砂の化け物が会場の中央で砂塵を吹き荒らす。
炎の化け物が里全土を嘗め尽くすように焼き焦がしていく。
砂は叫ぶ。快楽の為に殺すと。
炎は鳴く。この身の憎悪の為に殺すと。
化け物は多く共通点を持っていた。
そしてそれを伝える為に殺しながら伝えていった。
勝手に勘違いしているお前等が悪い、と。
狂った歯車の上で
本当に最近はよく気を失う。
今度は目が覚め次第に凍り付いていた筋肉が砕ける感じがした。
「まだ動くんじゃないよ。ずっと寝てたんだからね」
やけに高圧的だな。
オレの第一人称を最悪だという評価を貰った女は大股でオレが寝ていた筈の病室に入ってきた。遠慮という言葉を知らないらしい。
「どれくらい寝てたんだ?」
やけに今回は長く感じた。
それに、何故だろう体が重い。今まではこんなことがなかったというのに。
「腹にいた九尾に感謝するんだね。本当なら何時死んでもおかしくなかったのを三ヶ月も生かしてたんだからね」
腹にいた? 何故過去のようにそう言うんだ。
そして直後に感じた。今まで腹を圧迫していたあの強力な存在がないということを。
「おい、化け物はどこいっちまったんだ。まさか別の赤ん坊に封印し直したとか言うんじゃねぇだろうな」
「それこそまさかだ。消えたよ。あの中忍試験で突然姿を現して里の奴らを殺すだけ殺しといて消えちまったよ」
最後に見えたのはオレの腹を突き破って姿を現した化け物。そしてちゃんとコン、と鳴いていた。
空虚を感じる。あれ程忌々しいと思っていたのに。なんでだろう。淋しいよ。
なんでかなぁ。いるといないってこんなに違うもんなのかよ。
帰ってこいよ。今すぐ帰ってきてオレの腹の中で鳴き声の練習をしろよ。あんなのまだ狐の鳴き声じゃねぇんだよ。もっと可愛く鳴けよ。ただでさえオマエはでかいんだぞ。全然合ってねぇよ、その姿を鳴き声がマッチしてねぇよ。
淋しいよぉ。
やっぱり、オレとヒナタは一緒じゃなかった。
オレは孤独じゃなかった。何時だってアイツがいた。他の誰よりも近くにオレと一緒にいた。
なんで気が付かなかったんだよ。アイツだってオレと一緒にいたじゃねぇか。
でも、
「…良かった」
ポツリ、と口に出た。それしか出なかった。
「なんだって?」
目の前で腕を組んでいる女が怒りを含めてそう言った。
オレもオマエに言いてぇよ。なんでそこで疑問に思う。
良かったじゃねぇかよ。散々苦しんで、それでも最後には一番したかったことをして死ねたんだからそりゃ良かった以外にねぇんだよ。
だって、
「アイツ、本当に一人だったんだぜ? オレがアイツを知ろうとしなかったから、アイツはオレの中でいつも一人だったんだ。 アイツを恨んだ里の奴等の八つ当たりが全てオレに向かっているのにアイツの怒りも小さな八つ当たりもアイツ等には届かねぇんだ」
テメェ等には理解できねぇだろうよ。殴られても殴り返せないもどかしさ。侮辱されても拭い去ることが出来ない怒り。
いつもオレみてぇな雑魚の中で居座ることしか出来ない。なんでも殺したいと叫んでいたんだろう。
殺したい。それでも出来ない。その上殺したい相手はアイツに言うだけ文句や侮辱を言い続ける。
想像してみろ。怒りで頭が割り裂けそうだ。殺したくて、殺したたくて。
窓から外を覗く。あたりは三ヶ月も時間が経っているのに未だ丸焦げだ。それがアイツの怒りの大きさだ。
どれ程に快感だっただろう。恨み憎んだ奴等を殺していった感触、殺したくて堪らなかった奴等を生きながらに焼き殺していった開放感は。
だから、思うんだ。
「本当に良かった」
オレと一緒にいてくれたアイツへ送る最後の言葉。
本当にありがとう。
女がする質問を全て無視して窓の外に広がる死んでしまった里を見ていると女は舌打ちをして病室から出て行った。
「もう二度と来んじゃねぇ」
もう二度とオレの前に姿を現すなよ。目が穢れる。
再び室内に静寂が訪れた。
落ち着いて自己の整理をしていると色々と疑問が出てきた。
何故、オレは未だにこの里にいるんだ。
あの会場で致死量の血を流して病院に運ばれたから、というのが妥当なのかもしれない。そして戦争が終わって音は去った。先生と共に。
これでやっと本当に独りになったってことだろう。もう少ししたらあっちから接触があるかもしれない。それまではのんびり生きよう。
少し疲れた。
もう一つ、音の里は勝ったのかどうか。
負ける筈がねぇか。オレの化け物が暴れたんだ。負ける要素なんて万に一つ無い。それにオカマもいた。言いたくないがアイツは強いよ。なにかに執着した奴はどんな奴よりも強くなれる。たとえそれに対して才能が無かったとしても強くなれる。それにアイツも天才だ。次元が違う。
ああ、オレって本当に弱いなぁ。
挫けそうだ。でも挫けられない。
ここで挫けちまったらアイツに申し訳ねぇよ。あんなに我慢して怒りに耐えていたアイツに。あんなに遠かった鳴き声が出来るようになったアイツに。
リタイヤから敗戦復帰だな。
強くなろう。誰よりも、アイツよりも強くなろう。
死んで地獄でまた会って笑われないようにしよう。対等としてまた出会いたい。
会って言ってやる。オレは強くなったぞ、って。
また一人になっちまったアイツと一緒に孤独を埋めてやろう。オレ達はピースだったんだ。片方が抜けちまったピースはくっつける為にあり続けなきゃならねぇ。
でか過ぎるアイツのピースとかち合うにはオレも大きくならなきゃならねぇ。アイツみてぇなでっけぇピースにならなきゃならねぇ。
アイツの為に大きくなろう。アイツだけの為に大きくなろう。
肉体の改造だけでやっていたオレの貧弱な腕を見る。
あまりにも貧弱だった。目を背けたくなった。だけど出来なかった。
「修行…し直そう」
今度はアイツの為に。
大切なヤツの為なら、頑張れる気がしてくる。目的があると、やめられなくなる。
昔聞いたな。
大切なモンは二本の腕で守り通さなきゃならねぇ、だったかな。違うな、多分。
でも、十分じゃねぇか? この二本で守り通してやろうじゃねぇか。アイツがいたっていう事実だけでもよ。
オレは一人なんじゃねぇ。
「オレは一人なんかじゃねぇ」
心で一回。口に出して一回。
二回誓う。
答えなんて四方に広がっている。その無限に近い答えの中から一つを選ばなきゃいけねぇ時はからなずやってくる。
今がその時なんだ。
何時までも道を進まずに愚図愚図していたオレがやっと選べた。
強くなる。オレは強く生きる。誰よりも、アイツと対等であるために。
□
「お前はまだ病み上がりなんだよ。そんなに無理したら今直るもんも直らなくなる」
「やっぱり…アンタうるさいよ」
まだ、100回も出来て無いんだ。邪魔すんじゃねぇよ。
「ほら…もう腕が引きつってる。限界なんだよ」
腕立てを始めた。理由は簡単だった。貧弱で細かったオレの腕を見ていたら無性に腕立てがしたくなった。
「限界なんて決めてねぇよ」
「自滅するよ」
「一度もうしてるからもう十分だ」
「そうかい」
顎を床に引っ付けて勢いをつけて体全体をこの両腕で持ち上げる。これで87回。まだ遠い。
「……………」
女、さっき綱手を教えられた。綱手は黙ってオレを見続ける。
監視かなんかだろう。九尾がいなくなっても元人柱力には変わりない。そう簡単に目を離せる存在じゃあない。
それにしてもこの女、簡単にオレの体の状態に気付いてくる。そこまで腕が引きつっているようには見せないようにしているのだが。よく目に入る。
「お前の体…」
「貧弱だろう? 自分でも嫌になるくらいに弱っちいよ」
まだ、届かない。オレはまだ小っぽけな人間の小僧だ。
小さすぎる。才能の世界ではすぐに埋もれてしまうほどに。もうアイツがいないんだ。誰もオレの体を守ってくれない。なら自分自身で守り通さなければいけないっていうのにこの弱さは絶望すら感じる。
「誰が改造したんだ?」
スイッチが変わった。
最先端の距離を想定し駆ける。右手にはチャクラのメス、狙うは綱手の首の頚動脈。
掻っ切るつもりで腕を振るった。
「それで、誰なんだい。お前の体を弄った野郎は」
「ッ!?」
綱手の姿が一瞬掻き消えてオレの右手首を握り締めていた。
「(速すぎる!?)
ギリギリ、と手首が悲鳴を上げる。あと数秒すれば砕けてしまう。
「言えるか…ッ!?」
簡単に手首を折られた。
なんだよ、コイツ。カカシなんかよりももっと強いじゃねぇか。
「テメェ…何者だ」
手首の痛みを感覚神経をカットして無視する。次第に腕の感覚が薄らいでいき痛みもなくなる。それでも汗は止まらない。
「そんなことも知らないのかい。火影様だよ、私は」
大胆不敵、それが似合っている。自信を持って綱手は答えた。
笑っちまう。三代目は死んだのか。大蛇丸が殺したのかそれとも九尾が暴れてショック死か。
「大蛇丸にでも殺されちまったのかよ。笑えるぜ」
綱手の腕に力が増した。関係ない。今は腕に感覚が通っていないから痛みも感じない。
綱手も理解したのか。手を離してオレを睨みつける。
「ナルト…お前は音の里とグルなのかい」
相当頭に来ているようだ。
きっと言葉一つ間違えれば殺されるだろう。そんなもん今は困る。せっかくやる気がなくなったというのにまたリタイヤは望んじゃいない。
「誰が好き好んであんなオカマについていくと思ってんだ。オレはそんな趣味なんかねぇぜ」
オカマじゃない。先生についていってんだ。本当の事は言ってねぇが嘘は言ってねぇ。
「そうかい」
こいつも馬鹿みてぇだ。簡単に信じてくれる。
「だけどね…」
いや、違う。こいつの顔からは未だに怒りは退いていない。
「木の葉の里に少しでも被害を出すって言うんならすぐさま私がアンタをぶっ殺してやるよ」
冷や汗が滝のように流れるのが背中越しに感じた。
コイツ、本気で言ってやがる。
だから感じた。
「そうかい。分かったから黙っとけよ」
逆に滑稽だ。
結局腕立ては150回も出来なかった。
「弱すぎだろう。泣けてくるぜぇ」
両腕が痙攣している。本当に情けねぇ腕だなぁ、おい。
ムカついて壁を殴りつける。砕けもしない。オレの腕力なんて本当にこんなもんだったんだと再確認した。
本当にオレは弱い。だけどそれに落胆していたら次がなくなる。
もとから次がない崖っぷちのオレがここから這い上がるってことはどれだけ難しいのだろう。
所詮、オレは九尾がいたから強かっただけなんじゃねぇのかとさえ思えてくる。
今は一人、本当に一人っきりなんだ。
はは、本当にやべぇよ。なにがやべぇのかも分かんねぇ。だからやべぇ。
心が凍る。今のオレの立場を明確に教えてくる。
今のオレに本当に必要なものが何なのかを。
力が欲しい。どんなことをしてでも力が欲しい。
腕を一振りすれば数人の命が紙の様に千切れていくくらいの力が。虫の様に殺しても仕方ないと思えるくらいの力が。欲しい。
今になって心から後悔する。
今頃化け物に成りたがっているオレはどうしようもない馬鹿野郎だ。アイツがいた頃は限りなくそれに近い存在だったのに。それさえなければただの小僧。
「駄目だな」
同じ話題を何度も繰り返している。ようは勿体無かったと思っているだけだ。
変わらなきゃいけないんだ。この腐った考えを捨てて新しくしなきゃいけないだ。
さぁ、また筋トレだ。
□
「ナルト~起きてる?」
無視しよう。一々答えていたら疲れ果ててしまう。
「ナルト~寝てるの?」
なんでこんな朝っぱらから来てんだよ。さっさとサスケの後ろでも追いかけてやがれ。
「サクラ、ナルトはまだ怪我が治っていないから昼にまた来よう」
お前まで来てんのかよ。
なんだ? テメェ等暇なのか。こんなに被害受けてんのになにもやることがないのかよ。
「そうだね、サスケ君」
やっと帰ってくれそうだ。
昨日の筋トレで体中が悲鳴を上げていて起き上がるだけでも億劫だ。だから帰ってくれ。
「せっかく持ってきたのになぁ…」
うっすらと目を開けてサスケを見るとそこには白い袋に包まれたものがある。菓子ならいらんぞ。花もいらん。
まして盆栽とかだったからぶん殴ってやる。
「欲しいだろうと思ったのに…タバコ」
ガーン、と頭に衝撃が走った。
「ちょっと待った!」
「さて、帰るとするか」
「そうね…身体に悪いもの持って来ちゃったのよね、私達」
「待てって言ってんだろう。テメェ等難聴かなんかもってんのか」
二人は笑っていた。
最初から起きているのに気付いていたのか。胸糞悪い。
「さっさと寄越せよ。頭がパンクしそうだ」
「一日三本くらいに抑えなさいよ」
「無理だね」
「なんでよ!」
「この里にいる限り無理じゃねぇかな」
疲れるんだよな。この里。
胸糞悪いことばっかだし。いるだけで苛々してくる。
ああ、早く音の里に移りてぇ。
「身体はもう大丈夫なのか?」
サスケがそういってタバコを寄越しながら聞いてきた。なんだろう、心配していますって顔がムカつく。
「止めろよ。テメェには心配だけはされたくねぇ」
「なに言ってんのよ! せっかく心配してもらってるのよ」
「だからそれがうぜぇんだよ」
下に見られている感じがする。今のサスケには依然よりも余裕を感じさえする。
それがオレを圧迫し続ける。オレが寝ていた三ヶ月、サスケならどれくらい強くなれるだろう。
オレがわざわざムカつかせるように言っているのにサスケは怒ることなく笑っている。
それが更に苛立たせる。
「笑ってんじゃねぇよ。胸糞悪ぃんだよ、今のテメェは」
「サスケ君に何言ってんのよ!」
サクラもうぜぇ。
何もかもがうぜぇ。
取り残されていくオレがちっぽけに思えてくる。
どれくらいに取り残されたか、それを知るのは辛い。知ったときもう立ち直れそうにないかもしれない。
何なんだよ。コイツの余裕は。見下してんじゃねぇだろうな。
やべぇ、キレそうだ。
「サクラ…ナルトはまだ病み上がりなんだ。そんなに突っ掛かるなよ」
サスケの一言でついに頭にきた。
今のは完全に見下してやがった。
「ふざけるなよ! なに調子乗ってんだ糞野郎ッ!」
全力で腕を横に振った。窓が割れる音が病室に鳴り響いた。
「俺が調子に乗ってるだと?」
サスケもオレの正面に立ち静かにそう言う。小さな怒りだなぁ、おい。
小さすぎてテメェも小さく見えんぜ。
「オレを下に見るんじゃねぇ、雑魚」
「ナルト…お前こそ調子に乗るなよ」
誰が調子に乗ってるかって? テメェだよ。テメェ以外に誰がいるってんだ。
弱っちい癖にオレと対等に話してんじゃねぇよ。糞野郎。
「テメェだよ…テメェが調子に乗ってるって言ってんだ!! 対等だと勝手に思い上がってんじゃねぇ!!」
瞬間、頬に重い衝撃を受けて壁に叩きつけられた。
何が起きたかも分からなかった。想像もしていなかった。こんな糞野郎に殴られるなんて、思っていなかった。何時も通り黙って下がると思っていたのに。
頬を押さえて顔を上げる。そこには心底頭にきているのが見て分かるサスケが立っていた。
サスケが口を開く。いつもならば大体が想像出来るのに、殴られたショックで何も分からなかった。
「テメェ、どれだけ心配させたか分からねぇくせに生意気言ってるのはお前だろッ!!」
サスケが外に響くくらいに叫んだ。
サクラは黙ってサスケが言うことを聞いている。
オレはなにも分からなかった。誰も心配しているなんて思ってさえいなかった。むしろ喜んでいるんじゃないかと思っていたくらいだ。
サスケは止まらない。叫び続ける。
「死にそうになって戻ってみればナルトは血塗れで意識も戻らなかった。どれだけヒナタが心配したか、どれだけ俺やサクラが心配したかも分かってねぇのかよ!」
「今頃になって心配してんじゃねぇよ! 赤の他人がオレを心配する!? 今更遅ぇんだよ! オレが死にかけてんのを喜んで哂っていた方が理解できんだよーーーッ!?」
また殴られた。壁に叩きつけられて頭を強打する。裂けたかも知れない。気持ち悪い感触が背中に感じた。
「俺とナルトが他人だっていうのかよ…俺達はチームじゃねぇのか」
襟首を掴んだサスケはそのまま殺しそうな眼でそう訴える。
「知らねぇなぁ…好きでなった覚えなんて一つもないね。寧ろ…何度もテメェ等を殺そうかと思っ…ッ!?」」
更に四発、また殴られた。
口の中は血塗れだ。胸糞悪い鉄の味が広がっていく。
顔中が晴れ上がって視界が悪い。それでも、端っこでサクラが泣いているのが見えた。
なんだよ…オレが悪いみてぇじゃねぇかよ。
「はっ…オレを治療したのも余計な世話なんだよ。二度とテメェの腐った面なんて見たかなかった、ぜッ!」
殴り返す。鳩尾にオレの左拳が吸い込まれるように入った。
「おえ"ぇッ!!」
効くだろう? ただの真似事だが柔拳だ。胃くらいはぶっ壊れて欲しいぜ。
「六発だったなぁ…調子に乗って殴ってんじゃねぇ!」
悶えているサスケの顎を砕く為にチャクラで底上げした右拳を叩きつける。
声すら上がらない。天井近くまでサスケの身体が浮いた。
感触からして顎は砕いた。変わりにオレの拳も砕けた。
「ち、脆すぎんだ、よッ!」
もう意識がなくなっているサスケの顔面に左の掬い上げる様な低掌が入る。歯が数本折れた感触、そして頭部だけ跳ね上がり身体が回転してオレの右の肘鉄に入り込んでいく。
サスケの身体の勢いにあわせるようにオレの右の肘鉄が上手い具合にキマった。
理想通りの攻撃だった。サスケの身体の遠心力、そして衝突に掛かる反発の力が最高潮になっていた。
反発の際に互いに同じ程度の力の場合互いに同じ力が跳ね返されて互いに吹き飛ぶが、片方が柔らかい場合は吹き飛ばずにぶっ壊す。
サスケの身体の中身はもうぶっ壊れている。
壁まで吹き飛んでぐったりと首を折っているサスケに向かって全力で叫ぶ。
「ああ? これで終わりかよ。雑魚はどうなろうともなぁ、雑魚なんだよッ!!」
「ナルト! もう止めてッ!!」
サクラが後ろから抑えにくる。んなもん無視だ。テメェは何時だってうざかった。本当にうざったかった。
「本当に殺してやるよッ!!」
「止めてぇぇッ!!」
サクラが抑えていようが無かろうがテメェが弱いことが悪いんだよ!
オレの最後の拳がサスケの小さい頭を砕く瞬間、誰かがオレの手首を掴んで止めた。
「おや、確かに折っといたはずなのにねぇ」
何でも無さそうに綱手はオレの手首を眼前に持っていき、砕いた。
「ーーーーッ!!?」
痛みで声が上がらない。いきなり折られるとは思っていなかった。
せっかく直したのに、今度は完全に粉々にしやがった。
「どうみたってアンタが悪いね」
そういって綱手の手刀がオレの後頭部を叩いた。オレは吹き飛び壁を突き破って下に落ちた。
四階だったのを記憶していた。それ以前に痛みで既に意識なんてとっくに手放していた。
サクラは泣いていた。
今にも気を失いそうになりながら俺は五代目火影に治療を施してもらっている。
俺も、泣きそうだった。
ナルトは、本当に俺を殺そうとしていた。
あの眼、殺したいと黒く燃えていたナルトの眼は生涯忘れそうにもない。心から、俺を殺したくて堪らない眼だった。
「こりゃ酷い…一体なにがあったんだい」
綱手が険しそうな顔をしてそう呟いた。
指先も動きそうにない。後一歩で、最後のナルトの拳が決まっていれば俺は確実に殺されていた。
くそっ、何の為に修行したのか分からなくなってきた。近づいてねぇ、一歩も近づけてねぇよ。手も足も出なかった。そして俺は殺されそうになった。
ああ、せっかくのタバコがグシャグシャだ。
喜ぶと思ったのになぁ。ずっと考えてたのに、今日の為に。
ずっと練習したのになぁ。ナルトの前でも緊張しないように。
サクラの泣き声がこの部屋に木霊する。
気が付けば、俺も泣いていた。
やべぇ、挫けそうだ。
ちくしょう……ちくしょうッ!