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No.10257の一覧
[0] 王の名を継ぐ者~マケドニア戦記~[高見 梁川](2010/03/05 19:18)
[1] 第一話 邂逅[高見 梁川](2009/07/12 23:08)
[2] 第二話 軍議[高見 梁川](2009/07/12 23:12)
[3] 第三話 開戦[高見 梁川](2009/07/12 23:14)
[4] 第四話 グラニコス川夜戦その1[高見 梁川](2009/07/12 23:16)
[5] 第五話 グラニコス川夜戦その2[高見 梁川](2009/07/23 00:17)
[6] 第六話 ~回想~[高見 梁川](2009/07/26 22:52)
[7] 第七話 前哨戦その1[高見 梁川](2009/08/03 07:42)
[8] 第八話 前哨戦その2[高見 梁川](2009/08/13 19:46)
[9] 第九話 最強の傭兵その1[高見 梁川](2009/08/23 23:52)
[10] 第十話 最強の傭兵その2[高見 梁川](2009/09/04 23:25)
[11] 第十一話 最強の傭兵その3[高見 梁川](2009/09/09 22:39)
[12] 第十二話 最強の傭兵その4[高見 梁川](2009/09/15 10:52)
[13] 第十三話 闇よりも深い闇[高見 梁川](2009/10/03 23:09)
[14] 第十四話 イッソス前夜[高見 梁川](2009/12/20 20:06)
[15] 第十五話 イッソスの戦いその1[高見 梁川](2009/12/20 20:06)
[16] 第十六話 イッソスの戦いその2[高見 梁川](2010/01/02 23:01)
[17] 第十七話 イッソスの戦いその3[高見 梁川](2010/01/21 23:27)
[18] 第十八話 イッソスの戦いその4[高見 梁川](2010/01/21 23:33)
[19] 第十九話 イッソスの戦いその5[高見 梁川](2010/02/14 23:22)
[20] 第二十話 イッソスの戦いその6[高見 梁川](2010/03/05 18:52)
[21] 第二十一話 イッソスの戦いその7[高見 梁川](2010/03/14 01:25)
[22] 第二十二話 運命の輪その1[高見 梁川](2010/03/14 01:36)
[23] 第二十三話 運命の輪その2[高見 梁川](2010/03/24 08:21)
[25] 第二十四話 運命の輪その3[高見 梁川](2010/04/17 19:47)
[26] 第二十五話 運命の輪その4[高見 梁川](2010/05/17 22:53)
[27] 第二十六話 運命の輪その5[高見 梁川](2010/07/20 00:18)
[28] 第二十七話 運命の輪その6[高見 梁川](2010/09/09 11:59)
[29] 第二十八話 そして運命は踊る[高見 梁川](2010/09/09 11:58)
[30] 第二十九話 そして運命は踊るその2[高見 梁川](2010/11/30 22:59)
[31] 第三十話  そして運命は踊るその3[高見 梁川](2010/12/28 08:13)
[32] 第三十一話 王二人[高見 梁川](2011/01/11 21:31)
[33] 第三十二話 王二人その2[高見 梁川](2011/10/30 22:21)
[34] 第三十三話 ダマスカスの攻防その1[高見 梁川](2011/12/14 23:12)
[35] 第三十四話 ダマスカスの攻防その2[高見 梁川](2012/02/22 23:24)
[36] 第三十五話 ダマスカスの攻防その3[高見 梁川](2012/02/22 23:24)
[37] 第三十六話 ダマスカスの攻防その4[高見 梁川](2012/04/17 23:15)
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[10257] 第三十六話 ダマスカスの攻防その4
Name: 高見 梁川◆f12053f8 ID:27379d7b 前を表示する
Date: 2012/04/17 23:15
「二人とも世話になったな」

アンティゴノスは莞爾と笑ってレオンナトスとエウメネスの二人を迎え入れた。
もともと兵力で圧倒的に劣っていたマケドニア軍は早々に追撃を打ち切っている。
とはいえはるばる派遣された六万のペルシャ軍は四分五裂して軍としての体をなしていない有様であり、軍を再編して再び挑んでくる可能性は皆無に等しいと言えた。

「放っておくには貴方は危険すぎますからね」
「おいおい、もう少し老人は労わるものだぞ、エウメネス」

放っておけば裏切るから、と言外にエウメネスに宣告されたにもかかわらず豪放にアンティゴノスは笑い飛ばした。
むしろ堂々と釘をさしてくるエウメネスに敬意さえ覚える。
そもそもアンティゴノスはエウメネスに不利な工作をたびたび行っているのだ。
普通であれば背後から刺されても不思議ではない。
そんなお互いを警戒し、敵対し、そして利用しあう関係でありながらなお惹きあうものが二人にはあった。
往々にして英雄というものは頼りない味方よりも手ごわい敵に友情に近い感情を抱くことがあるが、あるいは二人の間に行きかう感情もそれに類するものなのかもしれなかった。

「…………そんなことより俺の治療早くして………」
「馬鹿が。似合わぬ英雄を気どるからそういう目に会うのだ」
「全くですね。いい加減分というものをわきまえてくださいよ」
「俺の評価低っっ!!」

まるで漫画のようなたんこぶをつくって頭を抱える俺がいた。
下手をすれば史実以上に無意味な死にかたをする可能性があっただけに笑えない。
マケドニアの武将レオンナトス、落馬してダマスカスの戦いで死す、そして歴史は変わった……ゲームオーバーとかマジ笑えない。
それにしても今回の戦いは予想以上の大勝利となったにもかかわらず歴史に対する影響はなかったようだ。
テュロス攻防の終盤、マケドニアの虚を衝くようなペルシャ軍の大攻勢。
4倍の兵力を揃えながら寡兵のマケドニア軍に散々に討ち破られ失われた兵力の数はおそらくイッソスの戦いに匹敵したであろう。
その影響は正直グラニコス川の夜戦よりも遥かに大きいものに思われたのだが。

(まあおかげで助かったけど………)

アンティゴノスが負けたら歴史が変わると思うあまり柄にもなく積極的に戦いすぎた。
先頭をきって騎馬で突撃とか、あのとき自分はどうかしていたとしか思えない。
その結果が落馬による後頭部痛打。
生き残れただけ見っけモンと言わねばなるまい。

「それにしても今回の戦功、テュロス陥落にも匹敵する大功となろう。武人として羨望を禁じ得ぬな」
「はたしてそううまくいきますかね……?」

エウメネスは寂しそうに苦笑した。
レオンアトスには悪いが陛下は私が功績をあげるのを喜ぶまい。
それに目の前の老人がうかうかとレオンナトスと自分の栄達を許すとも思われなかった。


――――気のいい男である。
嫉妬や憎しみで足を引っ張るようなヘファイスティオンたちとは異なる。
相手の実力を認め、正しく評価し、使いこなすだけの度量がアンティゴノスにはある。
しかしどんなに親しく、あるいは濃い血縁に結ばれていようとも、自身の野望のためには何のためらいもなく切り捨てる冷酷さを彼は併せ持っていた。
ただの友人であればいい男だが、マケドニアの中枢を担う同僚としては危険極まりない男であった。

だがそんなアンティゴノスをエウメネスは憎みきれない。
むしろ彼のように心の赴くままに生きることに憧れ、それができない自分を卑下するような気持ちがエウメネスの内心には根強く巣食っている。
もし自分がどんな犠牲を払っても成し遂げたいことがあるとすれば――――――。
エウメネスの脳裏を屈託のない爽やかな笑顔がよぎった。
まだ何のわだかまりもないころの、華が咲くように甘く美しい笑顔が。
埒もない………。
苦笑したままエウメネスは頭を振った。
そんな夢想が現実になるはずがない――――傲岸不遜に笑う長身のアンティゴノスを眩しそうに見上げてエウメネスは自嘲気味に嗤った。
―――――――現実になるはずがないのだ。





一人の使者がアレクサンドロスの天幕に駆けこんできたのはテュロスの攻防が終局に達しようとしていたときであった。
頼みの援軍は現れず、遂に城壁までマケドニアの建築する突堤の接近を許したテュロスは断末魔に喘ぎ落城寸前の状態にあったのである。
しかし海岸にそそり立った城壁の防御力は侮れず、いまだ最前線ではペルディッカスが攻城塔をめぐってテュロス軍と激しい戦闘を繰り広げていた。

「ダマスカスに向かったレオンナトス様はアンティゴノス様と連携し存分に敵を討ち破られたよし!」
「おおっ!!」

4倍近い敵を相手に完勝したという一報はマケドニア軍の本陣を沸きかえらせた。
思っていた以上に長引くテュロスの攻城に誰もがダマスカスの攻防の結果を気にせずにはいられなかったのだ。
まして派遣されたのがこれといって実績のないレオンナトスと本来文官であるエウメネスなのだからなおさらであった。
かろうじてパルメニオンとプトレマイオスら一部の武将は正しくレオンナトスたちを評価していたが、それでもなお勝率は五割に届くまいと考えていた。

それにしてもあのレオンナトスがいったいどんな手をつかって圧倒的に不利な戦局をひっくり返したのか。
はたまた全てはアンティゴノスの策略なのか?
そんな予想が脳裏を渦巻くなか使者の報告は進んでいく。

「レオンナトス様は騎馬に枯れ木をひかせることで軍の数を多く見せかけることに成功し、敵の動揺を誘いました。しかしなんといっても戦功の第一等は敵の急所にわずか五百の兵で一瞬の躊躇もなく
吶喊しこれを粉砕したエウメネスにあるものかと。まるでカイロネイアの陛下の活躍を見る思いであったと我が主アンティゴノス様よりの報告であります」

「……………なんだと?」

アレクサンドロスの凍るような声に戦勝に沸いていた武将たちは静まりかえった。
深く、深く、底の知れない深淵のように深くアレクサンドロスが激怒していることに気づいたからだ。
ひとときは陥落目前と思われたテュロスだが、高い城壁に拠って今なお抗戦を継続しており、陥落までにはまだしばらくの時間が必要そうである。
そうした意味でレオンナトスやエウメネスはまさにマケドニア軍を救ったに等しい。
それを知るからこそアレクサンドロスもかろうじて理性の鎖で激情を解放することを自制した。

だがこの拭いがたい不快感はなんだ?
まるで顔面に汚泥を塗りたくられたがごときこの憤りは――――――。

アレクサンドロスの心の冷めた部分はレオンナトスたちが成し遂げた功績を正しく評価している。
まして彼を抜擢したのはアレクサンドロスなのだ。
むしろ彼らを褒めたたえ自らの炯眼を誇るのが正しい姿なのだろう。
それでもなお耐えきれぬやるせなさにアレクサンドロスは傍らにあった杯を叩きつけた。

「汚い騙し討ちの次は余の猿真似か―――――!!」

まさにアレクサンドロスの心に琴線を揺らしたのは使者のカイロネイアのアレクサンドロスを見る思いであったという一点にあった。
かつて王太子であった日のこと。
テーバイの最精鋭部隊である神聖隊の威容を前にしたときに昂揚をアレクサンドロスは昨日のことのように覚えていた。



カイロネイアの戦いとは、マケドニアのヘラス支配を決定づけたテーバイ・アテネ連合軍対マケドニア軍の決戦である。
後の世にフリードリヒ大王が参考にしたとまで言われる斜線陣の見本ともいうべき戦争芸術であり、後退によって急激な方向転換のできないヘラスの重装歩兵の突出を誘いアテネとテーバイ軍との間にできた間隙を
まさに神がかり的なタイミングで衝いたのがアレクサンドロスであった。
ある程度以上の数が集まった軍というものは絶えず運動する力が働いており、その運動の支柱となるべき部分を破壊されてしまえば統制を失って分裂する。
その支柱となる急所をアレクサンドロスは勘によって、エウメネスは理性によって看破した。
互いに天才でありながらアレクサンドロスとエウメネスの将としての質は正反対と言えるほどに違う。
ゆえにこそアレクサンドロスはエウメネスという稀代の将を絶対に受け入れることができないのかもしれなかった。

アレクサンドロスの思考を正確にトレースしたであろうヘファイスティオンも憤然として立ちあがった。

「勝てばよいというものではない!所詮異国人にはマケドニアの誇りはわからぬか!」

負けて国が滅亡しては元も子もないではないか、と理性的な将は内心では思ったかもしれないがそれを口に出すような無謀な者はいなかった。
そんなことを口にすれば下手をすればこの場で殺されても文句は言えないだけの常軌を逸した鬼気が天幕に充満していたからである。
唯一アレクサンドロスに諫言することのできるパルメニオンはちょうど前線でペルディッカスの支援に当たっていた。
レオンナトスたちの戦功はこうして黙殺されることが確定した。


この屈辱をいかにして拭うべきであろうか。
屈辱に倍する勝利の栄光によって拭う以外に方法はあるまい。
卒然として立ちあがるとアレクサンドロスはそう決意した。


「――――――今日中にテュロスを陥とす!続けヘファイスティオン!」
「陛下に続け!歴史に名を残す時は今ぞ!」

抜剣して駆けだすアレクサンドロスの後に国王の親衛部隊が続く。
こうなったアレクサンドロスを誰も止められないことをマケドニア軍の武将は経験的に知っていた。
そして国王の狂熱が乗り移ったかのようにマケドニア軍は驀進を開始した。


倒れても倒れても仲間の死体を乗り越えて迫ってくるマケドニア軍の常軌を逸した勢いにテュロス兵は惑乱した。
彼らには死の恐怖というものがないのか?
逃げ場のないテュロス兵は恐怖にかられつつもなんとか戦いを継続していたが、このままでは押し切られるのは時間の問題だった。

「進め!進め!ヘラクレスの加護は我らにこそあるのだ!」

豪奢な鎧を身に纏った小柄な男が大音声を張り上げて天に向かって剣を掲げている。
その男がアレクサンドロスであることは遠目にも明らかであったし、その命こそはテュロスに残された唯一の勝機でもあった。

「殺せ!あの馬鹿を射殺してしまえ!!」

城壁に並べられた弓兵が一斉にアレクサンドロスに向かって弓を引き絞った。
天から雨が降り注ぐかのように数百の矢が滝の奔流のようにアレクサンドロスに向かって降り注ぐ。
にもかかわらず全ての矢はアレクサンドロスにかすり傷ひとつつけることはできなかった。
まるでそうなることを運命づけられていたかのように、豪雨のような矢はすべてアレクサンドロスを逸れてむなしく大地を穿っただけに終わった。

「神の天命を受けた人間は死なぬ――――――!」

人智を超えたかのような常識外の光景に遂にテュロス軍の一角が崩れた。
ペルディッカスの率いる重装歩兵がアレクサンドロスに気をとられていた隙に東壁の兵を突き崩したのだ。
歩兵としての練度に劣るテュロスにとって、一角とはいえ城壁の占拠を許すということは破滅以外の何物でもなかった。

「敵は崩れたぞ!我がマケドニアの勝利だ!」
「勝利!」
「勝利!」

マケドニア軍が勝利に沸きかえるのと反比例するようにテュロス軍は崩壊の坂を真っ逆さまに転がり落ちて行った。
各所で城内へのマケドニア軍の侵入を許すとこれまで善戦していたのが嘘のようにテュロス軍は哀れな獲物に成り下がった。
古来より敗戦のなかでこそもっとも兵の命は失われるのである。
組織だった抵抗と士気を喪失した弱兵が生き延びる術などあるはずがなかった。

「殺せ!殺せ!奴らは神の天意に背いた反逆者だ!」


やはり余は天に選ばれている。
アレクサンドロスは自分に与えられた英雄としての使命を確信しつつあった。
生存率の低い最前線で剣を振るいながらその身にはただひとつの怪我すらない。
そもそもテュロスに祭られた守護神メルカルトは我がマケドニアの祖神ヘラクレスというではないか。
神がどちらを守護するかなど最初からわかりきった話である。


「余が……余だけが神に使命を与えられている―――――誰も余に並ぶことは許さぬ」


狂気のような衝動に駆られてアレクサンドロスは血しぶきを撒き散らし続けた。
積み上げられる勝利と殺戮こそがアレクサンドロスの英雄譚の何より確かな実感であった。

自分より強き者を
自分より賢き者を
自分より人気のある者を
そして自分より愛される者を――――――――
アレクサンドロスは遂に生涯認めることはなかったのである。



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