一方。屋台から少し離れたところで二人、少女達が座っていた。片や、象牙色の見事な髪をもつ少女。片や、陽のように光を放つ、金色の髪をもつ少女。二人は、互いの眼を見ず、夜空に浮かぶ月を見ながら言葉を交わしていた。「………九那実殿、といったか。貴方は、ナルトの元へ行かなくてよいのか? ペインの奴が来ていると思うのだが」「ほう、お主も、気配に気づいていたのか。我とナルト、マダオの奴以外は気づいておらぬと思っていたが」「何、これでも巫女じゃからな――――とはいっても、気づいたのは五感が完全に戻ってからなのじゃが」「見事な隠行じゃったしな………だが、我は行かぬよ。あやつから、サシで話したいから来るなと言われているのでな。それよりも、我に聞きたいこととは何じゃ?」話があるのじゃろう、と九那実が紫苑に訪ねる。「話しがあるというのは、他でもない――――メンマのことについてじゃ」「あやつの?」「そうじゃ。ぶっちゃけて言うが………」これ以上無く、真剣な声色と顔で紫苑は訪ねる。「あやつとは、したのか?」キューちゃんはずっこけた。「いや、ほら、その………何と言うか、ずっと一緒に居たのじゃろう? 12年間の間、つかず離れず。ずっと一緒に………」顔を赤くしながらもじもじする紫苑に対し、キューちゃんが怒鳴り声を上げた。「………な、何もしとらんわ! というか、我が外に出れるようになったのは3年も前の事じゃ!」「ということは、あやつとは何でもないと、そういう事じゃな?」「な、な、何故そうなる!?」「いや、先程シンの奴から聞いたのじゃがな………男と女がひとつ屋根の下、好き合っているならばすることはひとつだけ、とか」「一応聞いておくが、何をするのじゃ?」「いや、その、ナニをするらしい。妾も詳しくは知らんのじゃが………」「あの金髪駄目兄貴小僧は説明をしてくれんかったのか?」したらしたで殺すが、とキューちゃんは犬歯をむき出しにしている。「先の発言後、菊夜とサイにしばかれて、その後便所の裏へと連れていかれた」なぜなのだろう、と紫苑は首をかしげる。先に殺られたか、とキューちゃんは頷いた。「というかお主、全部分かった上で言っとらんか?」「う~ん、恥ずかしながらそういう知識は持っていないのじゃ。菊夜はそういうのは教えてくれなかったし」「………過保護というか何と言うか………それで、我とあやつの事を聞いてどうするのじゃ?」「いや、確認しておきたかっただけじゃ。妾の最大のライバルである貴方の事を」「………ライバル?」「恋敵ともいう。どうもあやつは、妾の事を妹か娘的な眼でしか見ておらぬようじゃが………」自分の頭を触りながら、紫苑は溜息をついた。「分かるのか?」「うむ。というか、皆をそういう眼で見ているのじゃろうな………ただ一人違う眼で見ている貴方と、比べてみて分かった」マダオ殿も同意したし、と紫苑が言う。「………ちなみにあの馬鹿は何と言っておったのじゃ?」星を指差し、紫苑は言った。「周囲に居る女性は数多く―――」そして、煌々と輝いている月を指さした。「だけど彼自身が“女”として見ているのは、ただの一人しかいないと」言葉の意味を理解するに、数十秒。後に、九那実は変な声で紫苑に尋ねた。僅かに、声が上ずっている。「そ、その唯一が………我だと言うのか?」「むしろ貴方以外に居ないと思う」「………うむ、キリハの奴は?」「照れているにしても、いきなり近親を持ってくるのはどうかと思うが………だが、キリハその他、木の葉の面々は違うと思う」「どうしてそう思う?」「何と言うか、メンマと木の葉の忍び達の間には――――薄いが、壁があると思うのじゃ」「………慧眼じゃの。確かに、木の葉の忍と話すとき――――お茶らけてはいるが、あやつは何処か一線を引いている」~~~~一方、屋台前では別の修羅場が繰り広げられていた。問いただした俺の言葉―――聞いたペインの圧力が、常より増して高まっていた。「その目的を話してもいいが………その代わりとして」「………代わりとして?」慎重に言葉を選び、返す。今や正に一触即発。対応を一手誤れば、問答無用の殺し合いに発展しかねない。―――しかし、それも杞憂に済んだ。突き出されたのは剣ではなく――――どんぶり。「おかわりを、貰おうか」「………どんだけ図々しいんだ、アンタ」しばらくおいて、俺は二杯目のラーメンを出す。「火の国の宝麺です」「………それは、俺に対する嫌がらせか?」「どちらとも取って下さい。味は保証しますよ」「………まあ、確かに旨そうだが」僅かに顔をしかめながらも、ペインはおかわりを食べ始める。俺は店長の顔から元の顔に戻る。「………で、いい加減先程の問いには答えてくれるんだろうな?」「まあ、そう急くな――――夜はまだ長いんだからな」ラーメンをすすりながら、ペインはそうのたもうた。………火の実を鼻に突っ込んでやろうか、この野郎。「ってやべえ。それは流石に残酷すぎる」その恐怖を知っているからこそ、分かる事がある。あんなもんねじ込まれたら普通に死ねる。提・厭・浄! の叫び共に最期の時を迎えるだろう。俺としてもこいつとしても嫌すぎる最期だ、それは。だが目の前のペインには分からないらしい。その単語には反応しないまま、話しを続けた。「そうだな………どこから、話すべきか」困っている、といった風。それが演技かどうか、判断はつかないし、最早どうでもいい。俺は答えを急かした。「分からないなら、最初からでいい。お前が何を思って、忍びを滅ぼそうとするのか。何故俺を助けたのかを全部話してくれ」「それは構わないが………何故、それを聞く? 聞かず問答無用で止める、という選択肢もあると思うのだが」「いや、聞かなければ分からないだろうが。アンタが何を考えているのか、一体何を目的ににしているのかが」不可解な部分が多すぎるので、推測もできない。「それに、全部知った上でなら悔いも無く戦えるってもんだ。遠慮なくブチのめすことができる」肩を竦め、問いに返す。「………随分と、大きく出たな」無謀とも取れる俺の言。その言葉と表情に何を感じたのか、ペインは僅かに眼を細めた。「そうだな………あの月の夜の後から、話すか」「ああ………いや、少し待ってくれ。そういえばアンタ、六道仙人の記憶が混じっているんだよな?」「その通りだ」頷き、ペインは説明をしてくれた。あの夜、月に刻まれた術式を見上げた長門は、輪廻眼でその術式を解析したらしい。そして、わずかながらに繋がった。そしてとある術を使って、六道仙人の記憶を得たという。「とある術………?」「ああ。誰もが知っている術だ。最も、今ではそのほとんどが、別の意味で使われているがな」ペインの言葉に俺は疑問符で返す。一体、それは何だというのか。「死者の魂そのもの―――あるいはその欠片を呼び、身に宿す術だ。危険なのも相まって、今ではもう久しく使われていない術だがな」―――死者の魂を呼び寄せる。その単語を聞けば分かった。「降霊………いや、“口寄せ”か」「―――然り。今で言えば、口寄せ・穢土転生がそれに近い性質を持っているか」ペインの、ラーメンをすする音が響き渡る。「………最も、亀裂の入った長門の魂と融合したせいか、俺の魂としての形は、元のそれから随分と変形してしまったのだがな………」余計なオマケもついてきてしまったのも、理由の一つとして数えられるが、とペインは言った。「余計なもの?」「今、現出したものではなく――――かつて六道仙人が封じた十尾だ。癒着した魂に混じり、いくらかは俺の魂の隙間に入り込んだ」ペインは自らの胸を叩き、そう説明をする。「古代の亡霊、古き破壊神ってところか」「或いは月の神とも言えよう………話しが逸れたな」続きを話すぞ、とのペインの言葉に俺は頷きを返した。「あの後、俺はあの場に居た忍びを皆殺しにした。ただの一人を除いてな」「ただの一人………かの雨隠れの半蔵殿か」「ああ。奴は部下を囮にしてその場を去り、里へと逃げ帰った。そして徹底的に防備を固めた。俺が恐ろしかったのだろうな。 ――――だけどそんなものは意味を成さない。俺は真っ向からその要塞とも言える防備を突き破り、半蔵は勿論の事、一族の者全てを皆殺しにした」「同胞と親友の仇………つまるところは復讐か」「そのとおりだ。ペインの中に残った長門の残滓、それが何よりも望んでいたことだからだ。あの時は、復讐の念が他のどれよりも強く、胸の内を占めていた。 俺は女子供問わず徹底的に壊し、蹂躙し、里の忍びをも巻き込んで血に染めた――――そして、長門は壊れた」「壊れた?」「ああ。復讐の念が消えたと同時、長門の念は弱まり、やがてはその魂の色も薄れた―――長門としての自己意識が弱まったせいだった。 ―――あるいは、女子供を殺す己の業をはっきりと自覚したからかもしれないが」「他人事のように言うんだな」「今となっては過ぎ去りしこと―――他人と成り果てた俺にとっては、真実他人事でしかないよ。今の俺は長門としては遠い」いや、人でさえもないかもしれんとペインは真顔で言う。「今の俺は六道仙人の意志と、十尾の持つ使命に動かされている、ただの装置に過ぎない。長門の意志の残滓と、六道仙人の義務感と、十尾の欠片の使命が合わさった、一つのシステムにしか過ぎないのだ」「共通するのは目的だけ。いわば肉の器に集った、集合意識体というわけか………成程、人じゃあないな」「その通りだ。そして俺は、とある目的を達するため、そしてあることを知るために、一人で旅に出た。各地を流れたのだ」「それはまたどうして? そこは着々と忍び滅亡の計画を練るところだろ。お前の言うことが本当だとするならば、お前の人格はほぼ六道仙人を基板としている筈。 無差別な破壊活動に出ていないのが証拠だ」十尾はあくまで欠片だろう、と言うとペインは頷いた。「知識も持っている。そんなお前が、今更何を? 目的とはなんだ?」「そうだな……・まず一つ」ペインは指を一つ立て、言葉を続けた。「忍びは殺す。だが邪魔だからとて“ただ”壊す、という訳にもいかなかったのだ。忍びが抜けた穴を埋める存在が必要だった。 忍びの役割そのものを果たす集団では無くても、全国各地である程度の規模を持ち、また組織力に富んでいる存在を作る必要があった。 その後に起こるであろう混乱を収めるためにはな」「その組織………それが、“網”か。設立に手を貸したのも?」「裏の目的があったからに過ぎない。そこで俺は“残月”―――偽名を名乗り、組織を運営していくに相応しい人材をかき集めていった」これでも昔は、一組織を率いていてのもあるのでな、とペインはその要望を大人びたものに変える。「ということはつまり、先代の“斬月”―――あいつが名乗っていた名の通りだと“ザンゲツ”……あいつが、あんたの名前を借りたのか」「ああ。借りを返すため、とあいつは言っていたが」「借り?」「俺は網の設立時のごく初期に起きた揉め事などの解決、忍びとの交渉、また妨害工作を秘密裏に防ぐなど、裏から手は貸した。だ が表の存在として、組織の裏首領として名乗りをあげるつもりはなかった」後々の展開を考えれば、どちらにも不利益になるからな、とペインは無表情のままラーメンをすする。「破壊するものに連なる糸は少ない方がいい。それこそ、無いことが相応しい」「テロリストだもんな。俺も、言えた口じゃないけど」色々とやばいことをしているのは、俺も同じだった。多少の違いはあれど、大国側からは恨まれるようなこともある。「だが、それではあいつの気が済まなかったらしい。俺に何かを返したかった。だから、それで何も返せないからせめて、と………あいつは俺の名前を首領としての称号にした。こちらは全然気にしていないというのにな」「それは何故?」「若干の問題解決には手を貸した。だが、組織の基礎と方針、運営の方法、そして大事な所での決断を下したのは全てあいつだったからだ。俺はあくまで初期限定に起こる厄介ごとを防ぐだけの、いわば補助器具に過ぎなかったんだよ」「でも、知恵は貸したんだろ?」「教えたにしても、忍者が何を出来るか、など小さな事に過ぎない………設立してしばらく、あそこまで大きくできたのは間違いなくあいつの手腕だ。 チャクラも使っていないというのに、人間というのはここまでやれるのかと正直驚いたぞ」「忍びにしろ誰にしろ、すげえやつはすげえからなあ………で、それが何年前?」「うちは………便宜上“マダラ”と呼ぼうか。奴が九尾の妖魔を操り、木の葉隠れの里を襲せる数年前だ」そこでペインは僅かに表情を暗くする。もうひとつ、指を立てる。「知りたいことがなんなのか、と言ったな。それは………忍びのことだ」「忍者の事を?」術や体系その他は、理解しているはずだろう。そう問うと、ペインは首を横に振った。「知識はあった。だが、直接触れ合ってはいない。今の俺となった現在の魂で、雨隠れの腐れ忍者とは直に話しあっても、大国の忍びとは接していなかった」「だから、網の裏で忍者………各国の隠れ里を探ったのか。忍び達の“今”を知るために」「そうだ」「それで、何か分かったのか? 例えば、大戦の原因は忍びだけに在らず、といったこととか」「………そのとおりだ」第一次忍界大戦。その発端は、今でも不明とされている。だが第二次忍界大戦の発端に関しては、壮年の忍びであれば誰もが知っていた。。第一次大戦の戦後処理の果てに発生した、経済格差。貧富の差が著しくなったが故に起きた、戦争“貧乏だが、力はある。そして力があるならば、富んでいる国があるのならば、奪えばいい”それは果たして、大名など国の上層部の意志であったのか。果ては、武力派と忍者達の提案で起きた事であったのか。「そのどちらか、今となってははっきりしないが、忍びだけが原因で無いのは分かった………しかし、第三次忍界大戦は別だ」第二次大戦で疲弊し、少なくなった人。荒れ果てた田畑。壊れ使い物にならなくなった道。そのどれもが、忍びの手によるもの。戦場を選ばない忍びが原因であった。「過去、まだ種類が少なかった忍術は戦争という養分を吸いながら発展し、強くなった。そして、その術の威力や凄惨さもまた………」ペインが少し、遠くを見た。俺は、綱手の弟の事を思い出していた。見るに耐えない程になるまで、人を壊す術というものがあるらしい。螺旋丸も使いようによっては、それが可能となるだろう。「五つの隠れ里が設立され、そして互いに競い負けぬようにと必要の無い術を開発した。愚かさと残虐さを切磋琢磨し、挙句の果てには関係の無い人達まで巻き込む。 結果が、長門であり弥彦であり、小南だ。そして無数の物言わぬ死体達だ――――怨念だよ、うずまきナルト」無表情の透明であった顔を憎悪の黒に染め、ペインは話す。「第三次大戦の初期、侵攻のため千名の忍者を投入した岩隠れ………その裏で起きた事を知っているか? 今でも衰えていない雲隠れの国………秘術を探索する忍びが、裏で何をやっているか知っているか? 血霧の里と呼ばれた霧隠れの里も加え、泥沼の小競り合いが起きた事を知っているか? 砂隠れお得意の人形細工。あれが開発されるまでに、何があったのかを知っているか? 木の葉はいわずもがなだ。三代目火影は実に頑張ったが、大蛇丸を野に放ち、ダンゾウを暗躍させたままにした罪は重い。 あいつらが裏でどんなことをしているか、お前は知っているか? ―――俺は知っている。各地に残った怨念達が教えてくれた。 言葉にするにもバカバカしい、マダラが引き起こした十尾覚醒という出来事の果てに、知ることとなった」「………成程? 十尾は全てを取り込むと聞いたな」「そうだ。十尾はその巨大な身体の中に人を取り込み、負の思念さえ取り込み、その中に蓄える。取り込んだ者に幻術を見せ、そのの時間と止めたままにするのだ。 「輪廻を廻す、その力とするために?」「その通りだ。全てを終わらした後、始まるために」「………なんだか何処かで聞いた剣の能力と似ているな」「ああ、イタチの持つ十拳剣のことか? ―――あれも、十尾の能力を解析して出来た結果だろうな。俺が居た時代にはもう存在していたが、まだあるのか」十拳剣とは、別名「酒刈太刀(サケガリノタチ)」とも言われる、実体のない霊剣のことだ。突き刺した者を酔夢の幻術世界に飛ばし、封じ込める能力を持っているという。いわば剣そのものが封印術を帯びた、切り札とも成り得る武器で、草薙の剣の一振りでもあるらしい。「………あるいは、他者のチャクラを飲み込み自らの力とする擬似尾獣、“零尾”とやらと同じ存在かもしれんな。巨大な力に対向するため、同質の力を解析し用いるのは別におかしい話ではない」「“十拳”の剣だしなあ」「言い得て妙だな」そう言った後、ペインは手元の水を飲んだ。「まあ、そのイタチの尽力により、大国は今何が起こっているのか、その果てにどうなってしまうのか………遅すぎるが、それを理解したようだな。今や世界の滅亡は秒読みだというのに」「………それを隠したのは、他ならぬお前だろうが」「それもあるが………根幹となる伝承を忘れ、今に矜じた忍びは、何をすべきなのか、そしてどうすべきだったのかを知ろうともしなかった。 それも確かだ。あるいは、自分たちに裁きが下るなど思っても見なかったのだろうな………力による好き勝手がいつまでも通ると思ったのか」馬鹿が、と。ペインは嘲笑を浮かべ、吐き捨てた。いや、これは六道仙人としての言葉だろう。俺は何となくそう思った。そして並べ立てられた事実を認識する。裏で何が起こっているのか、俺は理解していた。人が10人いれば、その色も十様だ。善なる人だけが生きていると考えるような甘ちゃんでもない。人の道に外れ、外道に落ち、畜生に成り果てた人間に似たなにか。そういうのも、この旅路の途中で、幾人か見たことがある。――――しかし。そうだけれど、決してそれだけでは無い。「だけど………戦争を防ごうとしている者もいる。平和を愛し、外道を憎む忍びも居る」筆頭が三代目火影。木の葉の中にも数多く居る他国にも居るだろう。「そして今、軍事力は縮小されている。戦争によって――――死によって学び、それを繰り返さないために努力している」それも事実だろう、と俺はペインに告げる。間違えない人はいない。人は万能じゃない。人は神足り得ないのだから。「しかし、だからといって、その言葉だけで全ての間違いが許される訳じゃない。それは、理解しているか?」「ああ、理解しているよ。だが、全てを滅ぼすという選択もまた、正しいことじゃない」間違ったから、正す。それは正しい。だが贖罪という概念も無しに断罪を下し、存在を無くす。いわば始めから全てを無かったことにするというのは、違う。それはまるで神の所業だ。人の身でそれを成すというならば、これ以上の傲慢があるだろうか。そして神様だとして、それがなんだというのだ。例え偉かろうと、無闇矢鱈に命を弄ぶことなど、それが許される訳だない「それに………そもそも、忍術が広めたのは六道仙人だろうが。忍術を興したお前の中にいる英雄も、今の世界の現状となったその一因を担っているはずだが」「そうだな………それも、また事実だ。しかし、反対の事実もある。それ以外の、避けえぬ事態もまた」「それは………」二つの相反する事実と言われ、俺は言葉に詰まる。それもまた、確たるものだからだ。どうすれば良いのかなど、それは俺にも分からない。だけど殺してはい終わり、などということも認められない。(………ん?)気づけば、迷い考え込んでいる俺の前にいるペインの、その様子が変化する。憎しみの黒を、再び透明なそれに戻している。やがてペインはその顔をこちらに向けた。そして、俺の眼を真っ直ぐに見る。そこには、真摯な色が灯っていた。ゆっくりと口を開く。「そう―――だからこそ、お前をここまで導いたのだよ」声が、森に響き渡った。―――――・あとがき難産過ぎました………。後半に続く。続きは明日、明後日くらい?