何することなく砂隠れの忍びの二人が棄権する。
もちろん何することなく勝利を得たのは音隠れの二人。
ああ、もうすぐ楽しいパーティーだ。
狂った歯車の上で
苦々しい煙草の味は時に甘く心を満たしてくれる。
苦くて美味しくない筈なのに心地良く感じさせてくれる。
空腹は最高の調味料とはよく言うが煙草に関しては苛立ちが最高の調味料。
この苛立ちも煙と一緒に消えて行ってしまえばいいのになぁ。
だからガオーじゃねぇっつってんだろ。コン、って鳴けよ。
人が一服してる時に騒ぐんじゃねぇよ。もう五本目だと? うるせぇな。吸ってる時は何時だって一本目みてぇに美味ぇんだよ。
「あぁ…やめらんねぇ」
やっぱ屋外での煙草が美味いな。室内だと煙草臭い空気で吸うことになるから咽ちまう。見た目だけなら木の葉も綺麗なんだからいいつまみにもなるさ。
そう恍惚とニコチンに酔っていた時に思いもよらない人物がオレの背後に近づいていた。
「……リーか」
「流石ですね…気付かれるとは思っていませんでしたよ」
オレが穴を開けてしまった方の腕には三角巾で支えられ体内門の副作用でボロがきていた足には松葉杖が掛けられていた。
なんでお前がここにいる? 恨みを晴らしたいのか。
「見てましたよ。ネジとの戦い」
リーの顔はまだ笑顔。それでも分かってしまう。彼の鼓動は以前のように力強く無い。
「ひでぇ試合だったろ? オレも哂っちまうよ」
自分をよ。
なんだありゃ。ひでぇって一言で済まされねぇだろ。
完璧な裏切りじゃねぇか。ネジに対してもリーに対してもヒナタに対しても…そしてオレにも。
「夢…あんだろ? リーにもさ」
「当たり前です」
そりゃそうだ。そうじゃなきゃあそこまで強くなれねぇ。
「オレにもあったんだぜ。こんなオレにもだぞ? そりゃすんげぇ奇跡なんだよ」
「分かりますよ。でもそんなこと奇跡でもなんでもないです。それが当たり前だ」
「最後まで聞けよ」
オレは止めた。これ以上リーの声は聞きたくない。
試合に勝ったのはオレだ。それでも心は完膚なきまでにオレがズタズタにやられた。
「十年以上前に九尾っていう化け物がこの里で暴れた。理由は知らんさ。だけど確実に九尾側にも理由が合ったんじゃねぇって思えてくるわけよ。だって化け物って言われてる訳だから寿命はオレ等とは違って沢山あんだろ。なのに静かに生きていたのに突然大暴れしてんだぜ? 蚤が痒くって暴れだすネコとは違うんだぞ。絶対に理由くらいあるさ。それでも馬鹿な人間達はそれを封印したのよ。臭いものには蓋をしろってね」
当時、もしオレがその時にいるんだとしたらもちろん封印に賛成だ。オレが知らない誰かの赤ん坊に封印しているさ。九尾の事情? 知らねぇよ、テメェの理由だけで殺されっかってんだ。
オレは自分勝手だ。だからオレは自分の勝手で生きてやる。その代わりテメェも自分の勝手で生きてんだろ。それがオレの道だ。
「んで九尾は封印されたんだよ。このオレにな」
「……ッ!」
いい表情だね。きっと疑わずに生きてきたんだろうね。この里は綺麗で素晴らしい! って思ってきたんだろ。
オレは違うね。この里は見苦しく綺麗に見繕ってます! って思ってるよ。
家の壁の塗装工事と同じなんだよ。汚くなっちまったからまた綺麗な色で塗りなおす。終わったらすぐに前の色なんか忘れちまって今の色に恍惚と見惚れる。
「んでそれからが最低だった。事情を隠していた筈なのに知らんうちに外に流れて、また知らんうちに今度はオレが九尾の生まれ変わりとか言われるしだいでよ。そのオレの立場に最初は怒り狂ってた。誰もオレを見てくれない。誰もオレを認めてくれない」
これは懺悔じゃねぇ。
ただの愚痴だ。許しなんて欲しかねぇ。
ただの八つ当たりだ。返事や同情なんて求めてねぇ。
君の空、塞いだ僕を責めないでくれよ。君が何を思うともオレは何時だって夢を見ていたかっただけなんだから。
「だけどこんなオレにも転機はあったのよ。ある人がオレが必要だっていってくれるんだぜ? こんな奇跡凄いだろ」
ハハハ、とオレは両手を挙げてリーの前ではしゃいで見せた。
まるでサーカスのステージの中央でおどけて見せるピエロの気分。
先生はスパイ、そしてオレはピエロ。全然似てねぇじゃん。
それがいいな。オレが先生みてぇに成れる訳が無いだろう? それも夢だったってことさ。
ああ、夢だったんだよ。何もかも。だけどこの夢は覚めても心のステージの中央で依然と、観客がいなくなってもポツンと立ち止まっている。
先生のようになりたい。そうさ。これがオレの夢だったのかもよ。
「んでオレはさ、そのオレに手を差し伸べてくれた人になりたかったんだ。だけどその人がメチャクチャ遠い人で未だに近づけたかすらわからねぇ。だけどそれがいいんだ。遠いから更に憧れるんだ。お前だってそうだろ、リー?」
ガイってすげぇよ。自来也が言っても信じられなかった根性とか努力とかさ、ガイが言ったなら信じちまうぜ。
最高に熱い男だよな。かっこいいよ。
「はい。ガイ先生は僕の憧れです」
「オレもよ。先生はオレの憧れなんだよ」
星だ。月だ。太陽だ。
手を伸ばしても届かない。辿り着きたい。そう願ったとしても辿り着けやしない最高の人だ。
「その人に追いつきたいって思い始めてからこの里のことなんて興味が薄れていくんだよ。勝手に勘違いしているのをなんで直そうとしなきゃいけねぇんだ、ってな。勝手に勘違いしとけって感じよ。確かに、頑張って頑張って火影になれば変られるかもしれない。頑張って頑張って自分を主張して皆の考えを変えていけるかもしれない。だけどな、勘違いを正しただけで幸せってのが手に入るのか? その考え自体がおかしいんだよ。ただ単に別の場所に移動するだけでこの問題が解決するんだぜ。その新しい場所ではみんな狂った勘違いなんかしてないんだ。この里で何年、または何十年掛けて勘違いを正すのがたった二日か三日歩いて別の里に移動するだけで解決するんだ。それでこの里の人間は化け物だと勝手に勘違いして見ているオレがいなくなって喜び安堵し平穏が手に入る。お互いに解決さ」
ああ、言っていて自分が馬鹿みてぇだ。
完璧な方法じゃねぇかよ。なんで分かんなかったんだろうか。小難しい論法ばっか暗記したり理解していたのにこんなくだらねぇ方程式に気付かねぇなんてオレってやっぱり馬鹿野郎だ。
「それは…逃げですよ」
リーが静かにそう言った。
拳が怒りに震えている。
滑稽だ。
「違うね。それはオレの勝ちだ」
オレの答えがまったく理解してねぇようだ。
体を鍛えることばかりで勉強してねぇんだな。まぁ、そこがリーらしくてオレは好きだがね。
「これが逃げだって言うんならよ。んじゃ、どうすりゃ勝つっていうんだよ。教えてくれよ。誰もオレに教えてくれねぇんだ。この眼も化け物もオレには教えてくれない。分かるんだろ? リー」
白眼なんて殺すのに有意な情報をくれるだけ。
九尾なんてオレを怒りの的にしただけ。
なぁんにもオレには教えてくれない。教えてくれたのは人の殺し方だけ。
まぁ、嫌いじゃないからいいんだけどさ。
「諦めなければいいんです! 目の前の高い壁を乗り越えて皆にナルト君のいい所を見せられれば皆分かってくれる筈!」
リーの答えには今度はオレが呆然となる。
「なに? リー、お前は知らなかったのか?」
「え?」
はぁ…何にも分かっちゃいねぇなぁ。
だぁれもオレの事を理解してねぇってことね。
なんでこんなところに長く居ちゃったんだろうか。俺ってば本当に馬鹿のようだ。
「オレは悪人だぞ。自分の為なら躊躇い無く人を殺せる。否、殺してきたよ」
見ただろう? 死の森で六人殺した。その内の三人が殺されたのをさ。
「そんなわけはーーー」
「あるんだよ。いい加減前を見ろよ。前を見ずに自分を騙してるのはテメェだ。リー」
オレは罪人なんかじゃあない。オレがしてきたことをオレ自身が罪だと認めるまではな。
「目の前から消えろ。もういらねぇよ、オマエなんか」
これでなにもかもなくなった。
いや、あったって勘違いしていたんだな。オレにんなもんある訳ねぇか。
ねぇ、先生。
だろ? 化け物。
ゴン!!、じゃねぇよ。コンだっつってんだろ。
だけど近くなってきたな。お前ももうちょい頑張れや。オレも頑張るからよ。
「ナルト! サスケがまだ来てねぇんだよ。だから先にナルトが出るかも知れねぇぞ」
またキバがオレに連絡をしにきた。
なんかこの中忍試験からパシリになってないか?
「んだよ。観客のご機嫌取りの為にサスケには特別って訳か」
腐ってんなぁ。どいつもこいつも。
「いいよ。オレも出ねぇ」
「ナルト! 訳分かんねぇぞ! お前どうしちまったんだ!?」
キバが困っています、と主張している表情のままそう喚く。
「キバだって可笑しいと思わねぇのかよ。あんなに死んじまった試験の最後が観客を呼んでの金寄せだぞ。もしお前が試験中に殺されちまっても上の奴らからしたらどうでもいい事で済まされて観客呼んで金儲けされるんだ」
「それは…」
「お前もサインしただろ。死んでも構わないって同意書によ。それ程に覚悟していた試験の最後がこれだぜ? やってらんねぇよ」
なにが戦争の縮図だ。ただ単なる見世物じゃねぇか。
ふざけんじゃねぇよ。
「だけどよぉ…ヒナタが待ってんだぞ」
「なにチンタラしてんだ。さっさと行くぞ」
やっぱりオレって馬鹿だ。
好きな女の子の前じゃかっこつけてぇじゃん。
「ナルト…お前、馬鹿だろ」
「やっぱそう思う?」
「すんげぇ」
「オレもすんげぇ思ってる」
最後くらいまでは真っ白いオレをヒナタに見せたいなぁ。
真っ黒になっちまった皆の心の中にヒナタだけでも白く見ていて欲しいなぁ。
なぁ、化け物。
だからゴン!! じゃねぇっつってんだろ。
無理だって? んなも努力と根性でなんとかして見せろよ。オレも頑張るからよ。