「ひゃ、ひゃほあぁ!! さ、サバイバルはやっぱ俺達の独壇場だぜ!! な、なぁ、二人とも!!」
笑顔のヒナタが怖すぎる!!
あの後残った二人が一斉にヒナタの方へ向かっていきやがった。
あの大量の千本を使ってた奴、かなり強かったのになぁ。ヒナタの奴全部避けてビンタ一発(確か柔拳だったっけかな)で死に掛けてやがった。
「うるさいです…」の一言で終わらせやがったし、この世で一番怖いモノを見た気がしたよ。
赤丸まで怯えてやがる。あれはやばいってさっきからうるさい。
「ま、まさかヒナタが倒した奴が目的の巻物を持ってやがったとはな! お、俺達運がいいのかも知れねぇぜぇ!!」
無理矢理テンションを上げてねぇと本当に運がいいと思えてこねぇ……。
なんだろう、遣る瀬無いぜ。
「お前は調子に乗りすぎる…それは危険だ。敵に遭遇しないよう注意を払う…これが安全だ。…どんな小さな虫でも、いつも外敵から身を守る為…」
「うるせぇ! テメェに俺の気持ちが分かるか!」
雨でも降ってるのかな、きっとそうに違いねぇ。
狂った歯車の上で
目を覚ましたとき、目の前にいたのはカブト先生だった。
何故に起きたときに必ず現れる? 狙っているのか? もしそうだったら最悪だ。
「生きてたんだね」
「死んでると思ってたでしょ」
「それもありとは思っていたよ」
「どっちが良かったですか」
「どっちにも使い道があるからね」
「んじゃ、もし死んだら有効に使ってくださいよ。そうじゃなければ死んでも死にきれねぇ」
「任されたよ。死ぬときは気持ちよく死になさい」
「ういッス」
起きてすぐにしてはかなりハードな会話だなぁ、と脳が覚醒していないオレでも分かった。
所詮はモルモットみたいな存在なわけだし一度死んだつもりで生きているが面と向かってそう言われると考え直そうと思えてくる。
死んでも死なねぇぞ、って。
訳わかんねぇし。笑いが出てくるのに笑えねぇ。なんだろう、矛盾。
「それで、大蛇丸様はどうだった」
いきなりそれを聞くか、聞かれたくなかったのになぁ。
「無理ッスよ。なんで死なねぇのか不思議ですね。最初から最後まで殺す気だったのに」
最初ってのは起爆札(大蛇丸用に改良されている)のことで最後ってのは八門遁甲のことだ。案外蛇用の毒団子でも食わせたらコロッと死ぬかも知れないなぁ。
一応爆薬にも毒を入れて爆風と一緒に毒殺しようと思ってたのに、ゴキブリみてぇにピンピンしてた。後姿は本当にゴキブリそっくりだ。
「それにしてもなんでここが?」
「あっちにコレが落ちてたよ」
そう言って指差した方向は最初に刀で腹を切られた所だ。んで渡されたのがタバコ。蹴られて木にぶつかったときにポケットから零れ落ちてたみたいだ。起きた後も気が立ってたから気付けなかったみたいだ。
「ありがとうございます」
これがねぇと落ち着けねぇ。ちょっとしたことで苛付いてしまう。
これは心の清涼剤ってか。
「それにしても体内門を開くとはね、何時か教えようと思ってたのに」
「聞いて無いですよ。そんな重要なこと」
んじゃあの熱血バカについて回ったあの長い時間は一体なんだったんだ。
意味無いじゃん。ちくしょう。
「どれくらいまで身体が持つか実験したくってね」
結局は実験か。まぁその実験の度に強くなれるからいいんだけどね。諦めてるんだけど。
麻酔で眠らされている間に関節が自由自在に曲げられるようになっていたときは絶叫しそうになったし。
というか白眼も先生の思いつきだし。カカシの影響らしいが。
「期待されるほど開けないですよ。本当は生門が限界なんですけどあの時メチャクチャ興奮してたんで傷門まで開けたんですけど二十秒くらいが限界でしたよ」
ひ弱の中のひ弱ってのはオレの為に在るのかもしれないと思えるほどの貧弱さだ。うちはでももう少し持つだろう。
「改善の余地はまだあるよ。これが終わったらまた実験だ」
医学に100%は無いというがカブト先生はそれを認めていないのかもしれない。死んだとしても死体を弄くってから生き帰しそうな感じだ。
そのおかげでオレはまた強くなれる。
オレはカブト先生に利用されている。そしてオレはカブト先生を利用している。
こんなもんでもいいと思えてくるオレは確実に狂ってる。
「気絶していた私達を見つけてくれて、その上見張っていてくれありがとうございます!」
なんて設定でオレ達は改めて先生と挨拶する破目になった。
「いやぁ、可愛い後輩を守れて僕も嬉しいよ」
なんてさわやか過ぎる笑顔でそう言える先生が怖いわ。
「俺の怪我まで、すまん」
うちはまで礼を言っているあたり呆然とする。
スパイ暦が長いといってもここまで速く溶け込めるとは思っていなかったがすごいとしか言えない。
先生って二重人格だからな。キレると誰よりも怖いな。その笑顔が一瞬で冷たくなる。温度差が激しすぎてついていけない時もある。
「君達もすでに巻物はそろっているんだろう。僕達の班も同じだから一緒に目的の塔まで行った方が安全だ。お互いに奪い合う必要が無いんだからね」
「え、カブトさんのお仲間の人たちはどうしたんですか?」
春野がそう先生に尋ねた。オレも気になっていてお前等が起きる前に聞いていたんだけどな。
「みんな僕がここに残るって言ったら怒って先に行っちゃったよ」
そういって恥ずかしそうな表情を作って頭を掻く先生。
実は本当だったりするから驚きだ。
同じようにスパイとして任務にあたっていた二人は先生のことを気に入っていないみたいでなにかとすぐに突っかかる。バカだね、身の程ってのを知らないんだ。オレだったらそんな無謀なことできねぇよ。
「そうなんですか…なんか悪いですね」
「気にしなくていいよ。こうやって一緒に合格が出来るならば二人も納得すると思うんだ」
うわぁ、心にも無いようなことを迫真の演技で言える人だなぁ。本性しってなきゃマジ騙されている。
オレも勉強しておこう。何時か役に立つかもしれない。
俺達は黙々と塔へ向かっている。
しかし、湿気で葉が腐っていて歩き難い。二人ともザクザクと足音を立てて歩いているが先生は普通に街中を歩いているような足音を立てて歩いている。
チャクラのコントロールが完璧なんだろう。オレも同じようにしようとしているのだがうまくいかない。足音が立たなかったり二人のように無様に足音を大きく鳴らしたり、歩いているだけで疲れてきた。
そして数十分あるいているとやっと塔に辿り着いた。
「何だ、お前達か……遅いぞ、カブト」
黒装束と木の葉の額当てをした二人が立っていてオレ等を見つけ次第にそう言った。
何様だ、と言いたい衝動が走ったが口が開く前に先生が前に出て行った。
「待たせたな…スマン」
この二人には大して罪悪感を感じさせないような感じに先生はそう言う。
こんな挌下にそこまで演技をする必要はないと思っているのだろう。同意する。
「で、でも! カブトさんのお陰で何とか無事にここまで来れました…ありがとうございます!」
春野と一緒にうちはまで頭を下げている。
飼い慣らされた犬のようだ。あんな短時間でこうなるとは驚きだ。
「いや、僕は何もしていないよ。ここまで来れたのは君達の力のおかげさ!」
後ろの二人とは明らかに違う態度に面白くなるがここで笑ったら試験後の実験で痛い目に遭いそうだ。
後ろの二人から舌打ちが聞こえたりする始末、相当嫌われてるんだろうな。
「僕らはこっちの扉から行くから……じゃあ、お互い頑張ろう!」
そう言って手を振りながら離れていく先生。
ここまで完璧な演技をされて誰が音の里のスパイだと分かるだろう。年季が違うよなぁ。
そしてオレ等は中に入り口寄せによって現れたイルカに合格を認められた。
「収穫は…?」
ヨロイ達はこの人の存在に気付かずに先に行ってしまったようだ。
だから使い捨てにされるというのに。
とはいっても僕でも予め教えてられなかったら気付けなかったかもしれない。完全に空気と化すほどの隠行術か、捕らえるには心拍音しか無いわけだが、それすらも聞き分けにくい。「ええ…予想以上ですよ。第2の試験での3人の情報を書き直す破目になりましたがね。コレ、要るでしょ」
彼には言ってなかったが本当のことを言うと呪印が発動した時からずっと観察していた訳だが、思った以上の素材になりそうだ。
「で…どうだったの?」
僕が渡した三枚の認識札を受け取って大蛇丸様は聞き返してくる。
分かっているくせに。
「フフ…身を以って体験なされた貴方が一番分かっているでしょ」
随分と痛い目にあっていたようだ。彼の戦闘力は低くたとえて中忍程だろう。高くても特上よりも数段低い程度。
それでも体内門を開かれたら実力は跳ね上がる。
上忍の中でも上位に食い込めるくらいには成れるだろう。今の彼ならば。そして僕の実験材料ならば。
「…口惜しいわね。あんなに化けるとは想像してなかったわ」
「正直僕もですよ」
適当に扱って人柱力の研究でもしようと思っていたのだが使えるようになった。
教えるだけ教えといてそのままにしてあるのに自分で物にしている辺りが手が掛からなくていい。
僕には出来すぎた素材だと最近になって思いだした。
「うちはの末裔は…どうかしら?」
「貴方自身も分かっているでしょ。ナルト君が理想していた壁をこなしてくれましたが裏目に出ましたね」
超えられない壁を演じてもらっていたのだが、それ悪いが結果となってしまった。
そしてサスケ君に呪印は植え込めず彼が手にしてしまった。
正直面白い。壊れずにどこまでやっていけるかが楽しかったのだが正直呪印は諦めていた。
欲しい要素だったのだが大蛇丸様が彼を気に入ってなかったから無理だと思っていたのだが、これからが楽しみだ。
「口惜しいって言ったでしょ……正直欲しいわ」
「器にですか」
「駒によ…」
「賭けは僕の勝ちですね」
「どういう意味かしら…?」
おや、どうやら忘れているようだ。
術にしか興味が無いからそれ以外が覚えられないんだ。といっても僕も同じようなものだ。
しかたない、忘れてしまったのならしょうがない。
「大蛇丸様が四人に分ける力と時間を僕は彼にだけ費やすって奴ですよ」
「そんなの…忘れてたわ」
ここで怒ったら僕の首が飛ぶんだろうな。怖い怖い。
「それは兎も角、音の四人衆まで参加するなんて知りませんでしたよ」
「一緒に潜伏していた方が有利でしょ…」
それはそうなのだが…。
「何故四人衆の中で最強の左近が参加していないのですか」
何故あの3人にしたのか、それが僕の疑問だった。木の葉崩しで必要なのは確実性を伴った計画だ。
ならば左近を咥えていないということには納得できない。
「左近を入れたらスリーマンセルじゃないでしょ」
左近が可哀想に思えてきた。