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No.11180の一覧
[0] 城塞都市物語[あ](2009/10/11 14:02)
[1] エックハルト公爵家伝[あ](2009/09/24 22:14)
[2] 子爵令嬢手記[あ](2009/09/24 22:14)
[3] 軍師公爵帰郷追記[あ](2010/07/14 20:32)
[4] 公妃誕生秘話[あ](2009/09/30 21:50)
[5] 隻眼騎士列伝下巻[あ](2009/09/24 22:15)
[6] 名人対局棋譜百選[あ](2009/09/30 21:51)
[7] 弓翁隠遁記[あ](2009/09/26 12:36)
[8] 従者奉公録[あ](2009/10/03 15:50)
[9] 小村地獄絵図[あ](2009/11/01 20:33)
[10] 迷走研究秘話[あ](2009/11/01 20:28)
[11] 王公戦役[あ](2009/11/01 22:05)
[12] 城塞会議録[あ](2012/01/09 20:51)
[13] ナルダ戦記[あ](2012/05/01 00:46)
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[11180] エックハルト公爵家伝
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:80292f2b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/24 22:14

【初出勤!】



五芒星の形を模した城塞都市グレストン、
失われつつある古代魔法技術が眠る難攻不落の城塞都市として、
その名は近隣諸国に知れ渡っていた。


そんな壮大で華やかな街にやってきた15歳の少女エリカは、
この街に住む20万人の人々の中に埋没するちっぽけな存在に過ぎなかった。


そんな、ちっぽけな少女は仮の本拠とした宿屋の一室の姿見の前で、
勤め先から支給されたかわいいデザインの侍女用作業服を身に付けて
テンションをMAXギリギリまで上げていた。



◆◆



なにこの服!これが作業服とかありえないんですけど!!
しかも、夏冬二着ずつ無料支給ってホント太っ腹だよね~♪


やっぱ、お貴族様の中のお貴族でもある公爵家ともなると違うわね。
ナサハの木っ端役人達とはそもそものスケールが違う。


そんな超名門家の一員にただの平民の私がなっちゃうなんて、
もうっ!これで興奮するなっていうのが無理ってもんよ!



それに、もしかしたら、あくまでも仮定のお話だけど、
『貴族だらけだよエックハルト公爵邸』っでビックリ玉の輿の出会いなんてことも!

上手く行けば男爵夫人や子爵夫人、もしかしたら、エリカ伯爵夫人とかに
なちゃったりしてチクショーぉおお!!もう、このこのこぉ~!!!




『エリカさ~ん、枕は殴るものじゃないからね?それに、今何時かは分ってるよね♪
 もし、まだ騒ぎ足りなくて眠れないようだったら、私がゆっくり眠らせてあげるけど?』

「ごっ、ごめんなさい!調子に乗りすぎました。直ぐ寝ます!今寝ます!」



『うん、分ってくれたならいいのよ。明日からお勤めなんだから
ちゃ~んと寝て、しっかり休める時に休んで置かないと駄目よ』

「はい。あの・・・、心配してくれてありがとう御座います
 サリアさん、私、明日からがんばってお仕事してきます」


『そう、でも無理だけはしないでね?あと、エリカさん
その服似合っていて凄く可愛いわよ。明日が楽しみね』

「はい♪」








興奮して眠れないエリカに対するサリアの厳しくも優しい気遣いは、
彼女の気持ちをとても暖かくする。

両親を無くして以後、都会に飛び出すという大きな目標のために辛い日があっても、
歯を食いしばって耐えてきた彼女にとって、優しい姉のように接してくれるサリアは
あって二日足らずにも関わらず、素直に甘えることが出来る大切な存在になっていた。


それに対するサリアの方も、少々危なっかしい所もあるが元気一杯なエリカのことを、
ちょっとだけ手の掛かる妹のように思いはじめていた。


どうやら、エリカの初めての宿選びは大成功だったようである。




◆◆




「あぁっ~!!どうしてサリアさんもグレアムさんも起こしてくれないのよ~!!」

『もう、なんども大きな声で私は呼んだわよ!』
『まぁまぁ、今は遅刻しない事が肝心だろ?ほら、パンと弁当に水筒だ!
 走りながら朝飯は食っていきな。ここでのんびり食ってる時間は無いだろ?』


「ありがとグレアムさん!じゃ、サリアさん行ってきま~す!!」


『はいはい、いってらっしゃい気をつけるのよ』
『おう、行って来い!最初からヘマばっかりすんなよ!』



サリアとまだ20台で『おじさん』じゃないと主張するグレアムに
慌しい挨拶をし終えると、エリカは全速力でエックハルト公爵邸に向かって駆ける。

結局、昨夜は興奮して殆ど眠れなかったエリカはお約束の寝坊を盛大にかまし、
パンを口に咥えながら、時間に対して真剣勝負を挑む破目に陥ってしまったのだ。



『おう!嬢ちゃん朝から元気がいいねぇ』

「おひゃひょうごょうざいみゃすぅ~!」



そんな微笑ましい光景を見た街の人々はエリカに声を掛け、
エリカも喉にパンを詰まらせそうになりながら、
手を振ってふひゃふひゃとした挨拶を返す。

ほのぼのとした気持ちのいい朝の光景であった。
そんな光景が生まれる城塞都市グレストンはとても治安がいい街だった。




◆◆



「ギリギリセーフぅ~!!」



エックハルト公爵邸に門を蹴破るような勢いで飛び込み
定刻ギリギリになんとか間に合ったエリカは喜びの声をあげたのだが、

そんな『やった~♪』的な表情を肩で荒い息をしながら見せたエリカに浴びせられる
シェスタ・バクラムの視線は絶対零度の温度を持っていた。



『エリカさん、確かに遅刻はしなかった事は評価致しましょう
 ですが、エックハルト家に仕えようとする者が、事もあろうに
 まるで賊のように、門を蹴破って飛び込んで来るのは頂けません』

「すみません・・・」



『それに、遅刻はしなかったとは言え、あまりにもギリギリ過ぎます
 何も夜明け前には来いとは言いませんが、もう少し、余裕を持って
 屋敷に着けるようにしなさい。髪を振り乱し、肩で息をするような
 醜態を許すほどエックハルト公爵家の規律は緩くも甘くもありません』

「はい、本当にすみませんでした」



厳しく注意するシェスタにエリカはシュンとなって素直に謝罪の言葉を口にする。
彼女自身も自分の不注意で遅刻し、自分に期待してくれたシェスタを裏切った事に
大きな負目を感じていた。


そんな『もう、私はクビなんだー!!』って位に沈んでいるエリカの様子に
シェスタは溜息を吐くと、彼女に最初の仕事としてお使いに行くよう指示を出したのだが、

その瞬間『やっぴークビじゃないやー♪』って位に嬉しそうな顔をして
元気良く分りましたと返事をする少女の姿に不安を感じ、再び溜息を吐く。


エックハルト公爵家で『奥向きの事はシェスタに』と言われるほど優秀な彼女も、
年相応と言えば相応なエリカの子供っぽい反応に採用した事を少しだけ後悔し始めていた。


もっとも、一度や二度の些細な失望で人を切り捨てるような狭量さとは彼女は無縁であり、
シェスタはエリカに感じた『何か』を確かめる為、暫く様子を見ることに決めた。


そんな目で見つめられている当の本人は全く気付くことなく、
初めてのお仕事だ!自分の力を見せるぞ!と能天気にウキウキワクワクしていた。






【モノの価値、ヒトの価値】



エリカに最初に与えられた仕事は20万レルで10個の『コチの実』を買ってくるという
非常に簡単そうなお使いであった。

ちなみに、『コチの実』は磨り潰してお湯に煎じると、ほのかに甘い味と香りを出す実で、
貴族の子女が好んで口にするそこそこ高級な嗜好品であった。

エックハルト公爵家でもそれは良く消費されており、週に一度市場まで『コチの実』を
20万レルで10個ほど買い求めに行くのが新米侍女の仕事とされており、
それは、シェスタが新米侍女だった頃から変わらない一種の慣習となっていた。




◆◆



シェスタさん、凄く怒ってるよなぁ・・・、多分無理を通して私みたいな平民を
採用したのにいきなりその期待を裏切るようなことしちゃったし、
ほんと、申し訳ないことをしてしまった。

でも、クビにならなくてホント良かったわ!あれで失望されたまま終わったら情けなくて
涙が出ちゃうところだったわ。

とにかく、どうやったって失点は消えないんだから、
新たに得点をとって汚名を・・えっと、返上しないとダメよね♪

クヨクヨして悪循環に陥ったってイイコトなんか無いんだから、
まずはこのお使いをちゃんと完璧にこなしてポイントをしっかり稼ご~と♪


それに、昼までに帰ってくれば良いってシェスタさん言ってたから、
結構長い時間サン・クレファン市場で油売れそうだから、
善い物があればなんか買って来ようかな?






早々と失敗から立ち直ったエリカは買い物籠を片手に意気揚々と公爵邸を後にし、
目的の品が並ぶサン・クレファン市場を目指して歩く。

彼女がこの城塞都市で初めて手に入れることになる『手柄』をその小さな手で掴む為に・・・



『いやー、この前のサラマンダーのお嬢ちゃんはエックハルト家の侍女様だったとは
 なに、私もあの場を所用でたまたま通り掛かりましてね。久しぶりにいい物を
見せて頂きましたよ。今日は『コチの実』を20万レルで10個、宜しいですよね?』


「全然宜しくないわ!『コチの実』の相場を私が知らないとでも思ってるの?
最高級品でも一個5000レルが関の山の商品に2万レルも出す訳無いでしょ?
あんた脳味噌が間抜けなんじゃなないの?私が払うのは5万レルが上限よ
それ以上はビタ一文だって払わないし、品質を見て悪そうならもっと低く買うわ!」



『いやいや、勇ましいお嬢さんだ。ですが、この品はエックハルト公爵家専用に
 苗木から選別して、熟練のコチの実栽培専業農家が丹精込めて育てた最高級の品
 そこらの店の物と一緒くたにされては困りますよ。それに何年間もこの値段に
 ご納得頂き、これまでの侍女様方は購入して頂いております。お分り頂けますかな?』



小五月蝿い小娘だと言いたそうな顔で、適正価格では無いと主張するエリカを諭す店主に
エリカはぶち切れる寸前であった。

数年前のシェスタの時代とは違って『コチの実』の栽培方法が多くの農家に広く伝播し、
栽培に手間が掛かる事だけが、その単価を吊り上げる要因になったというのに
数年間変わらぬ値段であると言う店主の言葉から、ボッタくられていると悟ったのだ。


これまでの貴族様や騎士階級の世間知らずなお嬢様侍女は、
言われたままの事を機械的にこなすだけで、他店で相場を調べることなどしないから、
公爵家に取って些事ではあったかもしれないが、嗜好品の一つで盛大に鴨にされていた。


そして、この先人達の無能さが、後発のエリカを大いに助けることになるのだ。



「ふーん、面白い事を言うのねぇ。さっき、その『高級品の木箱』を馬車から
投げ捨てるように降ろしていたのを見たんだけど、それにその馬車は向かいの店にも
同じように『コチの実』が入った木箱を投げ捨てていたわ。大した高級品よね?
まぁ、私も新人で良く分からない点も多いし、今回は買わずに戻ってこの事実を
公爵様とシェスタ様にご報告させて頂きます。もしかしたら、専業農家に巡察官を
お送りになるかもしれないわね。ほんと、その時が楽しみ。誰かの首が落ちたりして?」


舌をだして可愛らしい笑顔で恐ろしい事実を述べる侍女を見て、
店主はもう小娘と侮る気力も勇気も無かった。
あとは如何にして彼女との間に妥協点を見つけるかに彼と彼の店の命運が掛かっていた。

城塞都市で二番目に権勢を誇るエックハルト公爵家に舐めたマネをしていた事が
バレようものならば、恐ろしい報いを受ける事は確実である。


エリカが『サラマンダーの小娘』であると知っていながら侮ったのが、
店主の一番の敗因であった。
彼女は貴族の世間知らずな小娘ではなく、農業に本格的に携わっていた
田舎の世間知らずな小娘だったのだから・・・




『賢くも美しく可憐な侍女様。どうかお許し下さい。これも一重に昨今の
 利益追求主義が蔓延る社会の趨勢が一つの要因でありまして、決して
 公爵家様を虚仮にするような大それた気持ちはありません。どうかお慈悲を』
 

「そうねぇ、私も『善良な商人』が失われるのは心苦しいと思うわね」
『それでは!お許しいただけますね!!』


「えぇ、私は他の侍女とは一味も違う賢くも美しく可憐なる侍女ですから
 もっとも、少しばかり私のお願いを聞いて頂けることが条件ですけど・・・」



エリカの提案にただただ首を縦に振る店主に出された条件は非常に温情深く、
双方にとって大きな利益がある物だった。

内容としては、『コチの実』以外に購入しているボッタクリ値段の商品を
適正な値段に一定期間を置いて変えていくこと、
そして、値段改定のタイミングはエリカの指示によって決めるという物であった。


一気に事を進めて一度でコストダウンの手柄を終わらせるのではなく、
段階を踏む事によって手柄を細分化して小出しにしていけば、時間は多少掛かるが
お買物に関して、第一人者としての地位が築けるのではとエリカは見込む。


また、御用商人の方もぼっていた致命的な事実を正されるのではなく、
正当な値段改定に応じたという形を取れれば信用を失うどころか、
逆に融通の利く善良な商人として更なるビジネスチャンスを得られるかもしれない。

これまで世間知らずなエックハルト家の侍女たちは鴨にしていたのは他の商店も同じ、
それが通じなくなったというならば、逸早く対応を変えて他に先んじる方が賢い。



損得勘定に聡い店主はカネに厳しい侍女の提案を嬉々として受け容れ、
エリカは商人に対する大きな貸しと、『持続性のある』手柄を手に入れる。



エリカはシェスタの忠誠心の高さとその高潔さを心より尊敬し、
自分に目を掛けてくれた事に対する恩を強く感じていたが、
エックハルト公爵家には今のところ大して義理を感じていなかった。


そのため、彼女はエックハルト公爵家の利益より、
自身の継続的な『お買物』の手柄の確保に重きを置いた行動をとる。

その行動の結果、エックハルト公爵家の物品調達に関して
有為な人材として認識され、やがて、大きな権限を持つ可能性があったのだが、



当然、彼女はそんな可能性に気付くことも無く、差し当たって得られるだろう、
お使いを5分の4の出費で終えた『小さな手柄』に対するシェスタの称賛を期待して、
スキップ交じりの軽やかな足取りで、公爵邸への帰路につく。





【平民はつらいよ!】


昼前にエックハルト公爵邸にちゃんと戻ったエリカはお使いの結果をシェスタに報告する。
彼女から報告を聞いたシェスタは購入単価を下げた成果に対して軽く称賛の言葉を与え、
エリカを端から見ても分るほど大いに喜ばすと、その姿に苦笑を浮かべながら
昼休憩を取るように言って、食堂の場所を教えた。


これに対して、エリカは褒められた事に対する喜びを噛み殺しながら、
『一緒に昼食を取りましょう!』とシェスタを執拗に誘うが
所用のあるシェスタに素気無く断れションボリとすることになるが
空いている日は一緒に取っても構わないと言われて直ぐに復活する。



◆◆


『何あれ~?もしかして前来た平民じゃない?』
『うそ、平民が公爵家の侍女に採用されるなんてあり?』

『もしかして、公爵家に入り込む為に体でも使ってたりしてぇ?』
『ヤダァー、エミリアったらヤラシィ~♪そういう話題好き過ぎだよー』



多くの貴族や騎士階級の子女からなる侍女集団の華やかなランチの場に現われた
平民のエリカは珍獣扱いで極一部は淫獣扱いをする始末であった。


当然、そんなエリカと昼食を共にしようとする勇者はそこには居ないため
彼女は一人寂しくサリアが好意で作ってくれたお弁当を食べるようとした。



『なにあの弁当?貧乏臭いんですけどぉー♪』
『ねぇねぇ?なんか本当に臭くない?生ゴミでも食べてるんじゃない?』

『有りえる。平民って底辺でギリギリ生活してるゴキブリみたいなモノだし』

『それより、なんかあの子自体が臭くない?』
『ラミア、それウケルけど言い過ぎだって、平民だって川で身体くらい洗うわよ』



面接の時にエリカを蔑んだ二人を筆頭にその他の侍女たちはヒソヒソと、
エリカに充分聞こえる声量で汚ならしい影口に華を咲かせる。

そんな彼女達の低レベルな仕打ちにコメカミをピクつかせながら、
エリカは黙々と弁当をパクついていた。
流石に、エリカも初日早々暴力沙汰を起こしてクビになってしまうのは避けたかった。
そう考えて『無視よ!ムシムシ!』と心の中で念仏のように唱えながら耐える。


だが、そんな彼女をあざ笑うように運命の神は叛逆の狼煙をあげる。




『なにこれぇ~?残飯なんかテーブルに置かないでよ』


意地悪そうな顔をした侍女のミリアが、暴言と共にサリアお手製の弁当を
テーブルから払い落としたのだ。その上『服が生ゴミ臭くなったわ。捨てようかしら』と
とんでもない発言を重ね、取巻きの笑いを更に煽った瞬間、床に崩れ落ちた。


顎に一発だった。それだけでミリアの軽い頭は大いに揺れて崩れ落ちた。
その余りにも信じられない一瞬の出来事は、侍女専用の食堂をパニックに陥れる。

その瞬間を目撃した侍女は言葉を失い震えながら硬直し、
良く見えなかった位置の侍女たちはキャーキャーと甲高い不快な音を立てながら叫ぶ。
そんな収集の付かぬ狂騒は永遠と続くかに思えたが、直ぐに終わりを迎えることになる。



「やかましいぞっ!!クソアマ!!ギャーギャー騒ぐと殺すぞっ!!」



ぶち切れて立ち上がったエリカの一喝と4、5人は殺してそうな目付きで睨まれた
甘ちゃんのお嬢様方は一瞬で震え上がり黙りこくった。

ナサハの村で近所の悪ガキとつるんで、気に入らない奴を容赦なく肥溜めに落としていた
『肥溜めクイーン』の異名をかつて持っていた悪戯っ子なエリカにとって、
温室育ちの彼女達を黙らすことなど造作もなかった。


倒れて動かなくなったミリアを優雅に足で押しのけながら、再び席についたエリカは
床に落ちなかったパンを『パンおいしねん』と言いながら抜け抜けと食し、
怯える侍女達に自分が悪魔の化身であるかのような印象を与えていた。


そして、この恐怖に満ちた昼食の一時はエリカが『貧血になった』かわいそうなミリアの
両足を持って引き摺りながら、医務室へと運んでいくまで続いた。









こうして、少しばかり波乱のあった昼食を終えたエリカは
ミリアが目を覚ますまで優しく介抱してやり、必要なだけ友好を淑女的に深めると、
腰を痛めたジュゼッペ爺さんの代わりに巻き割りをしてあげたり、
廊下の雑巾がけに食器洗いをといった侍女らしい仕事をこなしてお勤め一日目を終える。


朝からドタバタした事もあって、田舎育ちで体力に自信のあるエリカも定時間際になると
さすがに疲れを感じていたが、シェスタから労いの言葉と共に初給金を受取ると
現金なもので疲れなど一瞬にして吹き飛ばしていた。


6000レルとミリアから詫びと友好の印として借りた高そうな懐中時計を握り締めながら、
宿屋へと帰るエリカの足取りは来るとき以上に軽かった。



エックハルト公爵家でのお勤めは、エリカにとって楽しいものになりそうであった。








つい、最近になって発見されたこの『エックハルト公爵家伝』は本物で
城塞都市物語の一部ではないかとも言われているが、これは恐らく創作上のものであろう

この伝には繊細で大人しく心優しい筈の主人公を野蛮で粗野な人物として記しており、
彼女と敵対する悪辣な勢力が悪意と逆恨みを持って記したとしか思えないからである。

聖女のような心やさしき少女とナサハの村で崇められる主人公の事を
『肥溜めクイーン』と書くなど、嘘を書くにしても酷すぎであり、
この伝は間違いなく『城塞都市物語』の偽物であると断言することが出来る。


私はこのような悪質な歴史の歪曲に怒りを覚えずにはいられない。
きっと『城塞都市物語』が殆ど破棄されて伝わっていないのは、
不当に主人公を貶めようとした悪しき敵対勢力の手による工作に違いないからである。


私は今回発見された『エックハルト公爵家伝』などと称される紛い物を見て
その確信を強めると共に、たった一つ真実を明らかにする為
失われた『城塞都市物語』の調査を精力的に行いたいと強く思う。





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