※オリジナル設定あり。無理な方は飛ばして下さい。~テマリ~「で、話って?」移動した先の部屋。2人は、テーブル越しに対面する形で椅子に座った。話を聞こうと切り出したナルトに、テマリは深く頭を下げる。「まずは礼を言う。4年前のあの時・・・私たちを助けてくれてありがとう」「・・・いや、まあ、成り行きだったし、気にしなくても・・・」「でも、助けられたのは事実だろう? ・・・っと、そういえば、何でお前はあの時私たちを助けてくれたんだ?」「いや、先に遭遇したのは俺の方だったし。俺が原因で、そして俺の目の前で誰かが殺されるのを見てるだけっていうのはちょっと、ね」「それだけの理由で? 暴走した守鶴と対峙しようと決めたのか?」「それで十分。それに、完全には暴走していなかったしね。完全体にも成っていなかったし」「ああ・・・」その言葉に何か思うところがあるのか、テマリが少し考え込む仕草を見せる。「そういえば、もう眠れるんだな、我愛羅のヤツ」「ああ・・・木の葉崩しが終わって、少し経った後でな。バキが言っていたよ。眠れるようになったのは、人柱力をコントロールできるようになった証拠だ、とな」でも悪夢に魘されているようで、と心配の表情を浮かべるテマリに、ナルトは笑いかける。「優しいなー。俺もそんな心配をしてくれる人が居たら・・・って痛いってばよ、キューちゃん」「・・・どうしたんだ、いきなり?」「いや、何でもない」「急に口調は変わるし・・・何か、病気でも持っているのか?」心配の表情を浮かべるテマリに、ナルトはありがたやありがたやと拝みだす。「ほんまに優しい、ええ娘や・・・」との呟きを聞いたテマリの顔が、少し赤くなる。「や、その、だから・・・お、恩人だから心配するのは当たり前だろ?」両手を前に突き出しながら違うと動かすテマリ。かわええと思うナルトだったが、一つの言葉に引っかかったのか、椅子に深く座り、俯きながら呟きだす。「・・・恩人、ねえ」そして、沈み込んだ表情を浮かべる。テマリには見せないようにしながら。「どうなのかなあ。確かに、助けたっていうのはあるんだけど」酒を飲みつつ、言葉を続ける。「そんなつもりで助けたんじゃ無いんだよなあ。だって卑怯じゃん、それって。恩を売るために助けたわけでもないし・・・」「ナルト?」テマリの呼びかけに顔を上げ、何でもないからと返し、頭を抑える。「・・・いかん、酔ってるな、俺。しっかしテマリは結構酒強いよな」さっきは酔っているように見えたけど、と聞くナルトに、テマリはああ、と頷きながら返す。「私は、回復するのは早いんだ。とはいっても、シラフの時と比べたら十分に酔ってるけどな」「へえ、ということは結構飲んでるんだ」「ああ・・・まあ、飲みたい事が多かったしなあ」「そうだねえ・・・カンクロウも、そうなのか?」「ああ。まあ、色々と見てきたしな。我愛羅の事も、死んだ四代目風影の事も・・・」「でも、カンクロウの方も、我愛羅に結構歩み寄ろうとしてるみたいだったけど」「話を聞かされてからはな。我愛羅も以前と比べればかなり落ち着いた状態になったし・・・元々、嫌いという訳でも無かったんだろう」「我愛羅の方は気づいてるのか?」「何となくはな。まだあの子は人の機微に疎い」「浮世離れしてたって事か・・・それは、ひょっとして、自動防御する、あの砂のせい?」文字通り、殻だろうあれは。「ああ。あの事件があった夜。・・・まあ、内容は流石に言えないけど・・・あの夜以来、自分が傷を負う機会が完全に無くなったからな・・・他人の痛みが分からなくなったのかもしれない」「自分が傷つけられる事も無かったもんね。他者の存在も、自分の存在も、明確に実感できなくなったのかもしれないな」「それも、お前に殴られてから変わったよ・・・というか、話には聞いたけど、ほんと正面から殴りに行くとはな・・・」あの時もそうだったがと呟きながら、その光景を思い出したのかテマリの顔が赤くなる。「ああ。なるべくは、人を傷つける時でも、拳かクナイか、直接手に感触が伝わるようにしてるんだ」殺す時は絶対に、と呟き、手を見る。「嫌いというのもあるけど、あの感触を忘れたらいけないと思うんだ。そうしないと、変わってしまいそうだから」止めを刺す時には必ず、拳かそれに類するものを使う。「自分も、痛みを感じる方がいい。それを忘れると、本当のクズになってしまいそうだから」そういいながら酒を煽り、グラスを置く。「俺は所詮、こんなもんだ。結局は誰かを傷つける事が出来る男だ。だから、恩人とかそんな大層に言われるような存在じゃあない」「でも・・・今まで、何人かを助けてきたんじゃないのか?」「誰かを傷つけてな・・・自分のために」それに、助けられなかった人も居る、とポツリ呟く。「それは、誰だ? 木の葉の関係者か?」「いや・・・まあ、とある昔にあった、情けない男の話だから」言いたくないと首を振るナルト。「そうだな・・・」「だから、さ」「うん?」「恩人とか、そういうんじゃなくて。何て言うか、こう・・・」ナルトが手を差し出す。同時、何を思ったのか、テマリの顔が赤くなる。わたわたと慌てるテマリに、ナルトは告げた。「そう、友達に成ってくれないか?」テマリはずっこけた。『いや、それは無いわー』とか、『・・・この鈍ちんが』と誰かの声が聞こえた気がした。テマリは何とか床から起きあがり、言葉を反芻する。「と、友達?」「そう。テマリってラーメン好きなんだろ?」「ああ、まあ」「だから、友達。正直言えば、男前にラーメン全種を食べ尽くした姐さんに少し惚れました」喜んでいいやら旅立っていいやら~と、頭を抑えながら叫ぶテマリ。「でもあの時言えなかったんだけど・・・」「な、何?」乙女の期待が高鳴る。「あの時、笑った時ね・・・」「あ、ああ」「葱が前歯に挟まっていたんだ」言えなくてゴメンと頭を下げるナルト。「・・・・」テマリは黙って横に倒れた。「あれ、どうしたの・・・て痛いよキューちゃん!? 何、デリカシー? 何か言ったか俺・・・って痛い!」自分の頬を乱打するナルトと、倒れるテマリ。カオスだった。いっそ殺せ・・・とか、どうしたらいいんだ・・・とか、呟きながらも立ち上がるテマリ姐さん。漢である。「こういう時、どんな顔をしたらいいのか・・・」「・・・笑えばいいと思うよ? ってちょっと待ってストップストップ」鉄扇に手をかけたテマリをどうどうと言って落ち着かす。駄目だ、笑顔は今禁句らしいとナルトは悟った。「それで・・・今、お前の横にはうちはサスケと・・・他に誰がいるんだ?」「霧の抜け忍、再不斬に白。音の抜け忍、多由也」「・・・色々とカオスだな」「まあ、各員に共通点はあるけどね・・・今は留守番しつつ、修行中ってとこ」「うちはサスケか・・・以前も見たが、やはり才能はあるのか?」「うーん、はっきり言って天才だね。基礎がしっかりしてきた今、余計にそう思う。戦闘センスが段違いだし、戦えば戦う程に強くなると思う」「そうなのか?」「戦いながら技を開発する術にも長けているしね。出来れば実戦を経験させておきたいんだけど」「・・・抜け忍に任務を斡旋する組織があると聞いた。そこに、任務を斡旋してもらったらどうだ?」テマリの不意の言葉に、ナルトは驚愕の表情を浮かべる。「・・・びっくりした。テマリ知ってるんだ、あの組織、『網』の事を」「これでも風影の娘だったからな。弟2人があの調子だし、知っておかなければならない事は山ほどある」「そうなんだ。“網”・・・その成り立ちについても、聞いた?」「ああ。忍界大戦の落ち忍と、少しチャクラが使えるヤツらに任務・・・とは言っても、道の整備とか畑の開拓とかを斡旋する組織だろう?」「そう。忍界大戦時、色んな所で戦いが起きたせいで、自然のバランスが乱れた所があったからね」表向きは、といってもそれも裏の顔となるが、その復旧を補助する組織だ。「その責任を負うべき立場にあった忍び達も、自分たちの勢力を早く取り戻そうと、躍起になってたからね」国力回復というか、里の力を回復するのが優先であった。「中途半端な血継限界も持たない奴らを追う余裕が無かったからな・・・とある人物がそれを纏めて、今の組織になったとか」「負い目が有る分、黙認されているようだね。山賊になられるよりはマシだと考えたのかな? それに、ある程度は里側にも釘を刺されているようだし」荒らすだけ荒らすまま里に帰っていった忍者達を見て、里の外の人間がどういう感想を持ったのか。想像するに堅くない。「でも、無茶はしないみたいだけどね」外部に秘密を漏らせば、必ずと言っていいほど追ってが差し向けられる。戦争と、里の暗部の冷酷さを知っている抜け忍達も、迂闊な事はしないと聞く。「まあ、里との間との小競り合いは絶えないが・・・頭がやり手なんだろう、各国の有力者とも裏で取引をして、何とかだが存続を保っていると聞いた」つぶすべきだという声もあるが、抑えが無くなると困ると言う声もある。一枚岩でない組織だし、いろいろともめ事とかあるらしい。「裏の組織だけど・・・まあ、お約束通りに、裏の仕事も持ってるから・・・潰されると困るマフィアとかヤクザとか居るんだろうね、きっと」ガトーとか、ああいった種類の人間が必要とするのだろう。「しかし・・・ずいぶんと詳しいな」「一時期だけど、任務を斡旋してもらってましたから」「・・・成る程」テマリは納得したとばかりに頷く。確かに、幼少時に里を抜けた・・・というか、追い出されるような形で外に放り出されたナルトが、実戦を経験するには、それしか手が無かったのだろうと納得した。互いに、それ以上は何も言わないし、詮索もしなかったが。「まあ、本来ならば存在さえ許されない組織なんだけど、無くなっても色々と困る点があるのは・・・まあ、否めないね」忍び5大国って、任務依頼料が基本的にくそ高いし、と肩をすくめる。「・・・耳が痛いな。だが、その組織に本当の面は割れていないのか?」確か、『うずまきナルト』は指名手配されている筈だが? と訪ねる。しかも特A級首である。オラ何にも悪いことしてないのに、というが、結構な事をやっているのである。あと、存在が存在なだけに、賞金クラスも高くなっていたのだ。「それはほら、あの特製の変化の術だよ」「・・・便利な術だな」「ほんとにね。あれが使えなかったらと思うとぞっとするよ」その場合、今以上に窮屈な日々を送る事しかできなかっただろう。「そういえば、話は変わるけど・・・マツリって誰? どんな娘?」ああ・・・と頷き、テマリは説明を始める。それを聞いてナルトは大きく頷き納得したとばかりに手を叩く。「あの時、助けた娘だったんだ・・・どうりで」記憶にない娘だったと、ナルトは心の中で呟く。「ああ。少し頼りないが、心の優しそうないい子だ」「成る程ねえ・・・・世界が違えば、人も組織も違ってくる可能性があるってことか」白もそうだったし、と呟く。「こりゃ、情報収集を続ける必要があるな」ため息を吐くナルトに、テマリは首を傾げる。「そういえば、我愛羅から聞いたが・・・」「うん?」「お前の夢は、世界一のラーメン屋になる事じゃなかったのか? どうして、戦いに身を投じる?」「ああ・・・そのことね」説明し辛いんだけど、と腕を組んで考えるナルト。「最初は成り行きだったけどね・・・ほら、あの声、あったでしょ? あれがどうも引っかかるんだ」「そんなにか?」「そう、何か・・・放っておけば、全て終わってしまいそうな・・・そんな予感がする」何もかも終わってしまいそうで、と虚空を見上げ呟く。「放っておいて・・・もしそうなったらと思うとね。怖いし、落ち着いてラーメンを作れないし。それに、お客さんが死んだら、誰にラーメンを食べてもらう?」「そういう事か。でも、それほどまでに怯える必要は無いと思うが」それに、そんな化け物が居るならば、噂になっている筈だろう? とテマリが訪ねる。「まあ、準備はしておくに越したことはないよ。俺は神様なんかじゃないからね。出来る事は、来るべき事態に備えて、用意しておくことだけだから」これからの展開は読めないし、と呟くナルト。「目の前に映る人ならば助けてあげたいし、今隣に居る人を失いたくないし・・・そんだけだから」と、一気に酒を煽る。グラスを置いた後、テマリを見つめながら告げた。「だから別に夢を捨てた訳じゃない」子供みたいな笑みを浮かべ、断言するナルト。その笑顔につられ、テマリもはは、と笑みを浮かべた。それを近距離で見たナルトは、指をパチンと鳴らしてはしゃぐ。「今の笑顔! 綺麗! ナイスショット! いやー、今のは写真に収めておきたかった」歯を見せた男前な笑みもよかったけど、今みたいな綺麗な笑みも素敵! とか身をくねくねしだす。大分酔っているようだ。というか、今の一杯で危険度域まで達したようだ。限界突破である。「・・・!?」ナルトの不意打ちの言葉に、テマリ顔が爆発したかのように赤くなる。「いや~、さっきのバスタオル姿も色っぽくて良かったけど、今の笑顔もイイ・・・ってあれ、姐さん? どうして鉄扇を持ち上げて震えてらっしゃる?」目の前のテマリを見ながら、首を傾げるナルト。「・・・っ、っつ!」その眼前に、リンゴのように真っ赤な顔をしたテマリ。鉄扇を持ち上げながらプルプルと震えている。喜びと怒りと恥ずかしさがミックスされた感情。それが何なのか分からないが、”取りあえず今は目の前の男をぶっ飛ばす事だろう”という結論に達したようだ。傍目で見ていれば、『何故そうなる』という思考の帰結だ。そして、もう1人。油に火を注ぐ達人が居た。ナルトが緊張した空間の中、場を決定する致命的な言葉を吐きだしたのだ。胸を凝視しながら、頷き、言う。「・・・うむ、多由也と同等・・・いい胸してますね!」サムズアップをしながら、朗らかに笑った。普通にセクハラな発言をするナルトに、乙女の怒りの一撃が叩き込まれた。「この、馬鹿!」砂隠れのとある家の中に、鉄扇が頭にめりこむ音が響き渡った。