「そこに入れ!」
ナルトは砂隠れの牢屋に入れられた。
顔を変えたとはいえ不審人物に思われるようにしていたのだから当たり前だ。
砂崩しを行なうというのに今は牢屋の中、それでもナルトは笑っていた。
右手に指一つに対として填められている五つの指輪が鈍く光った。
どれほどの時間がかかったのだろうか、ナルトは自分の脈を測り続け正確な時間を知っていた。
そして小さく唇を歪ませ笑った。
その直後、砂の里で大爆発が突如起こった。
一つではない。幾つもの大爆発と呼べるものが合間なく起こった。
「さぁ、公開オペの始まりだ」
狂った歯車の上で
口寄せで呼び寄せた扇と刀、そして白衣を身に纏ってオレは前を見据えた。
初めの一歩と同時に抜刀し牢屋を断った。
切れ味はそこまで良くない、だが中々に、いい強度だ。
鬼童丸は言っていたワイヤーよりも堅い。それは鉄以上だということを指し示す。その時から思っていたのが武器だ。
変な技術はいらない。オレにとってはマイナスだった。
それに鬼童丸は言っていた。蜘蛛粘金はチャクラを通さない、と。
つまり電気やチャクラの塊を無視して相手を切りつけられるということ。
これは完全にサスケの千鳥を殺せる、そう考え鬼童丸に頼んで作ってもらったのがこの刀だ。
惚れ惚れとその刀を鞘に仕舞い今度は扇を手に取った。
アスマがくれたアイアンナックルと同じ材質の金属で作った扇だ。
これならば、更に回天を昇華できる。
旋風を発動させ一気に回天を放った。そしてそれと同時にチャクラを込めた扇を振るい一気にチャクラを風に変えた。
音が消失した。景色が変わった。全てが吹き飛ばされていく。
上であった爆発、あの木の葉の忍び達に放った鬼童丸の遠距離の攻撃だ。
それと同じくらいの大爆発がこの地下で起きた。
所詮は砂、踏まれて無くなれ。
「ーーーッ!?」
足の裏のチャクラも風に変換させて最大速度で砂の隠れ里を走りながら見かける忍び全てを斬って行く。
狙うのは首、上忍以外の忍びがほとんど知覚する前にオレに首を切り落とされていく。
もう20人は切った。さすがに本拠地だけあって人数が多い。それでも刀に罅一つ入らずにオレに答えてくれる。
切り殺していった20人の忍びのうち何人かは子供だった。それでもいつかは音の里を恨むだろう。
そう思うと後悔一つせずに切れた。いつかこいつ等がアカリに危険を及ぼすかもしれない、そう思うと寧ろ切ることに喜びを感じた。
ドンッ! と近くでまた鬼童丸の起爆札付きの攻撃が炸裂した。
相変わらず物凄い威力だ。
壁一つ先では次郎坊の岩石投げが見えた。家一つ分の岩を忍術で作り上げそれを投げている。あいつにしか出来ない攻撃だ。
逆の方向では骨で出来た竹薮が出現していた。そしてその骨の先には何十人という忍びが一気に突き刺され息絶えていた。地下からの奇襲にして一撃必殺である君麻呂の攻撃は味方でもあるオレですら恐怖を覚えてくる。
君麻呂は大蛇丸の僕だ。大蛇丸側にさえいれば戦うことも無いだろう。故に安心してオレは更に切って行った。
左近達は暗殺が主本だから上層部を殺しに言っているだろう。多油也の術は味方にも被害が蒙るから住民相手にしてもらっている。
最後まで文句を言っていたがお前にしか出来ない、と言ったら素直に了承してくれた。
町のほうから悲鳴が相次いで聞こえてくる。どんな幻術を掛けているのかを想像するだけで恐ろしい。
「いたぞッ! 一斉に放て!」
背後から中隊が一斉に手裏剣やクナイを放ってくる。中には忍術を放とうと印を組んでる奴等までいた。
普通ならば危機だろう。前までのオレならば為す術もなく逃げていただろう。
だがな、その為に道具を揃えてきたんだよ。
オレは刀を鞘に仕舞い扇を出して全力で扇いだ。
範囲は広く、出力は手裏剣を跳ね返せる程度、それで十分だった。
風に変換されたチャクラが敵の一斉放火を全て跳ね返しす。返ってきた手裏剣やクナイにアイツ等が一瞬動揺した。
一瞬で、十分だ。
ブースターのように足の裏から風が吹き出しその一瞬で遥か後ろにいた奴等の間合いを殺した。
「馬鹿がッ!」
右手に填めた五つの指輪にチャクラを込めた。そして現れた五本の飛燕で十数人いた砂の中隊を一撃で斬殺する。
扇とは違う。高純度で作られたこの指輪はどれだけチャクラを込めても壊れやしない。だからオレも全力でチャクラを注げる。一瞬だけの具現に抑えて襲ってくる小隊や中隊を更に更に殺していく。
もっと、もっと来いよ!
オレは叫んだ。早く掛かって来いよ、その方が早く終わらせられる。
中忍試験で見かけた女がいた。気が付けば女を殺しにオレは走っていた。
「ちぃ!」
舌打ちをしてオレよりも巨大な扇を煽った。
大量の風、そしてその中でも剃刀のようにぎらつくカマイタチ。
それに対して怖くはなかった。
もうこれは中忍試験とは違う。オレは白眼を開眼させて風の軌道を読み取りもう扇を振るえない距離にまで入り込んでいた。
「テマリッ!」
肉体操作とチャクラ活性化で作り上げた右腕という槍で柔らかそうだった脇腹を薙ごうとしていたのだが横から傀儡が飛び出してきた。
その傀儡から飛び出した、毒を塗られた刃がオレの肩に刺さった。
きっと目の前のテマリと呼ばれた女を助けるための牽制用だったのだろう。
だが、オレは刃に刺されながら右腕だった槍で女の顔面を貫いた。頭蓋骨の堅い感触と脳漿の温かい感覚を味わう前に傀儡を操っていた男を殺しに走った。
「てめぇ、よくもテマリを!」
顔に自来也のような化粧を施した男を刀で横薙ぎに断とうとしていたのだがその直前に一つの傀儡が邪魔に入った。
ガン、と堅い感触。だが、この刀の方が数倍堅い。
本当に真っ二つ、綺麗に邪魔に入った傀儡は再起不能になった。
「か、烏が! それにこれはどういうつもりじゃん!?」
これ? これと言うと聞こえてくる断末魔の叫びか? それとも目の前で頭のないテマリと呼ばれていた女か?
でもよ、
「これは戦争なんだよ!」
真横一文字、腰溜めから一気に伸びるように全関節を使った居合いを男に向けて放つ。
「くっ、口寄せ! 黒蟻、山椒魚ッ!」
さすがに傀儡師、指の動きだけでは誰よりも早い。
オレが男の間合いを詰めるよりも先に傀儡を呼び出しやがった。そしてオレの剣先は二つの傀儡の表面を削って通過していった。
「やりずらいな…逃げるか」
男に背を見せてそう言うと男はオレの視界の影で安堵の息を吐いていた。
オレの白眼を騙し通せる訳がねぇ、テメェの寿命はテメェが決めた。
「んな訳ねぇだろッ!」
背を向けた状態からの居合い。身体を捻る遠心力を使い先ほどの真横一文字の居合いよりも速度が上がっている。
だが、相手も甘くない。
「アンタが甘い奴だなんて思う訳ないじゃん!」
山椒魚と呼ばれていた傀儡を盾に飛び出してきた黒蟻が大量の暗器を放って襲い掛かってくる。
「どんなに鈍い奴でもそろそろ毒が回ってくるじゃん…大人しくーーー」
確かに、あの毒なら今頃倒れているだろうよ。
だがよ、伊達に大蛇丸はここの風影になってなかった。毒の調合表くらい持って帰ってきているんだ。
最初から毒なんて効いていねぇよ!
「黙って死んでやがれッ!!」
右手に集めたチャクラを螺旋状に回転させる。前までのオレならば圧縮しきれずに目の前の傀儡に囚われ殺されていただろう。
んなもん、回転を逆にするだけで解決した。それだけだった。
それだけに完成された螺旋丸はサスケ以上に力強くオレを更に昇華させた。
生半可な斬撃では傀儡は繋げられてしまうが、削り壊された物を直すことは不可能だよな?
「くたばれッ!」
黒蟻ごと傀儡を使っていた男を螺旋丸で粉砕した。たかが丈夫な木程度で守れると思ってんじゃねぇよ!
声すら出さずに腹に穴をあけられショック死した男を見直すことなくオレは仙人掌で傷口を塞いだ。
毒は効いていないがそこに弱みを見入られる事は避けたかった。
この二人は上忍に近い実力を感じた。
テマリと呼ばれていた女は遠距離で戦えば化けただろう。傀儡の男もテマリと呼ばれていた女が目の前で殺されて平静じゃなかったのだろう。もう少し平静ならば好戦くらいできたと思う。
《貴方は音の五人衆で一番弱い》
それを聞いた時は狂いそうになった。俺が一番弱い? そんなことがあり得ない。
《だけどね、戦い方次第では最強になれるのよ》
そうだった。俺は音の里に寄与されてから何を学んできたんだ?
そりゃーーー暗殺だ。
今、目の前で厄介な傀儡の術を使ってた婆が倒れた。
ありゃ上忍とか関係ないくらいに強かったからな、俺一人じゃ殺せねぇわ。
だから兄貴を使ったんだが思った以上に上手くいった。最初に隙を突いて婆の夫(みたいに見えた爺)に右近を寄生させる。指先でも触れられればそこから右近は性病のように(なんかやだな)移っていく。
俺が逃げてから婆が爺に絶対に触れるだろう。心配だろうしな。だが、もうその時点で爺は右近に殺されてる。細胞単位から殺せる右近なら簡単だしな。
そして爺に触れた婆にも右近は入り込んでいく。もうこれでお仕舞いだ。
「もう終わったか? 兄貴」
倒れて動かなくなった二人が次第に壊れて…うわぁ、ひでぇ殺し方するぜ。細胞を殺しすぎて形が崩れてらぁ。
「俺にばっか仕事させてんじゃねぇぞ」
婆から出て来次第にそう言う兄貴に俺は肩を竦めて叫んだ。
「馬鹿野朗! 右近も見ただろ、あの傀儡の数! ありえねぇって! 俺、死にそうだったんだぞ!!」
「左近が弱いからだろ」
「そりゃねぇぜ」
肩を竦めて苦笑する。終わりがよければ全てよしって奴だ。生きてりゃいいんだよ。
「仕事終了の狼煙でも上げとけよ」
「それくらい右近でも出来るだろ」
「面倒なんだよ」
チィ…俺も面倒だってんだ。俺等は兄弟なんだからよ、嫌いなもんはお互いに嫌いなんだよ。
俺が殴りつければ人は粘土のように形を崩して死んでいく。
俺こと次郎坊は岩を殴るのも飽きて皆が殺し損ねた残り物を殺している最中だ。
今、目の前で逃げていた中忍であろう奴を殴って殺した。
こういう時に本当に思うんだ。腕力だけは鍛えておいて良かったって。
全力で殴っていたら多油也からのストレスが解消されていくのが分かるんだよ。
「これは脂肪じゃないッ!」
状態2のまま全力で四人一気に両腕で殴りつける。面白いように吹き飛んだり穴が開いたりして死んでいく。
「これは筋肉なんだよッ!」
そう言いながら俺は突っ走る。
こんなことをしてなきゃストレスで過労死してしまう。
ある程度ストレス発散したから君麻呂の方へ向かおう。
今日の晩御飯な何にしようかな。
住民側から叫び声が聞こえなくなってきた。多油也の忍術の有効範囲の広さは脅威だ。こんな短時間で終わらせるとは。
多油也が木ノ葉崩しの際の大蛇丸の守りに徹せず責めに回っていたらほとんどの住民が死んでいただろう。敵味方問わずにだが。
砂の隠れ里の中心にある搭から紫色の煙が上がった。
あれは左近達の狼煙だ。暗殺完了の合図。
さすが大蛇丸に暗殺用として鍛えられた左近だからあそこまで静かに殺れるのだろう。それ以外だったらそうとう派手になっちまうぜ。
最初にオレが入ってきた南門の方では巨大な蜘蛛が見て取れた。鬼童丸も殲滅に参加し始めたか。起爆札が尽きたか、飽きたかだろう。
鬼童丸の強さならば大丈夫だ。次郎坊も君麻呂と合流している筈だ。
あとオレは、
「ッ!?」
考えあぐねていたオレに突然影が襲い掛かってきた。
それを紙一重で避けた。が、オレを追って方向転換してきた影に扇を振るって吹き飛ばす。
「ちっ! 誰だ!」
突然の奇襲、それだけじゃない。
今ので飛び散った小さい粒はーーーー砂だ。
滓かに見覚えがあった。
そしてこいつが、今回のオレの目的。殺すべき相手。
「貴様か…ッ! カンクロウにテマリを殺したのは」
我愛羅、オレと同じだった人柱力の壊れた不良品。
オレは少し呆けてしまっていた。
「随分と…感情が出来てきたじゃねぇか」
中忍試験の時は会話すら成り立たなかった。そして自分自身の感情に振り回され総合失調症のような情緒不安が見え隠れしていたのに、今はどうしてか人らしくなってやがる。
「貴様が里を…皆を…殺した」
そう言って呟く我愛羅に同調して大量の砂が巻き上がっていく。
なんという成長だろう。ここまでされてあの馬鹿のように認めてもらおうとしていた対象が殺されたというのに暴走しないというのは驚くべき精神力だろう。
「ああ、そうだ。オレが皆殺してやった。爽快だったよ」
あのプリンのように切れていく人の首。気が付いた時は既に胴体と離れていて驚いた顔をして死んでいく馬鹿野郎共。
オレは心から楽しげに言ってやった。
「ああ、こんな快感しらなかったよ」
我愛羅のこめかみから血が、それと同時に大量の砂が足元からオレを囲んでいく。
離れようとしても離れない。解こうとしても解けない。
あっという間にオレは砂に覆われ塞がれてしまう。
砂漠送葬、という悲しみを帯びた呟きと共に信じられない圧力を感じた。
死んだ奴はもう帰ってこない。それは自然が作った絶対のルールだ。
もう二度と別れたくない、そう思うのならしなくてはならないことがある。
それは、絶対に死なないことだ。
「勝手に終わらせるんじゃねぇよ……ッ!!」
骨が軋んでいく。それを無視して生やした羽で全ての羽を吹き飛ばした。
快感とも呼べる奔流が身体を満たしていく。圧倒的な暴力が身体の中で育っていく。脳内麻薬やアドレナリンが吹き出してくる。
目の前の我愛羅は強い。そこら辺の上忍なんかよりも段違いに強い。
分かるぜ、皆の評価を変えたいんだろ? そいつは無理だ。
確かに、テメェは強ぇよ。
だけどよ、
「オレはお前よりもずっと強い」
お前の絶望しきったその両目を絶対に潰す。