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No.11180の一覧
[0] 城塞都市物語[あ](2009/10/11 14:02)
[1] エックハルト公爵家伝[あ](2009/09/24 22:14)
[2] 子爵令嬢手記[あ](2009/09/24 22:14)
[3] 軍師公爵帰郷追記[あ](2010/07/14 20:32)
[4] 公妃誕生秘話[あ](2009/09/30 21:50)
[5] 隻眼騎士列伝下巻[あ](2009/09/24 22:15)
[6] 名人対局棋譜百選[あ](2009/09/30 21:51)
[7] 弓翁隠遁記[あ](2009/09/26 12:36)
[8] 従者奉公録[あ](2009/10/03 15:50)
[9] 小村地獄絵図[あ](2009/11/01 20:33)
[10] 迷走研究秘話[あ](2009/11/01 20:28)
[11] 王公戦役[あ](2009/11/01 22:05)
[12] 城塞会議録[あ](2012/01/09 20:51)
[13] ナルダ戦記[あ](2012/05/01 00:46)
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[11180] 城塞都市物語
Name: あ◆2cc3b8c7 ID:80292f2b 次を表示する
Date: 2009/10/11 14:02
【旅立ちの日】


何の変哲も無い国境付近に位置する辺境の村ナサハ
その村の人口は500人を超えたことはなく、そこに住む人々の大半は
農業を営むことによって生計を立て、慎ましくも細々と生きていた。


有体に言えば、みな地味で鄙びた生活を送っていたのだ。




そのため、村に住む若者達は変化無く、この緩慢に死にゆく日々に耐えられなくなり、
刺激的な日々を都会での生活に求めて、この村を後にすることも少なくはなかった。

もっとも、その殆どは10年も経たぬ内に夢破れ、錦を飾ることもなく、
故郷に逃げ返るように戻り、村を出る前と同じ生活を営むことが多かったが。



だが、そのような多くの挫折と失敗談は、遥先の幻想を追い求める若者達の
耳には入らず、その目には映りはしない。
彼等に聞こえるのは輝かしい成功談、
彼等に見えるのは栄光を掴む己の未来の姿だけなのだから・・・



そんな、少なくない夢見る若者達を見つめながら育った少女エリカは、
幅広い世界を夢見るちょっとだけ行動力に溢れた女の子に育っていた。




◆◆





赤子から老人まで顔見知り以外が存在しないナサハの村に生まれて早15年、
両親二人が流行り病でポックリ逝って早一年、ようやく準備は整った!!



今思えば両親が死んでから朝から晩まで、つらく長い激動の一年だったけど
私は乗り切ったわ!この目の前にある100万レル以上入った袋が私の努力の結晶!
ようやく貯めに貯めた資金で、この田舎を飛び出す時が来たのよ!



思えば、悲しむ暇も無く慌しい葬儀をヒイヒイ良いながら乗り切った次の日から、
うんざりする位の数の縁談話が舞い込んでくるわ。

維持がとてもじゃないけど一人では無理なんで、処分した遺産の畑や家畜は
足元見られて二束三文の投売り、叩き売りで直ぐに食い潰しちゃうし。

もう少し高く売れれば、他の家の農作業の手伝いする位で、夜も酒場でバイトしたり、
単純作業過ぎて死にたくなるよう内職に追われることもなく、
悠々と村を出る資金を貯められたっていうのに・・・



まぁ、いいわ。済んだことをグチグチ考えるのはこれ位にして寝て置かないと
明日の出発に差し支えることになっちゃう。今は過去より未来の事を考えるべきね!











決意を新たにして、床に付いた少女はしばらくするとかわいらしい寝息を立て始める
旅立ちの前夜で興奮していたにも関らず、あっさりと寝付いた彼女は中々図太いようだ。


もっとも、その図太さがあるからこそ、年端もいかぬ少女でありながら、
成人男性であっても賊の襲撃や猛獣に襲われる可能性が無いとはいえない旅路を
女の一人身で敢行しようという些か無茶な行動に出たのだろう。

彼女はそんな持ち前の図太さと楽観的思考で都会での大成功を夢見て、
若者らしい浅はかな挑戦を行うことを決意したのだ。



無論、そんな無鉄砲な彼女にも良い所は一応ある。


向き不向きが当然ありはしたが、彼女はどんな賃仕事を引受けても持ち前の図太さで、
つらい顔を仕事中に見せることなく、明るく元気いっぱいで仕事に取組むことが出来た。

そのため、村の爺様、婆様には良く働く元気でいい娘っこだと評判はすこぶる良く
『ウチの嫁さこい』『孫の嫁にならんか』と縁談の話に未だ事欠くことが無いほどである。


また、高齢者達から受ける評判ほど高くは無いが、良く働く元気な彼女は
他の世代の村人全般からも比較的良い評価を得ていた。
少々、金にシビアな所があるのと、昔の悪戯娘だった頃の数々の悪行が
若干マイナス補正気味に掛かってその評判の足を引っ張っていたが。




そんな図太くも村人から愛される少女が、一人都会を目指すと知った周りの人々は
危ないバカなことはやめなさいと彼女を心配して必死に説得しようとした。だが、




「行かずに後悔するより、行って後悔したほうがいいよね?」

「行くなよ!ぜったい行くなよ!は行けの前フリ!」




・・・と、頑なに新天地への夢を諦めなかったため、村人達は渋々説得を断念していた。
他人であっても、他人毎で済ませられない村特有の暖かさと煩わしさが良く現れた
村人達の善意の行動は、彼女に翻意させるほどの力を残念ながら持ってはいなかった。




◆◆



こうして、彼女は当初の予定を違えることなく、
生まれ育ったナサハの村を旅立つことになったのだが、

その旅立ちの朝は早かった。エリカは後ろ髪を引かれぬようにするため
見送りの人々の数を出来るだけ少なくしようと考え、敢えて出発を早朝に定めていた。


だが、ほとんどが農作業に従事している村ではその効果は非常に薄く、
多くの友人知人たちがエリカの門出を祝い見送るため、
彼女が出発するために村の出口についた時には、既にその場所に集まっていた。



「ひっそりと出てくつもりだったのにぃ~、もう、行く前から悲しくなっちゃうじゃん!」



文句を言いつつもなぜか溢れ出る涙をエリカは止めることが出来ず、
嬉しい様な寂しいような、色々と入り交ざった感情で胸を一杯にしていた。

自分の事を思って見送りに来てくれた村の人々の姿を見て、
今まで、退屈だと思っていた変化の無い日常がどれほど大事だったのか、
エリカは旅立ちを前にして、それをようやく実感してしまったのだ。


目の前には自分と同じくらいに顔をくしゃくしゃにした親友のリア・・・、
彼女は両親があっけない最後を迎えてしまった時、その事実を中々受け止められずに
ただ呆然としていた自分を力一杯抱きしめて慰めてくれた
エリカにとって一番大切な女友達でもあり、親友の彼女はエリカとの別れを
心の底から惜しんでくれていた。


小さい頃から一緒に遊び回って悪戯も一緒にした洟垂れ小僧だったレイド・・・、
今は見違えるほどイケメンに進化しており、悪友ではなく未来のパートナー候補として
唾でも盛大に付けとけば良かったかな?とエリカは偶に思ったりしたことがあるのだが、
これは彼には絶対に内緒である。
そんな、少しだけ痒くなるよう思い出を自分にくれた一番の男友達もリアと同等か、
それ以上に悪友であるエリカとの別れを惜しんでいた。


エリカはそんな二人を見るめながら、決してリアの野郎うまくやりやがってなどとは
欠片も思わず。近い内に結ばれるだろう二人がその日を迎えたら、
二人の大親友として、心の割と深い所あたりから祝福しようと誓っていた。

もっとも、レイドの初恋の相手がリアでは無く、自分であったことを知ったら、
かなり浅い所からの祝福に変わったかもしれないが・・・



そんな二人の大切な親友と、小さい頃から世話になった大人達と別れを済ましたエリカは、
農耕馬にしては立派な体つきをしているヒンベェに颯爽と跨り、
元も近い大都会の城塞都市グレストンへと盛大に後ろ髪を引かれながら旅立つ。






【孤独な旅路に・・・】



「はぁ~、ここから馬に揺られて8日間、野宿しながら大都会を目指すって・・・
 ほんと今更ながら思うけど、うちの村ってとんでもない辺鄙な場所ってことよね?
 隣国のロネール王国に続く街道上になかったら、余所者が全く来ない村になってるわ」



永延とつづく草原にゲンナリしながら、エリカは田舎すぎる故郷に文句をブー垂れていた。
彼女の村ナサハはフリード公国の端、南の大国ロネール王国の国境沿いにあり、
両国を繋ぐ街道沿いに位置していた。


本来なら交易の要所としてもう少し賑わっていても不思議では無いのだが、
ここ二、三十年、幸いな事に両国は交戦状態に陥る事は無かったが、
その間に微妙な緊張が常に走らせていたのが、村の発展を阻害する要因になっていた。

交易にはべらぼうに高い関税や厳しい通行許可書取得審査等の制限が掛かり、
両国の交流は少なく国境近くの辺鄙な村としての地位を強制させていたのだ。



また、そういった両国の外交上の問題もあって、両国を結ぶ街道の人通りは
当然少なかったが、それは、狙える獲物がすくないことも意味しており、
人通りが少ないにも関らず、夜盗がほとんど存在しないという利点も生み出す。
もっとも、これはエリカの孤独な時間が非常に長いものになることも意味していたが・・・




~4日目~


「ほんと、大草原に満天の星空に淡い光で旅人を照らす三日月か・・・
 きっと、私の偉業を讃える伝記の始まりにはこの美しい夜空の光景が、
 輝きに満ちた私の未来を暗示していたようだって記されるに違いないわ」




~5日目~


「まったく、いくら人通りが少ないっても、一人ぐらいすれ違ってもいいんじゃない?
 どんだけ使われてない街道なのよ!道って言うのは必要だから作るモノじゃないの?
 なに、これは私に対するあてつけ?エリカが通ってるから、この道止めようぜとか?」



~6日目~


「もう、嫌!胸躍るような旅の縁所か、人っ子一人見えないじゃない!
 ヒンベェもそう思うでしょ?やっぱり、旅ってのは見ず知らずの他人と交流とか
するのが醍醐味よね。何、貴方もそう思うの?ヒンベェって馬とは思えないほど
 よく分かってるじゃない。やっぱり、主人の出来が違うと変わってくるモノなのね」



~7日目~


「野宿に外での用足しにもすっかり馴れて逞しくなったのはいいんだけど
 なんか、女の子として大事なモノを失った気がするわ。え、なに?
 ちゃんと女の子で、すっごくかわいい?もう、ヒンベェ恥ずかしいから止めてよ!
 あっ、でも今は私達二人だけだからいいかな?ねぇ、ヒンベェずっと一緒だよ・・・」





~8日目~


ナサハの村を旅立ち8日が過ぎると遂に孤独な旅路は終わり、
目的地である城塞都市グレストンに一対の人馬は到達した。

彼女らの目の前には20メートルにっ達しようかとする厚く堅固な城壁がそそり立ち、
視線をその根元に移せば、そこにある鋼鉄の門は戦時には万の犠牲を持っても
抜けぬと思えるほどの威容を誇りながら固く閉ざされていた。
残念ながら夜明けの開門時間までは、もう暫く待つ必要がありそうであった。


もっとも、月夜に照らされる城塞都市の壮大な姿を見て大興奮したエリカにとって、
少しばかりの待ち時間など大した問題には為りそうもなかった。



「ひゃ~、聞いてはいたけど実物を見るとやっぱ違うなぁ。こんな凄いなんて・・・
 やっぱ、苦労してここまで来て良かったって確信した。一生、村から出ずにいたら
 こんな想像も出来ないような凄いモノ見れないで、人生終わちゃってたんだから」



『ほぉー』やら『へぇー』と城門の前で感嘆の声を漏らしつづけながら、
門の周辺をうろうろしたり、お上りさん丸出しの奇行を行う少女であったが、
夜明け前ということもあって、城門の周囲に人は殆どいなかった為、
幸いな事に奇異な目でジロジロと見られるようなことは無く、
早々に不審者として門兵や衛兵に通報されて尋問を受けることも無かった。





【悲しい別れ】



『おいおい、お嬢ちゃん。バカを言って貰っちゃ困るぜ』
「ふん、お上りさんだからって足元見ないで欲しいわね!」



馬上のまま入城しようとして、門兵に平民は場内で下馬しなければならないと
注意されたエリカが最初に向かったのは、城塞都市グレストンでもっとも賑やかな場所
街の西側に位置するサン・クレファン市場であった。


この市場では大小100を超える商店や露天が立ち並び、扱われる商品は食料品から
生活用品に武器や医薬品、骨董品等の嗜好品に他国からの珍しい舶来品、
それに奴隷や家畜などだけでなく、愛玩動物なども数多く売られており、
城塞都市グレストンの生活水準かなり高いレベルにあることを示していた。


そんな喧騒激しい市で、エリカは大柄で強面の商人を相手に大声を張り上げて
自分の目的を果たすため、買い物客達の注目を大いに浴びていた。



『嬢ちゃん、おめぇーさんの少しでも高く売りたいって気持ちは痛いほど分かる
 だが、モノには限度ってもんがあらぁ。こっちは相場以上の45万レル出すって
 言ってるんだ。無駄にゴネるのは止めて大人しく従って置くのが賢いってもんよ!』

「へぇ、相場以上?そっちがそう言うならこっちも言わせて貰うけど、内のヒンベェは
 そんじょそこらの農耕馬と思って貰っちゃ困るわ!この逞しい肉付きに、賢そうな目
 駆ければその速さはサラマンダーより早いんだから!60万レル以上の価値は確実よ』


『ほんとー?このおウマさんサラマンダーより早いの?』
「ええ、勿論よ♪サラマンダーより早いーってみんな言うわ!」

『サラマンダーよりはやーい♪』『サラマンダーよりはやーい♪』




『あぁぁっ!もう止めてくれ!勘弁してくれ、70万レルで買ってやるから
 餓鬼ともどもどっかに消えてくれ、こっちの頭がおかしくなっちまうぜ!』





エリカは見物客の連れた小さな子を上手く使って、子供の甲高い声が苦手な馬屋の親父に
ずっと一緒だと誓った筈のヒンベェを高い値段で売りつける事に成功する。


その見事な売りっぷりは、周りの見物客から拍手喝采を浴びる程のモノであったが、
何故か遠い目をしている男や、微妙な表情で力なく項垂れる男が後を絶たなかった。
彼等にとって何か胸糞が悪い記憶でも呼び起こされたのだろうか?





【泊まりに行こう♪】


愛馬を結構な大金で容赦なく売り払ったエリカは次に跨る相手を探す・・のではなく、
野宿続きで疲れた体を癒すため、安くて居心地の良さそうな宿屋を探していた。


城塞都市グレストンは大都市だけあって、訪れる人々の数も多ければ宿屋の数も多く、
その値段も質もピンからキリまであった。一泊素泊まり1500レルポッキリの安宿もあれば
30万レルを超える超高級ホテルのスイートかと思うほどの値段を要求する宿もあった。

そんな中で、エリカが選んだ宿は平均より安めの一泊4500レルの宿屋だった。
値段が安い割に、夕食と朝食が付いたのが決め手になった



『へぇ~、お嬢ちゃんはナサハから飛び出して一人この街へやってきたのかい?
 そりゃ、大したもんだ。向かいの根暗野郎にも見習わせたい位の肝っ玉だねぇ』

「も~、おじさんったら、肝っ玉がでかいなんて女の子には褒め言葉になりませんから♪」

『そうですよアナタ♪こんなかわいい子にそんな事を言うなんて、駄目ですよ!
 それにお向かいさんの悪口をまた言って、ご近所さんとは仲良くして下さいね』


『すまんすまん♪ついつい、お嬢ちゃんのハキハキと気風の良い姿を見てたら
 向かいの根暗で根性の曲がりきった糞野郎に対する怒りが沸々と湧いて来てな』



「お向かいさんとそんなにな仲悪いんですか?って、あのゴメンなさい
 そんなこと興味本位で聞くことじゃないですよね。すみません忘れて下さい」

『いやいや、気にすんな。俺が勝手にくちゃべってるのに付き合ってくれたんだ
 謝ることないさ。逆にこっちが礼を言いたい位だしな。ほんと気にしないでくれ』

『そうですよ。エリカさんは何にも悪くないですからね?それに主人とお向かいさんは
 ホントはと~っても仲がいいんですよ♪ついこの前も宿代の売上勝負だとか言って・・・』

『サリア!その話は止めてくれって言ってるだろ~。そうだ!もうそろそろ風呂が
沸いてる頃だな。うん、お嬢ちゃんも疲れてるだろうから早く風呂入って寝たいだろ!』


「あっ、えっと、ちょっとぉ~!!」  『あらあら慌てちゃってかわいい人ね♪』





今日の唯一の客であるエリカと宿屋の若夫婦は楽しい夕食の一時を過ごしていた。
宿屋夫婦にとっては大切な客ではあるのだが、人のいい夫婦は珍しい少女の一人客を
純粋に心配して、色々とエリカに話を聞いている内に
彼女の事を気に入ってしまったようである。



対するエリカの方も孤独な旅路で人恋しくなっていたということもあるが
自然と親切な二人に好感を持つようになっていた。
そして、この町での住居が見つかるまではこの宿屋を仮の本拠として滞在する事を決める。


もっとも、この居心地の良すぎる仮の本拠に、彼女は仮とは思えないほど
長く滞在することになるのだが、それに彼女が気付くのはもう暫く先のことだった。




【ワロハに行こう!】



『いってらっしゃい。お夕飯までには帰ってきてね』 『気をつけていくんだぞぉー!』




親切な宿屋夫婦に見送られた少女は生活の糧を得るための仕事を探すため、
職業紹介機関『ワロハ』を一先ず目的地と定めて目指す。

ちなみに『ワロハ』はあらゆる『ギルド』からの要件を満たした求人を受付、
求職者達に職業を紹介する公益機関である。


驚くべき事にこの機関はフリード公国だけでなく、大半の国家の大都市に存在している。
そうなった理由として挙げられるのは、『働かない奴は消毒だ!』という
格言からも分かるように、古来より無職の人間を汚物扱いしていたこの世界の慣習が
職業紹介機関を大いに発展させる助けとなっていた。
この慣習に動かされた多くの国家は汚物を生み出さないために、
沢山の求人を集め、効率的に求職者に配分する方法を追い求めた。


そして、その結果生まれたのが『ワロハ』という職業紹介機関である・




『グレストンワロハにようこそ。本日はどのようなご用件ですか?』



綺麗な受付嬢に声を掛けられたエリカは仕事を求めてやって来たことを告げると、
受付嬢に2階の窓口へ行くように案内され、彼女は二階の求職者専用窓口で希望の職業を、
年配の相談員の軽いセクハラ攻撃を捌きながら、一生懸命探すことになる。





う~ん、さすがに住み込みの仕事はあんまりないなぁ・・。
あるのは『俺の昂ぶる想いを受け止められる20歳以下の女の子、日給2万レル~』とか、
頭に蛆が湧いてるんじゃないかって思うようなものばっかりだし、正直、碌なのがない。



上手い話なんてそうそうある訳ないんだから、仕方ないか。住込みは諦めて、
比較的まともそうで、それなりのお給金が貰える所にしよう。
もうそろそろ、この執拗に手を触ってくるエロジジイの相手も限界だし・・・


『公爵家で下働きできる男女募集、女性にはかわいい作業服を夏冬二着ずつ無料支給
 勤務時間は午前9時~午後16時半、昼食に限り賄い有りで日給6000レル以上!!』



うん、日給は低いけどこれにしよう。怪しくないしっかりした所だし、
それに作業服支給と昼食賄い有りは大きい!それに日給が低いと言っても、
今の宿代よりは1500レル高い。安い住居が中々見つからない可能性も当然あるから。

一先ず、この街に滞在できる最低限の糧を得る方が先決だと思う。
まぁ、最悪どうしても合わなくて嫌になったら別の仕事を探せばいいからね。



『フヒヒ・・・、お嬢さん、どれになさるかお決まりですかな?』

「はい!ここに決めました。直ぐにでも面接に行きたいので紹介状をお願いします」



相談員にコメカミをピクつかせながら元気良く返事を返したエリカは生活の糧を得るため、エックハルト公爵家の下働きとして就職しようと生まれて初めての面接試験に挑む!

もっとも、彼女は『ワロハ』で求人情報を選んだだけで、採用が決まった訳でもないのに
なぜか、その自分が選んだ職に採用が決まった気になってしまっていたが・・・




【面接を受けよう!】



エリカが訪れたエックハルト公爵邸は城塞都市内でも一等地の高級住宅街に、
百人くらいの平民が死に物狂いで一生馬車馬のように働いて得た生涯賃金でも
買えなさそうな大豪邸であった。


実の所、これほどの権勢を誇るエックハルト家は城塞都市グレストン副総督を
何人も輩出してきた名家であり、グレストンでは総督家に次ぐ、
押しも押されぬような権門であった。また、その歴史も古くフリード公国成立時まで
遡ることができ、国内で知らぬ者は無く、国外においても国際情勢に聡い者であれば、
名前位は知っていて当然という高い知名度を誇っている。



そんな超が付くほどのスンゴイ名家に一人やってきたエリカは、
ついこの前まで、ど田舎で農作業や子守に酒場での給仕をしていた芋娘。
ただ、ただ屋敷の威容に圧倒され、採用は決まったものという甘い考えを
二秒で吹き飛ばされていた。完全に自分なんかが受かる訳がないと諦めた。


諦めたのだが、彼女は踵を返すことなく、採用面接を受けるため大きすぎる門をくぐる。
たとえ駄目そうでも、奇跡が起こるかも?という生来の楽観思考と、
採用が無理っぽいからドタキャンするのは、人としてやってはいけない事だという考えが
しっかりと頭の中にあったので、彼女に面接を受けないという選択肢はなかったのだ。


引きつった笑みを張り付かせながら、エリカは面接試験に挑む!





『ナサハ家のエリカ様ですね。どうぞお掛け下さい』
「あの、ナサハは出身地です。平民なので苗字はありません。それに
私なんかに様付けなんてとんでもないです!呼び捨てで構いません」

『えー平民~?ショボイー、キャハハ』
『キャハハ、平民が許されるのは男爵家までだよね~』



騎士階級や下級貴族の者達は大貴族の家に娘を奉公に出して
貴族社会の礼儀作法を学ばせることは頻繁にあり、
中には、あわよくば御手付きにでもなれば、正室は無理でも側室に迎えて貰えるのではと
考える者も少なく、伯爵以上の家格の家にもなると、
平民の奉公人は男性以外ではほぼ皆無なのが実情であった。

そう考えると、そんな所をエリカに紹介した『ワロハ』の職員は実は鬼であった。
いつの時代も、親切そうな顔をして嫌な事をする奴は居るのである。
セクハラを撥ね退けたエリカに対する嫌らしいい意趣返しだったのだろう。



そういった処々の事情もあって、場違いな仕事を求めた無知な田舎娘は嘲りを受け、
都会の洗礼というより厳しい格差社会の洗礼を受ける事になってしまう。
支配階級と被支配階級の間にある壁は辺鄙な村で育った少女が認識している以上に
厚く高いものなのだ。

そして、その壁を不用心にも乗り越えようなどとすると、
足を引っ張られ、登りかけた所で上から石をぶつけられて突き落とされるなど、
非常に手荒い洗礼を多方面から容赦なく受ける事になるのが、この世界の常識であった。


 

『ミリアとラミアは退出なさい。貴女達は一度、自分の振る舞いを良くお考えなさい
ご不快な思いをさせて本当に申し訳ありません。エリカさん。エックハルト家に代わり
今回、面接官を勤めさせて頂きます。シェスタ・バクラムが心よりお詫びを申し上げます』
 

「いえ、いいですよ!そんなに謝らないで下さい。私なんか全然大した事ない
田舎者ですし、こんな場違いな場所にお邪魔しちゃった私が悪いんですから!」


『いえ、礼は欠いたのは私達です。それを謝すのは当然のことです
 どうか、先程の非礼をお許し下さい。本当に申し訳なく思っております』





面接官を名乗る凛とした女性は非礼を働いた二人に有無も言わせず退出させ、
年少で平民のエリカに深々と頭を下げ、その非礼を謝した。


そして、その予想外に腰の低い対応を受けたエリカはあたふたしながら
それを諾々と受け入れることしかできなかった。


その後、シェスタは何が出来るか、どんな事をしてきたか等、
ごく一般的な面接に有りがちな質問をエリカに丁寧な言葉で問い掛けた。
それに、エリカは緊張で所々詰まる点は有ったものの、ハキハキと答えて面接は
和やかな雰囲気なまま終盤を迎えようとしていた。



『それでは最後にエリカさんの方から何か聞きたいことか、言いたい事があれば
 それをお伺いして、面接を終わりにさせて頂きたいと思います。なにか御座いますか?』


「特にありません。大丈夫です。シェスタさんの貴重なお時間を
私なんかのために割いて頂き、今日は本当にありがとう御座いました」



『そうそう、一つ肝心なことを確認し忘れておりましたわ。エリカさん
 いつからなら当家に来る事が可能ですか?受入の準備をしたいと思いますので』

「はい?」




思いもかけない言葉に呆けたあほ面を晒すエリカに、
笑いを噛み殺しながらシェスタは採用の決定を彼女に告げた。

さすがの田舎娘も最初に受けた辱めで、平民の女が大貴族近くで仕えることなど
常識外れで、ありはしないことだと身を持って実感していた。
そのため、シェスタの口から出た採用決定を匂わす言葉は信じられないどころか、
完全にエリカの予想の範疇から外れており、彼女に見事なあほ面を曝け出させた。



シェスタ慇懃な対応も、エリカが最初に受けた仕打ちを恨んでエックハルト家の悪評を
あることないことを織り交ぜながら市井にばら撒かれないようにするための
忠誠心のあらわれだろうと考えていた彼女は、
シェスタの主家のためなら平民相手に頭を下げる事も厭わない姿勢に、
ただ感心するだけで、自分が採用されるなどとは露ほども思っていなかったのだ。






こうして、彼女は翌日からエックハルト公爵家に仕えることになるのだが、
これは、彼女が城塞都市グレストンで残す大きな軌跡の内のほんの一部に過ぎない


彼女は、この城壁に囲まれた街で更に多くの出会いと別れを繰り返す内に
この地に来た当初では考えられないような様々な経験をしていくことになるのだから・・・


ただ、残念なことに、その後の彼女の物語を知る者はなく、

今では始まりの章しか伝えられていない。
そのため、この『城塞都市物語』は失われた物語と人々に呼ばれるようになる・・・

                                 


                                



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