暗い、洞窟の中。雲隠れの尾獣、生き霊と呼ばれる化け猫である二尾をその身に宿す人柱力、二位ユギトは、背後から襲い来る恐怖から逃れようと、必死に逃げていた。齢二つで人柱力となった彼女は、その当時は忌まれる存在となったが、修行の末に尾獣の制御に成功。自ら信頼を勝ち得た程の努力家で、実力者でもある。だが、そんな彼女でも、背後にある強敵からは逃げるしかなかった。対峙した瞬間、理解したからだ。真正面からやりあっても勝てない、と。「くそ・・・・何なんだ、アイツらは・・・!」修行中、目の前に突如現れた一人と一体を思いだし、下唇を噛む。一体は、怪物。自分の覚醒体に匹敵する程の巨躯を持つ化け物だ。尾は無かった。尾獣では無いだろう。その身は漆黒に包まれており、形が安定していなかった。亀のような、獣のような形状をした、黒い塊というのが正しい表現だと思われる。そして、一人はその怪物を従える・・・恐らくは忍びであろう。フードを被っているので男か女かは分からないが、強敵だと言うことは理解できた。相手のチャクラを感じた、正直な感想だ。今までに感じた事の無い凄みがあった。あの化け物を従えているのを考えても、ただ者ではない事は分かる。(この先に行けば・・・!)少し、開けた場所がある。その広場の天井には、万が一の襲撃を考えて起爆札をセットしているのだ。幸い、ここは雲隠れ近くの里。自分の修行場だ。地の利はこちらにある。あいつらがいかな規格外の怪物とはいえ、洞窟の崩落による巨岩の圧殺からは逃れられまい。全速で洞窟を駆け抜ける。背後からは、化け物の足音が聞こえるので、どうやら追い続けてくれているようだ。(後、少し・・・かかった!)洞窟の広場の向こう。安全地帯に逃げ込んだと同時、化け物が結界内に入る。同時、起爆札が爆発した。自分と、あと特定の忍び以外が侵入すると同時に、爆発するように結界を組んだのだ。獲物は罠にかかり、天井から巨大な岩が降り注ぐ。こちらの通路は、崩落から免れていた。土遁を扱える忍びに協力してもらって作った自慢の罠だ。逃れる術は無い。確実に殺った、と確信した瞬間だ。怪物が吠えた。「・・・・!?」その、雄叫びを聞いたユギトは、一瞬意識が飛んだ。気構えも何もない。ただ、本能に直撃するかのような、慈悲の無い鳴き声。威嚇するための、ただの咆哮。死を告げる声。だが、その絶望感はどうだ。忍びとしての気構え、そして人としての理性を飛び越えた音の暴力。「な・・・・!?」直後、黒い巨大な塊から、尾が三つ飛び出し、降り注ぐ巨岩へと突き刺さる。そして、容易くその巨岩を打ち砕き、その上にある天井までも突き破った。砕かれた巨岩。だが、その欠片はまだ残っている。一つでも頭部に直撃すれば、即死は免れない程の大きさの岩の数々。それが、雨の如き規模で男と怪物に降り注ぐ。男は、その岩の雨を避けようともしない。ただ、手をかざして一言だけ呟いた。印も何もない。チャクラの性質変化も、形態変化も感じられない。ただの言葉と手掌で、岩の雨は全て弾かれた。「なっ、馬鹿な・・・!?」それを直視したユギトが、驚愕し、硬直する。だが、ユギトとて熟練の忍び。見たことも無い術だが、忍びの世界ではそのような事態は珍しくもない。一瞬硬直しただけで、瞬時に思考を回転させる。その術理、そして対処方法を考え出す。飛んでくる岩を避けながら、ひとまず退こうと後方の通路へと跳躍する。だが、その途中。ユギトは男がこちらに手を向けているのを見た。また、あの弾く術だろう。顔面を両腕で交差し、そして来るであろう衝撃に耐えようとする。だが、起きたのはまったくの埒外の事態。言葉と同時。ユギトの身体は後方へと弾き飛ばされず、逆に男の方へと引き寄せられていった。「なっ!」そして、男の刀がユギトの腹部へと向けられた。致死のタイミング。だがユギトはその一刀を、咄嗟に上げた膝で受けた。膝に刀が食い込む。ユギトは激痛に耐えながら、返しの一撃を入れようと拳を振り上げた。だが、振り上げた拳は黒い獣の尾に貫かれた。「ぐっ、ああああああああ!」そのまま、岩壁へと叩きつけられる。そして獣は退避路である通路にも尾の一撃を見舞う。崩れる通路。それを見たユギトあ、広場の奥へと一端退く。「・・・退路は防がれたか・・・・!」もう一つ、出口はあるが、ここで背後を見せる訳にもいかない。あの奇妙な術でまた吸い寄せられてしまうだろう。それに、この間合い。素直に逃がしてくれるとも思わない。腹を決めたユギトは、痛めた片手を何とか動かし、印を組む。そして、自らを尾獣化させた。具現する二尾が尾獣。死を司り、怨霊を常に纏っている化け猫が、咆哮する。 「・・・・」だが、相手は何の反応も示さない。ユギトは、一瞬まるで死人を相手しているかのような錯覚に陥った。だが、事実はどうであれ、今は関係ない。どうみても、こいつは里に取って有害な存在にしかならない。黒ずんだ死の具現。ここで倒さなければ、里の皆に危害が及ぶだろう。「・・・里の仲間を、守るために! 雲隠れの二位ユギトの名に懸けて・・・お前を殺す!」雄叫びと共に、巨躯が疾駆する。打って出るユギト。迎えるは、黒い獣。怪物同士が、激突しあう。衝突と同時、その衝撃で洞窟の全てが激震した。----サスケの偽造誘拐から、2年半後。満月のあの夜から18ヶ月が経過した後。木の葉隠れの里で、恒例の中忍選抜試験が行われようとしていた。前回、2年前は砂隠れの里で行われたので、今回は木の葉の番だ。町はずれ、砂から木の葉隠れへの道中。とある宿場で俺は口寄せの屋台を開きながら、我愛羅達一行の到着を待っていた。それもこれも、数日前。テマリが木の葉隠れへと中忍試験の打ち合わせに行っている最中、来るはずのサソリとデイダラの襲撃が無かったのだ。俺はあらゆる可能性を考えたが、情報が少なすぎるため断定できず、戦力を分散させる事にした。砂隠れには、サスケと再不斬と白と多由也。あと砂隠れで一番の腕を持つバキと、それに準ずる腕を持つテマリ。俺は我愛羅と話し合い、万が一の可能性を考えてこの5人に砂隠れの里へと残ってもらったのだ。バキにも、ある程度の情報を流してある。元が里第一の考えを持つバキだ。顔に渋面を浮かべながらも、何とか了承してもらえた。何より、三尾の件が頭に残っていたのだろう。不気味すぎる相手に、一時は手を組む事を選んだのだろう。数日後。俺のいる宿場町へ、砂隠れの忍び達がやってきた。我愛羅とカンクロウはすぐさまこちらの屋台に気づき、若干の笑顔を浮かべながらラーメン2つを頼んできた。「あいよ、ニンニク味噌ラーメン一丁。細切れチャーシューましましだ」スタミナ抜群の一品である。頓挫しつつあるきつねラーメンの開発の他、現場のおっちゃん達のニーズから生まれたメニューで、旅の疲れも吹き飛ぶというものだ。「いや、でも口臭が・・・」「案ずるな、兄弟」カンクロウのもっともな心配を指す言葉を一蹴し、さっと取り出したるは一粒の飴。「食後に一粒。すると、あら不思議。一時間後には口臭が消えているという、魔法の飴だ」開発者は白である。何でも、女性のたしなみらしい。あと、口の中でころころと飴を転がすキューちゃんを見て俺達全員が和んだのはここだけの話だ。「まじで! 助かる」カンクロウと我愛羅に飴を渡す。「じゃあ、じゃんじゃん喰ってくれ」「「いただきます」」「それにしても、2年前の中忍試験は凄かったらしいな」テーブルの正面でラーメンをすする我愛羅に向け、俺は話しかける。「・・・ああ。特に、3年前の本戦予備試験まで来ていた木の葉隠れの下忍の面々はな・・・1人を除き、全員が合格した」「1人を除き、ってああ」サスケか、と頷く。「正直、あいつらの成長は異常だったじゃん」「・・・ああ、まあ、なあ」何ともいえない罪悪感が胸を襲う。『メンマ君、相当に酷いこと言ったもんねえ。そりゃあ、必死になって修行もするわ』うるせえよ。仕方なかったんだよ。『うむ。受けたからには最後まで、徹底的にというお主のスタンスは知っているが、あれは正直我も引いたぞ』(え・・・そんなに?)『『うん』』2人に念押しされ、少しへこむ。そして、恐る恐るカンクロウと我愛羅に、木の葉の下忍達の様子について聞いてみた。我愛羅とカンクロウは、渋い顔をしながら、説明をしてくれた。何でも、木の葉無双だったらしい。キバは「俺は狗なんかじゃねえ!」 といいながら、持ち前の勢いに虚実の内合を組み合わせた、高度な体術で相手を粉砕したらしい。(えっと・・・あの時俺、何ていったっけ)『“狗では私は倒せない。フェイントに容易く引っかかり、突っ込むだけの狗なぞ踏みつけて終わりだ”とか、いいながら打ち下ろしの回し蹴りで一撃昏倒』シノは「我、虫を極めし者・・・!」とかいいながら、時間差の全方位攻撃で相手のチャクラを食らいつくしたらしい。『“この虫野郎! 見込みが甘え!”とかいいながら、風遁で一蹴したんだっけ。その直後に頭部への掌打八閃で昏倒』 ヒナタは豪快な踏み込みで一気に接近。「貫け、柔拳!」の掛け声と共に柔剛一体の全力全開の一撃。防御諸共、相手を打倒したらしい。『ええと、“慎重大いに結構、だが中途半端では意味がない。何より踏み込みが浅い、浅すぎる!”といいながら、強引な剛の力と柔の技でヒナタちゃんの一撃捌いた後、カウンターで腹部に一撃。昏倒』力無き柔に意味は無い。柔無き剛は体術とは言えない。武は剛柔一体こそが真髄だ。その意味を知ったようだね。テンテンは「見せてあげる。これが私の全力全開・・・!」とか叫びながら口寄せによる様々な武具攻撃を容赦なく繰り出し、圧倒的制圧力で相手を完封したとか。『“質が足りない時は手数で補え! 何より武具を使う以上、相手を傷つける事をためらうな。迷いがあるならばここから去れ!” だったっけ。武器攻撃を受け流しで弾いた後、延髄に手刀で気絶』「一応、相手は死んでいないぞ。でも、その砂隠れの下忍からは、“木の葉の白い悪魔”と恐れられているらしい。まあ、可愛い笑顔を浮かべながら、徹底的に攻撃する姿は」・・・すげえ怖かったじゃん、とカンクロウが呟く。その下忍には励ましのお便りをだそうと決めた俺であった。いのは、「腸を・・・ぶちまけろ!」の雄叫びと共にボディーブロー。弱怪力の一撃だったが、見事に急所にきまったようだ。『まあ、あの時は特に言うこともなかったね。状況を打破する力が無いっていうのは、いのちゃんもあの戦いで気づいたようだけど・・・成る程。医療忍術と怪力を選択したか』綱手やサクラほどの威力は出せないだろうが、いのの体術のセンスはサクラより上だ。何より、幻術も忍術もそれなりのものを持っている。秘術もある。あらゆる状況で活躍できるだろう。チョウジは「いのに、シカマルに、キリハ・・・僕1人だけ、置いていかれるわけにはいかないんだよ!」と、部分倍化の術で一撃。術スピードと予備動作に磨きが掛かっていたらしい。『“遅すぎる。当たらん、当たらんなあ!”って言いながら肉弾戦車を軽く回避した後、浸透の掌打一撃で昏倒だったが・・・』動きではなく、攻撃の速度と精度を重点的に鍛えたか。破壊力はピカイチだし、賢い選択かな。サクラも同じ。2年前はまだ医療忍術もそれなりのレベルだったが、「しゃーんなろ!」と同時の頭突きが決まったらしい。さすがはデコりん。デコすぎるぜ。『意味が分からないけど・・・なんか、凄いね』加え、今じゃあ相当の医療忍術の使い手になっているだろう。もしもの時は頼もうかね。サスケ拉致ってしまったんで、逆に殴られるかもしれないけど。『ふむ。あの2人、一時期は喧嘩をしておったが、最近馬鹿に仲がいいのう』年頃だしね。青春だね。ああ、そういえばリーはどうなったんだろう。リーは相変わらずの青春パワーで相手をのしたらしい。まあ、八門遁甲の体内門があるし、努力の天才だ。あの夜に対峙はしなかったが、問題ないだろう。キリハは普通に勝ったらしい。相手は、木の葉隠れの別の小隊。開始直後の相手のクナイ攻撃を、風遁・烈風掌で打ち返した後、追撃。返ってきたクナイを避ける下忍に瞬身で接近。隙をついて、顎へのフック気味の掌打の一撃から回し蹴りへつなげ、ノックアウト。開始数秒で決着が付いた。「印の速さも威力も、体術のキレも格段に上がっていたじゃん・・・正直、真正面からはやり合いたくない相手じゃん」底が見えなかった、とカンクロウが呟く。「ああ、そういえば姉さんや日向ネジと同じく、波風キリハも上忍に昇格したらしいぞ・・・異例の速さだな」「いや、我愛羅の方が異例だろ。その年で影を務めるとか、聞いたことないぞ」『そうだね。最年少じゃないかな』我愛羅の方を褒めるが、勢いよくスープを飲み込む振りをしながら、どんぶりで顔を隠してしまう。「照れてるねえ」「・・・聞こえてるぞ」我愛羅は照れながらも、ドン、とラーメンのどんぶりを勢いよくテーブルに叩きつけた。「・・・ああ、伝えておかなければならない情報が一つあるんだが・・・もしかして、既に掴んでいるか?」「まあ、一応はな。雲隠れの二尾の人柱力が、一ヶ月前から消息不明のなっているらしいな」俺も、それを聞いた時はびっくりしたよと肩をすくめる。「恐らくは、暁の仕業だろう。だが、話はそれだけで終わらない」「ん、何だ?」昨日掴んだ情報だが、と前置いて我愛羅は話し出す。「その、戦いがあった現場・・・崩落した洞窟のあった山を見ていた猟師から掴んだ情報なんだが」「何か見たのか?」「ああ、恐らくは、洞窟の天井にある岩層を、突き破ったのだろうな。轟音と土煙と共に、黒い柱のようなものが三つ。山肌に突如現れたらしいその後、幾たびか激震が走った後、静かになったらしいが・・・」「・・・うおい、山突き抜けるって一体どんな威力だよ。それに・・・三つ?」「ああ、三つだ。ちょうど、消えた三尾の数と一致するな・・・これは、偶然か?」「うーん・・・正直、それだけの情報じゃあ、分からないな。だが、可能性は高いと思う」「そうか・・・・厄介な事になったな」「全くだ。もしかして、その尾獣と暁がつるんでたりして」「・・・でも、それだとおかしいな。尾獣はとにかく巨大だ。故に目立つのは避けられない。隠密を主とする暁が、尾獣を使う理由も無いのではないか?」「そうだなあ・・・そもそも、そんなモノを使わなくても、奴らなら生身だけで倒せるだろうし」そのような存在を使うメリットが無い。あるいは、他に何らかの理由があるのかもしれないが、手持ちの情報だけでは判断できない。「で、お前が今回俺の護衛に回るとは・・・どういう風の吹き回しだ?」「いや、護衛もあるけどね。雨隠れの里というか、暁の動向も探っておきたいんだ。とにかく今は情報が足りないから。アホ面下げて爆心地っていう事態は是非とも避けたいんで」失敗したら死である以上、それは洒落になってないのだ。「・・・成る程な」「ああ。あと、木の葉側にも確認したい事がある。だから、よろしく頼むよ」「分かった・・・こちらの上忍の一人に変化していてくれ。前もって、本人には連絡してある」「ああ、ありがとう」「気にするな。じゃあ、行こうか」----所変わって、木の葉隠れの里。「お久しぶりっす」「おお、来たか」やってきた風影一行+メンマを迎え入れる綱手。「風影殿も、もう少しで到着するようです」「ああ、分かった。シズネ、お茶の用意をしてくれ」そして数分後。一同は同じ部屋に介していた。砂隠れは、五代目風影である我愛羅、補佐兼護衛役のカンクロウ。木の葉隠れは五代目火影と、同じくシズネ。そして、もう一人。「遅いぞ、自来也」「すまん。情報収集に手間取っての」三忍の一人、自来也。「それじゃあ、始めようか。以前も知らせたと思うけど、まずは情報の整理を」外部の情報提供者として、メンマ。総勢6人での会議が始まる。「暁に関しては、以前知らせた通りだ。他の五影もこれくらいの情報は掴んでるだろうが・・・問題は」一区切り置いて、メンマは話し出す。「ここ数年。最近は特に動向が怪しいという、雨隠れの里にある。原因は分かっている。数年前にかの山椒魚の半蔵が殺されて、頭が交代したらしい」恐らく、だが。動きが変わった理由、これ以外にあるまい。ペインがどういう考えで動き出したのかは分からないが。「まさかあの、半蔵が・・・!?」自来也と綱手が驚く。動向がおかしい事は知っていても、その原因は知らなかったのだろう。あと、半蔵とは直接の面識もあるので、驚きの度合いも大きいのだろう。「事実だ。クーデターの際、一族郎党皆殺しにされたらしい。とある筋からの信頼できる情報だ」「しかし、一体誰が・・・?」S級クラスの賞金首といえ、単体でそれを成し遂げるのは困難だ。内乱も考えにくい。半蔵はそれほどの権威を保持していた。ということは、答えは一つ。「暁、か」自来也が訊ねる。「そうだ。だが、それはたった一人によって行われたらしい」「馬鹿な、それこそ有り得ん!」自来也が叫ぶ。半蔵の慎重さについて良く知っている故の叫びだろう。仙人モードの自来也とて不可能な所行だ。世界は広いとはいえ、それほどの実力者ならば顔は売れている筈。単独で半蔵を殺害できる程の忍びの存在など、自来也も綱手も思い当たらない。「・・・追加情報がある。これも、噂だけの眉唾ものなんだが・・・」少し、もったいぶって話す。これは本来ならば有り得ない情報、俺でも知り得ない情報だからだ。余計な猜疑心を生みたくない俺は、慎重に言葉を選んでいく。「・・・何だ? 取りあえず、聞かせてくれ」「それが、暁の頭であるということだ。そして、もう一つ」一拍おいて、俺は自分の目を指さす。「そいつの目には、螺旋の紋様が刻まれていたらしい」「・・・螺旋の、紋様?」カンクロウが首を傾げる。その問いには、我愛羅が答えた。「三大瞳術の一つ、輪廻眼か。かの六道仙人が宿したとされる・・・だが、それはあくまで伝説ではなかったのか?」「知らん。あくまで噂だ。でも、それだけの事をやってのける人物だ。伝説の輪廻眼、持っていてもおかしくないだろう」「そうだな・・・どうした、自来也。顔色が悪いぞ」「いや・・・話を続けてくれ」「そうだな。ともあれ、暁の狙いは一つだ。人柱力の確保。これに関しては、間違いないだろう」「雲隠れの二尾の人柱力が行方不明らしいが」「ああ。それについては木の葉でも確認が取れている。今までは情報交換もままならなかったが、やっこさんも焦ってきているらしい。限定だが、情報交換もできた」「・・・あの声に関してか。他の人柱力も聞こえていたのか?」綱手は重々しくああ、と返しながら内約を話し出す。「確認が取れているのは雲隠れの二尾、八尾。そして滝隠れの七尾・・・全員が、その声とやらを聞いたらしい」「ええと、他の人柱力の面々は?」「霧、岩とは接触できていない。霧に関してはいつも通りの秘密主義。岩も、連絡したが返答が無い」「非同盟国の霧、岩とは連絡が取れていないって事っすか」それもまあ当たり前か、と呟く。「ああ。あと・・・ここ最近だけど、霧隠れの里近くの孤島と、岩隠れ近辺の山場で大きな戦闘の形跡があったようだ。これは、“網”からの情報だからまず間違いはないだろう」一つ、情報を提供する。「・・・ほう」「だが人柱力の生死は不明らしい」首を振りながら、肩をすくめる。「・・・不明な点は多々ある。だが、方針は決まったな」「確たる情報が無い今、迂闊には動けない・・・ということは、雨隠れの忍者の監視か。そういえば、今年の雨隠れの里からの中忍試験受験者、例年にくらべてかなり多いと聞いたが」「ああ・・・去年の3倍だ」「え、マジですかシズネさん?」「はい、マジです」「う~ん・・・・あ、もしかして暁のメンバー全員が受験に紛れていたりして」「ははは、有り得んだろうそれじゃ」「そうですよねえ、あはははは」「あはははは・・・」だんだん、声が小さくなっていく2人。「・・・本当にそうだったらどうしようか」ぼそり、とメンマが呟く。「怖いこと言うなよ・・・」綱手もまた顔を逸らして呟く。「ちなみに、暁の構成員、個々のメンバーの力量はどうなんだ?実際対峙した事がないので、いまいち力量が掴めない」と、我愛羅が訊ねてくる。「ほぼ全員が大蛇丸クラス。かつ殺傷能力に優れた固有忍術の使い手。性格も極めて危険」約一名を除いては、とつけ加える。「・・・すまん、ナルト。試験の間だけ、試験会場周辺に潜んでいてくれないか」「元よりそのつもりっす。次に狙われるのは、まず間違いなく我愛羅だろうし」自分の存在は未だ把握されていない筈だから、判明している標的といえば、我愛羅しかない。其処を重点的に守ればいい。木の葉の忍びもいるし、そうそうやられる事はないだろう。「ともあれ、今最優先でやるべき事は、暁と雨隠れの関係性を確かめる事だ。明確な証拠を握れれば、後は五大国の隠れ里で連携、総力を持って叩き潰すまでだ」「全方位に喧嘩売ってますもんね・・・尾獣を奪うとか、宣戦布告と同意ですし」「いかな暁といえど、五大国を敵に回して勝てる筈もない。まずは、証拠を掴む事だ」「・・・てことは、襲ってくる暁の構成員を捉えて、情報を吐かせろと?」「そこまでできれば上出来だろう。迂闊に動いて無駄な戦争を起こす気もない。確たる証拠があれば、同盟の理由も立つ」「了解。やれるだけやってみます・・・ああ、そういえばキリハは? 今、里にはいないんですか?」「今は任務で出ている。一週間後には戻ってくるだろう・・・さあ、一端置くか。あと、すまんがナルトだけ残ってくれ」「分かった。こちらは宿に戻って待っている」「ああ。俺も直ぐに行く」我愛羅とカンクロウが退室する。「一週間、か。多分会えないなあ」そのころには予備試験も終わっているので、木の葉の里を出ているだろう。「・・・会いたいか?」「ええ、まあ」まだ戻れないですけど、と呟く。「それもそうか・・・まあ、ダンゾウの影響力も、ここ数年で大分落ちてきた。キリハの、里の皆への説得も進んでいるし」「え、説得?」「そうだ。主に、九尾と兄を同一視するなって事だな。ダンゾウの手のモノが流した噂で、里の者も先入観に囚われていた。その先入観を解くために、一生懸命話して回っているらしいぞ」『キリハちゃん・・・』「そんな事して大丈夫なんですか?」「もう、16年も前の事だ。怨恨が薄くなっている者もいる。何より、元が筋違いな話だ。キリハが正面から話せば、分かってくれるというものさ」「そう、ですか・・・」それでも帰る事はないと思う。「まあ・・・お前の気持ちもあると思うがな。それでも、キリハはお前が帰れる環境を作って起きたいんだよ。それに何より、兄が忌み嫌われているのが嫌なんだろう」「・・・・」「加え、あいつにとっての矜持もある。だから、止めるなよ?」「・・・分かりました。あと、ダンゾウの方は大丈夫なんですか?」「おおっぴらに妨害もできまい。それに、現在私はあいつと根の動向を探っていてな・・・そうしたら出るわ出るわ」火影の認可を得ていない、不正な暗部派遣の痕跡など、色々と見つかったらしい。三代目の頃からそれは行われていたらしい。時にはあの雨隠れの半蔵にも、暗部の一部を派遣していたとか。その部隊は壊滅したらしいが。「ん・・・? そういえば、クーデターがあったとされる時機と、暗部が壊滅した時機・・・重なりそうだな調べてみるか」「そう、ですね。また、こちらでも調べておきます」「頼む、シズネ。あるいはあいつを抑えられるかもしれん。これ以上、ダンゾウの好きにはさせないさ」「・・・随分と、警戒しているんですね」「うちはの裏事情を聞かされたんだ。それなりに警戒もするさ。上役にかんしてもな。私も正直、あのヒヒ親父と相談役の2人を甘く見ていた所もあったからな」「ヒヒ親父、の・・・」自来也が苦笑する。ダンゾウも、えらい言われようである。「それに、戦災孤児を“根”に引き入れて自分の私兵として扱っているという情報もある」「まあ、暗部の育成など、“根”の文字通り木の葉の大樹を支えてもらっている部分もあるが・・・明らかにやりすぎたの」火影の座に妄執し、暴走して目的を見失っているふしがあるらしい。まあ、ダンゾウ云々は取りあえず今の俺には関係ない。暁撃退が俺の至上目的だ。まずは、それを果たすこと。その後はもう狙われる心配も無くなる。「・・・じゃあ、そろそろ戻ります」「ああ・・・・ナルト」自来也に呼び止められる。「・・・死ぬなよ」「エロ仙人もね。くれぐれも一人で無茶はしないように・・・・何かあれば、キリハが悲しむだろうから」「・・・分かったわい」肝に銘じておく、と笑う自来也に背を向け、俺は部屋を出て行った。