「まさか…僕がお前に助けられるとはな…」
そう言ったのは君麻呂だった。
「アンタがコロッと逝っちまうと後味が悪いんだよ」
そう言い返したのは右近だった。
それをカブトと白、そしてナルトは無視して休息に入る。
「でもまさか…右近が君麻呂の体内に入って腫瘍を全て殺せるなんて誰も思ってませんでしたよ」
ナルトはそう言った。本当に意外なことだった。
不可能と思われていた治療も人体を熟知した専門家が三人、そして体内から相手の細胞レベルで殺せる特殊体質が一人いれば不可能も可能と変わった。
「身体中の臓器を移植したからね…安全を期しても三人以上は必要だったんだ」
培養液に入れられた君麻呂の腫瘍を手に持ってカブトはそう言う。それでも五分だった。
血族を全て失った君麻呂の身体に他の一族の臓器を移植する。血継限界である君麻呂にとってそれは自殺。
それを自殺から治療に変えさせたのは、
「いきなり仮死状態にしてくれだなんていわれて驚きましたよ」
白だった。この三人の中で一応皆は君麻呂を仮死状態に出来るが千本を用いた最小限の殺傷での仮死状態に持ち込めたのは白のみだった。
「生きているから拒絶反応する、なら最初から死んでいれば生きるための力を消費することなく手術も可能だ」
生きている状態での手術は多大なエネルギーを消費する。それは生きる為に使うのだからそれは大きいだろうが死んでいればそのエネルギーを拒絶反応を防ぐ為に使える。
「つうか、運ですよね」
「運だね」
「ラッキーです」
三人はいがみ合っている君麻呂と右近を無視して手術室から出て行った。
三人とも開放感に溢れた表情だった。
狂った歯車の上で
「さぁ、家を建てるぜ!」
オレの掛け声と共に真っ先に多油也の声が上がった。
もしかしてこれって好感触!?
「ダルい…帰る」
多油也…そりゃねぇよ。
「そりゃねぇだろ! オレだけで作れって言うのかよ!」
「作れ」
淋しいぜ、これって流行のツンデレってヤツか? ウケねぇよ。
見渡す限り荒野、ここに家と畑を作れなんて言ったオカマに殺意が湧いてくる。
地面を叩いてみる。ボサボサした感触、誰にも踏まれずに何年も放置したとしか思えない感触。
「男達を見てみろ! あんなに頑張っているじゃないか!」
そう言って…否、叫んで次郎坊達を指差す。
「ウォォォオォッ!」と叫んで土遁の術で地面を作り変えて固めていく次郎坊。
「中々の出来ぜよ…いい仕事してますね」と蜘蛛粘金で柱や壁を作っていく鬼童丸。
「兄貴も手伝いやがれ!」「テメェ、兄に逆らうのか!?」敷地図通りに鬼童丸の作った柱を建てながら兄弟喧嘩勃発な左近右近。
ああ、オレも入りたかねぇや。
「ウチにアレの中で働けっていうのか、チビ」
「応援でいいと思うなぁ」
つうか鬼童丸の体液で出来た家か…アカリには言えねぇなぁ。
「完成!」
おお、速ぇなぁ。いい仕事してるぜ。
結局、オレなんもしてねぇよ。いいのかな、楽できて良かったんだけどよ。
「ついでに畑も耕しといた。といっても忍術でだがな」
次郎坊、テメェってヤツは本当にいいヤツだな。
「俺の蜘蛛粘金はチャクラを通さない上に鉄よりも丈夫だ。台風が来ても問題無いぜよ」
おお、そりゃすげぇぜ。
「畑仕事で人手が足りねぇ時は兄貴を使っていいぜ、何もしてなかったからよ」
「テメェ、兄を売りやがったな!」
マジかよ。助かるぜ。
「…………なんだよ」
おっと、ついつい多油也もなんかあるのかと思って見てたようだ。
何もねぇのかよ、冷てぇヤツだなぁ。
「取り壊しの時は存分に取り壊してやるから安心しとけ」
「永住予定なんですが…」
「知るか、チビ」
本当にこれってツンデレ!? ツンツンじゃん。
「なんだそのイヤそうな顔は、あぁ? テメェが来てくれっつったからウチが親切に来てやったのに不服だっていうのか!?」
「どこがイヤそうな顔だよ。オレは超嬉しいんだぜ」
「嘘吐くんじゃねぇ!」
「すいません、嘘です」
木ノ葉じゃ考えられねぇなぁ。つうかマジ怖い。
「お前らは大丈夫なのかよ。どうみてもオレしか怒鳴られてないんだけどよ」
さすがに怖くなって他のメンバーにもオレは声を掛けた。
しかし、帰ってきたのは嘲笑だった。
「はっ、自分だけだと思ってるのかよ」
嘲笑じゃなくて自嘲だった。
「手が多いからって何度も多油也の仕事をやらされたぜよ」
鬼童丸もなんか目が潤んでる。
「俺はまともに会話が成立しないな」
大丈夫か、と声を掛けたら「慣れたさ」と帰ってきた。
もう涙を我慢できなかった。
「なに男同士で肩叩き合ってんだ、キモいんだよ」
原因はお前だよ、そう言いたかったが皆に止められた。
口答えしても勝てない、そう皆の目が伝えてくる。
男ってこういう生き物なんだなぁ、世界共通で良かった。
そんな気分な一時。
皆が帰っていくのを見送って家に帰り次第口寄せの術で畳を口寄せした。
無臭だった部屋に心地よい青草の香りが広がる。この畳はどういう訳かオカマが用意していてくれた。
なんか意外だったが結局理由は在った訳で辛い任務が半年後に用意されている訳だった。
辛い任務というのは内容まで教えてもらっていない。ただ辛い任務とオカマは言っていた。
あのオカマが言うんだからそうとう辛いんだろうよ。
嫌だな、逃げたいね。
まぁ、頑張らなきゃいけないんだよ。
特に、オレはね。ほら、帰ってきた。オレの家族が。
「ただいま!」
こんな幸福を貰っちまったんだからその分は報いなきゃならねぇよな。
「おかえり。新しい家の感想はどうだ?」
この家だけ…違うな。アカリの前ではオレは一生笑っていよう。
「大きいね、何かいけないことしたんじゃないの?」
家具はまだない。
それでも家具よりも暖かい物がこの家にはある。
「結構いけないことしたぞ」
「へぇ…どんなことしたの?」
今、アカリが帰ってきただけでこの家は暖かくなったよ。心が溶けていく。
「お金掛かってないんだ。それにオレは何もしてなかった」
「うわッ…大丈夫なの?」
辛い任務ってのを貰ったけどよ。関係ねぇよ。
オレは絶対に帰ってくる。この家に帰ってくるからさ、
「大丈夫だよ」
大丈夫だよ。何の問題もねぇ。
オレは化け物だぜ。あいつみてぇになってやるよ。
気付いちまえばオレは一人じゃなかった。それをお前にも教えてやるよ。あいつには教えられなかった。気付けなかったからな。
でも、お前には教えてやるよ。
一人じゃない暖かさってのを。焚火とかよりも内側から暖めていくあの温もりを。
「今日からここがオレ達の居場所だ」
「うん!」
オレは幸せだ。
もう、誰にもこれを壊させない。
もう、誰にもこれを侵させない。
これはオレ達の物だ。
「オレはお前の兄ちゃんだよ…」
アカリの小さな頭を撫でる。忘れないように、オレの幸せが伝わるように。
「分かってるよ…」
離れようとするアカリが悲しいが恥ずかしいだけだと分かった時はまた嬉しかった。
欠けてるピースは繋がらなきゃ一つになれない。
オレ等は欠けてた出来そこないだけど、今やっと一人前の物になれたのかもしれない。
最初からいなかったからこそ分かる。
家族ってのは麻薬だ。
依存させてしまうくらいに強い力がある。
耽溺させてしまうくらいに心地よい。
もし失ったらまたあの温もりを欲したいと思えてくる。
オレはもう既にキマってるのかもしれない。
それも、いいじゃないか。
腐って、壊れてもいいからこの心地よい空気を吸い続けていたい。
「兄さんってずっと別のところにいたんだよね?」
ああ、そんな設定だったか。
「そうだよ」
「淋しかった?」
「そうだよ」
「今の方が…いい?」
「そうだよ」
次第に笑顔になっていくアカリを見ていてオレも笑顔になっていた。
幸せってのはこうなんだろうな、って一人になるたびに自分にとっての幸せを想像してきた。
こんなに暖かいとは思ってなかった。
これが、オレの幸せだ。
「ずっと…こんな風になりたかったんだと思う」
「そうなの?」
ああ、そうだよ。
綺麗に想像も出来なかった自分の幸せも今しっかりとした形で理解した。
もう忘れねぇよ。忘れられねぇよ。
「一人じゃさ…淋しくないと思ってても結局は淋しいんだよなぁ」
強がっててもさ、気付かなくてもさ、結局心は探してんだよな。
探しても探しても見つからないと泣くんだよ。
どこにいるの、ってさ。それでも見つからないと次は忘れちまうんだ。そして別の幸せを探しちまう。
妥協して妥協して小さい幸せを見つけちまうんだ。
オレは妥協しなかった。だから見つかったんだと思う。思わせてくれよ、と心がそう願う。
「もう…一人に戻りたくねぇよ」
そう言ってまたアカリの頭を撫でた。
恥ずかしくない。本心を出して恥ずかしいと思うようなヤツの本心こそ恥ずかしいんだ。
全部出しといて後悔するようなヤツこそ本当は全部出していない。
「意外と…兄さんて弱いんだね」
そう肩越しにアカリの声が聞こえた。
オレは答えた。嘘偽りない答えを。
「そうだよ」
どう受け止められるか怖かった。それでも後悔はない。
自分を偽ったままこの幸せの中でぬるま湯に包まれて生きるってことはアカリに対して失礼だった。そうオレが決めていた。
嘘ってのは自分に吐く為ものさ。弱い箇所を埋めるためだけに使うと思う。
「私も弱いから少し分かるよ」
「そうか…」
改めて家の中を見ると、さっきよりも、一人でいたときよりも広く感じた。
オレ達はこんなにも小さいのかと思い知らされる。
だけど…これから大きくなればいい。
「よし! 少し早いけど晩御飯作るか!」
「いいけど…材料とかあるの?」
忘れてた…。
初っ端からぐだぐだだ。
それも半人前の証だな。
「ちょっと待ってろ、すぐに狩ってくる!」
そう言ってオレは走り出していた。
森に入り次第契約しておいた木の葉の鶏やを口寄せしたり他の農家まで走って頼み込んで野菜を提供してもらったりして帰ってきたときはアカリは半分寝ていた。
少し寒いだろうと炉に火をくべたりしている間に鍋が煮え滾っていた等と四苦八苦したり、最高の一日だった。