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No.11180の一覧
[0] 城塞都市物語[あ](2009/10/11 14:02)
[1] エックハルト公爵家伝[あ](2009/09/24 22:14)
[2] 子爵令嬢手記[あ](2009/09/24 22:14)
[3] 軍師公爵帰郷追記[あ](2010/07/14 20:32)
[4] 公妃誕生秘話[あ](2009/09/30 21:50)
[5] 隻眼騎士列伝下巻[あ](2009/09/24 22:15)
[6] 名人対局棋譜百選[あ](2009/09/30 21:51)
[7] 弓翁隠遁記[あ](2009/09/26 12:36)
[8] 従者奉公録[あ](2009/10/03 15:50)
[9] 小村地獄絵図[あ](2009/11/01 20:33)
[10] 迷走研究秘話[あ](2009/11/01 20:28)
[11] 王公戦役[あ](2009/11/01 22:05)
[12] 城塞会議録[あ](2012/01/09 20:51)
[13] ナルダ戦記[あ](2012/05/01 00:46)
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[11180] ナルダ戦記
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:6c43e165 前を表示する
Date: 2012/05/01 00:46


法暦1375年、ロネール王国とフリード公国は、
フリード公国の首都に次ぐ中核都市である城塞都市グレストン周辺で散発的な軍事衝突を繰り返していた。

寄せ手の大将、ロネール5師団第四師団長の『剣王ルーデル』は凡そ八千の兵を率いて、
公国領南方一帯に広がる穀倉地帯に点在する村落に執拗な攻勢を掛けていた。
本国から途切れがちな兵糧を補うと共に、じわじわとグレストン側の継戦能力を奪う戦法である。

これに対し、村を焼かれて城塞都市グレストンに流れ込む難民の受け入れに四苦八苦することになった守備軍の大将フィリオ・グレストン公は、
『不落の城塞を持って豪敵に当たるべし』という。副将にして軍師のレオン・エックハルト准公爵の献策に従い、討って出るような愚を侵さなかった。

不落によって齎された長い平時、これによって生み出された潤沢な備蓄食料は、直ぐに尽きることは無く、いま暫くの猶予があったのだ。
ただ、日毎に増え続ける難民の数と、高騰し続ける食料の相場に対して、胡坐をかいていられる程の余裕は無かった。





【時の雫は千金に値する】


「糧食については、現地にて調達されたしですってぇ!!」


本国から補給物資では無く、伝令から信じられない命令書を受け取ったルーデルの副官アリエル・ベルモンドは、
普段の淑やかさとは無縁の怒声を思わずあげる。
只でさえ、途切れがちな本国からの補給に対し、疑問と不満を持たざるを得ない状況の中で、
このような荒唐無稽な命令書を受け取るなど、想像していなかったのだから、彼女が激昂してしまっても仕方あるまい。
その上、このような仕打ちに対して、いの一番に怒りを暴力と言った形で発露しても不思議でない上官が、
命令に対し、何一つ異議を挟むことなく、それを目して受け入れた事が腑に落ちず、彼女の苛立ちを一層大きい物にしていた。



「嬢ちゃん、そうキャンキャン吠える。三卑民を中心に構成された俺の師団は
 本国の連中からしたら、さっさと使い捨てにしたい厄介者の集りらしいからな
 今日まで補給が曲がりなりにもあっただけ、先の乱の時よりは随分マシってやつだ」

「そんな、生まれは違えども同じロネールの兵ではありませんか!!」


少女らしい正義感によって生まれた抗議に答えること無く、ルーデルは別の部下にあと何日戦えるかと確認する。
詮無き議論を少女としたところで、時間の無駄だと彼は判断したのだ。

グレストンの兵站に過大な負荷を掛け、相手が溜まらず討って出た所を屠ると言う、
もっとも勝算が高い戦略構想が本国の連中によって破綻させられた今、
彼等は短期決戦による勝利を手にするしか、未来を手に入れる方法が無いのだ。
大将であるルーデルは、より大きな勝利を手にし、より多くの兵を家に帰してやるために、
幾度目か分からぬ厳しい戦いを本国の豚どもによって強いられることになる。




ロネール王国には、一貴三卑という身分制が建国時から布かれており、
支配者階級であるロネール人に対し、農奴階級とも言えるレヌル人やサンク人、
奴隷に近い扱いを受けるスーデ族は三卑と呼ばれ、王国内で非常に弱い立場に立たされていた。

ルーデルの出自も妾腹であるだけで無く、母親がスーデ族の出であったため、
爵位持ちでありながら、不当な扱いを受けることが少なく無かった。


今回の遠征で目立つ武勲を立てなければ、貴族達は卑族の血が混じったルーデルを公然と排除するだろう。
貴族が貴族で居続けるためには、下と混じった者が成りあがる事を許してはならない。
下は上の糧として犠牲になるために生きることしか許されないのだ。


勝利によって存在価値を示し続けなければ、彼等はロネール人によって搾取され、
蹂躙され続ける悲惨な生活を送ることしか許されなくなる。
敗北し、敗残者となれば彼等は全てを失う事になる。
あらゆる物を奪い尽くし、貪欲に勝利を欲するようになるのは、彼等に取って当然の事であった。




【老兵と女騎士】


ロネール侵攻の急報を伝え、その功によって子爵に叙せられたエリカ・ルーデンハイムは、
養父に変る師にして、弓翁と呼ばれたニヤード・ニヤック従者に従え、ロネール迎撃部隊への参加を表明していた。
故郷であるナサハを焼かれ、親友と初めての従者を無慈悲に奪い去ったロネールに対する憎しみが、
未だ傷の癒えぬ体を動かし、血生臭い戦いの中にその細身を置かんとさせていた。


「肩の矢傷は化膿しておらぬとは言え、浅くは無い傷じゃ
 無理に戦場に赴き死地に自ら近づく愚を冒すこともなかろう」

「ロネールの糞虫を皆殺しにする戦いに参加しないなんて選択肢は残念だけど、
 私には無いわ。あの男を殺す為なら無理の一つや二つ位、へっちゃらだしね」

「憎しみで剣を抜くか、それも良かろう。戦う、殺す理由に貴賎など本来有りはせぬ
 己が思うままに戦い、戦場で生きるか、散るかは、そのものの才覚次第じゃからな」


怒りと憎しみに染まった目を隠そうともしない少女の固い決意に説得を諦めた老人は、
戦場の苦楽を共にした相棒の手入れをしにエックハルト家別邸に与えられた自室へと戻る。
少女が剣を抜く決意を固めたならば、その手助けをするのが亡き友との約束である。

神弓の使い手と世に知られたニヤード・ニヤックは、戦人として再び戦場の中心へと戻る。





グレストン防衛戦に際して、エリカ・ルーデンハイムは、
ロネール侵攻という危機を命懸けで報せた英雄、『紅き戦乙女』として喧伝され、
城兵達の士気をあげる格好の材料として祭り上げられていた。

迎撃部隊への参陣表明に対して、彼女の怪我を心配したのか、何らかの含み故か
副将のレオン・エックハルト准公爵は難色を示したのだが、英雄不在の戦いは有り得ないとして、
最後方ではあるが、彼女と従者ニヤックの参陣はあっさりと認められる。


この二人の主従によって、王公戦役の1ページより血生臭く華やかな物になるとは、
それを認めた者も、退けようとした者も思いもしていなかった。

城塞都市物語に新たな1ページが加えられる日が、刻一刻と迫っていた。




【惨劇の幕開け】


「討ってでるだと?どういうことだ!不落のグレストンを持って
 敵と当たることは、先の軍議で既に決まった事ではありませんか!」


グレストン総督府から陣所に齎された荒唐無稽にしか思えない命令に、
副将にして軍師を務めるレオン・エックハルトは声を荒げる。
堅牢な城壁を持つグレストンに籠もって戦うと言う最も王道で確実な戦法を執ることは、
既定の事実と成っていたのだ。
精強と暴虐を持って知られる『剣王』と正面から当たるなど、愚の骨頂としか思えなかった。


「レオン、父上はこれ以上難民が増えることを嫌っているらしい
 蓄えに蓄えた富が目減りする様は、愚鈍な父上であっても応えるらしい」

「公爵閣下!!幾ら御子息であっても口が過ぎますぞ」

「構わないさ。無用な死地へ立たされる兵の身を思えば、
 これ位の放言は許されるだろう?レオン悪いが新たな策を立ててくれ」


珍しく発言に毒がこもったフィリオ・グレストン公爵は、自分の父に対する発言を窘める部下の言葉を遮り、
親友にして、軍師として自分を補佐するレオンに新たな策を立案するように頼み、頭を下げる。

フィリオの一連の立ち振る舞いに、普段のどこか頼りなさ気な印象は全く無く、
一軍を指揮するのに相応しい将としての風格すら感じられた。
レオンは、親友のその姿に覚悟を決め、迎撃部隊一万二千を城外へと動かし、ルーデルとの決戦へと挑む。



◆◆


「御大将!グレストンの兵が動きました!!奴等は城外で我等に決戦を挑む気です」

「ほう、地獄の王は我等の来訪を遠慮したいようだな。勝機が転がり込んできた
 早急に陣払いの準備をしろ!!馬に水と餌をたっぷりとやるのを忘れるなよ!!」

「最短で二日後の朝に接敵となります。敵の兵数は我等の五割増しですが…」

「一人が二人を殺せば、余裕の勝利だな」


僥倖とも言える報せを聞いたルーデルは、兵力差を不安視するアリエルの発言を笑い飛ばし、着々と決戦の準備を始める。
これまでに2倍、3倍の敵を倒して来た彼等に取って、多少の兵力差など大した問題では無い。
不落の城塞都市を攻めるのと比べれば、余程マシな戦力差である。
また、野戦で大勝すれば、祖国へ帰還しても十分な理由となる戦果にもなり、この機を逃す理由は無かった。


法暦1375年11月7日、城塞都市グレストンから少し離れた、ナルダ湿原において
フリード公国グレストン軍一万二千とロネール王国第四師団八千は、
己の生存権を賭けた、激戦を繰り広げることとなる。





【王公戦役第一章ナルダの戦い】


ロネール迎撃部隊、通称グレストン軍は、ナルダ湿原に到着すると軍を左翼、右翼、本陣と三つに割り、
騎兵を中心に中央突破を狙ってくるだろう敵を両翼で反包囲する陣形を布く。
また、中央の本陣周りに城塞都市での防衛戦用に用意した馬防柵や大型の矢盾を荷駄で運び設置し、
湿地故の柔らかい地盤を利した土塁を掘ることで、簡易な陣城の様な物を形成していた。
城塞都市での籠城と比せば粗末な防御陣であったが、
野戦で陣城を築く観念自体が稀な当時に置いては、非常に画期的な戦術と言え、
レオンの才が机上だけではない実践に即した物であることを示した良い一例として、後に語れることになる。



僅かな時間で、この重厚な防御陣を布いたのを見たルーデルは、敵将の確かな手腕を称賛し、
『戦歴の浅い弱兵の集団と侮るな』と、戦場の風に昂揚し始めた部下を戒める。
また、軍を敵と同じく三陣に分けるが、前陣に本陣、後陣と縦に軍を割り、
中央突破を狙う最も彼等が得意とする『剣の陣』を布いて、必勝の体勢を整える。

乾季とは言え湿原ということもあって、地盤が緩く騎兵の突撃を最大の長所とする彼等に取って、
些か不利な戦場ではあったが、付け焼刃な別の戦法を採るより、
慣れた戦いをする方がより勝算が高いとルーデルは判断したようである。


動かぬグレストン軍に対し、にじり寄る『剣王軍』、
縮まる距離に比して、高まる両軍の緊張…、戦いの火蓋は、ついに切って落とされる。




◆◆



『殺せ!!殺しつくせ!!』「敵は戦歴無しの小僧だ!!遅れをとるなよっ!!」

「まだだ、焦るな!狙いをつけて射殺せ!無駄な矢を放つなよ!!」
「左翼と右翼が絞るまでの辛抱だ!防御陣を崩すな!」
『数はこっちが上だ!押し返す気で当たれ!槍の穂先を下げるな!!
 的の方から突っ込んでくるぞ!!馬防柵と土塁で騎馬の恐さは半減しっているぞ!』


グレストン軍に剣王師団の前陣が突撃を始めて一時間、レオンの布いた防御陣は上手く機能し、
激しい攻勢を効率的に捌く事に成功していた。左翼と右翼から雨のように降り注ぐ矢によって、
確実に敵の兵力は削られ、もう少しばかり耐えれば左右の陣を絞り、敵を反包囲の網で絞め殺すことが叶いそうであった。



「レオン、さすがだな。湿原という地の利で、騎兵の長所を抑え
 本陣という餌の前に、固い防御陣を築き群がる敵兵の命を次々に
 刈り取るとは…、君が敵でなく味方で良かったと、心の底から思うよ」

「まぁ、攻城戦に比べれば野戦の方がマシと考える敵軍が決戦を挑んで来るのは
 火を見るよりも明らかだったからね。敵が向かってくる事が分かっていれば
 後は自軍に最も優位な状況を準備して迎え撃つだけだからね。難しいことじゃない」


親友でもあり、総大将のフィリオからの賛辞に対し、若き俊英は満更でもない顔をしながら謙遜する。
そんなレオンの子供っぽい仕草に少し笑みを見せながらも、フィリオは開戦から消えぬ漠然とした不安に襲われていた。
『剣王』と称されるほどの敵将が、このまま終わるとは、どうしても思えなかったのだ。


そして、この彼の不安は悪い事に的中することになる。




◆◆


「前陣のロレンツも苦労しているようだな。このまま削られてもジリ貧だ
 そろそろ本腰を入れて敵を殺す事にしよう。ムルド、エレント!着いて来い!!」

『御意!騎兵200は閣下に続け!』『野郎ども御大将に遅れるなよ!!』


本陣の三千から抜かれた200騎を率いたルーデルは、
前陣と敵本陣が入り乱れる最前線を縫うように進み、固く閉ざされた防御陣を無理やり抉じ開けて行く。

土塁に埋まった馬と死骸を踏み場にし、馬防柵を飛び越え、矢盾をなぎ倒す。
彼の勇戦に猛り狂った前陣は左右から降り注ぐ矢を忘れ、手がちぎれ体を貫かれようとも前進を止めない。

その悪夢のような進撃は、グレストン軍を恐慌状態に陥れ、一人二人と兵は持ち場を離れて行く。
つい先刻まで完璧に機能していた防御陣は、波が広がるようにルーデル率いる戦闘集団に浸食され、
槍の穂先で敵を餌食にしていた兵達は、逃げまどい後退して行く中、背中を次々と貫かれて、不名誉な死に様を見せていた。


『どうした!!最初の威勢はどこにいった!!逃げる兵を殺しても詰らんぞ!!』
『おうおう!!手柄首にもならん弱卒しかいないのかっ!!』

「ゼルドス、フリザスク、イエール!!無駄口を叩いてないでもっと殺せ!皆殺しだ!」


好き放題に放言するルーデルの兵達に立ち向かう者も無く、逃げまどう兵達は右往左往し、
左右両翼のグレストン軍も混ざりあう中央の両軍を前に、同志討ちを恐れて矢を放つことも出来なくなっていた。
戦術に勝るグレストン軍を、個の技量によって打破するゲルト・ルーデルとその部下達は、局地戦のスペシャリストであった。
戦況が混迷を極めれば極めるほど、強襲とゲリラ戦を何度も繰り広げて来た彼等の経験が生き、敵兵を次々と屠って行く。

事前に作った防御陣で何とか持っているものの、ルーデルの突出から僅か数時間で
グレストン軍の本陣が崩され、全軍が崩壊する寸前まで追い込まれていた。




『本陣!第六陣まで敵軍によって突破されました。敵がここまで来るのも時間の問題かと』


「くっ、私の作戦は確かに上手く行っていた筈なのに、あの男は化物か…!?
 このままでは本陣が崩れる。一旦兵を下げて左翼と合流し、右翼と挟撃する陣に…」


「レオン、それは無理だ。ここで退けば全軍崩れることは君も分かっている筈だろう?」
「ならば、どうしようと言うんだ!」

「前に出よう。大将が勇を見せるのは、この機をおいて他には無い
 君が私の身を案じてくれるのは嬉しいが、その位の覚悟はしているよ」


『陣幕を上げろ!!公爵閣下が進まれる。その姿を全軍にお見せするぞっ!!』


グレストン軍総大将フィリオ・グレストンは、馬上にあって悠然と前線に向かって進む。
その姿によって、彼は勝敗が未だ定まっていないことを兵卒に知らしめたのだ。

死は逃げる者を追い、死は向かう者を避ける…
王公戦役第一章ナルダの戦いにおけるフィリオ・グレストンの勇気を示す為に
『死追死向』と呼ばれる言葉が初めて記されることになる。

また、本来なすべき者が為さず、代わりの者が大事を為すと言う意味の
『軍師狼狽して将鎮まる』という故事が生まれたのも、この戦いの最中であった。


多くの歴史が記されて行く中、ようやく戦いは最終局面を迎えることになる。



【剣王の咆哮】


『槍に双竜の旗印、グレストン総督家の家紋!!総大将の御出ましかと』

「折角出てきてくれたんだ。挨拶がてら首を貰い受けなきゃ失礼ってもんだ!!」


ようやく掌中に乗った敵の総大将を討ち果たさんと、ルーデルとつき従う30騎は、
目の前の敵を薙ぎ払いながら、本陣奥深くに更に進む。
横を走る戦友が一騎、まった一騎と減ろうとも、一顧だにせず前へと進む。
討つか討たれるか、最早、相手を討ち果たすことでしか終わりを見出すことは出来ない。
勝利か、死か…、シンプルで分かり易い勝敗の行く末を定めようと男達は馬を駆る。






「まったく、城を出無ければもう少し楽だった筈なのに、中々、上手く行かないね」

「運が無かったな小僧!!俺の前に立った事を、あの世でたっぷり後悔するんだなっ!!」

群がる本陣の直衛を悉く払い除け、フィリオの前に辿り付いた…
たった一騎、ルーデルは
諦めたような言葉を漏らしながら、首を傾げる哀れな男の首を刎ねようと
その手にした大剣を躊躇なく、己の最速の動きで振り下ろす。
激戦によって多くの犠牲者を生んだナルダの戦いの勝敗は、その刹那とも言える瞬間に決する。



「貴様、狙ってやがったのか、エゲつ…ねぇ、ヤロ…だ!」

「タイミング次第で私の方が死でいた。狙ってはいたが、運も大きかったと思うよ」


傾けた首の直ぐ横を正確に走った矢は、ゲルト・ルーデルの右目とその奥の脳まで貫き、
剣王と称された英雄の命脈を無慈悲に絶った。

愛馬から崩れ落ちながら、剣王が最後にみた者は自分を嵌めた若造でも、自分を射殺した老人でも無く、
その横で真っ直ぐな憎悪を向ける一人の少女だった。
その姿を見て殺し損ねた小娘によって、自分が殺されたと何故か悟った男は、
それも悪く無いと思ったのか、不敵な笑みを顔に張り付かせたまま冥府へと旅立つ。




◆◆


アウゲンの妄言により出陣が決まり、レオンの陣城による迎撃策が定まった夜更けにフィリオの下を訪れたのは…


「ルーデンハイム准子爵、いや子爵だったか、こんな夜更けに何か用かい?」

「公爵閣下にお願いしたい儀があって、夜分に無礼とは知りつつ参上致しました」

「まぁ、殆どの差配はレオンがしてくれて、私はする事の無い暇人だ
 暇つぶしに小さな英雄様の願いの一つや二つ、叶えてみるのも悪く無いね」

「では、公爵閣下の命を、この私に預けて下さい。勝利と『あの男』を殺す為に…」



野獣のように猛り狂ったルーデルとその部下達の暴虐な強さをその目で見て、感じたエリカは、
防御陣に籠もって迎え撃つレオンの策では勝利に届かないと、経験と直感で悟っていた。
そして、彼女の大きな目的、『ルーデルを殺す』為には、大胆な罠が必要だと考えていた。
その罠を完成させる為の重要な餌が、フィリオの命だった。

彼女は自分の従者に神弓の遣い手と呼ばれた弓翁ニヤード・ニヤードが居る事を含めて話し、
ルーデルを嵌める釣餌になって欲しいとフィリオに頼み込んだのだ。
無論、レオンの策が破綻を来たし、防御陣が崩れて敗色が濃厚になった場合で構わないと、
この罠が、飽く迄も起死回生の策であると説明した上である。


「万全の策を立てたとしても、相手がそれを上回れば、こちらが負ける
 念には念の策を用意して置くのも悪く無いね。私はとても臆病で
 保険は多めに掛けておく主義だからね。まぁ、楽に勝てるのが一番だが」

「フィリオ様、ありがとう御座います。もし、私の策が必要になった時は
 出来るだけ失敗しない様に気をつけるので、それなりに安心していて下さい」



茶目っけタップリに笑う少女に、乾いた笑いを返した若き英雄は、
目の前で横たわり動かなくなった英雄を見つめながら、数日前の事を少し思い出していた。

総大将を失ったロネール第四師団は統制を失い、勢いを盛り返したグレストン軍に押し返され、
組織だった動きを採れず、散発的な反撃しか出来ないまま、その命を次々と刈り取られていく。
勝者と敗者がハッキリと別れ、戦いは急速に終息へと向かっていた。


グレストンが勝ち、ロネールが負けたのだ。





【戦いの終わりと、新たな始まり】




「フィリオ!無事か!!」

「レオン、見てのとおり無事で、私は怪我ひとつ無いよ」


本陣で全軍の指揮を総大将に代わって執り続けたレオンが、
フィリオの下に辿り付いたのは、ルーデルが討たれて暫くした後だった。
大将を失って乱れた敵軍を押し返し、左翼と右翼に反包囲を完成するのに幾許かの時を要したのだ。
現在は、それも終わり、逃げ遅れた残兵の掃討戦に入ったので、フィリオの下に馳せ参じることが出来たのだ。



「何とか難敵を相手に勝利を手にする事が出来て良かったよ
 君の所のエリカ君には感謝しないとね。まさに勝利の女神だ」

「いつの間にあんな罠を考えていたんだ。まったく結果として良い方向へ転がったが
 肝を冷やしたよ。それに、言えた義理ではないが、君が『保険』を掛けていたとはね」

「レオン、気を悪くしないでくれ。私が臆病なのは知っているだろう?
 君の策を信頼していなかった訳じゃない。現に、この勝利を生んだ功績の多くは
 君にあると私は考えているよ。ただ、足りないピースの一つを彼女が埋めただけさ」



勝利に浮かれつつも、天敵とも言えるエリカに出し抜かれた形になって
少し拗ねた顔を見せる天才軍師様(笑)の機嫌を取りながら、フィリオは再び戦場だった場所へ目を向ける。
その視線の先にある死骸の山は敵味方が混じり合い、手にした勝利の代償が小さくない事を教えてくれる。

そして、命を奪う決断を下した視線の先に居る少女が、どのような道を歩むのか、
未来を手にした英雄は、勝利の余韻に浸りながら、先に広がった世界へと想いを馳せていた。








法暦1375年に始まったロネール王国とフリード公国の衝突を記した戦記『王公戦役』によると、
フィリオ・グレストン公爵は、物静かで知性に溢れた温和の人物として描かれるだけでなく、
天才軍師と称されたレオン・エックハルトを超える神算鬼謀の持ち主として描かれるみたい。
温和なところはパパにそっくりね!パパって凄~い優しいし、
ちょっと抜けてるとこがあるけど、そこがカワイイっていうか、なんかキュンキュンしちゃうんだよね~えへへ♪
って、話が逸れて来ちゃってるし、修正修正っと

ナルダの戦いでもルーデルとの正面決戦に関する策の大半をレオンに任せつつ、
エリカの献策も容れて、必勝に必勝の体勢を整えたうえで戦いに挑んだみたいだし、
勝った後の敗残兵の掃討も相当エゲツなかったみたいだよ。

城塞都市グレストンの居残り組の将軍や貴族達に、武勲を分け与えるって名目で、
ロネールの敗残兵が本国への帰還するために通るルートを何パターンか事前に教えて、
待ち伏せや奇襲を仕掛けられる手筈を整えていたみたい。

必死の思いでレオンの構築した反包囲から逃れた残兵の悉くが、
フィリオによって仕組まれた国境沿いの網取りに引っ掛かって命を散らしたみたい。
なんか怖いな~。頭が良すぎるってのも考えものだよね。
効率的に敵を殺すってのが名将の条件かもしれないけど、ここまでするかって思っちゃうな。

まぁ、私もパパの使用済みのお茶碗や湯飲みをナメナメするためには手段を選ばないんだけど…

でもでも、パパの唾液がついてる食器が洗われるのを座して待つなんて
リリカ、そんなの我慢できないよう~
だって、パパの、パパの粘液を舐めにて舐めて、ハッピーになりたいと思うのは、
当然の事なんだもん!!


「リリカー、お父さんの湯飲みどこいったか知らないかー?」

「えっ、えっと知らな~い!リリカ全然知らないよ~」


危ない危ない、後5回舐め回したら、食器洗浄機に戻して置かないと
でも、洗い終わった食器洗浄機にこの湯飲みを戻せば…

うふふ、私の唾液がたっぷりベトベトについた湯飲みでパパは、ごっくんしちゃうんだよね!
キャーっ!!もう、完全に間接ディープキスだよね!!や~ん、もうレロレロだよ~


とりあえず、お茶碗の方は、お風呂上りに二回は舐めてから返そうっと♪


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