「まずは『第2の試験』通過おめでとう!!」
試験に乗じて殺そうと思っていたが無理だった。
それはともかくオレ以外(どういう訳か疲れが残っていないんだ)の参加者のほとんどは疲れを見せている。相当精神力を使ったのだろう。体力だけでは忍びとして生きてはいけない、それが今回のテーマなのかもしれない。
二人例外がいたか。ネジと瓢箪を背負っている目つきの悪い小僧だ。
あれがうちがは言っていた砂隠れの我愛羅か。下忍にしてBランクを無傷で帰ってきたという破格の下忍というのは。
それともう一組例外がいた。
音の四人衆、この試験の記録を大幅に更新したという。やはり気を抜けられない相手のようだ。
それにあのオカマの部下だ。全員が呪印を持っていたとしても不思議ではない。もしかしたら先生も持っているかもしれないな、まぁ在り得ないがな。
「それでは、これから火影様より第三の試験の説明がある…各自、心して聞くように!! では、火影様お願いします!!」
そう言ってアンコは素直に引き下がった。その代わりに火影が現れた。
オレを無理矢理にアカデミーに入れた奴だ。
学費が払えないという理由で断ったのに出世払いでいいとほざきやがった。
かっこつけたつもりなのだろう。いい迷惑だ。明日の食事も満足ではなかったあの頃からしたら数年分の学費など悪夢以外にない。
救ってやったつもりだろうが相手の気持ちも理解せずに行なう善意など悪意とそう変わりない。典型がコイツだ。
大したことはしていないのに救った気だけしやがって胸糞悪い。木の葉崩しで自分のしていたことが否定されることはオレからの授業料だ。
目の前で言ってやる。出世払いでいいぜ、と。
狂った歯車の上で
「『同盟国同士の友好』『忍のレベルを高め合う』その本当の意味を履き違えて貰っては困る! この試験は言わば同盟国間の戦争の縮図なのだ」
朗々とした声で本当に老人なのか疑うかのような声が広場に響き渡る。
「歴史を紐解けば今の同盟国とは即ち…かつて勢力を競い合い争い続けた隣国同士。その国々が互いに無駄な戦力の消費を避ける為に選んだ戦いの場。それが、この中忍選抜試験のそもそもの始まりじゃ…」
別の言い方をするのならば育成ゲームという奴か。んでプレイヤーが里のお偉いさんって訳ね。
死ねとこの場で言いたくなった。
「ちょっと待ってください! そんな戦争で戦力の消費を抑える為だけに沢山の参加者が死にました。それは同盟国内では同意のことなんですか!?」
春野がそう言った。
国が勝手に下忍達に戦ってもらうか、って感じに決められた試験で殺されかけたんだからそりゃあ頭にくるだろう。
「…確かにこの試験は同盟国の同意の上で行われている、身の危険が怖いのなら参加しないというのも道の一つじゃろう、しかしこの試験は国の威信を背負った各国の忍が国の繁栄も考えて闘う場でもある!」
下忍を使わなきゃ繁栄出来ねぇなら止めちまえよ。
んじゃテメェ等はS級の犯罪者共に紛れて戦えるのかよ。戦えるわけねぇだろ、んな理不尽なもんによ。国の威信の為に生まれてきた訳ねぇだろ。テメェ等の利益の為だけに勝手にんな偉そうな言葉使ってんじゃねぇ。
「この『第3の試験』には我ら忍に仕事を依頼すべき諸国の大名や著名な人物が招待客として大勢招かれる。そして何より各国の隠れ里を持つ大名や忍頭が、お前達の戦いを見る事になる。国力の差が歴然となれば『強国』には仕事の依頼が殺到する。『弱小国』と見なされればその逆に依頼は減少する、そして『参加すらしない国』は忘れ去られ依頼すらなくなるかも知れん」
人間ってのは偉くなっちまうと変わるというがそういうもののようだ。国の利益とは自分の利益のようなもんなんだろ、火影様?
「そして、それと同時に隣接各国に対し『我が里はこれだけの戦力を育て有している』と言う脅威。つまり、外交的…政治的圧力を掛けることもできる」
オレのキャラクターは強いぞ、と他のプレイヤーに自慢できる、の間違いじゃないか? 自分が戦えよ。火影ってのは一番強いんだろうが。
「んなことの為に死んでいった人たちに言い訳みてぇなのは準備してんか、おい」
火影の周りにいた上忍達から物凄い視線が寄せられるが知ったこっちゃない。周りの参加者からも異質な視線が向けられる。
忘れてねぇか? テメェ等と同郷のヤツ等もこんな糞みてぇな試験のせいで死んでるんだぞ。腹立たねぇのかよ、腰抜け共。
「国の力は里の力…里の力は忍の力。そして忍の本当の力とは命を懸けた戦いの中でしか生まれてこぬ!!
この試験は自国の忍と言う『力』を見てもらう場で有り…見せ付ける場である。
本当に命懸けで戦う試験だからこそ意味があり、だからこそ先人達も『目指すだけの価値がある夢』として中忍試験を戦ってきた」
火影が自信を持って言ったその言葉を何人真剣に聞いていたのだろうか。
オレから言えることは一つだけだ。
「あんた等が考えている人の命ってのは随分と安いんだな」
もしテメェの身内が試験中に遊び半分で殺されてみな、同じことが言えるか?
体中に落書きだらけで遊んだとしか思えないような死体を目の前に同じことが言えるか? オレだったなら発狂するね。まぁ身内以前に家族なんていないけどさ。
何人かの殺気を感じる。
自分の尊敬する火影様を侮辱した九尾の餓鬼なんか殺してもいいとでも思っているのだろうか。思ってるんだろうなぁ。馬鹿しかいないみたいだしよ。つうかそれが命を軽視してるっていうんじゃないか? なぁ、お前等。
「だから意味を履き違えては困る。命を削り戦う事で力のバランスを保ってきた慣習。これはただのテストではない。これは『己の夢』と『里の威信』を賭けた…命懸けの戦いなのじゃ」
本当に困ってるように火影はそう付け足した。
「んじゃそれでいいよ。この試験が終わったら百姓にでもなるからさ。勝手に命懸けで戦ってくれって感じだ」
美味しい大根を作りたいな。人参もいいな。収穫できたらカレーを作ろう。
皆の唖然とした顔がいい。馬鹿みたいだ。って本当に馬鹿なのもいるか。
「何だって良い…それよりも早く、その試験って奴を始めろ」
「そうだな。早く終わらせて土地を耕さなきゃいけねぇんだからな」
といっても試験が終わったらこの辺一帯は荒野だろうな。
音の里は田の国にあるというしそこで畑を作ろう。美味しい野菜を作って同じ境遇の子供等に配りたい。
なに混乱してますって顔してんだ。テメェが勝手にアカデミーに入れたから今ここにいるだけで本当ならこんなところで手裏剣投げたり分身したりしてねぇんだよ。
何もしらねぇ癖に理解してますって顔すんじゃねぇ。
本当にいい迷惑だ。
「…ではこれより、第三試験の説明をしたい所なのじゃが…」
現実から逃げるかのように火影は後ろに下がっていった。残った上忍や中忍以上の忍び達の嫌悪の視線だけが残る。
慣れた眼だった。
「…恐れながら火影様…ここからは審判を仰せつかった、この…月光ハヤテから」
そして逃げた火影の代わりに痩身の忍びが前に出てきた。
大丈夫なのか? 死相がありありと出ている。
「皆さん、初めまして…ハヤテです。えー皆さんには第三の試験前にやって貰いたい事があるんですね…ゴホッ、ゴホッ!」
なにか喉に詰まっているような咳が止まらない。腫瘍とかだったら洒落にならない。
「えーそれは本選の出場を賭けた第三の試験予選です…」
予選……? どういう意味だ。
「予選って…どういう事だ!! 今残ってる受験生で次の試験をやらないのか!?」
そうだ。何故この人数にまで減らしておいて更に予選などをしなくてはならないんだ。
「えー今回は…第1・第2の試験が甘かったせいか…少々残り過ぎてしまいましてね…中忍試験規定に乗っ取り予選を行い…第三の試験進出者を減らす必要があるのです」
甘くねぇし。第1の試験は甘かったかもしれない、それでも50人近くの参加者が死んだ第2の試験が甘かったというのか。
テメェも参加してみろよ。真っ先に殺してやるよ。そんな気持ちがオレの中で芽吹く。
「先程の火影様のお話しにもあったように第三の試験には沢山のゲストがいらっしゃいますから…だらだらとした試合はできず、時間も限られて来るんですね…えーという理由で…体調の優れない方…これまでの説明で辞めたくなった方、今すぐ申し出て下さい。これからすぐ予選が始まりますので…」
なにがゲストだ。ふざけてんのか、こいつら。
金儲けの為の見世物なのかよ。この試験ってのは。こういうのをゲームって言わないでどうするんだ。つまり、アレか? この見世物ってのは国にとっては有効的な金儲けシステムって奴で毎回それの開催権を取り合ってるってことか。
なにが戦争の縮図だ。ただの金儲けじゃねぇか。
「あの…僕は辞めときます」
多くの人々が困惑の声をあげている中、まっすぐに手を上げて辞退を宣言した人間が一人いた。
カブト先生だった。
「え…と…木ノ葉の薬師カブト君ですね…では下がっていいですよ。他に辞退者はいませんか? あ…言い忘れてましたが、これからは個人戦ですからね…自分自身の判断で挙手して下さい」
「おい、アンタ…どういうつもりだ」
世話になったうちはが先生の辞退に対して止めに入ろうとする。そりゃここに来た者は中忍を目指すべく辛い修行をしてきた者たちで辞退などという選択はする筈も無い。故に第一の試験を通過してきたのだから。
それに対して先生はこう答える。
「実は…第一の試験前に音の奴らとの騒動の時から左の耳が全く聞こえないんだ…その上、命懸けって言われちゃ…僕にはもう…これ以上命は張れない」
直訳して『第二の試験が終わった時点で僕の役目も終わってね…その上、予選だなんて…僕にはこれ以上続ける意味が無い』あたりだろう。
これを更に訳すとめんどくさいってあたりだろう。オレだってそうだ。
辞めようかなぁ。
オレが手を上げようとした時、
「僕はここまでだが……君達なら大丈夫だって信じてるよ。頑張ってくれ」
んなことを言われた。
オレも辞めるって事がバレていたようだ。
先生もこれ以上は我慢の限界なのだろう。これ以上やったら徐々に冷酷さが出てきそうだ。我慢強い人だけどキレると誰よりも怖いからなぁ。
先生の場合、怪我のせいじゃなくて性格上の辞退だね。
既に出口へ向かっていて顔が見えないが開放感からか、空気が冷たくなるような気配が漂っている。仕事中の顔に戻ってるな、あれは。
オレよりも質が悪いぞ、先生は。オレ以上に殺す方法を知ってるし、手段も選ばないからな。
「えーでは…辞退者はもういませんね…ゴホッ!」
ハヤテが辞退者がカブト以外に現れない為に切り上げようとするが、
「ナルト、お前も棄権した方がいい。痛むんだろ……まだ」
確かに痛みが走る感覚がどんどん速くなってくる、それでもその痛みがオレに冷静さを与えてくれているのも事実である。我慢している分いつも以上に苛ついていたりするが、それもたまにはいい。
痛覚をカットしているのにそれを無視して脳に叩き込まれてくる痛みがオレが生きているんだと教えてくれる。
「ふざけるなよ、お前みたいに弱くねぇんだよ」
これくらい乗り越えないのならあの時生き延びた意味が無い。それ以上にネジと対等でありたいのなら弱みなど見せられない。
そしてリーの前でも見せられるわけが無い。
それだけじゃない、ヒナタもいるんだ。かっこつけてぇじゃねぇか。自分は弱くないって思わせてぇんだよ。
オレはオレの為だけに苦しみたい。
「呪印か……大蛇丸の奴め、うちはサスケに呪印を与えてないようじゃのぉ………」
皆が恐れていた事態からは免れたということか、良かった。
「その代わりナルトに与えたようじゃ…」
それは俺が恐れていたことだった。ナルトは脆い。そして異様に才能に執着していた。それを漬け込まれたのか、なんで俺は大事なところで役に立たないんだ。
「カカシ、担当上忍からしたらどうするべきかのぉ……」
一人唸っているところで火影様が俺に質問してきた。
答えなんて決まっている。違うな、決められている。
「なにもできませんよ…もし、しようとしてもナルトだったら拒否しますね」
「ふむ、大蛇丸の事も気に掛かる…ナルトはこのままやらせ様子を見て行く…良いな? ただし…呪印が開き、力が少しでも暴走したら止めに入れ、それはカカシ、お前の仕事じゃ」
やはり何も分かっていない、この人は。
あのナルトを止められるのか、未知数な上に呪印。かなり骨が折れそうだ。そして呪印は憎悪を糧に増徴していくという。ならばナルトの呪印は最高の素材を手に入れたも同然なのではなかろうか。
それ以上に、ナルトが大蛇丸の呪印などに暴走するなど想像出来ない。
俺は分かっている。アイツは誰よりも強い。
「えーでは、これより予選を始めますね…これからの予選は1対1の個人戦…つまり実戦形式の対戦とさせて頂きます。ちょうど20名となったので合計、10回戦行い…え―その勝者が『第3の試験』に進出できますね…」
手持ちの本を見ながら読んでいくハヤテ。
「ルールは一切なしです。どちらかが死ぬか倒れるか…或いは負けを認めるまで戦って貰います。えー死にたくなければすぐに負けを認めて下さいね。ただし、勝負がハッキリとついたと私が判断した場合…無闇に死体を増やしたくないので止めに入ったりなんかします…」
俺が上忍になったときに比べると随分と変わった気がする。昔の方が殺伐としていて本当に試験らしかったのだが。
この長ったらしい説明を聞いているナルトは見た分かる通り機嫌が悪そうだ。アイツが嫌いそうな仕組みだからな。
それにしても呪印を与えられたというのに多少の苛付きだけで抑えられているのは恐ろしい精神力だ。
「そしてこれから、君達の命運を握るのは……」
そしてハヤトが指を指したのは電光掲示板だ。
早くナルトが選ばれれば楽になるというのに、こればかりは文句言えない。
「これですね…えーこの電光掲示板に…1回戦ごとに対戦者の名前を2名ずつ表示します。では早速ですが第1回戦の2名を発表しますね………出ましたね」
『ウチハ・サスケ』VS『アカドウ・ヨロイ』
早くもサスケか、この試験中にどれだけ成長したか楽しみだ。
アイツの才能は俺を超えているかもしれない、それだけに楽しみだ。それと同じようにナルトも……。
何故こうなってしまったのだろう。
「では、掲示板に示された2名前へ…第1回戦対戦者―うちはサスケ、赤胴ヨロイの両名に決定…依存ありませんね」
二人とも小さく頷き中央へ歩いていく。
「えーでは…これから第1回戦を開始しますね。対戦者2名を除く皆さん方は上の方へ移動して下さい」
俺はナルトの元へと駆けた。
一瞬で目の前に現れたというのにいつもどおり驚きもしない冷めた眼、それが一層ナルトに才を感じさせる。
「お前まで止めに来たのか…」
大きなため息を吐くナルト。
まで? 俺以外に止めようとした奴がいるのか。サクラかサスケだろう。
「なんだ、止めて欲しいのか?」
「いい質問だな、おい」
ナルトが唇だけ歪める。呪印が痛むだろうに、どうして自然体でいられるのだろうか。
アンコ特別上忍は痛みに堪えずに悶えるというのに、下忍であるナルトは耐えている。なにがナルトを強くさせたのか、きっと本人以外分からないのだろう。
この眼でも分からない。最近はこの眼があまり役に立たないと思えてきたところだ。
「暴走しなきゃいいよ。頑張れ」
「それでいいのかよカカシ上忍。火影に言われてんじゃねぇのか?」
よく観察しているなぁ。白眼を使っているわけでも無いのに、いい洞察力だ。
「言われているのは暴走したら止めろってだけ」
「随分といい性格になったな、おい」
やっぱりそう思うか。
「肩肘張るのを止めたんだ、随分と長い間張ってて疲れてね」
先ず肩がこりやすい。あと心労か。
適当が一番。寝坊が二番、イチャイチャパラダイスが三番ってところだな。
「それのせいかな…いい顔になってるぞ」
「顔がいいのは生まれつきだ」
失敬な奴だ。昔から美形の顔だと自負している。
「やっぱりお前は馬鹿だな」
ナルトがやっと普通に笑う。子供らしくない笑い方だが、それでも似合っているんじゃないかと思う。
「馬鹿にはそれくらいがちょうどいいんじゃないか」
やっとナルトが見えたような気がする。
「はは、そうかもな」
ああ、そうだな。
ナルトもそれくらいがちょうどいいんじゃないか、そう言いたかったのだがすでにナルトは上に移動していた。
赤銅ヨロイとサスケが中央で対峙している。
ヨロイと違いサスケには疲れが色濃く見えているが、まぁ大丈夫だろ。
アイツはやる時はやる奴だ。そして負けるところなんて想像できないな。
「ナルト、サスケは勝てそうか?」
多分この里で一番サスケのことを知っているのはナルトだろう。なんだかんだ言ってもこの二人が一番付き合いが長い。そしていがみ合っていた時間も長い。
サスケを知るには長いといってもいいくらいに二人はぶつかりあっていたのだからな。
「あの程度の相手に負けるなら波の国でくたばってるな」
「そうだな」
ちゃんと分かっているじゃないか。
ナルトだってサスケを認めている。だからぶつかっていたんだと思う。
ほとんどの参加者がサスケの戦いに注目している。ある程度の情報は掴んでこの試験に挑戦してきた者もいるだろう。
サスケが今期の№1ルーキーでありあのうちはの末裔だということを。
そして今期のルーキーは嫌でも気になっている筈だ。
サクラは心配そうにサスケを見ている。
「大丈夫、サスケはあの程度には負けないよ」
「はい!」
随分と時間が掛かったがやっと俺が求めていたチームが出来そうだ。
「それでは…始めて下さい!」
その言葉で予選は始まった。
合図とほぼ同時にヨロイが印を組む。そして両手がチャクラで淡く光りだす。
あれは何度かみたことがある。
チャクラを吸収する術の一種だろう。接近戦では少しきついかも知れない。
あれを極めれば放たれた忍術でさえ打ち消してくる。とても珍しい能力だ。
それを相手にどう動くか、驚かせてくれよサスケ。
「ふっ!」
手裏剣か。確かにチャクラを込めていない攻撃ならばチャクラ吸引だろうが問題ないだろうが、火力が足りないな。
「うぉぉぉおぉッ!」
ヨロイが着込んでいる鎧にはあの程度の手裏剣では内まで届かない。それが分かっているヨロイは剥き出しになっている顔のみを守ってサスケへ突撃してくる。
「燃えろ、豪火球の術ッ!」
随分と印を組むのが速くなった。顔を隠しているヨロイからは印を組む動作すら見分けられなかっただろう。
火の玉とヨロイがぶつかり弾ける。
サスケはこれで勝利を確信しているようだ。こんなあっさりと終わるはずが無いのにも関わらずに。
「あの程度の忍術で負ける程度の守備力ならば特攻をかけるとは思えないのにな」
ナルトの言うとおりだ。
「なっ!?」
未だ燃え盛る炎の中から無傷のヨロイが飛び出てきた。
油断していたサスケはヨロイの突き出した腕を避けようとするが皮一枚で触れてしまった。
驚愕の表情のサスケ、おそらく今の一瞬だけである程度の虚脱感を感じたのだろう。
「あれくらいの炎など俺には効かんぞ!」
そう言って腕を突き出し続けるヨロイを避け続けるサスケ。
「どうした! 掛かって来ないのか!」
それでもサスケは静かに避け続ける。
サクラがそれを心配そうに見つめる。他の参加者も同じようにサスケを見つめる。
心配と失望、どうかしたのかという気持ちとこの程度かという気持ちが交差する。
ナルトはどちら側でもなさそうに戦いを見続けている。
何かがあるのだろうと俺も考えている。あのプライドの高いサスケが罵られようが静かに戦っているのだ。取っておきがあるのかも知れない。
そしてさらに数十秒、この一方的な戦いが続いていたその時、やっとサスケが口を開いた。
「とっておきを見せてやるよ」
そして聞き慣れた音、まるでそれは千の鳥たちが飛び立つ音のような、
「まさか千鳥か!?」
何時知ったんだ!? 誰かに教えられた、違うな。もしや独学なのか。
サスケが避け続け沈黙を守っていた理由、それはチャクラを集中していたから。
あんなに動き回りながら集中するのは経験の浅い下忍であるサスケにはあまりにも難しすぎる。
それをあまりある才能で経験不足を補ったというのか。
腕に絡みつくように放電するチャクラ、あれはまさしく俺の千鳥だ。
「今頃何を出しても遅い!」
そう言って淡く光の灯った手を突き出すヨロイ、お前に言いたいよ。そのセリフを。
そして同時に突き出された腕がぶつかり、サスケの腕がヨロイの腕を吹き飛ばした。
ヨロイ程度の吸引速度で千鳥のチャクラを吸い取れる筈が無いんだ。最初から決まっていた結果だ。
サクラはサスケの勝利に喜んでいる。他の参加者も最後のサスケの技に戸惑いを隠せていない。俺の唯一のオリジナルである技だ。たとえ今のサスケが出したのはどれだけ稚拙だろうが下忍からしたら必殺になりえるだろう。
しかし、一人だけ他の皆とは違う反応をしている者がいた。
「ナルト…」
ナルトだけ止まったようにサスケを見ている。
それは驚くだろう。サスケの成長速度は異常だ。一人で性質変化をやり遂げ、それも物凄い短期間でだ。
形状変化の方は出来ていないみたいでさっきの千鳥も大きさが小さすぎる。手の表面だけが放電したようなもんだが、それでも異常な速度で成長している。
俺はサスケの成長に喜んでいるせいで気付けなかった。
ナルトの表情が焦りで埋め尽くされていく様を。
疲れて帰ってきたサスケを俺達は快く迎えた。
「見てたぞ、すごいじゃないかサスケ!」
「……別に」
サスケは照れ隠しなのか顔をそらしてそういう。可愛いやっちゃな、と思った。
「さすがサスケ君ね、かっこよかったわ!」
サクラがそういうと更に顔を赤くさせる。
初々しくていいじゃないか、こういうのも。サスケもサクラもお似合いだし、こんな空気も久しく吸っていなかったな。
そう思ってマスク越しだが久しぶりに大きく空気を吸った。
レモンのにおいだとか酸っぱい匂いじゃなく苦い芳香が俺の鼻に吸い込まれていった。
「ん、ナルトは未成年でしょ」
ナルトがタバコを吸っているのは初めて見た。子供らしくないな、似合っているが似合っていない。
そう言うと勝手に試験会場から出て行った。
まぁ、なにかと謎があるといえばきりがないが、アイツがそんなに悪い子じゃないってのは分かっているから大丈夫だろう。
ナルトは誰よりも強い子だ。
「畜生ッ!」
オレが殴りつけてた鉄製の壁が陥没する。手から鉄臭い血がだらだらと流れて気持ち悪い。
オレが一年近く費やして身につけた性質変化をアイツは三日…いや、ただ考えただけで出来ただと? どれだけオレは惨めなんだ。
リーが言っていた努力がこうだってレベルじゃない。アイツは神様から全てを貰って生まれてきたとしか思えない。オレには何もくれなかったのに。
オレの一年をアイツは一瞬で踏み越えていく。許せる筈が無い、心が止せと告げ続けるが止められない。
オレの憎悪は静かに静かに噴出していくのを。堕ちて行ったのが徐々に戻ってくる。この十年以上溜めてきたナニかが一気に噴出してくる。
「随分と頭にきているみたいねぇ…」
気が付けば目の前には大蛇丸が居て、体中が呪印に蝕まれていた。
「ああ…今なら神様だって殺せそうだよ」
体中の血という血が沸騰しそうに熱い。肉という肉が焼け焦げそうに燃えている。
「なぁ…うちはだったら呪印を与えられても生きていたと思うか?」
結局はアイツの才能が羨ましいだけなんだ。なんでオレじゃない。なんでアイツだけに全てを託した。
オレは止まっているのにアイツは進んでいる。誰よりも前に進みたいと願っているのがオレなのに、なんでアイツがオレよりも進んでいるんだ、おい。
「ふふ…さっきのサスケ君を見て嫉妬してるの?」
「質問しているのはオレだ!」
胸糞悪い。
オレはこのままでいいのか。このまま止まったままでいいのか。それだけが心の奥で連呼し続ける。
「さっきのを見て確信したわ…サスケ君だったら自力で生き延びる……貴方と違ってねぇ」
「そうか…」
アイツなら生き延びられるだろう。余りある才能で全てを凌駕しうれる。
オレとは段違いだ。二段も三段も違うところでアイツは君臨している。
なんでアイツなんだ。なんでオレじゃない。
こんなに苦しんでいるのに、なんでアイツなんだ。あんなにものほほんと幸せに暮らしていたアイツがオレの上を往く。
「腹が立つでしょ…」
「……………」
「あんなに頑張っていた君がなにもしてないサスケ君に追い抜かれて悔しいんでしょ……?」
うるさい、そう言って切りつけようとした。
しかし、風の刃があと少しで喉笛を突き破るというところで止まってしまう。
大蛇丸の眼がそれを止めてしまう。あのギラギラとした目がオレの全てを凍りつかせる。
「オレは……どうすりゃいいんだ」
もう方法が無いんだ。これ以上アイツ等と一緒にいてもオレには何にも強くなれる術が無い。むしろアイツだけが強くなってしまう。
そして追い抜かれ成長が止まらないアイツは止まってしまっているオレを見て皮肉気に見下すだろう。もしくは同情されるか、あの眼で。
「白眼を取り込んだ…身体も改造した……誰よりも知識を脳にぶち込んだ……それで終わりなのか、オレは?」
もう道が途切れちまったんだんだよ。
暗闇の中で手探りで進んでいた道が、途切れちまった。
「白眼を取り込んだ…身体も改造した……誰よりも知識を脳にぶち込んだ……それで終わりなのか、オレは?」
そんなことまでしていたのか、興味本位で揺さぶろうとしていたのに私が驚かされてしまった。
カブトは彼にそれほど熱心に術を教えていなかったというのに彼はそれを身に付けていったという。それはほど独学。
それは恐ろしい才能、その才能の持ち主が今は絶望という暗闇でもがいている。
これはいい。サスケ君を力に執着させようとしていたのに逆に嫉妬の炎で焼かれてしまっている。
つまり、こちら側に引き寄せられる。カブトの部下では得られなかった戦力を引き寄せられる。
「まだ…よ。貴方にはまだ道は続いているわ」
下手なことを言ったらそれでお仕舞いだ。この子はもう成長しなくなり潰れてしまう。その上一生カブトの実験材料のまま終わってしまう。
「自分に絶望していたらそれだけで道は見えなくなってしまうわ……そんな君を助けられるのは私だけよ」
自分で言っていて笑ってしまう。
少し手を貸すだけでこの子はどんどん強くなってしまうだろう。それをこの子は私のおかげだと勘違いする。それを利用すればいい。
使えるものは使わなければならない。それを捨てるのは馬鹿がすることだ。だろう、カブト。
カブトだって実験の繰り返し、それだけで彼は強くなっていく。凡人では発狂するようなことでも彼は軽く乗り越えていく。
それを才能といわずになんという。それこそ才能だ。それを搾り取ってやる。
九尾だって言っていた。この子は更に歪む、それを私がしてやろうって言ってるのよ。
「強くしてあげる…誰よりも強く、誰にも侵されない、誰すらも揺さぶれない強さを君にあげる」
黒く、歪んだ、醜い化け物を作ってあげる。
私の手で、人の手で九尾以上の化け物を作ってあげる。
「出来るのか、お前に…」
微かな光が彼の眼に灯った。
なんという光だろう。力強く儚い矛盾を内包した色を極めづらい淡い光。
「出来ないと思うのか」
逆に私が取り込まれそうになるほどの危ない光、それを私色に染めてやる。
私は大蛇丸、誰にも屈しない。
大蛇丸がオレの目の前から去って何十分立ったのだろうか、足元には踏み消されたタバコが何本も並んでいる。
タバコの消費が最初に比べると随分と多くなってきた。そろそろばら買いからカートンに変えようかと思っている時思わぬ訪問者に言葉をなくした。
「いなくなっちゃったから探したよ」
「そうか…」
随分と長い間名前を呼んでいなかった気がする。
忘れちゃいけないのになぁ、馬鹿だなやっぱりオレは。
「もう半分くらい終わっちゃったよ」
そんなにオレはタバコ吸ってたのか、というか進行が思ったよりも早いな。
「随分と進行が早いな、何かあったのか」
「キバ君が棄権しちゃったからね…」
あのキバが? それはありえないだろ。アイツが棄権するってことはどれ程の相手なんだ。
「相手は誰だ」
「ガアラって書いてあった…」
あの目つきの悪い奴か。強いといってもキバならばそれを糧にやる気が増すタイプの筈だ。それが棄権するなんて、
「第二試験で見たの……簡単に人を殺してるところを」
それで、か。
キバは自分ひとりなら果敢に勝負に出ただろうが、アイツには赤丸がいる。その為か。
オレは震えているヒナタをやさしく抱いた。
ただ抱きしめた方がいいと思ったから身体が動いていた。
「こんなに気持ちよかったんだね…羨ましいな」
誰が?
というか脇腹を抓られているオレはどんな反応をすればいいの?
「ちょ…痛いって」
「我慢しなさい」
命令形? 怒ってるの? なににだよ。オレなにもしてないって。
そんなのが暫らく続いてやっと解放された。きっと痣になってるな、痛かった。
「試験中になにやってたの?」
解放され次第にそういわれた。眼が笑っていない。
しかも白眼を発動している。嘘つけない。
「なにもしてないって」
「ふぅん…」
ふぅん、って何を疑ってるのお嬢さん。
「テンテンって人を抱きしめてたよ」
ああ、そんなことを言うの!?
不可抗力だって、オレは気絶してたんだよ。これって嫉妬? 嬉しくないな。
「あの時オレは気絶してたんだって!」
「へぇ…」
へぇ、じゃないって。絶対にそれは誤解だ。
オレは無実だ! 冤罪だよ、これは立派な。
「じゃあ、もう一度抱きしめて…」
そんなことを頼まれた。
うおぉぉぉぉ、と脳の中のナニかが叫んだ気がする。頭の中が爆発寸前だ。このまま爆発しちまえばいいのに。
そしてオレの脳は爆発を阻止することが出来なかった。
今、ヒナタはオレの腕の中にいる。
我慢しないでよかった。
服越しでヒナタの暖かさを味わっている時、聞きたくなかった声が聞こえた。
それは邪魔をする者の声。
「ヒナター、ヒナタの試合よ!」
いのだった。このお邪魔虫さんめ。オレの邪魔しやがって、あとでアイツのポーチの絆創膏に唐辛子を塗ってやる。
なんかシカマルが泣き叫ぶところが想像できた。オレは謝らんぞ。
「ごめんね、私行くね」
そう言って走っていくヒナタをオレは手をふって見送った。あの空間にいると気分が悪くなっちまう。
もう一度タバコを吸おうとポケットに手を突っ込んでいると聞こえた。
「見守ってくれないんだ…」
慌ててヒナタが向かっていった方を見ると、閉まりかけの扉がポツンと残されていた。
一本だけ時間を掛けて吸ってオレは試験会場に向かった。
何故タバコを吸っていたかというと、顔がまだ赤かったからだ。
んなこと誰にも知られたくない。ヒナタにも。
扉を開けると、そこはどよめきしかなかった。
「私はずっと変わりたかった!」
ヒナタの声が会場中に響いた。
その顔はさっきまでのとは違う必死さだけが出ている。
相手は……日向ネジ!
ネジとヒナタが戦っている? 偶然にしては出来すぎてないか。誰かが面白半分でぶつけたのなら、ぶっ殺してやる!
戦わせてはいけないんだ。この二人だけは。
それは、オレはどっちを応援すればいい。
オレが対等でありたいと願っていたネジか、オレが守っていたいと願ったヒナタか。
「遅すぎるぜ…ナルト」
後ろから名を呼ばれ反射的に振り返ってしまった。
そこにはボロボロの状態のシカマルがいた。
「負けたのか、お前まで」
ありえない。シカマルが負ける? 信じられなかった。シカマルの一言を聞くまでは。
「音の奴等は下忍って実力じゃねぇ……オレでも底が見えてこねぇ」
シカマルは音の四人衆の一人と戦っていたのか。よくそれで無事に帰ってきたと思う。
面白半分で殺されなかっただけシカマルの実力が分かる。
「シノも音の一人に負けた…同じ虫使いでシノがだぜ? ありえねぇよ」
あの底が見えないシノが負けた。まったく、どんな中忍試験だ、おい。
「アイツ等笑っていやがった……次は負けねぇ」
そう言ってシカマルはそれっきり黙ってしまった。
音の奴等は馬鹿ばかりだ。あのシカマルを本気にさせやがった。そして木の葉を馬鹿にした。
それがどれだけのことかをまったく分かっちゃいない。
オレがそういきり立っている時、またヒナタの声が会場に響いた。
「私は変わる! 私が思い描いてきた私に!!」
ヒナタが動いた。それは今までとは違う力強い踏み込み、オレとの試合とは格段に違って見えるヒナタ。
今日のこの時の為にアレからどれだけの修行をしてきたのかが想像出来ないほどの変わりよう、ヒナタは強くなった。
それでもネジには届かない。
「ヒナタ様、貴方は水面に移った月を見ているだけだ」
ヒナタの猛攻を紙一重で避けながらネジは余裕を持って言う。
どれだけ強くなった? あれがネジの実力なのか。あれほど強くなったヒナタでも足元に至っていない。
「『落ちこぼれ』は所詮『落ちこぼれ』なんですよ」
力が入りすぎて前のめりになったヒナタにネジの稲妻のような手刀が入った。
それだけでヒナタは血を吐いて苦しんでいる。それでも心は折れず立ち続ける。
それを見ているネジは氷のように冷たい。まるで物を見ているかのように冷たい。まるで氷だ。
「まだ続けますか、ヒナタ様」
「ナルト君が言いました…私がどれだけ頑張ろうが貴方には届かないと」
あの時オレが言ったことだ。そんなことを気にしていたのか。ヒナタは。
止めてくれ、もう戦わないでくれ。オレは猛烈に後悔した。ヒナタに出会ったことも、ヒナタを知ったことも。
止めてくれ。もう、止めてくれ。
「それが私を変えた! もう、弱かった私は要らない、私は強くなりたかった!」
ヒナタの目の中で燃え尽きそうだった炎がまた灯った。それは今までのどれよりも美しく激しく猛々しく。
ネジも分かっているだろう。今のヒナタは前とは違うということが。
「ナルト君の中には何時だってネジ兄さんがいた……そこは私が場所です!」
「ほらナルト! アンタも何かいいなさいよ! ヒナタがあんなに頑張ってるのよ!」
そう言ってサクラがオレの背中を力強くたたいた。
サクラの手から何かが伝わったかのように熱い何かが込みあがってくる。
なにを悩んでいたんだ。オレは。
やっぱりオレは馬鹿だ。
カカシ、お前に言ったよな。
「ヒナタ!! 負けんじゃねぇぞ!!」
馬鹿にはこれくらいがちょうどいい。
ヒナタが笑った。それで十分だ。
あとは笑って見ていよう。ヒナタが帰ってくるまでを。
バンッ! とチャクラが破裂しあう。弾けぶつかり合う。
ヒナタとネジの優雅で美しい舞が目の前で繰り広げられている。柔拳使い同士の戦いとはここまで美しいのかと彷彿させる。
同量のチャクラがぶつかって弾ける。それの連続。チャクラがぶつかる度に会場の空気が震える。
いったい一手一手にどれほどのチャクラを込めているんだ。多分一撃一撃が必殺だ。ガードなしで受けた瞬間に内臓が死ぬ。
その舞の早さも徐々に上がっていく。限界というのを知らないのか、それは下忍同士の戦いを超えても止まらない。
何人の受験者が今の二人の攻防を目で追えているのだろうか、おそらくそう多くいない。
先端にチャクラを込めた渾身の蹴りでも上半身は柔拳で守られていて隙は無い、そしてそれを避ける方にも同じこと。
槍のような突きを腕を肩のバネで逸らして更に接近してカウンターを入れる。身体が触れてしまいそうな近距離だというのに動きが止まることはない。
柔拳使いにとっては身体の全てが武器となる。究極の体術とは柔拳なのだと改めて教えられる。
そしてそれの使い手同士の戦いとは即ち最高の戦いへと昇華する。
弾けるチャクラで視界がチカチカとしてくる。
オレは見誤っていた。ヒナタは一体どれくらい強い? どれくらいにまで強くなった? 分からない。
「今ヒナタがどうやって攻撃したか分かったか?」
うちはに訪ねた。
「フェイントが三回、そして蹴りを二発だな。柔拳は三発ともネジに止められた」
「蹴りも全部フェイントだ雑魚。最後の柔拳も最初の二発がフェイント」
写輪眼を使っているうちはでもフェイントに見えないヒナタの猛攻、そしてそれを確実に防いでいるネジ。
刹那の間での攻防をしている二人が下忍というのだろうか。試験官や上で見ている上忍達も下忍の戦いだというのに真剣に見ているじゃないか。
この二人のうち一人を落として他の馬の骨を中忍にしようとでも思っているのか。
高速の戦いが続いている。これだけの戦いで未だにペースが上がり続けている。
ヒナタがネジの蹴りを寸前で跳んで避けた。ネジの蹴りが身体の寸前を通り過ぎ次第に懐に飛び込み心臓に向かって左腕を突き出した瞬間、ネジの体中からチャクラが迸りネジの体が高速回転した。
あれをオレは知っている。
「分家のネジが何故回天を知っている?」
双子の兄が宗家の当主であったヒザシだから知っていた回天を何故ネジが知っていて体得している。
ヒアシの身代わりに殺される前に伝授されていたのか、在り得ないな。
ならば独学か、それこそ在り得ない。
木の葉で何代も掛けて培われてきた宗家の奥義を独学でたった一代で作り上げるなんて天才だろうが不可能だ。
並じゃないのか、ネジの才能は。
「見事です…俺にこれを使わせるなんて以前の貴方なら在り得ないことでした」
吹き飛ばされて何が起きたかも分かっていないヒナタはやっと止まった高速の攻防に疲れをありありと見せている。それなのに関わらずネジに疲れは見えていない。
あの攻防で疲れを見せていないネジに気付いた誰もが驚きの表情をあげる。
オレだってそうだ。アレだけのペースで戦っておきながらスタミナが尽きていないなんてどうかしている。
「ガハッ!!」
壁に叩き付けられていたヒナタが突然吐血した。
互角じゃなかったのか!? あれだけの速度で戦いながらネジはヒナタに攻撃をしていたというのか。
吐血しているヒナタをネジは大したことの無いように見る。
「殺すつもりで攻撃していたというのにほとんどが防がれてしまった」
殺すつもりだったというのか、アイツは。
「もういい! ヒナタ、十分にお前は戦った!」
もう戦わないでくれ、ヒナタぁ。
もう沢山だよ、お前が痛い目にあうのは。もう御免だ。
「まだ私は……負けてない!」
ああ、負けてないさ。だけど勝てないんだよ。
オレがネジをここまで強くしちまったんだ。
「夢は醒める為にあるんですよ」
あの構えは八卦六十四掌、ヒナタを殺す気か。
「私は負けない!」
だけど殺させないよ。
それと、ヒナタは負けてなんかないさ。
「何をしている、ナルト」
「馬ァ鹿…見てわかんねぇのか」
守ってんだよ、ヒナタをよ。
今のネジの八卦六十四掌で作っていた影分身も全て消され残った半分以上の攻撃を全て受けてしまった。
さすがに痛すぎる、だが後悔なんてしていない。
突然入れ替わったおかげか、点穴だけは守れたが内臓はボロボロだ。込みあがってくる吐き気を我慢する。ここで吐いちまったらヒナタの顔中がオレのゲロになっちまう。
そりゃねぇだろうと思っちまってつい笑っちまった。
「なにがおかしい」
ネジは明らかに苛立っている。
あたりまえか、オレのせいだ。
「何でもねぇよ、少しくらい手加減しろよ。ヒナタが死んじまったらテメェを殺すぜ」
腕を切って足を折って内臓を全て引き摺り落として代わりに爆薬を腹に突っ込んでぶっ殺してやる。
「ナルト…君?」
何が起きたかも分かっていないヒナタがオレを呼ぶ。
ちっちぇえ身体でよくネジを戦えたもんだ。あのネジと戦えただけで表彰もんだ。
ヒナタの小さな頭を撫でる。
「まぁ…ごめんな、試合止めちまったよ」
なんて言えばいいのかわかんねぇ。
やっぱりオレって馬鹿だ。
いつもヒナタを泣かせちまう。
「ヒナタ選手は反則により負けでいいですね?」
「オレも失格でいいぜ」
ヒナタを負けさせといてオレが残るってのはおかしいんじゃないか。どこまでも一緒にいてやりてぇのよ。
「ナルト選手の失格は無理ですね」
「あっそ」
無理ならいいよ。代わりにネジをやっつけてしまおう。
うん、それがいい。ヒナタにオレが強いってことを教えてあげよう。
誰よりも強いってことをだ。
「ネジ、本戦で血祭りに上げてやるよ」
本当に血祭りにしてやる。
オレはヒナタを背負って医務室へ向かった。
「誰だ、木の葉の忍びは雑魚ばかりだっていったカスは」
あのカブトの助手がヒナタという選手を庇ったのを見て多由也が苛立ちながらそう言った。
「多由也が言ったんじゃないか」
「うるせぇクソデブ! くせぇんだよ!」
もう慣れたさ。
「隠しキャラ並に強いぜよ」
楽しそうに鬼童丸が言っている。
鬼童丸も多由也も最後にいつカブト先生の助手が庇いに入ったが見えなかったから苛付いてるのだろう。
確かに、恐ろしい速さだった。一次試験の時の動きも速かったが今のは今までで一番速かった。
呪印を発動させずにあそこまで動けるのなら発動させたらどうなるか、それを多由也は想像したのだろう。
同世代であそこまで圧倒的に差を感じさせたのは君麻呂だけだっただが、だからこそ多由也はキレているんだろう。
木の葉といえば鬼童丸がシノという奴と戦う前に言っていたな、
「同じ属性を感じる」と。
属性ってなんだ?