世界が変わった。
氷だけの世界は敵には厳し過ぎた。
無限に表れる氷針は敵を次々と刺し殺していく。
敵は近寄る事も出来ず、火遁の術で応戦しようにも此方の水遁忍術の使い手のほうが数倍上手だった。
鬼童丸が作り上げた鉄の柱を抱えて特攻した次郎坊は全身が血塗れになろうとも動きを止めることなく殺し続けた。
多由也の狂気の旋律は正しく敵を発狂させ味方の精神を雄雄しくしていく。
中でも鬼童丸の攻撃は鮮烈で過激だった。着弾と共に爆発する遠距離からの攻撃は誰も防ぐ術も無くただ殺されていった。
大蛇丸と君麻呂は最前線で最も敵を殺した。相手の攻撃を避けるよりも先に殺し続けて気が付けば敵はもういなかった。
洗脳された実験体達は捨て駒も同然で特攻を繰り返し一つの里を滅ぼす。
俺は久しぶりの全速力で駆け巡り右手に生えた五本の飛燕で切り刻み続けた。防具なんて意味が無い。その為の速さと切れ味なのだから。
回天で敵を吹き飛ばし、そして更に前進。気が付けば敵の中枢で俺は相手の返り血で血塗れになりながら更に敵を殺していた。
敵には同年齢ほどの子供も沢山いた。それと同じ数だけ俺は殺した。
もう何も感じない。虚無のまま悲鳴を聞き流し、腕を振るって、
大切なものを守った。
狂った歯車の上で
「先の見えた戦いほど意味の無いものはないわね」
大蛇丸の動きは更に速くなる。優雅な動きなど既に無く、それは殺す為だけに積み重ねられた動きだ。
殺伐として機械的な、とても殺風景な動きだった。
左手に握られた草薙で相手の首を突き刺して右手での片手印で忍術に繋げる。
風遁・大突破の術で前面に広がる敵の群れを纏めて吹き飛ばす。チャクラによって大蛇丸の吐息が増幅され風圧を強くする。
「大蛇丸様、ご無事ですか」
敵が散り散りになった直後に現れた君麻呂は、出掛ける前と何ら変わりがなかった。
「余裕よ。彼は今どこにいるのかしら?」
一段と気合が入っていたのが印象に残っている。生きて帰ってくる、そう叫んでいたのを思い出した大蛇丸は君麻呂に尋ねる。
よく殺し合いなどといって殴り合っているが、ただじゃれているだけにしか考えていない大蛇丸は二人はライバルなんだと思った。
九尾が何かしろの手助けをしなくとも無事に生還できたのではないだろうか、と最近になって思い始めた。
あれはただ大蛇丸に対してうずまきナルトの可能性を固定させるための演技だったのかもしれない。
「一人で敵の本部まで行ってしまいました。追いかけましょうか」
「その必要は無いわ」
君麻呂の表情に一遍の心配も無いのが証拠だった。自分の答えをよく分かっている、そう大蛇丸は嗤った。
「あと何人くらい殺せばいいのかしらね」
そう言いながらチャクラで作ったカマイタチで敵の六人を纏めて切り刻んだ大蛇丸は、実際に楽しんでいた。
木ノ葉からの出身なだけによく分かる。相手の里の質の悪さが。大した強さじゃない。まるで塵だ。
「一人当たり百人」
「とっくにノルマは達成してるわ」
相手の刀を無視するように砕いて草薙の剣は相手の頭蓋を斬り潰した。
何事にも余興は必要だ、大蛇丸は笑みを浮かべて最大級のチャクラを込めて印を組む。
こんな時でしか満足な食事が出来ないと愚痴っていた奴を思い出す。思わず顔が引きつって笑い出す。
「食事の時間よ」
巨大な白煙から表れたのは山ほどの巨大な体をした王蛇が現れる。
【食後に呼び出すんじゃねぇッ!!】
怒り狂ったマンダをそこで放置して大蛇丸と君麻呂は逃げ出した。
攻撃の準備をしていた鬼童丸は暴れだす蛇から逃げている大蛇丸を見つけて飲みかけだったお茶を噴出した。
別に飛燕が刀の形態でなくてはならないという決まりは無い。全てはイメージだ。
相手を殺せるなら、どんな武器でも使って見せてやる。
一瞬で槍の形態になった飛燕を前方へ向けて放つ。
指揮官と読み取った男の心臓付近に拳大の穴が開いたのを見届けて五本の飛燕を合わせ十数メートルまで伸ばして回天を放つ。
仲間が切り刻まれて吹き飛んでいくのに敵の戦意は衰えるばかりだった。
「い、命だけはッ!!」
そう泣き叫んだ少年がいた。可哀相な奴だ。戦力にならないってことは上官が分かっていたのに駆り出されたのか。
だけどよ、戦争を甘く見てんじゃねぇよ。死ぬんだぜ? もう終わっちまうんだ。在ったかも知れない幸福と、在ったかも知れない絶望、どっちも味わうことなく消えちまう。何も無いよりは在った方が絶対にいいんだよ。
奥歯を噛み締める。
バチッ、と右手から空気が爆ぜる音がした。
千鳥の要領で風を纏わせた拳は筋肉の抵抗も感じさせぬまま心臓を貫いた。
無駄なチャクラを使わない。あとは肉弾戦だけで突っ込んだ。
血の匂いに酔っていた。戦争の意味すら知らない子供を相手にしたとしてもただ「殺しやすい敵」でしかない。
「音の忍びを甞めるなよッ!」
気が付けば夜なのに、視界から深紅の色は消えはしなかった。
時間は夜になった頃だろう。
返り血で重くなった上着を抱えて音の里へ戻った頃には皆が既に揃っていた。
「遅すぎよ」
大蛇丸の一言、
「その分は働いた。許せよ」
濃厚すぎる血の匂いが頭を蕩かす。妙に体が軽く感じる。視界が明瞭となって筋肉が反り上がる。
そして足が震えている。
「怪我人は無いわね。上出来よ」
そう言って大蛇丸は見渡す。
再不斬、水月、白。この三人は音の里の最後の砦であり最強の盾だ。氷の鏡の中の白は誰よりも速い。それこそ大蛇丸と同等かそれ以上にだ。再不斬と水月が作った音の里を囲むような湖の上で白に勝てる奴なんていやしない。この三人がベストで最強だ。
だからこそ攻めに徹せられた音の五人衆を防ぐ事なんて到底無理だ。
多由也の幻術を防ごうとする者は鬼童丸の狙撃で簡単に終わっちまう。君麻呂の骨もすごいが俺には鬼童丸の蜘蛛粘金の方が恐ろしい。鉄よりも固くチャクラを通さないのであればそれこそ忍びに対する絶対にさえなる。それを持った次郎坊が相手の忍術に屈する筈がない。
次郎坊も血塗れだが俺の方がもっと血に塗れてる。別に自慢しているつもりはないが自然と分かってしまう。
今日は人の死を見過ぎた。生と死の境界線があやふやになってくる。どこから死なのか、どこまでが生なのか。首が離れていれば死、肌がまだ黄色ければ生。もうどうでもよくなってくる。
「帰還しました」
唐突に扉が開いてカブト先生と左近達が入ってきた。
随分と高揚している様だ。近づく実力者に気付けないなんて、戦場ならば即座に死だ。
「それで、首尾は?」
にこりと笑った大蛇丸。きっと失敗だったのならその場で首を切り落とすだろう。そんな気がした。
まさか、先生にそんなことがあるはずが無いのだが。
「分かりきった事を聞かないでくださいよ」
メガネを整えてそう言うカブト先生はかなり酔っている。血の匂いにだが。
「探すのにかなり時間が経っちまった」
左近のその言葉、
「十分よ。いい働きだわ」
大蛇丸がそう締める。かなり上機嫌だ。
彼は俺を含めた全員を見渡して、一息ついてこう言った。
「次の戦争はもっと厳しいわよ」
時刻は深夜、俺たちは二回目の戦争へ出向いた。
チャクラは…戦うのに支障は無いだろう。
言われるまで気がつけられなかった相手は、まぁ…なんつうか、暁だった。
仲間を殺されて目的としている尾獣を殺されていたらそりゃ復讐に来るもんだ、なんて気楽なノリで言っていた再不斬を殴りたくなった。
鬼鮫、デイダラの二人を殺しただけで残りの全員が来るかもしれない、そう言っていた大蛇丸の表情は久しぶりに嫌な笑みを浮かべていた。
死ぬ、それを知っている笑いだった。
心の中で分かっていた。大蛇丸は死にたいと云う願望を抱えている。
やる事がなくなったのならいなくてもいいんじゃないか? そう思ったのだろう。
もう大蛇丸に現世にいる意味は無い。
ならば、思ったとおりにさせてやるのが心意気だ。
「殺られる前に殺しなさい。もし、もっと、もっともっと生きたいならね」
そう言っていた大蛇丸の言葉が酷く俺の中に浸透していく。
上等、暁にはさすがに苛付いていたところだ。強いからって調子に乗ってんじゃねぇ。
「帰ったら、アカリと旅行に行くんだ」
「それ、死亡フラグよ」
「うっせぇ、気合いれてんだよ」
「同じようなセリフをゲームで見たことあるぜよ」
「…そいつ、どうだった?」
「主人公よりもカッコ良かったぜよ」
「過去形だよな」
「過去形よね」
さて、帰ったらどこ行こうかな。