳴り響き、一番の主役である花嫁が入場する時がきた。
美しい女神と二人の可愛らしい妖精達は式場へと続く道をゆっくりと進んでいく。


人々の祝福と打算に溢れたレオンとシェスタの結婚式が始まる・・・




◆◆



はぁ、花嫁さん姿ってやっぱりいいなぁ。いつかは自分もって思っちゃうくらい魅力が
あると思うんだよね。あの純白のドレスに身を包んで素敵な旦那様との結婚式・・・



『夢見ているところ悪いけど、こんな凄い結婚式は大貴族でもなきゃ
 到底無理だってこと位は、貴女だって良く分っているんでしょう?』

「うっさい。今だけは夢見ていたいの!」
 


ほんと変な所で現実的なのよねミリアって、普段は全然世間知らずのアホな子なのに
というか、もしかして私が貴族社会での世間知らずってことなのかな?
何も知らないから、有り得ない夢を見て悦に浸っちゃったってことなのかも・・・


うん、考えたら負けよね!平民だって、お金が無くたって幸せな結婚は出来るんだもん!


『そういえば、エリカってそもそも結婚のアテとかあるの?例えば田舎の幼馴染とか?』

「ねぇ、ラルル?お喋りな妖精さんは舌を抜かれちゃうんだよ」

『そうなの?そんな話は私初めて聞いたわ。平民なのにエリカって物知りよね』


もう、この子絶対ワザとだよね?ワザとすっ呆けて平民の私を馬鹿にしてるね。
その上、過去の故郷での失敗を地味に抉ってくるし、
幼馴染のイケメン君は私の大親友と今にも結婚しちゃいそうだって知ってるんだよね?
ううん、知らなくてももうどうでもいいや!この舐めた妖精ちゃんには
制裁という名のしかるべき処置が必要だと女神様もきっと思っているに違いないから!


相方に対するせめてもの情けで、中身の詰まった瓶じゃなく、
いま私が一気に飲み干したワインボトルで床に沈めてあげよう。

ラルル、『かわいい子には地べたを這いつくばらせろ』って昔から言われてるんだよ♪






元気一杯にモグモグ料理を食べ、ちょっぴり背伸びをしてワインを少し飲んだエリカは
ちょっとほろ酔い気分のテンション高めで、ミリアの普段通りの発言に耐える堪忍袋は
何処かに消えうせてしまっていた。


そんな空のワインボトルを片手に持って近づく危険なエリカに対して
ミリアはほっぺにソースを付けながら『この料理おいしいねん』と意味不明な発言を返し、
迫りくる危機にまったく気付いていなかった。


もう少し、彼女達二人に声を掛けた男達のタイミングが遅かったならば
披露宴会場は割れる瓶の音と悲鳴の協奏曲をBGMに人々は酒ではなく、
血に酔う事になったかもしれなかった。


非常に間のいい男達は、期せずしてこの豪奢な披露宴を守る影の功労者となった。




◆貴公子のお誘い◆


大貴族の結婚披露宴は各界名士が一同に会する社交の場であるだけでなく、
まだ独身の貴族や大商人の子弟達が自分に相応しいパートナーを探す狩場でもあった。

そんな狩場でかわいらしいドレスを身に纏い背中に羽を付けたレルルとラルルの
妖精役を務めるエリカとミリアはその容姿も手伝って注目度NO1で目立ちまくりだった。

当然、そんな彼女達にお近づきになり、あわよくばお持ち帰りしたいウッキーな男共は
会場内に幾らでもいたため、披露宴が始まると二人の妖精に男達が一斉に群がる。



◆◆



『美しい女神の妖精さん。私はグレストンの正騎士、紅蓮のテルムと申します
 よろしければ、今宵の出会いを祝して私と一曲踊ってはいただけませんかな?』


最初に二人に声を掛けた正騎士の男は自分がイケテルと思い込んだ勘違い男であった。
エリカとミリアは無言で冷たい視線を投げ掛けつつ、一言も言葉を発しない。

哀れな勘違い男は二人の御蔭で幸いにも自分の勘違いに気付く事が出来、
その場をそそくさと後にする。



『私はベルナード伯爵家のガゼットと申します。良ければ少しだけお話でもしませんか?』


続いて二人に声を掛けた男は爽やか伯爵家の長男で、
非常に人の良さそうな好青年であった。ミリアの方も満更では無い顔を見せていた。


「私はナサハ出身の平民のエリカと申します。私と二曲続けて踊ってくださいますか?」



そんな当たりっぽい好青年であったが、エリカの自己紹介と誘いを聞いた瞬間、
急にしどろもどろになって、その場を逃げるように後にする。

婚礼の披露宴会場で二曲を続けて踊る事は婚約を意味し、
エリカの素性を平民と知ったいま、そんな真似をするような気は全く無くなっていた。


このエリカの『私平民ですのよ♪』発言の効果は絶大であった。
それ以後、声を掛ける男達は二人組みの女性の片方だけ、エリカを視界から除外して
子爵令嬢のミリアのみに話しかけ、ダンスに誘うというマナー無視の露骨な態度を
取りつづける。その彼等の行動がエリカだけでなく、ミリアをも失望させる事になるとは
横に並ぶ女性を自分のステータスの一部としか考えない愚かで浅はかな男達は
最後まで気付くことは無かった。


そんな彼等に酷く失望し、落胆した妖精達は披露宴から退場する美しい花嫁を
新郎の部屋に送り終えた後、本格的な宴が始まる披露宴会場に戻ろうとはしなかった。



◆◆



「ヒゥッ、子爵令嬢のぉ~、かわゆいミリアさんは戻らなくてもよろしいんですかぁ~?」

『貴女ちょっと酒癖悪過ぎよ!碌に飲めないくせにがぶ飲みするなんて・・』

「何いってれんすかぁ~?このわたきゅしはワインのちゃがいが分る女の子なのですよ」



分ってはいたものの、実際やられると結構ショックだったエリカは
貴族の子息達のあんまりな仕打ちに憤慨したものの、無視と言う直接的な嫌がらせでは
無かったため、エリカも拳を振り上げて真っ向から反撃できなかったため、
鬱屈した思いを飲めもしない酒に溺れて晴らそうとしてしまった。そんな愚かな妖精は
なんとか花嫁を新郎の部屋まで送り届ける事に成功したが、その後は糸が切れたように
ぐでんぐでんのべろべろべぇ~状態で迷惑顔の相方の妖精さんに絡んでいた。



『はぁ、なんで私が酔っ払いの世話なんかすることになったのかしら?』

「だからぁ~、ミリア様は戻って男をあしぁゃってりゃっしゃいって言ってるのれす」

『それは遠慮しとくわ。頑張った友人にあんな酷い仕打ちする殿方なんかは
 こっちから願い下げよ。それに貴女を家まで送って欲しいって頼まれてるしね』

「うぅ~ミリァ~!」



どうしようもない『友人』の介抱をしぶしぶ引き受けることにしたミリアに
エリカはよろよろと千鳥足で近づき抱きつく、そんな彼女は普段のちゃきちゃきした姿と
異なり、ちょっぴり弱々しい女の子そのもので、『なんかかわいいかも?』とミリアは
不覚にも思ってしまったのだが、続くエリカの言葉と行動で
本当に不覚だったと思い知ることになる。





           「 気持ち悪い・・・ 」








エックハルト公爵家中興の祖と言われるレオン・エックハルトと良妻賢母の鑑として
後世に讃えられるシェスタの婚礼及び披露宴は『城塞都市物語』の一節の中でも、
一際煌びやかな描写が随所に見られ、一見すると華やかに見える。


しかし、よく読むとこの式典の最大の功労者でもあり、物語の中心人物のエリカに対して、
心無い対応をする人々が居たと記述されている部分が見受けられる。
華やかな舞台の中で、それを演出し、見事に成功させたエリカが受けた不当な仕打ち、
その対比が物語の中では淡々と描かれているが、その描写からエリカを代表とする
平民達にとって当時がいかに生き難い時代であったのかがよく分る。
また、それと同時にその時代に大きな成功を得たエリカが如何に傑出した人物であったか
ということがよく分る良い例でもあろう。


彼女は当時の各社社会によって生み出された、平民の不当な扱いに吐き気を催しながらも、
歯を食いしばって耐え、決して膝を屈することなく成功を勝ち取っていったのだ。
その力強く何よりも気高い彼女の生き様は私を惹き付けて止まない。







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