普通の人の半分も生きられない世界を生きて、苦しみなさい、か。
なかなか良い、地獄だね。
こんな幸せな苦しめ方があるなんてさ。
自嘲しながら思考という名の渦に身を任せていると不意に景色が変わった。
目を開くとそこには最愛の人。
とんでもなく馬鹿で、
とんでもなく素敵で、
とんでもなく大好きで、
「兄さん、良い朝だよ」
この人と一緒に生きたい。
狂った歯車の上で
重く圧し掛かってくる殺意に身を任せる事ができずに俺は静かに目を瞑る。
そうしている俺の目の前で大蛇丸とどっかの里のお偉いさん方が罵り合っている。
「音の里風情が調子に乗るな」内容はそれに限る。
どうやら俺の知らないところでも大蛇丸の暗躍はあったらしく散りも積もって爆発したらしい。
前の任務でも俺と君麻呂で関係ない他の里の奴等を殺しまくったけどね。
「騙される方が悪い。勿論、殺される方もねぇ」
笑みを浮かべてそう言った大蛇丸の言葉は正しく真理だった。ちなみに今は変装している。一応は内緒なのだ。音の里長が大蛇丸であるということは。
「音の…その言葉、取り返しがつかぬぞ」
この集まりの中で最も老けているように見える男は殺気を込めてそう大蛇丸に言う。
ダサいね、さっそく良いように扱われているじゃないか。忍びの仕事は騙す事よ。
「別に、困る事でもないわ。あんた達程度じゃあねぇ」
大蛇丸が抱えている思惑、戦争による里の強化。
今ここには音を含めて四つの里の長達が集まっている。それを相手にここまで啖呵を切るなんて頭がおかしいとしか思えない。
「私の部下を舐めない事ね。痛い目じゃすまないわよ」
大蛇丸のその言葉に体の心が疼く。それは熱く刺々しく。
いいね、そういう言い方。こっちまでやる気になってくるじゃないか。
自分で言うのは変かもしれないが俺は既に音の一員だ。嫌だけどよ、俺もこいつの部下なんだ。
認められる事を拒める筈がない。
大蛇丸の後ろに座っているのは俺と君麻呂、君麻呂は大蛇丸の言葉に薄い笑みを浮かんでいる。
これからのことを想像しているのだろう。この戦闘狂は。
「次回会える日を待ち望んでいます」
そう言って立ち上がって今日の話し合いの為に設けられた部屋から出て行くのを俺等は黙ってついて行く。
背後から向けられる殺気は快感だった。
「なかなかに饒舌じゃねぇか」
「ふん・・・連中、目を丸くしてたわ」
「戦争、ってのは分かった。だけどよ、どうすりゃ俺等の勝利になるんだ。どうせあいつ等はどっかで隠れてるぜ」
「敵を殲滅すれば何も出来ないわ」
「簡単に言ってくれるね」
「まさか、出来ないの?
「ふざけんなよ。出来るに決まってんだろ」
大蛇丸は俺の言葉に満足そうにする。
「先週からカブトと左近を敵の里に放ってるわ。内側から勝手に死滅する」
最近見当たらないと思っていたら……手の速いこった。
「私の里の連中は他の塵共に負けるような柔じゃない。私の半分も生きてない子供が心配する必要がないくらいにね」
「それを聞いて安心したぜ」
「問題は……住民よ。邪魔だからさっさと消えて欲しいけど、それは難しい。できるだけ迅速に終わらせたいわ」
「無茶言うなよ、相手は三つの里だぜ。一日二日で終わる程の相手じゃあない」
「何のために実験材料を開放したのよ。記憶の改竄までして使わないのなら死ぬまで実験よ」
「この外道が」
「今更よ」
俺達は嗤った。
全ての感情が消えたような気になった。俺は目をつむった。開けた。
見える世界は美しく、未来があった。
周りの強国との脅威から去られ、平和に過ごす俺とアカリの未来が。
ヒナタに会った時から落ち着かない日が続いて、自問自答の日々が続いて、やっと結果が出せた。
自分と関係のない豚共を殺すだけで築ける幸せならば、俺は喜んでこの両手を血で染めよう。
ママゴトの時間は終わりだ。
何人殺しただろう。もうよく分からない。
カカシがどれくらい罪の無い人々を殺したか分からない。きっと俺よりも多いだろう。
あの時は時代が悪かった。戦争は悪夢に表れる程に跳梁跋扈していた。
誰もが俺を認める。
誰もが「良くやった」と褒めちぎる。
それでも足りない。差は歴然だった。未だ、俺はカカシと同じ場所に立てていない。
「もうAランクの任務は無いよ」
目の前で綱手はそう言う。
写輪眼、それが俺に真実を伝えてくれる。
「Sランクでいい」
「死にたいのかい」
ああ、それでもいいか。
「俺では不満か」
「そういう意味じゃない」
意味が分からない。あの時言ったじゃないか。いつカカシと同じ立場になったんだ、と。
俺はまだなれてない。ならば、今のままでは足り無すぎる。
「変わったね」
「変わらなければ進めない。それに気付いただけだ」
「あの頃は輝いてたよ」
「分かったんだよ」
世界ってのがどれくらい醜いってのが。
初めて人を殺した時、相手は抜け忍だった。汚らしい顔で俺が千鳥で心臓を貫いた。
悪い奴だから仕方ない、そう思う事で罪悪感は無かった。
違ったんだ。気が付けば殺す事ばかり考えていて罪悪感が無い事に罪悪感を感じるようになっていた。
殺す事でしかカカシに並ぶ方法が無い、そう考えるようになった。敵を殺す事、これがもっとも記録という形で残りやすい功績。
いつからだろう。皆といる時よりも一人でいる時の方が落ち着けるようになったのは。
いつからだろう。太陽が好きだったのに今では一人で月を見るようになったのは。
近々、戦争が起こるらしい。
音の里を中心にその周りが、だ。きっと音の里が生き残るだろう。
その時ナルトは更に人を殺す。ナルトのことだから自分の為に、ただそれだけの為に人を殺す。
強い奴だ。自分の為だけに両手を汚すなんて、今になって分かった。
自分勝手な奴だと内心罵っていたさ。これは本心だ。だけどよ、世界を知った上で自分勝手に振舞える奴がどれだけいるというんだ。
それに気付けなかった俺はちっぽけだのさ。
「引き受けさせろよ、その任務」
綱手は深いため息を吐く。
すまない、としか言えない。きっと俺がしていることは単なる自虐行為でしかないのだろう。
だからといって止めるわけにはいかない。俺がここで止めるという事は俺が追いかけている奴等に対する侮辱だ。
否定したくない。自分の為に他人の全てを終わらせるという業を。
「死ぬな」
綱手の言葉が重く圧し掛かってくる。
死ぬな、か。もうどうでもいいことだ。生きるも死ぬも少し視過ぎた。どこに境界線があるのかも分からなくなっちまった。
「相手は」
「13人」
「十分だ」
死んでから生まれ変わっても意味なんてない。
生きている間に生まれ変わらなければ、その生に意味は無い。
三年後なんですけどね。原作の始まりの前に音が動きます。
原作の方だと長門君は禁術を作りたがってますがこっちだと既に破綻してますね。三年後のサスケはドライです。