好敵手、ねぇ。
誰もオレの相手にはならないよ。
覆させてもらうよ、才能ってヤツを。
狂った歯車の上で
ヒナタに言われた。
一緒に下忍になろうね、と。
そして今回で計画は決行する。それよりも、オレはヒナタと歩きたかった。
「ナルト、最近なんかあったか?」
担任の海野イルカが胃薬を飲みながらそう尋ねる。
教師として大丈夫なのだろうか疑問に残るが、まぁ海野イルカだから大丈夫だろう。生徒からの信頼は誰よりも厚い人だ。
そんな生徒中から人気のあるイルカを前にナルトは目線も合わせず椅子に座っている。
イルカがナルトを心配している理由は簡単なことであった。
ナルトが授業に出るようになった。ただそれだけであるがイルカにとっては驚愕に値することであった。
前期の時からサボりがちで周りとの壁を作っていたうずまきナルトが普通に授業に出て、そしてテストでも満点を取るような生徒の鏡のような存在となっていた。
イルカ以外の教師の大半はうずまきナルトという存在を疎ましく思っている。九尾の事だけではならず、態度の悪さからもきている。授業にでずにテストだけ出て、それでいて満点取るような輩がよく見られるわけがない。
最初こそ平等に扱っていたとしても次第に壁は溝となり疎遠となっていた。
「いや、別に……」
うずまきナルトは目の前の存在が苦手だった。
ナルトは臆病者で努力家である。
彼はあの日、大蛇丸に無能と言われてから明らかに変わった。
死ぬこと、負けることを極端に避けるようになった。
死んだ瞬間自分の価値が決まる。無能という烙印によって。
負けた瞬間自分の価値が決まる。無能という烙印によって。
彼は強さに固執し続けた。負けないように。認められるように。そして、捨てられないように。
彼は、自宅にある書室での生活が主だった。身体は鍛えようとはしない。医学を学ぶに従って最も効果的な時期を待つことにした。より強くなるために。
彼は自分が強くなる為には知識が必要だということにたどり着く。
知恵は才能、知識は努力で養われている。才の無い者は知恵という応用で上下が決まる世界では生きられない。故に知識でしか道を歩けなかった彼は目の前にある書物はすべて暗記という作業をし続けた。
覚えられなかったら覚えられるまで読み続ける、学び続ける、脳に焼き続けた。彼の生き方とも言える地味で、愚直な方法は彼に最も効果を表した。
小さい頭脳に詰め籠められるだけの知識は詰め込んだ。それでも足りないと彼は焦燥感に追われ孤独と書物に埋もれて生きてきた。
専門外であるが心理学も学べるだけ学んだ。人の気持ちは詳細までは把握なんて出来ない。それでも大まかなことくらいは想像できる。
それ故に理解が出来ない。目の前の存在が。
家族を殺された。きっと恋人も、もしくは好きだった人も殺されただろう。それだけではなく仕事での相棒、親友、心を許した仲間も殺されただろう。
それなのに身心に自分のことを心配してくる目の前の存在が分からない。
「アンタ、オレの事が嫌いじゃないの?」
その言葉は自然に出た。
普段の彼ならばそんなことに体力は使わず自宅での自分への虐めに徹するための睡眠を取る筈である。
「おいおい、教師に向かってアンタなんて言うもんじゃないぞ」
そう言って笑って話しかけてくるイルカを冷やかな眼で見る。否、観察する。
「それじゃあイルカさん……なんでオレのことを恨んでないの? オレ、アンタの大切な人達を殺したんでしょ? それなのにオレを恨まないなんて以外と先生って薄情なんだ」BR>
知識を総動員させて目の前のイルカが最も嫌うであろう言葉を選ぶ。
アンタの大切な人を殺したのはオレじゃあない。だが、この里の奴らはそう認識している。もはや自分の意思では覆すことも不可能。もとい覆すつもりも無い。勝手に勘違いしてやがれ。
「………なんでそんなことを言うんだ?」
イルカは悲しそうに、演技なのかもしれないがそういう感情を表面に出してそう言う。
忍者は感情を表に出さない。そういう訓練は受けているだろう。逆に相手を騙すための訓練は受けている。
信じられない。
「はは、皆が言ってるんだ。なら、そうなんだろ?」
自分からは答えを言わない。
相手が勘違いするのを待つ。なぜなら滑稽だから。真実も知らずに踊っているヤツを見るのが同じように踊っている自分が楽しめる唯一の楽しみだから。
「そう自分を苛めるな。見ているこっちが辛いんだよ」
「それならずっと辛がっとけ。それが嫌なら無視しろよ。ほかの教師みたいによ」
明らかに同情している。目の前の存在は自分を同情している。
同じ孤独だからか? 周りを見てみろ、アンタの周りにはアンタを慕っている奴等がいるだろう。
「そういえば居たな。ミズキって教師がこのアカデミーに」
思い出す。この学校で最も自分に敵意を送っていたヤツを。
「……そうだな。今頃なにをしているんだろうな」
イルカは悲しそうにそう言う。
アンタはすごいよ。アイツがばしばしと送ってた敵意や殺意に気づかずにいるなんて。なんてお人好しなんだ。
「知ってるか? アイツ、オレと眼が合うたびに睨んでたんだぜ。それも殺気を送ってな」
だから殺した。真っ先に殺した。自分にとって害でしかない奴を生かしておく義理もない。
「………そうか」
イルカは急に立ち上がる。
「ナルト、お前は焦りすぎだ。もっと周りを見てみろ。お前の周りにはお前を助けてくれるやつが沢山いるぞ」
そう言って書類を調えて教室から出て行った。
残った俺は一人教室で佇んでいる。
「周り、ねぇ………碌なヤツがいねぇよ」
皆、才能ある奴らばかりだ。
「門を閉めるぞ! お前ら早く家に帰れ!」
用務員なのだろう。顔も知らない中年が叫んでいる。
「……お前ら?」
知らないうちに寝てしまっていたのだろう。窓の外は綺麗な橙色となっている。
自分の隣、すぐ横で見慣れたはずの少女が寝ていた。
初めて見る寝顔に今までとは違う心臓の脈動を感じた。ここまで無防備な状態の人を見たのは初めてだった。
「なんでいるんだ?」
そんなことも考えている暇の無いのか、用務員の中年が怒って何かを喚いている。
仕方なく少女を起こそうとしても一向に起きてはくれない。
「ああ、重い」
そう言って後ろに背負って自分のかばんは口で噛んでもって、彼女を支えている方の手で彼女のかばんを掴んだまま学校を出た。
最初に思ったのが夕日が綺麗だということ。
掴もうとしてもつかめない至高の美麗。誰だってあそこまでは輝けない、夕日が唯一許された最高級の居場所。
ナルトは夕日の明かりに照らされながら自分の頬が赤くなっているのを隠して足を動き出した。
とぼとぼとヒナタを背負って帰路を歩く。
一向に目覚めてくれない彼女から伝わってくる暖かさに心臓の脈動は止まらない。
自分がこの状況に喜んでいると隠せない自分が嫌いになった。
自分に好意を寄せているのはなんとなく分かる。ヒナタは素直だ。純粋過ぎて将来変なヤツになにかされないかナルトは心配するくらいにヒナタは純粋だった。
ナルトは素直にヒナタが綺麗だと思う。
容姿だけではなく心も綺麗だと心の中で分かっている。自分と真逆の位置にいるということも。
「……ん…」
もぞもぞと背中越しでヒナタが起きるのを感じた。
やっと起きたか、という安心感。もう終わりか、という喪失感を同時に感じ一瞬困惑してしまう。
「起きた?」
そんな困惑を捩じれた意思で無理やり叩き伏せて気遣うような声でヒナタに尋ねる。
「ご、ごめんなさい!」
自分がおぶられていると気づき次第にそういってナルトから離れようとするヒナタをナルトは離さなかった。
両手で足を固定させてヒナタを降りさせないようにする。
「もうちょっと、このままでいさせてくれ」
そう言ってまたゆっくりと歩き出す。
とぼとぼと。ゆっくりと足元を踏みしめて、暖かさを逃がさないように。
「……はい」
ヒナタも顔を夕日に負けないくらいに赤くさせて小さく言った。
そんなヒナタをおぶっているナルトにとってはその回答で十分だった。
ゆっくりと。ゆっくりとナルトはヒナタをおぶって歩いた。
眼を開放する。
広がる視界、未だ慣れないこの感覚に四苦八苦しながら目的である人物を見つける。
屋敷の奥では目的である男は食事中であった。
その男は木の葉にとって重要な役を担っていた。
それが音の里にとっては邪魔であった。そいつはオレに対してなんの干渉もしなかった。なんの干渉もだ。
オレが飢えで苦しんでいる時、オレのことなど考えずに真っ白な米を食べていた。
オレが痛みに悶えている時、オレのことなど考えずに布団の中で気持ちよさそうに寝ていた。
神様は世に対して不平等だ。
そんなものに気づいたのは早かった。
「そんなことはどうでもいい」
ナルトは屋敷まで1㎞ほど離れた火影の顔の彫られた崖の上で腰を落とし、左腕を弓を引くように後ろに引き絞る。
その手には一本の千本が握られている。
視界を更に透過させ目的である男のこめかみに向かって今の自分が出来る最高の動きで千本を放った。
それは筋肉にチャクラを浸透させ、神経を弓の弦のように限界まで引き絞って、すべての関節を理想的な動き。
そして流れ落ちる星の如く、屋根や壁など問題なしというばかりに直進して、目的である男のこめかみを貫通した。
男は何時殺されたのかも知らずに死んだ。
急に倒れた男に周りの皆が混乱するなか、ナルトは闇に紛れて逃げた。
「ハァ…ハァ……ハァ…」
ナルトは家に辿りつき次第倒れた。
「またかい?」
椅子に座ってそれを見ていたカブトは既に何度も見たのか落ち着き払っている。
そんなカブトを見上げながら余力を振り絞って余裕の顔を作り
「すぐに……慣れますよ」
ナルトはそう言った。
ナルトの顔の半分、左側は赤く腫れ上がっている。
無理やりに移植させた白眼の左目がナルトの左目の周りの経絡系を無理やりに活性化させたせいだろう。
拒絶反応をやりすごし、痛みに耐えながら生き抜いたナルトの新しい眼はそれでもうずまきナルトという少年にやさしくなかった。
カカシでさえ負担が多いと言う血継限界の移植をカカシとはまったく正反対のナルトがするのには程度が違った。
負担という簡単な言葉では言い表せないほどの痛みと疲労がナルトの中で起こっている。
ナルトは『特別』を欲した。
そして手に入れた。
ヒザシという生贄を使ってナルトは力を手に入れた。
使うたびに洗練されていく視界、使うたびに自分の汚れきった生き様に酔う。
意地を張ってまでも皆に認められようとはしない。勝手に勘違いしておけばいい。自分を作り上げたのは正しく勘違いした奴らなのだから。
「それで、ちゃんと殺せた?」
カブトが心配もせずに言う。
期待に応えようとする道具を見て確信も抱いている。
それに応えようと道具も吼える。
「大丈夫、です」
汚れきっている自分が今更何に躊躇するというのだろう。
時々思う。
自分は何時から感情が乏しくなったのだろう。
それが嫌だという訳ではない。
ただ、何時からだったのかが分からなくなっただけ。
「さすが、僕の助手だ」
きっと先生の笑った顔を見たときなのかもしれない。
「始め!」
その言葉で二人の戦いは始まった。
「今日こそくたばりやがれ、不良品」
言い終わるのと同時にサスケは地を駆けナルトへと接近する。
「てめぇこそくたばれ、雑魚」
今日こそ潰す。そう胸に誓いナルトも飛び出す。
二人の速過ぎる動きにほとんどの生徒が追いていけていない。
「ハァッ!!」
その呼気と共に繰り出されるサスケの拳打。
以前との速さの違いに一瞬眼から離れてしまうナルトはスウェーの動作で上半身を後ろに皮一枚で避ける。
そこから身体を捻るようにサスケの顎下を蹴り飛ばす。
「ちっ」
ナルトはサスケの顎を砕くつもりで蹴りを放っていたのに手応えが無さ過ぎて掠っただけだと瞬時に判断し更に前進する。
床が軋むほどにまで踏み込まれた一歩は恐ろしい程の速さでサスケまでの間合いを脅かす。
サスケも追撃は予想内で準備は出来ていた。
蹴られる直前に背後に飛んでいたので着地と同時にナルトに向かって跳ぶ。
黒い弾丸と金色の弾丸はぶつかり合い、そして止まる。
肘と肘、肩と肩、額と額で競り合って二人は熱戦しているかのように周りは見えた。
フッと二人の均衡は崩れた。ナルトが力を抜き跳び退った。
「て、てめぇ!」
そのナルトを追おうと踏み込んだ時にサスケは見た。
ナルトが何時も以上に眼を細め、何かに集中しているの顔を。
何かが来る、そう思った時には全てが遅かった。
ナルトの身体が霞む程にまで回転し、そこから足が飛んできた。
後ろ回転蹴りだと気付く前にサスケは顔の側頭部を蹴られ壁まで吹き飛んでいた。
リーが好んで使っていた木の葉旋風をナルトは知識としては知っていた。知識は使わなくてはただの情報となる。
教師が試合を終わらせたのは仕方の無いことだった。
あの回し蹴りで試験官を蹴り飛ばして特別試験を合格したリーを見ていたのだから。
それを難なく放ったナルトに教師は驚くが、それ以上に毎回毎回強くなっていくサスケの才能にも驚いていた。
それはナルトにも同じ。ナルトの顔は無表情に近い顔になっていた。
サスケの進化が明らかに見えてきている。
自分との距離を恐ろしい速さで縮めてきているサスケの才能に嫉妬を感じたナルトはこの場で殺しておけばよかったと思った。
いつか、必ずうちはサスケは今よりも遥かに強くなって自分の前に立ち塞がるだろう。
それも絶対的な敵として。それだけは我慢できない。
試合の一部始終を見ていた女子達は一勢にサスケに殺到する。もちろん例外に存在する。
ナルトの悪口が聞こえたりするがナルトは相手するつもりもなく小鳥の囀りを聞いてるように聞き流す。
自分を呪う度に黒い何かが流れ出す心臓を押さえながら外に出ようとするがそれを止める者が現れる。
「あっはっは! ナルトよくやった! 見てて最高だったぜ!」
犬塚キバはそう言ってバンバンと肩を叩いてくる。
ナルトはキバが嫌いになれないでいた。
それは動物に優しい、というのもあるが周りなど気にしないという性格で自分に声をかけてくるキバの性格が気に入っていた。
「お前くらいだよ。あのサスケに勝てるのは」
にぎやかにその他の男子達も笑っている。
「あたりまえだ」
自信を持ってそう言った。
オレは負けない。そう言った。
サスケだけじゃない。誰にも負けやしない。そう心の中で何度も言い続ける。
自分は強い、そう思わなくてはなにしても希望もない。可能性を信じられないヤツはあった筈の可能性を潰してしまう。そんなことにはしたくないとナルトは思った。
『君にはうちはサスケにとって超えられない壁でいて欲しいわけだ』
カブトの言葉が頭の中で響き渡る。
先生が言うから、そう思ってナルトは引き受けたが気分が変わった。
自分は強い。先生の助手が負けはしない。そうナルトは心に誓う。
「おー、今日も勝ったな」
「ん? シカマルか」
急に話し掛けられてナルトは驚きもしたがすぐさま表情を作り変えていつもと同じ顔にする。
シカマルは頭がいい。簡単に感づいてくる。
「今日はサボってないんだな」
「お前と一緒にするなよ」
そう言ってナルトはゆっくりと腰を下ろす。そして体中の酸素をため息と一緒に吐き捨てる。
ナルトがサボらなくなってからシカマルは学校という檻の中の生活が格段につまらなく感じるようになった。元から楽しいとは思っても無かったが更につまらなくなった。
「明日は卒業試験だもんね、サボってられないよ」
そう言うのはチョージ。優しい人だと皆が知っている。それと同じくらいによく食うヤツだというのも知られている。
「そうだな。今度は受からないとな」
ヒナタと約束したからな。そうナルトは心の中でつぶやいた。
これ以上泣かせたりしたら、どうなるんだろう。心が潰れそうだ。
「お前ほどのが前回は受かれなかったのかよ」
しまった、とナルトは心の中で狼狽する。
シカマルは勘が鋭い。
「はは、入院してて試験すら出来なかったよ」
そう言って悔しそうな表情を作る。
ナルトにはもう慣れた作業であった。
「んじゃ、今回は大丈夫だな」
そう言ってシカマルも床に腰を下ろす。
「そうだね。ナルトが落ちるような試験に僕達が受かる訳ないしね」
そういうチョージ。
自分を評価してくれる仲間がいるという事実にナルトの涙腺が緩みそうになるがなんとかそれを抑える。
「あたりまえだ」
ならば、それに自信をもって応えるとしよう。
ついにやってきた卒業試験。
さすがに寝坊も出来ないのでナルトは前日は久しぶりに早い時間から寝ていた。
窓から射しこむ朝日が彼を起こす。
それからはゆったりと時間を使ってだらだらとアカデミーに向かっていった。
身体を酷使し続けて入るが所詮体は子供である。連日徹夜などしたら体も壊しはするし腹を冷やせば下しもする。
下忍になると言われたときカブトはいつも通りどうでもいい、というような感じで頷いていた。
彼からしたらナルトが音の里にとってマイナスになることをしなければどんな行動でも許容する。
ナルトはカブトにとっては道具であり、それはナルトも自覚している事実でもある。抑えれば抵抗するのが人としての性であることもカブトは知っている。故に最低限は自由にさせている。
「まぁ、気張らないで行ってらっしゃい」
挽きたてのコーヒーを喉に通してカブトはそう言う。
「行ってきます」
そう言ってナルトも家から出て行く。最近は眼の下に隈も出来ていたが久しぶりの睡眠でいい顔になっていて少年に戻っていた。
カブトはナルトが才能に悩んでいるというのも知っている。苦しんでいるのも知っている。それを自分が楽しんで見ていることも知っている。
「まぁ、どうせ受かるだろうけど……」
カブトの悩みは止まらない。
スパイとして木の葉に滞在しているのに、それでも助手というモノを作ってからは中々に面白かった。
それでも
「同じ下忍か……やり辛いなぁ」
どうでもいいんだけどね、と唇だけ歪ませて残ったコーヒーを飲み干した。
どういう訳か、カブトはビーカーでコーヒーを飲む。
試験、というにもおこがましいモノはすぐに終わった。
実態を伴わない分身の術が出来たくらいで忍びになれるのだろうかナルトは疑問に思った。
それでも試験に受からない者もいるらしい。
同情する―――同じように才能の無い者に。
「お前なら落ちるわけねぇよな。 今度こそ卒業できてよかったな!」
犬を頭に乗せた少年、キバが背中を軽く叩きながら言った。
キバは"ナルトは頭がいいのになんで前回落ちたんだ?"という疑問もあるにはあるが素直に祝福するいいヤツである。
ナルトにとってキバはうるさいがいいヤツというので認識されている。
「あたりまえだ。それと、ありがとう」
自分を祝福してくれてありがとう、とナルトは言う。自分を憎んでいないヤツは誰でもいいヤツに移ってしまうナルトは自分でも嫌いだった。それでもいいヤツだと思った人には優しくなってしまう。
「まぁ……落ちるとは思ってなかったけどよ」
シカマルがナルトならそれくらい簡単に受かるだろうから心配ないだろうといった思慮を込めてナルトに言う。
「ボクも大丈夫だと思ってたけど心配してたんだよ」
チョージも自分の合格祝いに新しいお菓子の袋を開けながらナルトに言った。
以外にも自分の合格を祝ってくれている人間がいることにナルトは嬉しく思う。
成長の過程で感情が乏しくなることもあったが嬉しいということは敏感であった。心の奥底で望んでいたのかもしれない。
コツ、とナルトの耳に聞こえた。
暗部が見張られている時があった。至る所から殺気や敵意を送られた時もあった。そんな中で生きてきたナルトは感覚神経に常に微弱なチャクラを通して強化している。
「そろそろ戻った方がいい。来たぞ」
「んじゃ、ボチボチ戻るか」
シカマルも怒られるが好きという趣味は持っていない。
シカマルの行動で皆がつられて席に戻っていく。
「席に着け、話を始めるぞー! ってみんな座ってたか。さっきまで声が聞こえてたのに」
不思議に思いながらもイルカは教壇の前に立ちこれからのことを言い始めた。
「それでは今から下忍の班編成を発表する。今から言うメンバーの一部はもう変えられないからな」
静かになったのを見計らってイルカが生徒に向かって言う。
『えーっ!!』
生徒達、主に女子からの不満があがる。
それにイルカは一瞬苦笑いをしてから真剣な顔を作る。
それよりも遠足にでも行くつもりだったのか? とナルトはため息を吐いた。
それで楽しそうに任務に行って死んでこい、というのがナルトの願いでもあったりする。
「だーっ!! うるさい!! 各班の力関係を均等にするのにこっちで決めたんだよ!! 悔やむなら今までの自分の成績態度を恨んでくれ」
不満の声が止まらなくなってきた生徒に怒鳴るイルカ。
「問題が起こらない限り当分このままなんだからな。文句は受け付けないからな」
もう遅い、過去の自分を恨めと言って皆を黙らせる。
「それじゃあ発表するぞ? まずは1班からだ………」
イルカが名前を呼ぶたびに生徒達の顔が変わる。
下忍になるということは社会人になるのと同じ意味である。それなのにその危険性に気付けないでいる同世代の生徒達にナルトは何度目かのため息を吐く。
遂に6班が終わる頃には呼ばれた者同士でくっついていたりして話していたりする。
「続いて7班……うずまきナルト……」
皆が次に呼ばれる者が誰であるか考える。
それはあの不良生徒と同じ班で過ごさなくてはならなくなる被害者、という見方である。ヒナタは自分になれるか期待に溢れた眼でいたりする。
「……うちはサスケ……」
一瞬クラス全体がざわついた。
クラス全員が見た。うずまきナルトとうちはサスケが同じように嫌な顔をしているのを。
続いては女子になるのだがサスケがいるというと話しが違ってくる。
皆が次は自分がいい、という目で口を開きかけたイルカを凝視する。
そんな視線など気にしないかのようにイルカは次の人物を言った。
「……春野サクラ。以上の3名。……次は8班……」
春野サクラ。今、隣に座っている背の高い女子・山中いのに勝ち誇った顔で何か言っているその名が示す通り桜色の髪の少女はは嬉しそうな、サスケ同様に嫌そうな複雑な表情を浮かべている。
カブトの諜報活動を真似て情報を集めていたナルトから言わせると「自分以上の頭脳を持つ少女」くらいであった。
羨ましいとも思うがそこまで執着もしなかった。成長の兆しはなさそうだったから。
サクラの嫌そうな顔を見てナルトはアンタの方が醜悪だ、と思った。
女子の大半以上はナルトのことを嫌っている。
誰だってそうだが好きな人や仲の良い人が嫌いなものは本人も嫌いになっていくものである。
サスケのことが好きな女子はナルトを嫌っていればいつかサスケに声を掛けられるかもしれないと思っている。
馬鹿だなぁ、とナルトは毎回思っている。
―…おかしい、班の組み合わせが偏り過ぎている…―
成績は最後になって授業に出始めたというのもあり態度と教師の贔屓でかなり悪いが一度もトップのサスケに負けてないナルトがうちはサスケと同じ班だというのもおかしいとナルトは考える。
―…10班なんか全員旧家だ。8班も名家が入っている…―
下忍になれるのは九名だけというのは知っている。ならばその他の班は捨てるということなのだろう。そうナルトは結論付けた。
それも知らずに楽しみにしている生徒達を嘲笑する。
イルカは一度呼吸を正し、
「さて、これから担当の上忍の方が呼びにくる。大人しく待ってるように」
そう言って退出した。
時間は有限だ。モノに終わりがあるように、時間にも終わりはある。
「オレ達のこと忘れてんじゃない?」
この教室にいるのは7班のみ、他の班はとっくに担当がきて連れて行った。
ナルトの言葉が無常に響き渡った。
ナルト達以外の班が全て出て行って三人きりになってから30分経ち、扉が開いたとき、本当に三人とも眼を輝かして入ってきた人物を見た。後片付けに来たイルカは本当に驚いたらしい。。
イルカは三人の愚痴を聞きながら軽く掃除して出て行った。
なんともむなしい出来事であろうか。
サクラは何度もサスケに声をかけていたがその挑戦した数と同じ回数撃沈した。
ナルトは最初の10分で眠りについていた。イルカが来たときは飛び起きたがその直後また眠ってしまった。
一時間が経過した。
サスケとサクラからは黒い空気が醸し出されている。ナルトは夢の中で旅行中である。
最後にイルカが出て行ってから2時間経ち、やっと担当上忍が来た。
上忍はまったく空気を読まず
「すまんな、自宅の前が工事中だったんだ」と言った。
「「ふざけんな!!」」
サスケとサクラは前置いて相談していたが如く息を合わせてそう言った。ナルトはまだ夢の中で旅行中である。