ナルトの「40秒で支度しな!」発言の後。一同は隠れ家から遠く離れた場所へと通じる、秘密地下通路を伝って外へと脱出。地上に出て数分を歩いた後、立ち止まった。「ここまで来れば大丈夫だろう・・・一旦休憩にするか」ナルトの言葉を聞き、皆が足を止める。「よっと・・・多由也、随分揺れたと思うけど大丈夫か? 傷は広がってない?」「あ、ああ。傷は塞がってるから、問題は無いと思う」「でも顔色は良くないね・・・まあ、血が足りないのかも。あれだけ出血したし。体力の方もまだ回復はしていないだろうから、無理はしない方がいいよ」「・・・あり、がとう・・・ほんと、何て言ったらいいか」「いいよ、別に。それに役得だったしねー」と、ナルトは少し笑いながら、先ほどまで背負っていた背中を指す。そのやりとりを見ていたサスケが、顎に手をやり何のことか分からないと首を傾げている。やがて、ポンと手を叩いて解答を口に出した。「ああ、胸が「うるせえ!」うお!?」サスケの呟きを聞いた多由也が、顔を真っ赤にしてサスケに殴りかかる。それを間一髪で回避したサスケが、多由也へと文句を言う。「危ねえな、てめえ! いきなり何すんだ!?」「お前が悪いんだろうが!?」ぎゃーぎゃー言い合う2人の間に、マダオが入る。「ほらほら、2人とも。今は逃げてる最中なんだし、騒がないの。できるだけ静かに争いなさい・・・ほら、ああやって」マダオが指さす先には、静かに地面に屈み込んでいるナルトの姿が合った。「・・・ふん、人誅じゃ。何、急所は外してある。安心せい」「・・・てか・・・お・・もい・・・っきり急所・・・・・でしょ」ここが急所で無かったら、どこが急所だというのか。股間を抑えて悶絶するナルトの背中を、白が優しく叩いている。更にその背後では、再不斬が「へっ、ざまあ」と言う表情を浮かべていた。「「・・・・」」その光景を見て、沈黙する2人。顔を見合わせてため息をつく。先ほどまでと違う、あまりのギャップの激しさに「なんだかなー」と思うサスケ、多由也であった。「ありがとう、白。こんなに優しくしてくれるのはお前だけだよ・・・」「でも、本当にいいんですか? 全部爆破しちゃって」ナルトのボケを華麗にスルーした白が、残してきた隠れ家の処置について聞く。「・・・まあ、急ぎだったからねえ。それに、爆破した方が後腐れなくていいよ。戻れないなら、いっそ無くなってしまった方がいい。その方が割り切れるし」痕跡も何もかも全て吹き飛ばせるし。主に、木の葉側に見られたら不味いものとか。ありったけの起爆札をセットしたので、何も残らないだろう。それだけの威力はある筈だ。脱出路用として地面に掘った、あの隠し通路も全て埋まるだろうから、追跡もし難いだろうし。「ダミーの隠し通路も作ったしねえ」本命、つまり俺達が使った脱出路は跡形無く消えるように細工した。ダミー用・・・今いる位置とは別方向に伸びる脱出路の方は、ある程度痕跡が残るように細工をしたのだ。これで脱出後の足取りはある程度攪乱出来るはず。影分身に足跡も付けさせた。それも、あからさまなものではなく、細かく調査してようやく分かるといった程度のレベルのものだ。「それにほら。秘密基地が見つかって、それで脱出する場合には・・・跡形もなく爆破するのはお約束ってやつでしょ?」「・・・でもそれは悪の秘密基地のお約束なんじゃあ」多由也が突っ込む。(うむ、この世界にも漫画文化はあるようだなあ)そういえば、自来也も書いたんだっけか。俺は読んだこと無いけど。「でも俺達ってどっちかっていうと悪者だよね? ・・・だってほら」みんなが、俺の指さす先・・・再不斬の方を見る。「・・・そうだねえ」マダオがしみじみと呟く。「そうじゃな」キューちゃんが頷く。「・・そうかも」多由也がぽつりと呟く。「否定できないな」サスケが顔を逸らす。「ちょっと、皆さん! ええと、ほら、再不斬さんだって、悲しい話を聞いたら涙流すことだってあるんですよ!」白のフォローが入った。「・・・」だが、容姿についてのフォローは入らなかったので、再不斬がちょっと涙目になる。「ああ、そういえば以前、俺が○ランダースの犬の話を聞かせたとき・・・見事に泣いてたよなあ」話し終えた後、即座に逃げていったけど。いや、しかしもしかしてとは思っていたが、まさかホントに泣いていたとは。「・・・眼を押さえて静かに泣く再不斬さん・・・あれは、可愛かったですねえ」白がその時の顔を思い出して、うっとりと呟く。その表情は色っぽくて綺麗でとてもとても見応えのある顔なのだ。だが皆は眼を逸らし、おのおのの言葉を呟いた。「鬼の目に涙だねえ」誰がうまいこと言えとマダオ。「でも、可愛いってなあ・・・」想像できん、とサスケ。「まあ、人好き好きだから」うんうんと頷く俺。「割れ鍋に綴じ蓋?」割と多由也が酷い。でも合ってるかも。「豚に真珠?」キューちゃん、それ意味が違うから。「・・・・・」再不斬はじっと、屈辱に耐えているのであった。数分後。「そろそろ、ですか?」「いや、まだだ20分ぐらいしか経っていない」脱出後、ここまで移動した時間を含め、まだ予想時刻より30分は余っている。「爆発作動まで待つか・・・一応、見届けなくちゃならんし」「それまでじっとしているってのも芸が無いね・・・そうだ」そこで、マダオがある事を提案した。「ねえねえ、これだけの人数が集まったんだし・・・何か、チーム名とか決めない?」その言葉に、皆が考え込む。「いいな、それ」「確かに」夢見る少年世代(身体は)のナルトと、正真正銘の少年世代であるサスケが同意する。「とはいってもなあ」「僕たちに共通点ってありましたっけ?」「ああ、有ることはあるなあ。ほら・・・『帰る場所が無い集団』」「・・・ずばっときたね」ちょっと切なくなる。「直球過ぎないか?」ど真ん中である。「・・・そうだね。それじゃあ語呂も悪いし・・・他に何かある?」一瞬の沈黙の後、多由也がぽつりと呟いた。「そういえば・・・里抜けするとき、左近に野良犬とか言われた」多由也の言葉を聞き、その言葉にある集団の言葉が浮かぶ。「うん、それなら『リザーブ・ドッグス』何てどう?」親父は事故死しました。「正に俺達のフィールドだね」「うん、意味がわからん。却下じゃ」キューちゃんに笑顔で却下された。まあ、そりゃ分からんか。だがマダオ反応してくれてナイスジョブ。「それ以外だと、そうだなあ」考え込む。目的に添う名前にした方がいいかもしれない。「そう、『暁』に対抗して・・・『夜明けの船』なんてどう?」絢爛で舞踏な祭りが起こるかもしれない。「いや、船なんてないでしょ。てか何で船?」夜明けときたら船でしょう。「じゃあ、曙ってのは? もしくは曙光」「ごっつぁんです! ・・・却下」どっちなのさ。「黎明はどう?」マダオが言う。「王子ものぞむーもいないので却下」暁と一緒に太陽を支えるのは嫌です。叢雲にも進化しません。「じゃあ、反対の意味で・・・宵闇とか」サスケが呟く。だが、それはちょっと・・・「サスケさん、サスケさん。それだと暗殺専門組織にしか聞こえないんで・・・」誰を屠るの、誰を。落ち込むサスケをよそに、別角度から切り込んでみる。「じゃあ、『傭兵騎士団』は?」水素の心臓持ってないけど、あの団長には適わないけど、響きが好きだから。「・・・傭兵は分かるけど、きしって何?」遠い世界の侍みたいなものです・・・といっても分からんか。「じゃあ、大逆転号は?」「7つの世界最後の希望を託されるのはちょっと・・・」大役過ぎる。荷が重い。プリンセス・ポチもいないし。・・・プリンセス・キューちゃんはいるけど。「・・・7、7か。そういえば、7人なんだね・・・それじゃあそのままセブンなんてのはどう?」「コード・スクエア! ・・・でも俺が批判されるから却下」カルバリー・ディスピアー!ってか。まあ転生とはちょっと違うけど。もしくは魔王ナグゾスサールでも倒しに行くのか・・・いいね。「えっと、じゃあ七星は?」セプテントリオン?「いや、コードネームがちょっとつけられないし」それに名字無い人いるし。白がHになちゃーうよ。サスケがステイツになっちゃうし。「それじゃあ、七色・・・“虹”なんてどう?」「あ、なかなかいいね・・・でも保留」「う~ん、何かこうびりっと来る者が無いね」「そうだなあ。隠れ家につくまで時間があるし、それまでに少し考えておくか」立ち上がり、時計を確認する。まだ、予定時間より10分あるが・・・ん?「来た、か」影分身から連絡が入った。根が隠れ家に急接近中らしい。「・・・よっと」足にチャクラを篭めて、岩場の上へと跳躍する。気配は消したまま、隠れ家のある方角を見て呟く。「想定していた時間より早いけど・・・始まるか」一方、同時刻。森の中静かに建つ、メンマ邸周辺。そこには、“根”の部隊、2小隊が展開していた。幾多の罠の群れを、僅か40分足らずで潜り抜けた手練れ揃い。ハンドサインで合図。1小隊が周囲を警戒する。そしてもう1小隊が、メンマ邸へと静かに忍び寄る。近接し、壁に触った後、ハンドサインを送る。その内容はこうだ。(隠避結界が張られている模様)再び互いにハンドサインを交わし、頷きあう。「・・・」そして無言のまま、正面入り口に小石を投げつける。数瞬置いて「・・・!」もう一つの窓から侵入する。最適のタイミングでの侵入、そう思っていた。だが侵入した直後だ。突如、家の中から大声が発された。『だが足りない! 足ぁりないぞぉ!!』「!?」驚きに硬直する4人。『お前達に足りない物、それは情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さぁ、そして何よりもぉおおおおおおお!!」同時、起爆札が一つだけ爆発した。「く!?」後退する4人に向け、どこかの世界のアニキの名言が告げられた。『速さが足りない!!!』同時、ボンと煙玉が破裂する。そして煙の中から、アヒルのおもちゃがよちよちと歩きながら出てきた。『・・・と、いうことで既にポックン達は脱出済みダピョーン・・・ユー達がノロノロしてっから、クスス、間抜け。アホだね。馬鹿だね。トンマだね。マダオだね。入り口に探知結界が張ってあったの気づかなかった? 御陰でゆっくりと逃げ出せました。あと手始めの爆発だけど、驚いた? 身構えちゃったりした? ねえ今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?』ねじ巻きで動いているのだろう。変な顔をしているアヒルのおもちゃが、おちょくるように左右に動き出す。それを見た4人が、思わずといった風に呟く。((((・・・うぜえ))))感情を知らない筈の『根』が心底苛立っていた。拳を力一杯握りしめている。余程むかついたらしい。硬直したまま動かない根。その前で踊るように歩くアヒル。だが歩き出して数秒後、急にアヒルがその動きを止めた。・・・あるメッセージを残して。『尚、この家は後十秒で大爆発人生劇場になるので、お近くにいる皆様は避難の準備をして下さい・・・それでは“根”の諸君。ごきげんよう、さようなら』突如、部屋の四方から光りが沸き上がる。「・・・っくそ、光玉か! ・・・退け!!」小隊長が叫び、危険を察知したのか、瞬時に外へとでる。光に防がれた視界の中でも鼻と耳は効く。火の臭い、そして起爆札が作動するような音を感じ取ったのだろう。察知から決断。その間、僅か3秒。手練れ故の速さである。「・・・ここから離れろ!」家を脱出後、即座に外にいた小隊へ告げる。それを聞いた小隊は、何故の言葉を問わずに従い、木の葉瞬身を使い家から離れるそしてきっかり十秒後。家の隅々にまで仕込まれている、特製の起爆札が一斉に爆発した。「「・・・・・・・っ!!」」根の小隊は爆風に飛ばされないよう、地面に伏せてやり過ごす。外壁と柱を粉砕され、屋根から崩れ落ちる隠れ家。構造物が破砕する音がする。「・・・まだ、か・・・!」そして倒壊しきった直後、もう一度爆発が起きた。「・・・・・・!!」先ほどと同程度の爆発。それは倒壊した家屋全てを砕き、打ち壊し尽くした。「・・・・・くそ」崩れ落ちた瓦礫を念入りに砕くため。痕跡を無くすための細工。二段仕掛けの爆発が起きるよう、前もって細工されていたようだ。あまりにも念入りな仕掛け。次の目的地の地図など、見られたら不味い情報は軒並み消去されたのだろう。それを悟った小隊長が毒づく。「どうします? 追いますか?」小隊員が苛立たし気に、小隊長へと訪ねる。「・・・・・これ以上深追いすると危険だ。待ち伏せされている可能性も無いとは言い切れん」だが、隊長は撤退を選択した。撤退する理由・・・それは、あの置きみやげのせいだった。「・・・我々“根”も舐められたものだ」わざわざ爆発する事を知らせてくれた。しかも時間通りに。それは、逃げる側の自信の現れだと感じ取ったのだ。『別に追ってきてもいいよ。返り討ちにしてやるから』、と。「・・・撤退だ」不用意に追跡したとして、捕まえられるとは思えない。そして待ち伏せされていた場合、それを退けて捕獲しきれるとも思えない。そう判断した小隊長は、撤退の選択を取った。爆発音を聞いた暗部が調査に来る。今、ここで顔を合わすわけにもいかない、と“根”の8人はすぐにその場を去っていった。「・・・どう?」「・・・退いたな。気配が遠ざかっていく」隠れ家周辺に置いておいた影分身から、情報が入る。「成功したみたいだな。それじゃあ」呟き、岩場から飛び降りる。「次の我が家へと、行こうか。このまま、国境を越えよう」「「「了解」」」一行は立ち上がり、並び歩き出す。「・・・どうしたんですか?」だがメンマだけは立ち止まっていた。それを見た白が、心配そうに話しかける。「・・・・いや」白の問いかけに首を振り、頬を張って自分に活を入れる。「・・・大丈夫そうですね。じゃあ、僕は先に行ってますから」「ああ」白が先に行くのを見て、砕け散った・・・自分が爆破した隠れ家の方に振り返り、1人呟く。「・・・・あばよ、今まで世話になったな」初めて持った、自分の家。それに対しての別れの言葉。「これで、いいんだ・・・行くか」そして皆の方へと振り向き、その場を駆け足で去っていった。「グッバイ、我が家」少し寂しい。その言葉は、虚空へと吸い込まれすぐに風と消えた。そして旧メンマ邸爆発から2時間後。調査隊が帰還した時刻へ、時は戻る。サスケ失踪の報が届いた直後である。自来也が慌てた様を見せながら、火影の執務室へと入ってきた。「・・・綱手! 少し話したい事がある。今、いいかの?」「自来也か。悪いが今忙しい・・・・?」不機嫌な顔をして、自来也の誘いを断ろうとする綱手。だが、自来也の顔色を見て、何かを悟ったのか、その部屋に居る忍びに向けて、退室を促す。「悪いな。追って命令は出すから、それまでは待機。ああ、キリハは残れ」「「「「了解」」」」その場にいた木の葉の上忍・中忍全員がその場を立ち去る。「・・・で? このタイミングで話があるということは、勿論うずまきナルトの事だろうな」「うむ」頷いた自来也に、項垂れていたキリハが顔を上げる。「・・・おじちゃん!? 兄さんは、兄さんは無事なんですか!?」自来也を掴み、必死に問いかけるキリハ。手には青筋が浮くほど、力が込められていた。「・・・どういう事じゃ?」何故お前等が知っている? と不思議そうに呟く自来也に、一連の出来事が知らされた。「手鞠、か。成る程のう・・・こりゃ、ナルト。お前から説明せんか」「・・・いやあ、まさか手鞠が残ってるとは思わなかったわ」そういえば頑丈な箱にしまってたっけと声が聞こえる。同時、自来也のポケットから一枚の白札が飛び出した。「札が、喋った・・・・あ!?」そしてその札は音を立てながら、仮初めの姿からとある少年の姿へと戻る。「心配かけてすいません。今噂の人物です」「・・・兄さん!? 無事だったんですね!?」「ああ・・・っておーっと、掴みかかってくれるなよ。これ影分身だから。衝撃与えられるとすぐに消えちゃうから」影分身の唯一とも言える弱点だ。外側から一定以上の強い衝撃を受けると、すぐにでも消えてしまう。「で? 話は聞かせてくれるんだろうな」綱手が不機嫌そうな顔のまま、ナルトへと事の次第の説明を迫る。「ええ、勿論。そのために、影分身を潜伏させていたんだし」サスケを拉致した後ね、と呟く。「で、何があった?」「はい、実は---」と、一連の事を説明し始めるナルト。ただ、嘘を一つ混ぜた。襲ったのは、“根”ではなく暗部なのだと。キリハが此処にいる今、ダンゾウの事を話すのはまずいと思っての事だった。「木の葉の暗部、か」「そう。隠れ家は放棄して、今は新天地を求めて驀進中---じゃあ、納得しないよね」「・・・当たり前でしょ!! いいから、今何処にいるの!?」詰め寄るキリハに、ナルトは咄嗟に答えた。「ええと、終末の谷近辺。そこに・・・おい!?」ナルトの言葉が終わらないうちに、キリハが執務室を出て行った。何としても本体に追いついて、面と向かって話をするようだ。「・・・はあ。話は最後まで聞けというのに・・・それで、だ」自来也の問いかけに、ナルトは首を傾げる。「はい?」「お主を襲撃したのは“根”の者か?」「ご明察」「はあ、ならば仕方ないかもしれんが・・・このまま出て行く気か? せっかく兄妹、長年の時を経て会えたのだというのに」キリハはどうするという問いに、俺は首を振りながら答える。「どうするもないですよ。どうにかできるんだったら、どうにかしてます。それができないからの選択です。分かってないとは言わせませんよ」「・・・だが、あいつは納得せんと思うぞ」自来也が唸る。頑固だからの、と呟きながら。「・・・でしょうね。まあ取りあえず、直に会って話をしてみます・・・・ああそれと」「何だ?」「我愛羅に、伝えておいて下さい。『約束は必ず果たすから』と。それだけ伝えたら分かる筈ですから」「ふん、それ以外は聞いてくれるな、と言うことだな? まあ、わかった。それで、だが・・・」綱手の表情が、真剣なモノに変わる。「・・・分かってますよ。『あの声』に関してですね?」対するナルトも同じ。どうやら、自分だけの空耳ではなかったようだ、と表情を真剣なものに変える。「どうもな、我愛羅に聞いてから、心中に漂う嫌な予感が消えてくれない・・・そういえば、お前の方はどうだったんだ?」「聞こえましたよ。たった一言。それだけで、キューちゃんが恐慌状態へと陥りました・・・俺も、聞こえました。正直、心の臓を抉られたかと思いましたよ」「・・・それほどまで、か。それで? お前はあの声の主について、何か心当たりはあるか?」「いえ。まだ、声の主については分からないです。ただ・・・」「ただ?」「どういう意図であれを発したのか、と考えましてね・・・あれ、あの言葉なんだと思います? どういう意味で繰られた言葉だと思いますか」「・・・『殺す』か。端に脅しという訳ではなさそうだが」「脅しではないでしょうね。他意は含まれていませんでした」そこで、一端おき、ナルトは断言した。「そう、本当に他意は無いでしょう。ただ、殺す。その事しか考えていないような声でした。正直、初めて聞きましたよ。含むものの無い、純粋な殺意のみで構成されている声ってやつを」思い出しただけでも震えが来る。ナルトはそう言って、小さな声で続きを話す。「殺す、か・・・ねえ、どういう時に『殺す』という言葉を使うと思います?」「・・・そうだな。脅しか、苛立った時とか、敵意を示す時とか・・・・後はそう」「宣戦布告、ですか」「・・・ああ」告げる言葉。お前を殺すと、亡くすと、消すと。存在の否定を示す言葉。「それか、あるいは・・・いえ、何でもないです。今のは忘れて下さい。」言葉を発するも、即座に否定するナルト。「しかし、だ。その場合、宣戦布告をするにも・・・誰に向けての言葉だ? 尾獣にか? もしくは人柱力に対してか?」明確に聞こえたであろう者、もしくは存在は、今のところその2種のいずれかとなる。「情報が少なすぎるな。それだけでは何とも言えんだろうから・・・ワシも、ガマ仙人の方を当たってみる。お主も、それ以外の情報が掴めたら、即座に連絡をくれ」何か嫌な予感がするからの、と自来也が肩をすくめる。「・・・了解っす。じゃあ俺はキリハを待って「ちょっと待て」」との言葉は途中で遮られた。「それと、だな」「何ですか? 綱手姫」「気持ち悪い言い方をするな。5代目火影と呼べ」「了解、5代目火影。それで、何かあるんですか?」「ああ、キリハの事を含め、少し頼みたい事があるのだが・・・」そして始まる、綱手の説明。それを聞いているナルトの顔が、徐々に不機嫌なものになっていく。「・・・正直、そういうのは趣味じゃないんですけど・・・まあ仕方ないですか。でもこれっきりですからね。ああ、それとサスケの方ですが・・・」と即座に交換条件を出すナルトに、綱手はお人好しめと思いながらもその条件を了承した。やがて、時間が来る。「じゃあな、うずまきナルト・・・死ぬなよ」「ええ、5代目火影姫も、末長く健やかに」それを聞いた綱手が、おかしそうに笑う。「・・・っ、医療忍者に言う言葉か」「・・・ああ、確かに。そりゃそうですね」火影の執務室に、2人分の笑い声が響き渡った。「ワシは無視なのか・・・」との自来也の呟きは黙殺されたようだった。