【自由課題】
ほんと、先生には困ったものです!
私が一生懸命集めた資料は全部捨てろとか喚いたかと思えば、
別の人物の研究を新たに始めると言い出す始末ですよ!
まぁ、高校の非常勤講師で食い扶持稼がなきゃ食べていけないような
中途半端な学者先生なんてこんな物なのかもしれないけど・・・
直ぐに途中で投げ出して、なんだかんだで研究対象を一本に絞れない人は
中途半端な成果しか出せないものだよねぇ~
まぁ、私も直ぐに飽きて途中で投げ出したりするから、先生のこと言えないけど。
ふふっ、そう考えると先生と私って、もしかして似た者同士でお似合いって奴ぅ~?
きゃーっ!!もう、テレるってのぉっ!このこのこのぉっー!!
『ネェーちゃん、枕に頭突っ込んで何やってんの?大丈夫か?』
「あ゛? 殺すぞ・・」
『ひぃっ、中島と野球に行く約束してたんで逝って来ま~す』
さてと、この山のようなに集めた資料、どうしよっかな~?
うん、適当に纏めて夏休み自由研究にしちゃおう!やっぱ、時代はリサイクルだよね♪
せっかく労力を無駄にしたら勿体ないわ!
【ナサハのエリカ】
え~っと、エリカ・ルーデンハイム、おっと、当時はまだ平民だから唯のエリカだったわね。
その彼女がフリード公国の南部にあるナサハの村で生まれたのが法暦1360年か、
うわぁ~650年も前に生まれた人なんだ。改めて生年を見ると凄い昔の話だって気がしてくるなぁ。
それで、ロネール王国の国境近くの小さな村ナサハで育ったエリカはというと・・・、
ふむふむ、随分とお転婆さんだった見たいね。何かちょっと親近感湧いちゃうかも?
やっぱり、先生の言う心根清らかな大人しい聖女様なんていう存在すら怪しい娘より、
ちょっと位やんちゃで明るい私みたいな子の方が全然好感度高いよね!
ほんと、先生って女の子に幻想持ちすぎなのよ!
手近な所に私みたいな優良物件が有るなら、普通は即入居するのが男ってもんでしょ?
っと、話が逸れて来たわね。え~と、お転婆なエリカちゃんは14歳で両親と死別した際に
村を出て都会での立身を志すって凄くない?私より二つも年下の子がだよ?
やっぱり、偉人とか英雄とかになる人って若い頃から違うわね。
うん、エリカさんは持ってるわ。
あとは、ナサハでの彼女について記された事だと男友達のレイス達と悪戯をしたとか、
リアっていうかわいい村娘と仲が良かったって位の記述しかないわね。
へぇ~、リアとエリカの文通集なんて資料も残ってるんだ。
離れても二人は親友って、なんかキュンとしちゃうぞ!あとで読んで見よっと♪
【メイドなエリカ】
法暦1375年の春から夏頃に『城塞都市グレストン』に居を移したエリカは、
当時、その地で隆盛を誇っていたエックハルト公爵家でメイドさんとして入り込んだと。
やっぱり、私に似た出来る子は違うわね!
いつの時代でも時の権力者に近づくのが立身出世の最短距離なのよね。
それに、総督家じゃなく、ナンバー2の副総督家のエックハルト家を選ぶ辺りがシブイ!
やっぱり、頂点を極めている家より、それを狙っていく家で上を目指すっていうのに痺れるかな。
それにしても、エリカを採用したシェスタ・バクラムって人は先見の明があったのね。
それに美人で、気立ても良くて家事全般も完璧で仕事も出来るなんて、
エリカがベタ惚れになるのもちょっと分かる気がするかな?
逆に同僚のギュスターク子爵家のミリアちゃんはアホな子なだったけど
『萌え』を感じさせる子だったらしい。
多分、打算的なエリカに取って、裏表なくKYな発言をしてくれるミリアは貴重な存在だったのかな?
腹黒い遣り取りばかりじゃ息詰まっちゃうしね。
そう考えると、サリア、グレアム夫妻は彼女にとって癒しを与えてくれる
血の繋がっていない『家族』だったのかしら?
結構、サリアって人はかわいいもの好きでエリカを困らしたって記述が有るけど、
後にこの夫妻について書かれた彼女の手記を読むと、特にサリアに対する愛情の深さが窺えるから
エリカにとっては困ったおねーさんって感じの存在だったって感じかな?
はぁ、うちの弟も、もうちょっとカワイイかったら良かったのに・・・
まぁ、カッツォも良い所いっぱいあるから良いけどね。
【女騎士エリカ】
レオン・エックハルト准公爵夫妻に従って別邸に移ったエリカは程なくして
騎士見習いとして隻眼のゼスク・ルーデンハイム准伯爵に師事するか、
それにしても、このゼスクって人は凄いの一言に尽きる武人なんです。
法暦1299年に生まれて、1375年に76歳で没するまでに大小48の戦いに参加して
個人としても、指揮官としても卓越した手腕を発揮して武勲をあげたんだって。
中でも、神弓の担い手とも言われた弓翁ニヤードに片目を射られた後に、
その目をもったいないから食べちゃった話は歴史好きの間では凄く有名らしい。
本人曰く、結構プリププリしてて美味しかったらしい。ほんとかな?
それで、そんなとんでも武人に鍛えられたエリカは一気に軍学の知識を身に付けたらしい。
やっぱり、大成する人は頭の回転が速いらしい。
知恵者として知られるレオンもアブさんが七冠した『クレト』っていう盤上遊戯で
エリカに完膚なきまでに叩かれて、国宝『アイスダガー』を巻き上げられたらしい。
もっとも、純粋な棋士として腕はレオンが断然上だったから、
盤外戦でレオンを油断させて勝ち取った勝利らしい。
まぁ、それでも勝ちは勝ちだし、卑怯で結構ってのも別に悪くないと私は思うよ。
勝負の世界じゃ騙された奴がマヌケだよね?
◆
ゼスクが亡くなった後、エリカはルーデンハイムの家名を養女として受継いだらしいけど、
ほんとに円満な継承だったのかな?師事して一二ヶ月で養女になって遺産を相続って怪しくない?
何だか遺産狙いサスペンスの臭いを感じちゃうのは、ちょっと穿ちすぎかな?
まぁ、非常にゼスクとエリカは仲良かったらしいし、
ニヤードにゼスクがエリカの事を頼でいたらしいから、さすがに謀殺は無いか。
ついつい陰謀史観に走りがちなのは私の悪い癖って先生も言ってたし、
うん、多分だけど二人はいいお爺ちゃんと孫娘だったってことにして置こう。
私はちゃんと先生の忠告を聞けるいい弟子なのだ!えっへんえっへん!
そうそう、エリカの初めての部下アーキス・ネイサーについても書いて置かないと、
生年は法暦1359年で主より一歳年長のかわいい顔した今で言う『男の娘』だったらしい。
ちょっと前までエリカちゃんにご執心だった先生が
『ぶっ殺し』って彼の名前を言ってから叫んでたのが、妙に印象に残ちゃってる。
えっと、彼に関する記述だと父親や兄が騎士として総督家に仕えていたってのと、
母親が平民出身だったとかある位で、親族に高位高官の人は居なかったみたいね。
分かり易くいうなら彼は下級貴族だったというわけ。
ここからは私の推測だけど、そんな下級貴族の次男坊だから出世のために
エリカの部下になったと私は考えている。
当時は腹立たしいことに凄い男尊女卑の時代だったらしいから、
何かメリットが無ければ、自ら志願して女騎士の従者になる筈が無いのだ。
事実、見習い騎士という最下層の地位にいた彼は何の武勲も功績も挙げていないのに
正騎士に一気に昇進している。これは、何か裏取引があったと考えた方が自然だと思う。
もっとも、1375年以降に彼の名前が載っている歴史資料は全く残ってないから、
この私の推測が正しいかどうか確かめる術はないのである・・・。なんちゃって、
状況証拠すらない推測は唯の妄想だよね。ここの部分は後で修正しよう。
下手なレポート見せると先生怒っちゃうだもん。自分は妄想全開で論文書いてるクセに。
【似た者師弟】
さて、一気に全部終わらそうと思ったけど、まだ『ナサハの悲劇』にすら行けてない~
もう、いいや!お腹もぐぅぐぅアダモちゃん状態になってるし、これで終わりにしちゃおうっと!
先生の家に愛情タップリの未来の愛妻手料理を振舞ってあげれば、
この中途半端なレポートでもOKにしてくれるよね!
何か文句言ってきたら『先生も投げ出したじゃん。え~ん』って嘘泣きでもすれば良いし♪
よぉ~し!そうと決まれば急いで買い物行って、先生がカップメンにお湯を入れる前に突撃よ!
このルリカ・ルーデンハイムは狙った獲物を逃がさないんだから!!
◆
『城塞都市物語』の主人公とたまたま同じ姓を持つ少女と、
主人公エリカに一度は心酔し、直ぐに挫折した二流の歴史学者の間に生まれた子供は、
何の因果か、両親と同じように『城塞都市物語』と数奇な縁で結ばれていたのか、
その研究を引き継いでいくことになる。
失われた物語を取り戻すという作業は、
時だけでなく世代すらも重ねて行かなければならない程の難事なのだろうか?