「麺道大原則ひとぉーつ!・・・ラーメンは、あまねく人に食べられなければならない!」 麺王体系・汁ナイト 10話「豚骨のメンマ、信念の叫び」より抜粋 「熱ちー」きちー。熱すぎる。やってきました砂の里。良い塩が取れると聞いたんで、心配事は色々とありますけどやってきました。まあ、この里も広いんで、そうそう狸さんに会うことも無いでしょう。気を付けていれば逃げられますし。それに、我が変化に死角はありません。潜伏もお茶の子さいさいです。「それにしても、熱いな」『砂漠だからね。そりゃ熱いよ。それにしても、懐かしいなあ』ちょっと昔を思い出しているようです。「マダオ、この里に来たことあるのか?」『第一次忍界大戦の時に少しだけね』ああ、木の葉の里、砂の里とも血みどろの抗争してたんだっけ。『この里に、守鶴のやつがいるのか?』キューちゃんが聞く。割とどうでもよさそうだけど。「うん。まあ、人柱力憑きだけど」心底関わり合いに成りたくない手合いです。視線が合っただけで殺されます。ヤンキーより酷いです。さておき、噂の良い塩、探してみますか。容器に入れた水で水分を補給し、里の中へと入り込んだ。(警戒厳重だな・・・)木の葉とはえらい違いです。入り込むのに苦労しました。里への出入り口が少ない分、警備も其処に集中しています。まあ普通、忍の里は外からの侵入者に敏感にならないといけないですからね。買い物とか色々しなければいけないので、商人に変化しました。本物は別の里に出張中です。『ほら、あそこは?』里に入ってすぐです。ちょっと大きめの商店が見えました。「行ってみるか」ついでに水も確保しておかないとね。さっきので全部飲んじゃったし。(結構、良い塩だな)店で一舐めさせてもらいました。良い具合です。鶏がらスープに合いそうです。大枚をはたいて、結構な量を確保しておこう。「まいどあり~」取りあえず、宿で厨房を貸してもらおう。鶏も買って、と。麺は市販のものにしますか。あそこで買いましょう。「え、ラーメンの麺がない?」「はあ・・・」おっちゃんにすいません、と言われました。うどんか、素麺しかないそうです。なんじゃそら!『まあ、無いのは仕方ないんじゃない?第一、こんなに熱い里なのに、ラーメンとか食べないでしょ』裏切り者!『・・・あの、提案なんじゃが・・・ちょっと、ちょっとだけの、久しぶりにきつねうどんでもしてみんか?』小さい声でキューちゃんが呟きます。・・・そんなに頬を赤くするんなら、素直に食べたい、と言えばいいのに。『ええい!食べたいわ!食べたい!これでいいのじゃろ!』腕を上げて怒っています。八重歯が剥き出しになってます。・・・何この可愛い生き物。(じゃあ、まあちょっとだけ、って嘘。作るよきつねうどん)その姿に胸を打たれました。ちょっとクラッと来ました。心の中のマダオは膝を付いてます。足に来たようです。じゃあ、うどん麺と、素麺を買って帰りましょうか。そういえば、流し素麺とかしないのか・・・って無理だな。水は貴重だろうし。いっそ、忍術でどうにかならないか。水遁・流し素麺の術!とか。・・・それも無理だな。麺諸共に吹っ飛んでいる景色しか浮かばん。宿で厨房を貸し切りします。どうもこの店、客が少ないようで、多めの料金を渡したら、要望に快諾してくれました。世知辛いです。出汁を煮込んでいる間、暇なのでマダオと一緒に術の案を練ります。火影の知恵に九尾のチャクラ。夢は広がります。とはいっても、今の自分が持っているチャクラ、何やら混ざり合っていて、純粋な九尾のチャクラとは違うようなんですけどね。禍々しさは少し成りをひそめてます。きゅーびのチャクラ、と言った具合です。原因は分かっています。修行を初めてから数年、ここ最近やっと気づいたんですけど、どうも俺たち魂レベルで癒着してしまっているようです。この身体の本来の持ち主であったナルトの精神が崩壊した後、取って代わろうとした九尾、封印術式に組み込んであったミナトの人格、そして暴走して時空間の隙間から口寄せされた俺の魂。入り乱れ、頭と頭がごっつんこ♪負けたーらどんどこしょ。ってな具合です。今の所、主人格は俺です。マダオは別人格みたいなものですか。キューちゃんはまた違った感じですが。もちろん、記憶等は共有していません。何か、多重人格みたいですね。これも、なんとなくのフィーリングで推測した事なので、詳細はまだ解明できていないのです。キューちゃんがまともな人格を有しているのも、このためと思われます。まあ、解明次第ある事をしようと思っていますが、まだそれは先になるでしょう。ともあれ、術の開発です。一応砂の里の中なんで、普段の五倍は真面目にしましょう。囲まれると流石にやっかいなことになりそうなんで。「捕縛系の術とかほしいな」破壊系、というか正面から倒すような系統の術は、螺旋丸でどうにかなるし。背後からなら術なんて不要。機を読む目と気殺があればどうにかなります。ここは一つ、正面から立ち向かう場合で、それでも相手を殺さないようにする術が欲しい。あまり殺しすぎると、どうなるか分からないし。使えばあぼーんする術しか無いのはちょっと。『うーん、でも基本は、動いている忍びが相手でしょ?捕縛術が必要となると、最低でも上忍クラスになるしね』それ以下だと、殴って気絶させます。術は不要です。『・・・そうか、そうだね。追尾型捕縛術とか、どうかな』相変わらず頭の回転が速い。それに、知識も豊富。おかげさまで、次々とネタ技ができあがります。で、どんな具合?『標的に術式をマーキングして、それを追尾するようにすればいいと思うよ。飛雷神の術の応用だね』捕縛する網は、封印の術式を組んだ柔らかく強靱な布がいいそうです。空間跳躍する飛雷神の術よりは簡単だそうです。検討しましたが、何とか形になりそう。欠点は、チャクラを食い過ぎるのと、その捕縛布を作るのに時間と材料代がかかること。これはきゅーびのチャクラでなんとかなりそうです。布はマンパワーですね。ちょっと金を食うけど、そこは我慢です。そして、料理の方が完成しました。きつねうどん。俺のテンションは余り高くないですが、キューちゃんの方はもう、有頂天です。『『「いただきまーす」』』三人でいただきますをします。ある程度、主人格である俺が意識すれば、感覚を共有できるのです。初めてそれをやった時は、二人とも呆れていました。何で呆れていたんだろう。『・・・・♪』キューちゃん、すごい美味しそうです。聞きました。・・・無茶苦茶美味い、そうです。あれですか。俺たちがもっっっっっっっっっっのすげえ美味いラーメンを食ってる時の味がするとか。そういう感じなんでしょうね。好みの問題なんでしょう。俺は何よりもラーメンが好きだけど。キューちゃんはラーメンを食べても、あまり美味しいとは言いません。ラーメンは普通、だそうです。むしろきつねラーメンとかどうか、と言ってきます。それは・・・どうだろう。くそ。いつか絶対、俺の作ったラーメンで、美味いと言わせて見せます。「熱いなー」夜。熱くて寝られません。仕方ないので、窓を開けます。風がいい感じ。『綺麗な満月だね』そうだね。世界は違っても、月は変わらないね。うん、いいこと言った・・・・って何か忘れているような?(まあ、いいか。取りあえず寝よう)やがて、小一時間過ぎた後です、ようやく、眠れそうな案配になりました。(あ・・・いい感じ、このまま・・・・眠れそうかも・・・)その時です。「何だ!?」飛び起きます。部屋の上から、もの凄い音がしました。歯ぎしりします。(せっっかく眠れそうだってのに、どこの馬鹿だ!)怒りに身を任せ、窓の外から、音のした屋上へと駆け上がります。「うるさいんだ・・・・ょ・・・・・・ぉ?」屋上を上がった先、見たものは!右を見ます。砂の忍の死体。左を見ます。隈、ひょうたん、デコがチャームポイントの、少年。おもいっきり目があいました。「あ、およびでないようですね?・・・・じゃ」手をシュタっと上げて、よっこいせ、と屋上から降りようとします。ですが、「みぎゃー!?」砂が追いかけてきました。ちょっ、不味いって!「取りあえず、撤退!」屋上から跳躍。空中でくるりと一回転し、地面に着地します。そして背後を見てみますが、「ついてきてる!?」まるでホラーです。いざ、自分の立場になってみたら分かりました。これ、怖すぎる。「明日への撤退!」得意の逃げ足。逃げます。断固逃げます。そして、一歩目を踏み出した所、「女の子?!」砂の里の者でしょう。まだ忍びではないような、3歳ぐらいの女の子が地面に座り込んでいます。(砂の忍びと我愛羅との、殺し合いを見てしまったのか?)我愛羅は、親である風影にしょっちゅう命を狙われている、とは聞いています。死んでいたのは、その暗殺の任務を受けた忍びでしょう。そして、それを我愛羅が撃退。女の子はその時の現場を、全てでは無いようですが、見てしまったのでしょう。恐怖のあまり、ガタガタと震えています。(くそっ!)咄嗟に助けに行こうとします。が、その前に、女の子の元へと飛び込む姿がありました。速さから察するに、忍びでしょう。間一髪、砂が振ってくる前に、女の子を抱えて飛び上がります。しかし、砂の衝撃で砕け、飛び散った外壁がその忍びの足に当たります。「くっ・・・・我愛羅!もう止まれ!」(テマリか!?)服の詳細は覚えていませんが、その巨大な扇子には覚えがある。テマリは未だ震えている女の子を抱え、膝を突きながら、必死に我愛羅に呼びかける。「ぐっ・・・・ガアアアアアアアアアアア!」ですが、我愛羅は止まりません。(満月のせいか!)満月の夜には守鶴の血が騒ぐ。そう言っていた気がします。やがて、ゆっくりと腕状に変形した砂の塊が、二人を打ち据えようとします。(仕方ない、か)振り下ろされる、(原因は俺なんだから)その腕を、(見過ごす訳にはいかない)チャクラを込めた掌打で破壊しました。「・・・・何?」背後で、テマリの戸惑うような声が聞こえます。ですが、ここで振り返る訳にはいきません。「取りあえず、下がってろ。こいつの相手は俺がするから、お前はその女の子を逃がしてやれ」俺は、右手の掌に左手の拳を打ち付け、目の前の化け物を正面に、構える。テマリは戸惑いながらも、後方に跳躍して、その場を退く。対峙する。その異様と。「ガキが・・・・」『ナニモノダァ?オマエハ・・・』化け物が問いかける。それに、俺は笑って答えてやる。「・・・・通りすがりの・・・・・・・・ラーメン屋さんよっ!」震脚。大地を揺らすと同時、全身にチャクラを行き渡らせる。俺の言葉、そして気迫。それを見て、嬉しそうに笑う化け物。そしてその笑いが収まったと同時、砂の飛礫が俺を打ち砕かんと殺到する。砂時雨の術、か。「憤!」それをチャクラを込めた手の平でいなし、捌き、逸らす。同時、込めたチャクラで微塵に砕く。捌ききったその後も、安堵のため息はつけない。丸太のような大きさの、砂の塊。化け物の異様をそのまま現したかのような醜悪な腕が、俺の頭蓋を砕かんと振り下ろされる。「遅え!」その一撃を、半歩横に出てチャクラを込めた掌で受ける。そして力の方向を逸らし、横に受け流す。「もらったっ・・・・!?」その砂を横に捌き、距離を詰めようとしたが、捌いた砂が解け、またこちらを捕まえようと絡みついてくる。「破ぁ!」絡みつこうとする砂を、チャクラを込めた裏拳で砕く。そして、後ろに飛び下がった。また、最初と同じ距離。今なら、逃げられるだろう。『・・・逃げないの?女の子達、もう逃げられたみたいだけど』「逃げるよ。でもな」こいつ、気に入らない。あんな小さい女の子、そして実の姉を殺そうとした。むかついたから一発だけ、殴ってやらなければ気が済まない。『馬鹿だね』と嬉しそうに笑うマダオ。分かってるよ。これが馬鹿な行為だって事は。逃げた方がいいって事も分かってる。それでも、だ。俺も理屈だけで生きてる訳じゃない。計算だけで生きてる訳でもない。取りあえず、ぶん殴る。あの光景にむかついたから、ぶん殴る。こいつがむかついたから、ぶん殴る。痛いのも怖いのも嫌だけど。困ったことに、それでも引けない時がある。『不器用じゃの。人間は』器用は綺麗だけど、つまらない。そう思うんだ。そんで、そう思っている自分としては、ここは、「ガアアアアアアアアアアアアア!」「行くしかないでしょう!」捌く、捌く、捌く。その飛礫も、波のような砂も、その腕の一槌も。全て見定め、捌く。心技体と誰かが言う。そしてそれはその通り。武は技。武は体。そして何よりも、武は心。(この場は戦うと決めた、その選択、その意地、そしてその一を、)捌いた先の間隙。攻撃と攻撃の間。生まれた、一瞬の機。「貫く!」全身を強化し、全力で踏み込む。相手から見れば、消えたかと錯覚するような速度。腕を振り、砂を弾きながら震脚。振った時に生まれる、腕の遠心力。そして踏み込んだ地面からの、反動。その力を全て腰に乗せ、回転させながら、腕を突き出すその先へと集中する。同時、腕自体も回転させる。九尾流・絶招の壱 「螺旋螺旋(らせんねじ)」腰の回転と腕の回転。重螺旋を一転に集中させた一撃。衝撃を浸透させるよりも、貫く事を重視した技である。「グアゥ?!」吹き飛ぶ、我愛羅+守鶴。それを尻目に、俺は撤退を開始した。(砂の忍びも集まってくる頃だろうから・・・・?)視線と気配を感じて、その方向、建物の上を見るとテマリが呆然とした表情でこちらを見ていた。(おー、落ち着いて見ると結構可愛いじゃん)やがて俺はシュタと片手を上げると、その場を去った。「さー、逃げるか」『塩、忘れてるよ』「しまった!?」といっても、今更取りに戻れない。「ま、いいか」収穫はあった。塩ラーメンを作る時は、ここの塩を使おう。しかたない、と呟いて、俺は砂の里を脱出した。