狂った歯車の上で
「お早う御座います、水影様」
そう言って微笑んだのは、淡い色彩の着物を着た黒髪の美女とも言え美少女とも言えるような女だった。
「ああ…変わりはないな、海」
水影と呼ばれた男は壮年で仕事の関係上か白髪が見え隠れしている。
水影は少し顔を赤くして起き上がる。
水影が海と呼んだ女性は最近側近に加わったばかりの女であるが、先達の者以上によく働く事を買われ水影に気に入られていた。
海は頷き水影が寝起きに喉が乾いてるだろうと粗茶を出す。
「すまんな」
「そんな…私の事は気にしないでください」
海は、少女特有の曇りの無い可愛らしく笑った。本当に可愛らしかった。まるでまだ先の春、花がほころぶかのように可憐であった。
肩までで揃えた薄茶色の髪は誰もが触ってみたいと思うほどに綺麗。そして肌は白く、それが、身にまとった淡い色彩の着物に合わさって儚くとも見える。
海は水影が粗茶を飲み終えるまで黙って、呼吸音すら隠し通そうとしている。そしてそれを水影が笑う。
事実上、二人は国内では有名である。
「昨夜も夜遅くまで書類整備をしていたらしいな…本来はお前の仕事ではないのに」
無表情な顔で、違う、無表情の顔を作って水影が言う。しかしその声には心配という感情が含まれていた。
「大丈夫です! 水影様は水影様のお仕事を全うしてください! 今はとても大事な時なんですから…」
海は頬を桜色に染めてそう言った。
「そうか…そうだな。今が一番だという事を忘れていた」
今が一番、それは弱体化した木の葉を叩く、もしくは勢力を伸ばしてきている音の里を脅威になる前に潰す計画であった。
準備は着々と進みあとは時間の問題となった今、水影は新しく入った側近の海に恋をした。
簡単に恋に落ちてしまった。
そして誰もがそれはしょうがない、と思ってしまうほどに海は綺麗で愛嬌もありよく働いた。
誰もそれを妬むものも居なかった。それほどまでに海という存在は周りに認められていた
「今日も頑張るとするか」
水影はこの二人の関係と地位的問題に満足していた。
自分自身は水影という頂点、そして海はその専用側近。誰も邪魔する事はない、そしてさせない。
自分が惚れているということは分かっていた。分かっているからこそ海が必要となっている。
もし、この計画が成功したら婚約と頼もうと決めている。だから失敗できない。
「海、もっと近くに来い」
失敗できない、だから失敗できぬように自分に味を教えよう。
「はい?」
海は首を傾けて聞き返し言われた通りに近寄っていく。
荒々しく海を自身に寄せ付ける。小さい悲鳴が聞こえたが気にすることはなかった。
そして水影は海の唇に自身の口を当てて舌を入れた。
海が苦しそうにしているのに水影は快感を得てさらに舌を奥に突き出す。
水影の舌が海の歯茎を蹂躙し開きかけた門の向こうへ舌を伸ばす。
そして終わりがやってきた。
ポンッ!
水影の頭が風船のように一瞬膨らみ破裂した。
脳漿が飛び散って周りを赤い芸術的な世界にしていく。
頭の無い水影の体はしばらく死後の痙攣でビクッビクッと跳ねてから徐々に弱くなって最期に動かなくなった。
海は飛び散った脳漿や濃い血を自身に大量に受け、その匂いに呆けていた。
数秒後、ふらふらと海は立ち上がってもう動かない水影の前に立ち
思いっきり踏みつけた。
「畜っ生! オエェェ!!」
ボンッと白煙が立ち土色になってしまった髪を掻き毟りながら少年は出てきた。
ぺッと唾を吐き出して少年、うずまきナルトは水影の死体を持ち上げて水影の私室から消えた。
音の里にてうずまきナルトは大蛇丸を追いかけている。
「待て! 待ちやがれぇ!」
「鬼さん此方、手の鳴るほうへ~」
大蛇丸はそういいながら影分身で全員手を鳴らしているからタチが悪い。
どれもが均等にチャクラを配られていて完璧すぎていてナルトには判断が不可能、ナルトは激怒する。
「逃げるな! あんなのテメェがやりやがれ、お前向きの仕事だろうが!」
音の里を攻撃しようとする水影を暗殺するというのがナルトの任務だった。
普通に忍び込んで暗殺する、それだけならば無音暗殺の達人の再不斬でも可能だった。五影に選ばれるだけの実力はあった。一度忍び込んで見てナルトは失敗し逃げ帰ってきての上であの作戦を考え実行した。
故に時間を掛けて完全に隙が見えた時に殺ろうとしていたら熱い接吻を受けた。
恋愛関係になる、そこまでは覚悟していたが唇までは覚悟していなかった。
ナルトの完璧な変化と演技故の事故だろう。
「新しい道を開くには辛い事だってあるわぁ…」
「しみじみ言うんじゃねぇ!!」
ついに大蛇丸に追いつきローリングソバットを叩き込んだらボンッと白煙が立った。
「ガサツねぇ…本当にうまく騙せてたのかしら? もしかして水影もそういうのが……」
「うるせぇ!!」
そしてまた追いかけっこが始まった。
カブトは二人を無視してナルトが持って帰ってきた水影の死体を弄っていた。
夕日が暮れた頃にはナルトに踏まれながら恍惚な表情をしている大蛇丸がいた。
カブトは黙々と死体を弄っている。
偶然入ってきた妹が必死になって大蛇丸を追いかけているナルトを見て驚いているのが印象的だった。