「はあ、はあ、大丈夫、キリハちゃん」「うん、ヒナタちゃんも………」キリハとヒナタは肩で息をしながらも、目の前の相手――――角都を睨みつけた。「強い………」「弱気になっちゃ駄目よ………気持ちは分かるんだけど」人形を倒し、かけつけたサクラとチョウジも一緒になって戦っていた。こちらは4人で、相手は一人。だがキリハ達は、角都に対して一度も致命となるダメージを与えられないでいた。遠距離を保ちながら忍術を防ぎ、躱し、機を伺い続けている4人。迂闊に近接すれば、あの黒い触手にとらわれてしまうし、中距離では術をまともに受けてしまう。忍術と触手による攻撃を何とか避けながら、術と術の間に訪れる間隙をついて一気に接近して、攻撃を仕掛けるという作戦。――――だが、その尽くが捌かれ、流されてしまう。間合いの取り方と体術の練度、その両方とも相手の方が一枚も二枚も上なためだ。「どうした………来ないのであれば、こちらから行くぞ?」「くっ………」歴戦の忍び相手に、木の葉のルーキー達は苦戦をしいられていた。一方、飛段と対峙するシカマル達はまったくの逆。こちらは、シカマル達の勝利で決着がつこうとしていた。シカマルの影が、飛段を捉えたのだ。「捉えたぜ………シノ!」「了解した」シノは頷き、油女一族が秘術である蟲玉を使う。身動きの取れない飛段に、大量の寄壊蟲が殺到する。「うげっ、キモイぜ!」「………」迫り来る蟲に対し悪態をつきながら、飛段はその場を逃れようとする。だが、飛段の影はシカマルに捉えられている。影が縛られているせいで、飛段の身体はピクリとも動かない。「動こうとしても無駄だぜ」シカマルは飛段の動きを全力で止めながら、にやりと笑う。「詰みだな………なぜならばその寄壊蟲、お前のチャクラを全て喰らうまで離れないからだ」シノは無表情を保ったまま、勝利を確信する。「………どうやら勝ったみたいだね、兄さん」「ま、しんどかったけどな………なんとかなったみたいだ」シンとサイも安堵の溜息をつく。その時、シン達の耳に爆音が届く――――キリハ達の居る方向だった。「………向こうは苦戦しているみたいね。私とキバはキリハ達の援護に行くわよ」言いながら、いのは立ち上がり装備の確認をする。「分かった。行くぜ、赤丸」「ワン」時間が無駄になる、といのが提案し、キバ、赤丸が頷く。共にキリハ達の援護に行こうというのだ。―――――だが。「………ちょっと待ってくれ」シカマルがキバ達を止めた。(何故あがくのをやめた………? ここから打てる手はないし、見たところチャクラも残り少ない………絶体絶命の筈だ。なのに何故、おとなしくしている?)影縛りに抵抗せず、大人しくチャクラを吸われているだけの飛段。聞いていた人格、言動を鑑みるに、抵抗をしないというのはおかしい。(――――何かある。そういうことか? いや、まさか………)有り得ない。そう考えつつも、シカマルは内心で訝しむことをやめない。(援軍が遅れてるな………もしかして伏兵と出くわしたのか。いや、だがこれでこちらが勝てるはず)もう逆転の芽は無いはずだ。「あーあ。仕方ねえなあ………おい、影使ってるお前」蟲玉に包まれている飛段が、シカマルに問いかける。先程から嫌な予感が止まらないシカマルは、だからこそ飛段の声に「何だ」と答えざるを得なかった。「さっきの質問だが、答えを追加してやる………何で俺は、わざわざ角都から離れたと思う?」「さあな………仲が悪いから、とかじゃねーのか?」軽口で返しながらも、シカマルはその眼光を緩めたりしない。その理由とやら、次第によっては――――不味いことになる。動きも封じた、チャクラも残り少ないはず。なのに、嫌な予感は消えてくれないのだ。ようすがおかしい飛段の言動を察した、他の面子――――シノ、サイ、シン、いの、キバも不可解な面持ちとなった。そしてもう一人、いや一匹。赤丸は唸り声を上げながら、飛段を睨み続けていた。「赤丸………?」「ヴワゥ………!」気づけば、赤丸は総毛立っていた。そして一歩、また一歩―――飛段から遠ざかろうと、後ろへ退いていく。赤丸は敵のチャクラを臭いで嗅ぎ分けることができる。それによって、大体だが相手の強さが分かるのだ。だけど赤丸も忍犬だ。相手が強いからと言って、主人であり相棒であるキバを置いて逃げたりはしない。だがこの時に限っては、必死で逃げ出したいという衝動を我慢しているように見えた。尋常ではない。横目で赤丸の様子を見たシカマルは、ようやく確信する。まだ何かある、と。「へっ、確かに仲が良いとも言えねーがよ――――不正解だ。何、答えは簡単だぜ?」嘲わらう飛段。直後、気配が膨れ上がる。「―――巻き込まないためだよ」そう答えた飛段の言葉と共に――――チャクラを喰らっていたはずの、シノの蟲が爆ぜた。空気を入れすぎた風船のように、乾いた破砕音と共に周囲へ飛び散ったのだ。「馬鹿な………!?」喰らえるチャクラの量にはまだまだ余裕があった。有り得ない事態に、シノが驚愕の声を上げる。「ぐあっ!? っ何だこの、馬鹿力は………!」影で縛っているシカマルも、苦悶の声を出す。身体が全然動かないのだ。「影縛りが、効かない………?!」鍛えに鍛えた影縛り、この距離であれば例え上忍であっても止めきれる自信はある。だが飛段は、いとも容易くシカマルの捕縛を破った。(馬鹿力とか、そういう問題じゃねえぞ………!?)木の葉一の体術使い、純粋な筋力でも一番である上忍、マイト・ガイを相手にしたとしても、影で縛ればある程度は止められる。だが、今の飛段はまた別格。人間の筋力の限界を超えている。一体何が起きているのか、シカマルは理解できなかった。(外見の変化といえば………なんだ、あれは!?)「………黒い、塊が………指輪のところから溢れでて……!?」「おいおい、マジかよ!」サイとシンが飛段を見ながら、驚きの声を上げる。「赤丸………おいっ、赤丸!」力いっぱい、首を横に振っている赤丸。今にも逃げ出したい、“アレ”と戦いたくないという意思表示を見せる相棒を、キバが何とか落ち着かせようとする。「クククク………ヒャッハアアアアアアァァァァ!」自分の頭を抱えながら、飛段は狂ったように笑い声を上げる。「いい気分だ、最高だぜぇ! ああ、この感じ………ったまらねえ………!」馴染む、馴染むぜえ、と歓喜の声に打ち震えながら、飛段は自らの身体を抱え込み、震える。汝、隣人を殺戮せよ――――ジャシン教の教え、それに最も適しているであろう、存在。「まさか………十尾の力か!?」シカマルが叫ぶ。「十尾………? おい、シカマル、十尾ってなん……!」キバが訪ねようとするが、更に膨れ上がるチャクラを感じ、言葉を中断する。「くっふふふう、ペインもよお………いいもんくれたあああぁぁっ!」何故シカマルが十尾のことを知っているのか―――そんなことに頓着せず、飛段はただ己の身にあふれる万能感に身を任せていた。霧隠れの忍びを尽く惨殺した力。自分の身体に馴染む黒の本流は、彼にとって心地よいものだったからだ。「もう手加減はできねえぜぇ!? ………する気はねえけどよぉ!」狂ったように叫びながら、飛段は地面に落ちていた鎌を拾い上げ――――先程とは違い、まるで小枝の如く。軽々と振られるそれを見て、木の葉一同は戦慄する。突きつけられた鎌が、まるで死神のそれに見えたのだ。「ま、あれだ」その眼は黒く、狂気の極みともいえるほどに歪んでいた。そして飛段は、快活に笑いながら――――宣告をした。「てめーら全部ぐちゃぐちゃにするけど………文句はないよな?」「何、このチャクラ………!?」角都と戦っているヒナタが立ち止まり、驚きの声を上げる。「ちっ、馬鹿が………全部無茶苦茶にする気か、あいつは」同じく、角都も立ち止まり、飛段がいる方向を睨みつけながら、忌々しげに言う。角都は、あちらで何があったのかが分かっているようだ。キリハは無駄だとしりつつも、角都に異様なチャクラの正体が何なのかを聞いてみた。「いったい、何をしたの?」「答える義理はない………その必要も、無い。それよりも、己の身を心配したらどうだ」「言ってくれるわね………ならばこれでどう!」言うと、キリハは腰元の忍具袋から煙玉を取り出し、投げる。「目くらましか………だが、甘い」角都が印を組む。肩の仮面が口を開き、そこから風の塊が噴出される。風遁・圧害。高密度に圧縮された竜巻の塊を打ち出し、対象の前で解放。周囲にあるもの全てをなぎ倒す、Bランクに該当する上忍クラスの忍術だ。風が解放され、周囲の煙諸共、キリハ達は吹き飛ばされた。だが一人だけ、暴風に耐え切り、その場に踏みとどまった者がいた。(―――回天…………今だ!)回天で風を凌ぎ切ったヒナタ。わずかに残る白い煙に紛れながら、角都へと接近する。キリハとは逆の位置にいたヒナタ。つまり、角都からは背後となる位置だ。一気に踏み込み、柔拳体術奥義――――必殺となる一撃を繰り出す。(柔歩双獅拳………えっ!?)間合いまであと一歩のところで、角都がこちらを振り返った。「………甘いといったぞ」位置取りと、キリハの行動の意図するもの。囮と本命までの流れを、角都は全て読んでいたのだ。わざと隙を見せ誘い、懐に引き込んだ後―――一歩だけ下がる。(間合いが、一歩届かない…‥!)柔拳を叩き込むまでの距離が、一歩分離れる。ヒナタからは届かない。あと一歩踏み込まなければ届かない――――だが、角都は届く。距離を詰めるべく一歩、ヒナタが踏み込むと同時、角都は前方に腕を突き出す。そして、そのまま腕が振られ――――“千切れた腕”が射出された。地怨虞を利用した拳の一撃が、ヒナタを襲う。「ぐっ!?」土遁・土矛の硬度に、地怨虞の力。ヒナタはその一撃を腹部受け、肋が数本折れる音が聞こえたと同時、後方へと吹き飛ばされた。間合いを詰める一歩、それを踏み込んだせいで、今の一撃がカウンターとなってしまったのだ。そのまま後方の樹へとぶつかり、背中を強く打ち付けたヒナタは、衝撃のあまり呼吸困難に陥る。咳き込むヒナタ。その口から、血が僅かに零れ出た。「まずは一人――――死ね」角都はそこに、追撃を仕掛けた。仮面から放たれるは、風遁。先程の圧害と同じく、圧縮された風の塊を放つ術だ。対象を吹き飛ばすことに重点を置いている圧害とは違い、こちらは対象を切り刻むことを目的としている。「風遁・裂苦連露!」頭部を傷つけては不味いと考えた角都は、その風刃の乱舞をヒナタの首から下へ向けて放った。「ヒナタちゃ…!」「ヒナタ!」キリハとサクラ、角都の一撃からヒナタを助けようとするも、距離が離れすぎていた。手を伸ばしても、届かない。風の刃は止められず、ヒナタの身体を八つに裂かんと襲い来る。――――鮮血が、舞った。「チョウジ、君?」「間一髪…………くっ!」すんでのところで間に入ったチョウジ。倍加の術とチャクラによる強化で、風遁の一撃を止めたのだ。だがその代償は高く、死には至らないまでも戦闘を続けられない程の傷を受けていた。「弱った仲間など放っておけばいいものを………何にせよ、これで二人だな」仲間を助けるために身を呈した、チョウジの行動。だが角都はそれに何の感慨も抱かず、非効率なと蔑むだけであった。「あんたっ………きゃあっ!?」「サクラちゃん!」憤慨しようとしたサクラだが、放たれた火遁術に言葉を遮られた。火遁・頭刻苦。風の性質を与えられた火球が、平原に落ちると同時に拡散。キリハとサクラの方向に向け、広がっていく。「くっ、ならばこれでどう!?」サクラは体内で練った最大級のチャクラを、拳に収束。極めて精細なチャクラコントロールがあって初めて成せる医療忍術の応用―――師匠譲りの怪力の一撃をもって、自らの拳を地面へと叩きつける。接触と同時に衝撃が地面へと伝播し――――地面が割れた。桜花衝という名前のとおり、桜の花びらのように地面が爆ぜ散る。「大した怪力だ………!」角都は後方へ飛び退きながら、サクラの怪力について賞賛する。その裏では、チョウジとヒナタがサクラの一撃にまぎれて、後方へと避難していた。二人ともこれ以上続けられる状態ではなく、もし人質にでも取られれば不味い状況に陥るため、一端退いたのだ。「これ以上は――――やらせないよ!」角都が着地すると同時、キリハが瞬身で距離を詰める。両の手から繰り出される飛燕の斬撃が、角都の全身を僅かに切り刻んだ。「間合いが甘い――――それではこの心臓は取れんぞ!」角都は再び一歩間合いを開けながら、キリハに向けて己の拳を突き出す。(さっきと同じ――――ならば!)ヒナタに繰り出した一撃と同じだろう。そう判断したキリハは、飛んできた手を切り落とそうとクナイを強く握る。腕を落とせば術が使えなくなるかもしれない。そう考えたのだ。だが、角都の方も甘くない。「甘いと言っている!」「下!?」見せた拳は囮。角都は突き上げた拳を放たずに、胸元から触手の一撃を繰り出した。(わざと、見せた、拳は、フェイクかっ!)キリハは心の中で毒づきながら、不意打ちの攻撃を右に左に身体を捌いて、身を躱す。(短時間に二度、同じ戦術を使う愚は侵さないってことね………!)それどころか先の一撃を印象付けた上で“見せ”に使い、本命を別に用意していたのだ。(何もかも相手が一枚上…………っ、この声は!?)悲鳴が聞こえ、キリハはその声がした方向を向いてしまう。あっちは飛段と戦っているシカマル達―――異様なチャクラがある方向。(いのちゃんの声………って、しまっ」「―――隙ありだ、小娘!」触手を避けきったキリハ―――必然的に、距離が開くこととなる。そこは致命的な距離。こちらからは攻撃が届かず、相手からは届く間合い。遠距離ではないため躱しきることもできない。術を防げるヒナタもいない。キリハは風遁術で対抗することも考えたが、今ので気を逸らしてしまったため、間に合わないと判断した。(ま……ずっ!)気づけば、角都の手に印が組まれていた。結びの印は雷遁。同時、仮面が開き――――「雷遁・飛狗惨武!」―――術名を告げると同時、角都の肩の仮面から、雷の砲弾が放たれた。キリハは雷に勝る性質である風の壁で防ごうとする。だが、間に合わない。「風遁・風陣へ………きゃあっ!」中途半端な風は僅かに雷へと干渉し、その軌道を少しだけ変えることに成功する。そのため、直撃は避けられたが、完全に回避はできなかった。キリハ雷の砲弾、その余波を全身に受けながら、後方へと吹き飛ばされる。吹き飛ぶ途中、忍具袋から煙玉が複数飛び出し、地面へと散らばり、爆散した。(こ…………れは、まずった、かな)吹き飛ばされた先で、キリハは受身を取ることもできず、そのまま転がる。勢いのまま転がり続け、やがて一定の距離で止まる。キリハは地面にうつ伏せになりながら、今の一撃で受けたダメージを分析する。(――――何とか動かせるのは、右手だけ、か………)両足と左手は痺れていて、うまく動かせない――――本格的にまずい。何とかしなければとキリハ必死に動かそうとするが、雷による身体の傷は深く、身体はぴくりとしか動かなかった。「キリハっ!」煙に紛れ、サクラはキリハの元に駆けつける。「っ、一端退くわよ!」「………」声が出ないキリハは、全身から煙を発しながらも、何とか頷く。二人は煙に紛れ、場所を移動しながら、安全な場所を確保しようとする。身体の動かないキリハの、応急治療を始めようというのだ。「………完治は無理だけど………!」治療が始まり、キリハの顔が僅かだが、やすらいぎの色を見せる。(………あ、右足、動く。左足、動く、けど………動きが鈍い)時間をかけて治療を受ければ、あるいはすぐ動くようになるのだろう。深刻なダメージではないが、死に至るほどでもない。回復すれば、また戦えるはずだ――――だが、それは、できなかった。「くうっ!?」「サクラちゃん!?」治療を続けるサクラに向けて、煙の向こうから拳が飛んできたのだ。角都の拳。サクラは治療に気をとられていたせいで、その拳に無防備なまま腹を打たれ、そのまま吹き飛ばされた。「―――甘い、治療などはさせんぞ」「くっ………」「ふん、詰みだな。しかし………中々にしぶとかったな」「それ、は、どうも」「それに、ここまでチャクラを使わされたのは久しぶりだぞ………その心臓、使う価値がある」落ちたキリハに向け、角都は意味ありげに、低い声で告げる。「な、にを………?」苦悶の表情を浮かべながら、キリハはその角都の方を見た。見れば――――角都は、口の端だけで笑みを浮かべていた。「なにをっ!?」サクラに向けて放たれた拳が、キリハの喉元を掴む。そしてそのまま引っ張ろうとする。引き寄せ、心臓を取り出そうというのだ。「くっ………」絞められる首。だがキリハは踏ん張り、打開策を探そうとする。このまま引き寄せられれば、死ぬ。それを防ぐためには、どうすればいいのか。いくらかは治ったが、まだしびれが残っている。(どうすれば、どうすれば、どうしよう………!)焦るキリハ。助けはこない。むしろ、こちらから助けにいかなければならない程だ。見れば、向こうからはシャボン玉が見えた。ということは、ウタカタが戦っているということだ。(何か、打開策は…………!?)何とかしなければならないのに、何も浮かばない。このまま耐え続けても、ジリ貧だ。角都がその気になれば、すぐに自分は殺されてしまう。どうすればいいのか。だが、考え続けても答えはでない。――――そんな時、声が聞こえた。声は然りと、キリハに問うた。『―――忍歌・忍機』何処かで聞いたような声に、キリハは驚く。(これは…………もしかして…………!)それは、何時かの暗号。3年も前、中忍試験の際に交わした言葉。角都には聞こえていないようなので、キリハはそれを一瞬、幻聴だと思った。だが、己の勘は告げている。これは幻聴ではないと。(どちらにせよ、賭けるしかない………!)キリハは耐えるのをやめ、身体から力を抜いて、角都のされるがままに引き寄せられた。「ふん、諦めたのか………?」嘲る角都を無視し、キリハは暗号の内容を思い出す。(――――大勢の敵の騒ぎは忍びよし。 静かな方に隠れ家もなし………)「錯乱したのか………意外ともろかったな」そういうと、角都はキリハの心臓を取り出そうと、胸元の服を破く。信じるしか無い。他に手はない。それに、ある種の確信がある。懐かしいチャクラ、懐かしい音を感じる。目の前の敵には聞こえていないようだ――――不思議だが、あの人達ならば別段不思議でもないように思える。「さらばだ、死ね―――波風キリハ。四代目火影の息女よ」角都の黒い触手がキリハの胸を包み、心臓を取り出そうとする。だが、その寸前。(忍には、時を知る事こそ大事なれ)確信を持った、キリハは右手に力を込める。そして、いつかの時、再会の合図として交わした暗号。いつかの歌の、終となるの叫びに。かつての仲間――――失われた7班、最後の一人の声が重なった。「「敵の疲れと―――――――油断する時!」」同時、鮮血が舞った。キリハではなく、そう――――角都の胸元で。「なん………だと………!?」角都が驚愕の声を出す。硬い角都の皮膚、岩に匹敵する背中を貫かれ、胸元から腕が突き抜けていた。―――――雷光の鳥が、己の身体を駆け抜けたのだ。「千鳥…………!」かつての7班の仲間――――うちはサスケの声が、角都の背後から響いた。「っここだっ!」全くもって不意。胸を貫かれ、驚愕に硬直する角都。そしてもう一人――――キリハはただひとつ、確たりと動く右手を使い、己の最も得意とする術。信じ、用意していた螺旋丸を、角都の肩口にある仮面に向けて叩き込んだ。「ぐあっ!?」諦めず、凝縮されていた螺旋丸――――それは角都の心臓を貫いた。千鳥に継いで二つ目の心臓を潰された角都は、驚愕に身を染められながらも、二人を振り払う。「っ舐めるなあっ!」「くっ!」「きゃっ!」触手の爆発に吹き飛ばされ、サスケとキリハが吹き飛ばされる。角都は新たなる乱入者であるサスケを睨みつけ、その眼を見た後に、再び驚愕する。「貴様、その眼は………うちはサスケか!?」「ご名答だ、角都さんよ」「貴様………何をしにきた………!?」「見れば分かるだろう………仲間を助けに来ただけだが?」肩を竦め、皮肉げにサスケは答える。その答えを聞き、角都は訝しげにサスケを睨みつける。(………刀が………)そこで角都はサスケの腰元の刀に気がついた。(鞘しかない………中身はどこに………)一方、角都の視線の方向を悟ったサスケは、笑みすら浮かべながら刀の在処を教える。「二度あることは三度あるという………ほら………後ろだ」「なっ、しまっ………!?」写輪眼を警戒し、完全にサスケの方を注視していた角都。またも背後からの強襲か、と後方へ振り返る。だが後方にあるものは、倒れ伏している波風キリハだけだった。他には、何もいない。それを認識したと同時――――うちはサスケの声がかかる。「あ、すまん――――後ろじゃない」同時――――空から、声が聞こえた。角都とサスケがいる場所、その上空。こちらも恩ある身。窮地であれば加勢に行きたいと、確たる意志を以て示した――――とある七尾の人柱力。尾獣の力を利用すれば、空をも飛べる彼女の力を借り、舞い上がる。そして空の上で、少女の背中から飛び降りた――――馬鹿がいた。高度度外視、ただその刀に意志を込めて―――ナルトは剣を振り下ろす。「我に、断てぬものなし!」雷文により増幅された飛燕の威力。それに落下の勢いを加えた、必断の一撃が、角都の肩口にある三つ目の心臓を切り裂いた。刀が先に当たったため、落下のエネルギーはある程度低減される。だが、その勢いは完全には殺せず、着地したナルトの足が地面に埋まる。チャクラで強化しているため折れはしないが、それでもしびれを感じたナルト。いつまでも近づいているのはまずいと力づくで引っこ抜き、刀をサスケに返しながら、キリハの元へ跳躍する。「………兄さんと、サスケ君!」二人の姿を確認したキリハが、うつ伏せに倒れながらも顔を上げ、喜びの声を上げる。「キリハ、大丈夫か………っておい!?」ナルトは倒れていたキリハに駆けつけ、その身体を起こした後――――突如視界に飛び込んできた白い柔肌を見て、眼を丸くした。「………むね?」「へ? ………きゃあっ!」つられ、キリハも自分の胸元に視線を移動させ――――そこで、気づいた。先程、心臓を取り出そうとした角都に服を破られたせいで、胸元が顕になってしまっていたのだ。「み、みないでっ!」キリハは胸元を両手で隠しながら、羞恥により顔を真っ赤に染めた。余程ショックだったのか、目尻には涙さえ浮かんでいる。『くぁwせdrftgyふじこlp;!?』一方、状況を理解したナルトはマダオの狂乱をBGMにしながらも頷き―――キリハに訪ねる。「…………それ、あいつにやられたのか?」ナルトは静かに―――だが怒りを篭めて、キリハに訪ねる。その問いに対し、キリハは真っ赤な顔で俯きながら、首を縦に振った。肯定との返答をナルトは、キリハを横抱きにしたまま角都に向けて叫ぶ。「………おいそこの変質者!」「誰が変質者だ。そんなことより………よくも、やってくれたものだ……!」霧隠れの暗部で心臓を補充しておかなければ、今の3連撃で死んでいた。だが、残りはひとつしかない。怒りに震える角都は、目の前の金髪の兄妹を睨みつけた。だが兄の方は別方向にショックを受けて―――怒っていた。「乙女の胸元のぞきこんで、“そんなことより”だと………やっぱり手馴れてるのかお前は!? あっちいけ、変態! こっちくんな変態! 触手が卑猥なんだよ!」『コロセコロセヤツザキニシロー。コゾウカライシヲトリモドセー』『いいから落ち着かんかお主は』怒りのあまり言葉が支離滅裂になっておるぞ、とキューちゃんがたしなめる。だがマダオは止まらない。このまま何かに変身しそうな勢いで起こり続けていた。一方、変態呼ばわりされた角都も、普通に怒っていた。「だから、誰が変態だ!」「お前」『お主』『○×△!!』「女の子の服を無理やり剥ぐとか………しかも年の差何歳?」『変態じゃな』『◆▼●!!』一部未知の言語を使っている者がいるが、ナルト、キューちゃん、マダオに似た何かの間で、満場一致となり、判決が下される。「結論でいえば、大変態のロリコン犯罪者で………ファイナルアンサー?」へっ、と笑うナルト。その姿に角都は更に怒りのつのらせ、叫びと共に印を組み始める――――その途中。「………っ!?」角都は背後から襲ってくる気配を感じ、その場を飛び退いた。「ちっ、惜しい………!」向こうに意識が逸れた瞬間、サスケが機ありと、不意打ちを敢行したのだ。だが刀はわずかに及ばず、避けられてしまった。ナルトの方は「残念…!」と悲しそうに首を振っていた。「貴様らぁ………巫山戯るな!」不意打ちにつぐ不意打ち。その上で変態だと言う、意味の分からない敵に対して角都は激怒していた。かの邪智暴虐な乱入者に対し、意味不明とばかりに怒りをぶつける。角都には乙女心が分からぬ。故に何故変態と呼ばれているのかも分からない。戦闘時には冷静である彼だが、今この時は別のようだ。「変態とはな………怖いぜ」呆れたように呟くサスケに対し、また叫びそうになる角都。だが挑発に乗るのもまずいと、心を平静に保とうとする。(駄目だ、焦るな、怒るな、落ち着け………先に弱いところを狙えば………っしまった!?」先に仕留めなければいけない者、即ち一番弱っている者は、波風キリハだ。だが角都が再び振り返ってみれば、そこに金髪の兄妹はすでにない。「………救出完了だ」「ちっ、そういうことか………!」そう、サスケとナルト、どちらも囮で、どちらも本命だったのだ。状況に応じて臨機応変に対処し、挑発によりこちらの目的を曇らせた二人。本命である目的――――危地に陥っていたキリハの救出を達せたサスケは、安堵の溜息をつく。(あっちも、間に合ったようだし大丈夫だろうが…………ん?)近づいてくる足音に、サスケが反応する。もう一人の7班員………春野サクラが現れたのだ。「キリハっ、大丈夫…………って、えええ!?」目の前に映る光景、それを見たサクラは眼を丸くした。「あれ………キリハが、サスケ君に?」「どんなボケだ。俺だよ、サスケだよ」「またまたご冗談を………ってえ、本物?」夢にまで見たサスケの姿。故に、サクラは信じられなかった。「本物だ………久しぶりだなサクラ」「ってええっ、本物なのっ!?」「だから本物だと言っているだろ」「……夢にまで見たよ~、ねえ、なんで此処に? あ、そういえばキリハは無事なの?」「無事だ。キリハはナルトが連れてった。それで、サクラには相談があるんだが………」「えっ、なになに!?」期待に胸をふくらませる乙女。そこに無粋な乱入者が割って入る。「………俺を無視するとはいい度胸だな」落ち着こうとしていた角都が、低い声で二人に告げる。(おいおい、随分と末期的な声だな)声を聞き、またあふれる殺気を感じたサスケが、その額から冷や汗を流す。角都は、先の逃げられたという事実と、不意打ちで心臓を奪われた屈辱。そして突然コントを始めたサスケ達に対して、キレそうになっていた。だがサクラは空気を読まないことに関して定評があることで有名だ。角都の声を完全に無視し、視線をサスケの方に集中するのみ。「………いや、アンタはいいから」「………」「それで、サスケ君、お願いってなになに!?」「いや、やっぱり後でいい。先にこいつを倒してからだ」サスケは顔を片手で多いながら、サクラの問いに答えた。「うん、絶対よ! って…………あれ、ぶちって………え?」「…………」見れば、角都は沈黙を保ったまま俯き、肩を震わせていた。だが空気を(ry サクラは、止めとなる一言を放った。「………もしかして、怒ってます?」それが、合図。何かが複数切れる音がした後、角都は無言で指輪に触れた。「―――――まずい!」「え!?」同時、二人の前で黒が爆ぜた。