~シカマルside~「さて、どうするか」手元の起爆札を見ながら、ひとりごちる。1人も通す事はできない。キリハの方がどのような事態に陥っているのか。確認できない今、1人でもここを通すのは避けたい。「影真似で動き止めて・・・相手諸共に自爆すれば一番速いんだけどな・・・」結果だけ見れば、最善だろう。確実性も高く、後ろに音忍達を通さないを至上目的とすれば、このうえない手段だと思う。「でも、泣くだろうな・・・」この身は最早、木の葉の下忍。仲間を守れるならば、この命が惜しくあろう筈もない。だが、あの金の幼なじみを泣かすのは、俺と言えど忍びない。「でも、中忍が6人だしなあ・・・・・ん?」ため息を付いているところ、向こうの方で煙り弾が上がるのが見える。連絡用の煙玉。それに応じて、こっちも煙玉をあげる。「・・・そうか。じゃあ、やってみるか」目指すは最善。柄じゃないけど、約束を守るために、いっちょ意地を見せてみるか。取りあえず、獣の足跡を偽装して、一定距離まで近寄る。音の恐らく中忍だろう集団は、前方を意識しているので、影真似で捕らえるのは容易かった。全員を捕らえた後、俺は敵の目の前に姿を現した。「・・・これが、木の葉に伝わる影縛りの術か・・・くそっ、油断したぜ」と零した中忍、その言葉が遺言となった。捕まえる前、予め地面に仕込んでおいた起爆札。その爆風をを至近で受けた名前も知らない中忍は、そのまま物言わぬ肉塊へと変貌した。「・・・貴様!」「・・・へっ、流石に蛇オカマの手下だぜ。間が抜けてやがる」俺が発したその言葉に、音忍達の空気が変わる。それはそうだろう。里長への侮辱は、彼らが最も怒るべき事だ。殺気を剥き出しにして、こちらを睨み付けてくる。(挑発は成功)遺された5人の視線にも、俺は動じない。そんな余裕はない。やがて、俺は手に持つ5つの手裏剣を放つ。「・・・・!?」だが、それは樹上から放たれたクナイに阻まれた。「そこか」同時、俺は影真似の術を解き、「影縫いの術!」影の棘を具現し、樹上の敵へとその棘を向かわす。だが、それは惜しくもかわされた。「ふっ、甘い。これで終わりだな、影使い!」「・・・・ああ、そうだな」俺は、諦めたように肩をすくめる。中忍相手に、不意も討たず、じかもこれだけ距離が空いている。捕らえられるとも思えない。手詰まり、だ。「これで終わりだ!大蛇丸様を侮辱したこと、あの世で後悔するがいい!」音忍が宣告する。遠距離から、攻撃するつもりだろう。大量のクナイと起爆札を取り出して、俺の方へと投げようとする。だが、それは「てめえがな!」背後からの奇襲で遮られた。牙通牙。獣人体術が奥義である。前方に集中した直後の、背後からの奇襲。回避に遅れた中忍はその竜巻じみた一撃に吹き飛ばされ、倒れ伏した。だが、取り出していた起爆札が地面に落ち、起動する。「くっ!」爆発から逃れるため、俺は後ろへと飛び下がる。同時、影真似の術が解かれ、残された4人の中忍達が動こうとする。だが、爆発の範囲から遠ざかっていた1人が、急に血を吐き倒れ伏す。その背後には、掌を突き出した日向ヒナタの姿があった。「・・・柔拳」背後からの渾身の柔拳。内臓まで浸透した一撃。あれでもう動けまい。(これで3対3)俺が先ほどした挑発。冷静さを失わせる本来の挑発の意味とは別に、二つの意味があった。一つ、全員をここに留まらせるため。1人でも、背後に通すことはできないからだ。あの言葉を発した俺を殺すまで、音忍の誰1人として、俺らを無視してこの先に進もうとは思わないだろう。俺だけが目的という訳じゃないかもしれないから、予防線は張っておく。二つ、俺へと意識を集中させ、背後からの奇襲への注意を逸らさせるため。煙玉の意図は見えた。だが、ヒナタもキバも下忍である。技の威力は一撃必倒に近いが、奇襲でもなければ直撃させることは難しいだろう。言葉も仕草も全部フェイク。見事、3対6では勝ち目が薄かったが、これならば何とか『勝つ』見込みが出てきた。(でも、こいつらイルカ先生とかに比べると、弱いな。中忍でも下の方といったところか)俺に追いつくまで時間がかかった事といい、何か非常事態でもあってか、または誰かの代わりとなる急な編成かもしれない。(でも、俺らより地力が上なのは確か)単純な速さ、力においては適わないだろう。奇襲が通じない今、ここからが本当の殺し合いとなる。こちらに集まったキバ+赤丸と、ヒナタ。小さい声で、作戦を話す。(ありがとよ。話はいろいろあるけど、取りあえずこいつらを片づけてからだ)(・・・ケッ、シカマルにしちゃあ随分と熱血してんじゃねーか・・・キリハになんか言われたか?)(うるせーよ)(クゥ~ン)(二人とも、それも後で、じっくりとね。それで、どうするの?正直私達じゃあ、一対一でも分が悪いよ)(取りあえずは・・・)と横へと逃げる。そのふりをしながら、二人に作戦の概要を話す。相手と距離を取ったこの状況なら、聞こえまい。(・・・という作戦だ)(成るほどな。確かに、それなら今の俺らでもできるな)(でもその作戦、タイミングが肝だね。それに、私達は何とか大丈夫だと思うけど、シカマル君の方はいけるの?)(・・・やるしかねえだろ。この状況じゃあ、めんどくせーとか言ってられないしな。じゃあ、いくぞ)(クゥ~ン)「散!」皆がバラバラの方向へと逃げ出す。それに応じて、向こうの方もばらける。その対応は、予想していた。そも、俺らは下忍だ。その中央に残らず、激戦区から外れた俺らを狙っている。その理由を考えれば、すぐに分かった。あいつは影真似の術を聞いていた風だった。ということは、狙いは奈良の秘術だろう。そして今は、犬塚の秘術か、日向の血継限界か。大蛇丸の指示だろう。そこから、対応を考える。俺らは連携しなれてない。ヒナタとキバなら別だが、あの二人で残りの中忍を相手できるとも思えない。それに、相手に連携を取られたら、もうどうしようもない。ゆえに、一対一に持っていく必要があった。(誰も逃がすつもりはないなら、散らばるか。問題は、ここからだ)やがて、相手の1人に追いつかれた。キバの方も、ヒナタの方も、追いつかれた頃だろう。懐にある一つの忍具を握りしめる。(タイミングを間違えれば、全滅。でもやるしかねー)~キバside~「ちいっ、すばしっこい!」「へっ、捕まるかよ!」「ワン!」クナイを避けつつ、反撃に移る。だが、相手の速度はこちらより少し上。敏捷性ではこちらが少し上なので、捕まったりはしないが、こちらの攻撃もそうそう当たらないだろう。(今は、機を伺う・・・!)迂闊に攻撃に出て、失敗すれば死ぬ。それに、キリハ戦のような不様な失敗を二度犯すつもりはなかった。(まだか、シカマル!)~ヒナタside~(速い・・・!)相手のクナイを白眼で見切り、避ける。その速度、精度は、流石に中忍といったもので、避けるだけで精一杯だった。軌道を見切る事はできるが、それを捌くのは自分の腕。柔拳を当てる以上、近寄る必要があるが、近づけばそれだけクナイの対応も難しくなる。これ以上近寄れなかった。(でも、シカマル君の予想は当たっていたね。生け捕りが目的なのか、大きい術を使ってこない)そこを突く。シカマル君の分析も判断も、信頼に足る内容だった。間違いはないだろう。だから、私は私の役割をする。1人でも欠ければ、この作戦は失敗する。ならば、ここは時間まで生き残る事を優先する。(仲間を守るため)あの人が残していった言葉にならって。私はここで退くわけにはいかない。(キリハちゃんにも、いのちゃんにも、サクラちゃんにも。ここで失敗したら、顔向けできないもの)生の殺気に当てられても、もう身が竦むこともない。桃さんにもらった言葉を反芻し、私は私を保つ。「くっ、埒があかんな・・・はっ!」音忍が瞬身の術を使う。そして、私の背後へと回り込む。(甘い、見えてる!)その背後から繰り出された一撃を、私は目で捕らえて避けきる。「外したか・・・だが、もう見切った。お前に勝ち目はあるまい。所詮は平和ボケした木の葉の里の下忍。はなからお前等に勝ち目などないのだ」得意げに語る中忍。だが、私はそれを無視する。「だからどうした、と言わせてもらうよ。そっちが有利だろうが、私達が下忍だろうが、死ぬ理由にはならない。第一、もう3人もやられてるのに、どの口でそれを言うの?・・・それに、能書きが長いわよ障害物。こっちも約束してる事があるのよ」「何ィ?」ギリギリと歯ぎしりする中忍を睨み付け、横の木に柔拳を打ちつながら宣告する。「往く道がある。それをふさぐ壁は、叩いて壊す。邪魔する障害物も、叩いて壊す。この目と掌を持ってね」「・・・小娘が!」「だからどうした!」挑発に乗って近接戦を挑んでくる。その一撃を捌き、柔拳を叩き込む---「甘い!」防御の腕を掲げる中忍。(そっちがね!)---だが、柔拳は虚動。警戒されている柔拳を囮として、側面に回る。だが、相手も反応に遅れながらも、こちらの方向を向く。そこで柔拳を放とうとするが、反応した中忍はその腕を掴もうとしてきた。(触るな!)だが、それも虚動。伸ばそうとした腕を即座に折りたたみ、肘の一撃を横腹の急所に決める。「ぐうっ!?」直撃。先ほどの言動を囮とした、一撃。そして、即座に後退する。近接戦の速度で言えば、向こうの方が若干上だろう。そう分析しての判断だった。近接距離で長居しすぎるのは危ない。無理に、ここで倒す必要はない。機は既に用意されている。そう思った直後、爆発音が辺りに響きわたる。(合図!)空へと昇る煙を確認して、その場所へと向かう。「くっ、待て!」開けた場所で、シカマルが膝を突いている。相対する中忍は、無傷だった。「苦し紛れの起爆札、か。だが、無駄だったな。もう万策尽きただろう。諦めろ」おとなしくすれば、命までは取らない、と言う言葉を無視して、シカマルは静かに距離を取ろうとする。だが、足がもう動かなかった。「お仲間も、こちらの方向へと逃げてきているようだな」その言葉を聞き、シカマルは気配を探る。確かに、ヒナタとキバは中忍どもに追われてこっちに逃げてきているようだ。「動くな。動けば殺すぞ」とクナイを構える中忍。既に、シカマルは満身創痍。あちこちにクナイが突き刺さり、血を流していた。「ああ、動かないよ・・・」そこに、キバとヒナタ、追って中忍がやってくる。開けた場所、集まった6人。「俺はね」そこに、空から玉が降ってきた。同時、光が当たりに爆発する。「くっ光玉か!」目を庇う中忍。「だが、これだけでは・・・」そこで、言葉が止まる。「・・・何故身体が動かない!?」そこには、放射状に広がる影があった。中心に、シカマルの影。そして、伸びた影の先には、3人の中忍の影があった。シカマルはめんどうくさそうにため息をつき、そこにいる全ての者に、言った。「王手だ」倒れた中忍の横で、3人と一匹は安堵のため息をついていた。「よくやったな、赤丸!」「ワンワン!」キバに頭を撫でられる赤丸を見て、シカマルは苦笑する。「ほんと、ありがとよ。光玉投げ込むタイミングも、完璧だったぜ」こちらに意識を集中させる。そこで、木に登って隠れていた赤丸が光玉を投げ込む。開けた場所で光玉を炸裂させる。そして、その瞬間伸びた影で、シカマルが相手の影を捕まえる。単純な作戦だったが、上手くいった。ギリギリだったが。「相手が油断してたのも大きいね」油断させた所を、ドカンである。何より、赤丸への注意をそらす必要もあった。問題点は、一対一で時間稼ぎできるかということだが、何とか乗り切れた。「あー、でももう2度としたくねーな」増血丸を飲み込みながら、シカマルはへたりこむ。そしてキリハが向かった先の方角を睨み、ひとり呟いた。(約束は守ったぞ、キリハ。ちゃんと戻ってこいよ・・・)