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No.713の一覧
[0] 狂った歯車の上で[灰ネコ](2008/05/13 22:17)
[1] 狂った歯車の上で[灰ネコ](2008/05/13 22:19)
[2] 狂った歯車の上で[灰ネコ](2008/05/13 22:19)
[3] 狂った歯車の上で[灰ネコ](2008/05/13 22:21)
[4] 狂った歯車の上で[灰ネコ](2008/05/13 22:31)
[5] Re[4]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 05:58)
[6] Re[5]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 05:59)
[7] Re[6]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:01)
[8] Re[7]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:04)
[9] Re[8]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:08)
[10] Re[9]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:11)
[11] Re[10]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:13)
[12] Re[11]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:16)
[13] Re[12]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:25)
[14] Re[13]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:29)
[15] Re[14]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:32)
[16] Re[15]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:36)
[17] Re[16]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:40)
[18] Re[17]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:44)
[19] Re[18]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:46)
[20] Re[19]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:50)
[21] Re[20]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:53)
[22] Re[21]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/22 06:57)
[23] Re[22]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:38)
[24] Re[23]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:40)
[25] Re[24]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:42)
[26] Re[25]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:43)
[27] Re[26]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:46)
[28] Re[27]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:47)
[29] Re[28]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:48)
[30] Re[29]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:50)
[31] Re[30]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:52)
[32] Re[31]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:54)
[33] Re[32]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:56)
[34] Re[33]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:58)
[35] Re[34]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 14:59)
[36] Re[35]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 15:03)
[37] Re[36]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 15:05)
[38] Re[37]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 15:07)
[39] Re[38]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 15:10)
[40] Re[39]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 15:12)
[41] Re[40]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 15:14)
[42] Re[41]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/07/23 15:21)
[43] Re[42]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/03 21:10)
[44] Re[43]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/03 21:17)
[45] Re[44]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/03 21:23)
[46] Re[45]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/03 21:33)
[47] Re[46]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/03 23:07)
[48] Re[47]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/03 23:22)
[49] Re[48]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/03 23:55)
[50] Re:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:04)
[51] Re[2]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:10)
[52] Re[3]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:16)
[53] Re[4]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:21)
[54] Re[5]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:26)
[55] Re[6]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/11/12 04:26)
[56] Re[7]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:34)
[57] Re[8]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:42)
[58] Re[9]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:46)
[59] Re[10]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:52)
[60] Re[11]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 01:57)
[61] Re[12]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 02:04)
[62] Re[13]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/08 02:09)
[63] Re[14]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/09 02:11)
[64] Re[15]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/08/20 23:49)
[65] Re[16]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/09/30 23:05)
[66] Re[17]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/09/30 23:15)
[67] Re[18]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/09/30 23:33)
[68] Re[19]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/09/30 23:49)
[69] Re[20]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/09/30 23:54)
[70] Re[21]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/10/01 00:10)
[71] Re[22]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/10/31 12:51)
[72] Re[23]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/10/31 13:26)
[73] Re[24]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/10/31 13:33)
[74] Re[25]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2007/10/31 13:38)
[75] Re[26]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2008/06/01 23:08)
[76] Re[27]:狂った歯車の上で[灰ネコ](2008/06/01 23:09)
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[713] Re[28]:狂った歯車の上で
Name: 灰ネコ◆4eccae54 ID:1b2f5d2f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/07/23 14:48






木ノ葉隠れの里の郊外



「…1…2…3…仏が3つか…ひでーなこりゃ」



中忍試験中は事務が増えることがあり郊外の見回りを木ノ葉警務部隊がしていた。



そして三体の死体、それも普段死体を見慣れている筈の忍びから見てもおかしい死に方のようだ。



「…これって何かの忍術だよな…」



「素人のできる業じゃないっしょ………」



軽いノリであるが、口調と顔は素直だったようだ。少し顔色が悪くなっている。



「こんなの発見しなきゃ良かったかもな………ったくイキナリ問題発生かよ……やってらんねぇな…」



足で軽く仏を小突く、その死体は殺気も感じずに一瞬で苦痛を感じる暇もなく殺されたのだろう。



額宛には草隠れの印が施されている。



「これって………」



「ああ……オイ! 早く第2試験官のアンコさんに知らせろ!」



「ハイ!」



首より下には傷はなく、顔の表面から血が吹き出ていた死体が異常に不気味に感じた。







「……団子にはやっぱ…お汁粉よね…さーて…これ食べたらぼちぼち私も突破者を塔で待つとするか…」



茶屋の赤い座席で美味しそうにお汁粉を吟味している。皿の上にはすでに三桁近くある竹串が遠めでも目に付く。



やっとのことで食べ終えダルそうに席を立とうとしたときにアンコの目の前に黒い影が降り立った。



「大変です、アンコ様!!」



「…何よ、急に……」



厄介ごとの予感に不機嫌な表情を丸出しにしているアンコ



「死体です! 他国の忍びが三体も……」



「死体……!?」



自分の思っていたことを斜め上を通る出来事に聞き返してしまうアンコ。



「しかも妙なんです!兎に角早く来てください!!」



アンコは一瞬押し黙って考える。

普通の死体なら忍びががこんなに騒ぎ立てる筈がない。見慣れているはずであるし余程の事などであろう。



眼を鋭く細め、案内して、と言って姿を消した。







狂った歯車の上で









「持ち物や身分証からして……中忍選抜試験に登録されていた草隠れの忍なんですが…」



「見ての通り……顔がないんです…」



本当に気味悪そうに言っている。実際に顔色が良くない。



話を聞いている間の顔色も悪くなっているのが分かる。



「まるで…溶かされたようにのっぺらぼうで…」



「(間違いない…この術はアイツの…アイツが…何でこの試験に…)」



私は既に犯人の目星は付いていた。何故なら犯人は己の上司だった男なのだから。



「この草3人の証明写真を見せて!! 今すぐ!!」



「あ! ハイ!」



男が三枚の写真を渡そうとしたら無理矢理アンコに取られた。



(コイツの…顔を奪ったのか…じゃあ、あの時はもう既に…)



二枚目の写真を見て確信に至った。



あの目的を見つめたときのギラギラとした人間からかけ離れた眼、あんなの生涯で一度しかみたことがない。



「えらい事になったわ!アナタ達はこの事をすぐ火影様に連絡!!」



男も長年忍びで飯を食ってきた訳でありこの死に方が普通でないのには気付いていてすぐさま命令に反応し姿を消した。



「死の森へ暗部の出動要請を2部隊以下取り付けて!私はたった今からコイツらを追い掛けるわ!!」



言い終わると同時に瞬身で森へと姿を消した。







(もう夕刻だわ!!)



その言葉通り、森の元から少ししかなかった光がすでにほとんで無くなっていた。



(早く見つけないと…!!完全な暗闇になれば、こっちがますます不利になる…!!)



足にチャクラを込め、更にもっと力強く地を蹴った。



(間違いない…あれは『消写顔の術』…しかし、一体今頃…何故アイツが…目的は何…!?)



消写顔の術とは相手の顔に手を当てて、そのまま顔を奪い取る術。そのため寸分の狂いもなく変相できるスパイ活動に使える術。



そんな趣味の悪い術を使うものはかなり限られるのである。そしてあの大蛇丸には御誂え向きな術であった筈。



(まあ…いいわ。この里に来たのなら今日、此処でケジメをつける!)



(アナタはもう…『ビンゴ・ブック』レベルSの超危険人物…此処で私が仕止めなきゃ…例えそれが叶わなくとも…)



走る場所を地から枝に変え速度を上げて走る、足が悲鳴を上げているがそんなことを考えている暇は無い。



(…兎に角、暗部が来るまで―足止めだけでもしておく…それがアナタから全てを教わった…アナタの部下だった…)



一種の決意、それを言うために足を止め呼吸を正し



「私の役目よね…大蛇丸」



「無理よ…」



後ろから声が聞こえた。



バッと振り返りにらめつける



大木の幹に同化している大蛇丸がいた。



だが、過去の別れの際に見たあの溢れんばかりの自信は抜け落ちたように覇気が無い。



(…それでもきっと私じゃ敵わない…だけど暗部が来るまで時間稼ぎくらいは!!)



手に持っている飛び道具を一斉に投げ自身もそれを追い肉薄する。



これは相手がどんなに避けようともすぐに追跡し二撃で仕留められる戦法である。



(どう避ける!?)



大蛇丸は木の幹から這い出て木の枝を蛇のように潜り抜け自慢の舌で足を絡み取り体勢を崩そうとする。



下から蛇のように這い回ってきた大蛇丸に生理的に嫌悪感を感じ思い切りクナイを大蛇丸に投げる。



クナイが大蛇丸が深く刺さると同時に大蛇丸の身体が爆発し辺りに煙が噴出する。



「クッ!?」



足元から大蛇丸の気配が消え次第後ろに大きく飛ぶ。



煙の中、枝から飛び降りようとする影を見つけて、



(逃さない…)



『忍法 潜影蛇手』



私は本人に伝授された術で大蛇丸を殺そうと決意し、袖から無数の蛇を出し続ける。



蛇にがんじがらめにされた大蛇丸を力任せに引っ張り己の間合いに引き込み寄って来る大蛇丸にカウンターで蹴りを入れ、蛇の中から片手を引っ張り出し



自分の手の平と大蛇丸の手の平を重ね合わせ木に添え、その上からいっきにクナイを刺した。



傷口から手に走る激痛をこの世の最後の苦痛だと楽しみ、



「大蛇丸……アンタの左手、借りるわよ」


自分の手と大蛇丸の手で印を組む。きっと私は笑っていられる。



「(その印は……腹を括ったのね…)」



「そう……あなたも私も此処で死ぬのよ」



何故なら、生涯で最も尊敬していた師と死ねるのだから。



「忍法 双蛇相殺の「フフ……自殺でもするつもり?」ッ!?」



一緒に心中しようとした相手の声が背後から聞こえ彼女は振り返った。



そこには別の木の枝に腰掛けた大蛇丸は嘲笑の笑みをしていた。過去に最も見てきた笑い、それがさらに私の心を過去に向かわせる。



「影分身よ」



大蛇丸が言うと、今まで戦っていた大蛇丸が白煙と共に消えた。



「そんな!? ならどうして攻撃で消えないの!?」



大蛇丸はフフンと笑い、



「ヒミツよ」



この人は何時だって秘密主義で自分のこともなにも話してくれなかった。それは今でも変わっていないのかと少しだけ嬉しくなっていたことを自分に嘘を吐く。



「仮にもアナタは、里の特別上忍なんだからね……私の教えた禁術ばかり使っちゃ駄目だろ」



そう言いながら大蛇丸は片方の手で印を組みはじめた。



すると私の既に封印されていた呪印に激痛が走り、とうとう膝が地についた。



「ぐっ…い、今更…何しに来た…!!」



「久しぶりの再開だと言うのに…えらく冷たいのね……アンコ」



やっと嘲笑とは違う自身に溢れていたあの頃と変わりないある意味夢を追い続けていた笑みが出てきた。



ただし私には理解ができないであろう夢であるが私が追いかけていた大蛇丸の夢なのだからとにかく大きいことしか分からない。



「ま、まさか…火影様を暗殺でもしに来たっての?」



ありえないわね、と分かっているが一応聞いておいた。これでそうだと応えたら随分と小さくなったと笑ってやろう。



「いえ…猿飛先生には関係ない話よ……でも欲しいものがあるからねぇ……」



「ぐっ…うっ…!!」



首筋から甘美な衝動が走り抜ける。それに従ったらもう自分の意思では歩けないことを知っているから歯を食いしばって耐える。



「さっきもそれと同じ呪印を耐えた子がいたのよ……殺そうと思っていたのにね」


天の呪印を……?。



「死ぬわよ、天の呪印を受けて生き残れる確立なんて他の呪印とは格が違うわ…」



「なに? 自分が生き残れたからって意地悪言ってるの? でも生きてるわよ、その子」



「あまり嬉しそうじゃないわね…私の時とは違うじゃない」



私の時は歓喜の笑みを上げていたじゃない。それなのに今のアンタは大して嬉しそうにも無い。それ以上にこの話しになってから私と戦っている時の覇気がまったく見られない。



「その子が私の手札だったのならもう少し喜んだかもね…」



まったく話しの内容が見えてこない。その呪印を手に入れたって子は他の木の葉を狙う者の手札だってこと? それならば敵は二人ってこと!



嘲笑を浮かべている大蛇丸を睨み付ける。もっと力があれば、そう願い得た力も使うことは出来ない。それは目の前の男のしたことを肯定することとなる。



「1つ言い忘れてたわ…くれぐれも、この試験…中断させないでね…」



然も楽しそうに笑う大蛇丸。きっとどうなるかを想像しているのだろう。



いつだってそうだ。彼は自分だけで考え行動する。



いつだってそうだ。



「…自分勝手過ぎなのよ、あんた」



私の声が聞こえたか聞こえなかったかも分からない。



だって、彼はいつもどおり自分勝手に消えていた。







狂った歯車の上で







大きな木の根元にあるスキマ…そこに私達は休んでいた。

「ナルトはどうだ?」

この重苦しい沈黙を止めてくれたのはサスケ君だった。

正直ありがたい。このままではいつか心が潰れてしまいそうだから。

サスケ君に言われ渡しは横たわるナルトの額に自身の額を重ねた。

「だんだん呼吸は整ってきたけど…でも、まだ凄い熱があるわ」

確かに眼にしていた。圧倒していたナルトの身体が次々と壊れていく様を。私とサスケ君は最初から最後までしっかりと眼にしていた。

しかしあの大蛇丸と名乗った男が急に消えるまでの会話をしている最中にナルトの怪我は完全に治ってしまっていた。

傷跡すら残さず完璧に。

「私達…生きてるのよね」

変わりにナルトが苦しんでいる。

大蛇丸に噛まれた首筋だけは奇妙な模様が残っていた。そこだけは直っておらず、それがナルトを苦しませている原因だと私達は思っている。

「ああ、俺達は生きてる」

サスケ君の顔色はナルト程では無いが重苦しい。

あの時ナルトが駆けつけてくれなければサスケ君が今のナルトと同じ立場にいたことを理解しているからだろう。

そして苦しませてしまったナルトに対してサスケ君は責任を感じている。

空が白んできた。そろそろ二日目が始まる。

重苦しい空間にいるだけで何も出来なかった自分に腹が立ってくる。

サスケ君は私が願ったとおりに戦ってくれた。そしてナルトは私達の為であるか分からないが死力を尽くして今は苦しんでいる。

私は何かしただろうか、暗号を作ろうとしただけじゃないか。知識だけが取り柄だというのに学力ではナルトに負け越しているだろう。教師が何度も私が一番だと言ってくれた。だけど知らなかったわけじゃない。ナルトも同等に全てのテストで満点を得ていたということを。

一次試験では私は自力で回答を出していた。しかし、それが何だっていうのだろう。写輪眼を持っているサスケ君にはあの程度の情報収集能力は持っている。ナルトに至ってはサスケ君に劣らないまでの情報収集能力を持っていたって不思議ではない。それにナルトでは簡単にあの程度の問題だったら解ける。

私は役立たず、本当に役立たず。

私はこの班に必要ないのかもしれない。かも、じゃない。本当に必要ない。いてもいなくても変わらないのだから。

「私って…なんでここにいるのかな」

ポツリと口に出してしまった。

正直に言う。慰めて欲しかった。お前は必要だよ、と言って欲しかった。

そう、私は本当に卑怯者だ。

「……サクラ」

ほら、サスケ君も答えるのに困ってるじゃない。

すぐにいつもどおりに笑わなきゃ、笑わなきゃいけないのに、なんで、笑えないのかな。

なんで必要ないときは笑えるのに、今は笑えないのかな。

「もしオマエの代わりに他の奴が七班にいたとしてもな」

サスケ君はやっぱりいのの方がいいのかな。強いし綺麗だし、何時でも輝いているからかな。

やっぱり私なんか……。

「あの時、俺はあそこまで戦えていなかったかもしれない。お前があの時、俺に言ってくれたから俺は戦えたんだ。負けると分かっていても、守るために戦えたんだ」

そう言って私の肩に何かが乗った。重いなぁ、と閉じかけていた目を開くとまっくろな髪の毛、サスケ君が私に寄りかかっている。

いつもだったら大きな声を上げて喜んでいるのに、今回は少し違う。

真っ白、心が真っ白になっている。

なにがなんだか分からない。なんでこうなったのかも分からない。

「サクラ…俺はな、お前がーーーー」

私にも分かった。隠す気の無い敵意を。

「なんでこんな時に来るのよ!! しゃーんなろー!!」

あ、サスケ君が笑ってる。







「なんだ、自分から出てきたよ」

「ククッ、諦めが早いんじゃないのかな?」

穴から出たら一次試験の前にカブトに攻撃を喰らわせたあの音の忍び達が耳障りな笑い声を立ててこちらに向かってきていた。

「あれ、サスケ君が起きてるよ」

「俺が起きてたらどうするってんだ」

大蛇丸との戦いから体を休めるのに十分な時間を取った。これなら申し分なく戦える。

だが、相手の攻撃は未知数だ。ベテランであるカブトが一撃でやられたのだから舐めてかかってはいけない。

「どうもしねぇよ! どうせ俺達に殺されるのは変わらねぇんだからよ!」

そう言って髪の毛を立てている方の男が右手を突き出してきた。写輪眼が奴の身体の中のチャクラの流れを読み取る。

「右手の穴にチャクラが集中していく!?」

何かが来る、そう感じた瞬間突風を何十倍にしたかのような風が俺目掛けて吹かれる。

範囲が広すぎる。後ろに跳んで衝撃を減らす。

風は止まない。それは俺を大木に激突させるまで止まらなかった。

「うぐっ!」

風、ナルトと同じ。それもナルトよりも攻撃的で範囲が広い。

「サスケ君!」

サクラの声が聞こえる。

「来るな! 一緒にいても巻き添えを喰らうだけだ!」

「おやおや、うちはのエリートも大したことが無いようですね」

顔を包帯で隠している方の男がまたも耳障りな声を出す。

さすがに頭にくる。俺が大人しい奴だとでも思っているのか。

風が止み次第俺は狙い撃ちされぬよう左右に撹乱さえながら先ほど攻撃をしてきた方の男に接近する。

「くそっ! 当たらねぇ!」

一瞬だ。一瞬さえあれば俺の間合いだ。攻撃の際に溜めが必要であるこいつはすでに俺の攻撃を止める術は持ち得ない。

「お返しだ、オラァ!」

リーが俺に繰り出してきた右の回し蹴り、木の葉烈風とリーは叫んでいた攻撃を写輪眼で真似て奴の鳩尾に打ち込もうとする。

「あまり世話を焼かすなよ、ザク」

あと拳一つ分という距離で包帯の男に俺の脚を掴まれた。

振り払おうとしたが次の瞬間俺の右足が弾けた。

「なっ!?」

血と肉が飛び散るのを写輪眼がしっかりと脳裏に焼きつかせる。

「いやぁぁ!!」

サクラの叫び声、そして血が噴出す嫌な音。なにがなんだか分からなくなった。

「天才天才って呼ばれてるけど努力しない天才なんて凡人以下なんだよ…もっと努力しなよ」

そういって包帯の男が俺の首を掴もうと手を伸ばしてくる。

拙い、足の痛みで反応が一瞬遅れた。あの攻撃を喉に喰らったら危ない。

全力で後ろに跳ぼうとするがそれでも包帯の男のほうが速い。

奴の手が俺の喉に触れようとした瞬間、声が聞こえた。

「それは努力した者がいうセリフですよ」

声が俺の耳に届くよりも速く、その声の持ち主が俺の目の前に現れ包帯の男の胴体を蹴り上げた。

この威力、重さを知っている。なぜなら俺自身が体験しているからだ。

そう、この蹴りの持ち主は、

「誰だ、テメェ!」

一人しか知らない。

「木ノ葉の美しき碧い野獣……ロック・リーだ!」

接近戦では最強の下忍だ。







すぐに足の状態を調べる。

良かった。包帯と表面の皮膚が切れただけだ。まだ、大丈夫な筈だ。

「サスケ君は後ろにいて下さい。ここは僕が抑えます」

「だが、大丈夫なのか?」

体術では危険だ。接近戦では相手の威力は計り知れない。

少し触れた瞬間俺の足と同じようになってしまうかも知れない。

それなら二人で一気に倒した方が、

「きっと…生半可な体術じゃあカウンターを喰らうのが目に見えてますね」

リーの表情は固い。

「なら、俺もーーーーッ!」

一緒に、と言いたかったのに振り向いたリーの顔を見た瞬間言葉をなくした。

「生半可ならね、残念ですが僕の体術は生半可じゃないですよ」

最高の笑顔で親指を立てながら前を向く。

その背中は心配無用といっている。そうでしか在り得ない強さを感じさせている。

「それと、後ろで横になっているのはナルト君ですか?」

リーの声は固い。

「ああ、そうだ」

俺はなんて言えばいいのだろうか分からなかった。だから正直に言った。

リーならば寝首を掻く様な事はしないだろうという確信があったからだ。リー以外の者だったのならば言わなかっただろう。

「なら、早く終わらせましょう!」

弾丸の如くリーは駆け出した。一直線に駆けて行く。

「仕方ないなァ…ザク、サスケ君は君にあげるよ…」

包帯の男は懐から巻物をザクに手渡し駆けてくるリーの方を向く。

だが、既に遅い。

そこは既に、

「木の葉ァ烈風ッ!!」

リーの間合いだ。

「ーーーッ!?」

身体に穴が開くような感覚、それをまさに体験しているだろう。リーの蹴りは早さを伴いながらも見た目から想像も出来ない重さがとんでもない破壊力を生み出す。

まさに一撃必殺、それがリーの攻撃である。

その筈なのに、リーの顔色がおかしい。

「危なかったね…一瞬速く自分に超音波を当てて芯をずらしてなかったら一撃だったよ」

大木へ一直線にぶつかるほどの威力だってのに手前で包帯の男は着地した。それでもかなりのダメージを受けているようだが、本来の威力に比べたら比べ物にならないほどに下がっている。

自分に攻撃をして一瞬、芯をずらした。自分の攻撃の威力を知っているのによくやる。

「手を貸すぜ、ドス」

「頼むよ、僕一人じゃ手を焼きそうだしね」

相手は二人、そしてそれをリーたった一人で立ち向かおうとしている。俺がリーと一緒に戦えたなら、そう思うと自分に怒りが湧いてくる。

リーの顔色が変わった。

あれはなにかを覚悟した時の顔だ。大きいのがくると本能的に分かった。

「フン…」

ドスは鼻で笑うとリーに突っ込んで行った。

もう余裕なんて無い筈だ。あれほどの蹴りを身に受けたのだから、もう二度と自分に超音波の攻撃は御免だろう。

一瞬、リーの顔が険しくなる。

そして人差し指と中指を立て、リーは体勢を低くする。その次の瞬間、リーの姿は掻き消える。

「俺の目でも追えないなんて…」

あれは大蛇丸にナルトが向かっていった時と同じだ。幻術や忍術の類じゃない。純粋に速すぎる。

俺はこんな化け物達を相手に対等を張ろうとしていたのか。

そのリーの凄まじい速度にドスは一瞬で相手を見失い踏みとどまり、驚愕する。奴がリーを探しているその時、下からの鋭い衝撃が襲ってきた。

もう分かっている。俺の眼でさえ追えないリーの動きを探ろうとする奴が愚かなのだと言う事を。

あの時に探ろうとするのではなく少しでも逃げるために動き回るべきだったんだ。

死角から顎下を蹴り上げられ、ドスは上空に吹っ飛ばされている。そしてリーは追撃を加えるために溜めて一気に跳びあがる。

まるで弾丸、リーの蹴りは吸い込まれるかのようにドスの脇腹に叩き込まれる。そして鈍い破砕音が響いた。

「まだまだ!」

どんな動きをしたらあんな場所から現れられるのか、ドスの背後に現れたリーは包帯をドスの体に巻きつける。

これでは相手は超音波攻撃も防がれ受身も防御も出来ない。

「あれじゃ受身もとれねェ!! ヤ、ヤバイ!!」

それを見てザクは焦り、即座に印を結ぶ。

なにをしたって無駄だというのに、何故いまさら、

「喰らえ……!!」

リーはドスを背後から掴み身体を捻り空中で急激な回転をつける。そしてそのまま恐ろしい速度で落下していく。

「これが、表蓮華だ!!」

速度は遅くなるどころか更に加速して二人して地面に突撃する。そしてぶつかる直前でリーはドスから手を離し脱出する。

ドスは身体の半分以上を地面に減り込まされている。普通ならば頭蓋骨陥没だ。生きてはいない。

しかし、あれほどの一撃であったのに地面とぶつかる際の衝撃の音が静か過ぎる。

リーもそれに気付いているようだ。

そして、ザクが何かしろの術を施したというのに何の現象も起こっていない。目で見えない忍術なのか、分からない。

そして沈黙が破られる。

「フ~、恐ろしい技ですね…」

突然、ドスが埋もれていた箇所が弾け跳んだ。そしてその穴にはドスの右腕があるのみ。

そう、あれは超音波で周りの地面と吹き飛ばしたということ。

「やれやれ…どうにか間に合ったぜ…」

ザクは地面に両手を突きつけた体勢のままため息を吐いていた。

「バ…バカな!」

どういうことだ。

リーすら困惑を隠せないでいる。俺ですら理解が出来ない。如何にしてドスが生き残れたのか、それはザクにあるとしか思えない。

「ザクが土を『スポンジ』にしておいてくれたっていうのに、これだけ効くなんて……」

肋骨の幾つか折れてるよ、そういってドスがニヤリと唇を歪ませた。

「久しぶりに頭にきたよ…」

そしてあれだけのダメージを食らっているというのにどういう構造をしているのか、恐ろしいほどの速さでリーに肉薄する。

リーはあれほどの大技を繰り出した後ですぐに身体が動いてくれていないようで反応が一瞬遅れた。

それでも関係ないかのようにドスは右腕を左へ薙ぎった。リーへは届いていない。

それだというのにカブトの時と同じようにリーが耳を押さえて苦しみだす。

「確かに、君の動きは高速だ。今までに見たことの無い程にね…だけど僕は音速だ」

次元が違うんだよ、そう言って視界が定まっていないリーの胃の真上に手の平で殴りつけた。

リーの苦しみ方が変わった。

仰け反り痙攣を繰り返す。

そして、

「おえぇッ!!」

胃の中の全てを吐き出す。その中には血らしいものも含まれている。

「体術しか芸のないお前が俺等に勝てるわけねぇだろ!」

そういうザクにリーは、そうナルトのあのギラついた瞳のような眼でにらめつける。

あれは駄目だ。あの眼は簡単に人を殺す。

そんなことも知らずにザクとドスはリーに何やら術のことを暴露している。そしてその有効性を説き体術しかしていないリーを貶している。

リーは眼をギラつかせながら唇を歪ませる。

回りから見ればリーが圧倒的に負けている。それでも分かる。こいつ等は殺される。リーに圧倒的な差をつけられて絶望に溺れながら殺される。

「キャ……!!」

突然のサクラの悲鳴、そこにはもう一人の音のくのいちに髪を切られているサクラがいた。

落ちゆく髪を見つめ泣きそうになるサクラを見て俺も何かが弾けた。

もう、どうでもいい。

こいつら、ぶっ殺す。

体中の血が沸騰しそうな感じが心地よい。大蛇丸の時以上に弾ける衝動、初めて人を殺したいと思えた。

リーと同じだ。

俺も臨界点を超えた。

ナルトがしていたように、俺の右手に全てのチャクラを込める、弾ける想像を膨らませて実際に弾けさせろ。

大きく、そして壮大に壮絶に猛々しく弾けて飛ばせ。

波の国で霧の中で聞こえたカカシの一撃、頭の中で確かなイメージが生まれる。

チッ、チッ、チッ…暖かいなにかが右手に絡み付いていく、もう十分だ。こいつを殺すのには。
俺が駆け出そうとした瞬間、別のものが目の前に現れた。







「やめなさい!!」

いつもはうざったかったいのが俺の前に立ち塞がっていた。

いつもとは違う。覇気が強く、そして凛々しくもあった。

「シカマル!」

「へいへい…」

姿は無いが返事は返ってきた。そして現したのは姿ではなく影、それはサクラの髪を切った音の忍びの壁に喰らいつき止まった。

「な、どうなってーーッ!?」

ガサッ、とシカマルが茂みから姿を現した。それと同時に音の忍びは数歩勝手に歩き出す。

「これでいいのか?」

「上出来よ!」

いのの返事に苦笑するシカマル、満更でもなさそうだ。

「いくぞ、チョウジ」

「任されたよ」

ポテトチップスの袋を片手にチョウジは答えた。それに対して気を悪くした様子は見られないシカマルは突然あの影の術を解く。

その直後、あのくのいちにチョウジが当身を繰り出す。

チョウジの体重からの当身ではあのくのいちとは比率が違いすぎる。もの凄い勢いで吹き飛んでいく。

数メートル吹っ飛んで起き上がってこないのを見届けて二人は笑みを浮かべる。

「まぁ…」

「上出来だね」

「ナイスよ二人とも!」

いのは何もしていないのに何故か統制のとれたスリーマンセル、第十班のメンバーが俺の前に現れた。







「なんでお前等…」

これは俺達の問題だ。しかもこの試験でこの状態は決してこいつ等にはいいことではない。

それなのに何故、

「仲間を見捨てるような奴はそれこそ仲間じゃないよ」

「だな」

チョウジとシカマルは自信を持ってそう答えた。

もし、同じ状態で俺がシカマル達の立場ならば少なくとも見捨てているかもしれない。

いや、かもじゃない。絶対に見捨てていた。

二人はキッとドスとザクの方を向く。

それと同じくしていのがサクラの隣にいた。

そして抱きしめ何かを言っている。慰めている、そう分かった。何故なら見る見るうちにサクラの絶望の顔が少しずつ穏やかになっていったからだ。

「後は私達に任せて」

そう言っていのはシカマルとチョウジの間にやってきて俺に一言言った。

「少し待っててね。今すぐ抱きしめたいんだけど野暮用が出来ちゃった」

今の俺には最高の眩しすぎる笑顔だった。何時もの媚を売るような笑顔じゃなく、自然でとても引き寄せられるいの。

こんな顔も出来るのか、そう思っているうちに右手の放電は収まっていた。

チャクラもスッカラカン。時間切れ、既に俺はただの役立たずであった。





「フン……また変なのが出てきたな」

ドスが木の葉の忍びがまた現れ不快そうな声をあげる。ザクも同じようだ。苛立ちを隠していない。

同じ班のくのいちを数秒で使い物にされなくされればそうなるだろう。

「いの…」

サクラが心配そうにいのを見る。

地面に散っている桃色の髪の毛が目の前に展開されている。それを見るたびに幾度も怒りに震えてくる。それと同時に自分は役立たずだという事実に自己嫌悪に陥る。

「なに、サクラ? 今忙しいのよ」

言葉の割りに嫌そうな顔じゃない。それを見てサクラはホッとしてこう言った。

「頑張って」

「もちろんよ!」

小さな声だがいのにはしっかりと聞こえていた。

いのの返事もサクラに聞こえサクラは安心した顔をする。そんなサクラの隣まで足を引き摺って俺はゆっくりと歩く。

「サクラ…大丈夫か?」

大丈夫なわけが無い。俺は馬鹿だ。

だが、サクラは、

「もちろんよ! それに試験が終わったら切ろうとしてたからちょうど良かったわ」

影の無い笑顔で答えてくれた。

俺はやっぱり馬鹿だ。

サクラは実は強いってことを忘れていたのだから。





「またウヨウヨと……木の葉の小虫が迷い込んで来ましたね」

シカマルとチョウジはそんなドスの言葉を無視する。

「後ろで倒れてるの、ナルトだよね」

「ああ、どういうことになってるかさっぱり分かんねぇ」

俺とサクラよりも後ろにある洞穴にはナルトが寝ている。それのことを言っているのだろう。

二人とも俺よりはナルトと交流があった筈だ。心配しているのだろう。

チョウジが言った。仲間を見捨てる奴こそ仲間じゃない、と。ならばあいつ等が危なくなったとき俺は迷わず戦う。

「時間が無い、一気にいくぞ」

「分かった」

チョウジが印を組み始める。

速い、体型からは想像できないくらいにスムーズに印が組まれていく。そして組み終わり、

「いくよ、倍化の術!!」

チョウジの体が何倍にも膨れ上がった。

「木ノ葉流体術、肉弾戦車!!」

急激な勢いで回転し始めドスとザクの方へ転がり始めた。

「なんだ、このヘンテコな術は……ただデブが転がってるだけじゃねーか!」

確かにふざけている。それでも威力は考える必要も無い。俺でも再現出来ないほどの威力はあるだろう。

そのチョウジを吹き飛ばそうとザクが両手を突き出した。

「吹き飛べ、斬空波!!」

強大な空気の奔流がチョウジを襲うが回転し続けているチョウジはそれを受け流し、あるいは正面から弾き飛ばし無効化する。

そのまま直進するチョウジから避けるためにザクは横へ跳んで避けるが一人残り続ける者がいた。

「こ、こんな時に何をやってる…ドス!!」

ドスは一人残っていた。何か作戦があるのだろうか、身動き一つ取りもしない。

「避けないなんてどうかしてるぜ」

一人笑う者がいた。

シカマルだ。そしてシカマルの影から一本の線が走っている。そしてその先には、

「なに!? 影が…!!」

そうか、作戦があったからじゃない。身動き一つ取らなかったわけでもない。動けなかったのだ。シカマルのあの術によって。

「世話が焼けるぜ!」

またしてもザクが地面をスポンジ化する。

しかし、リーの蹴りや大技を喰らっているドスがその上スポンジの上だからといって無事に済むと思っているのだろうか。

ザクは忘れているようだ。

「ぐああ!!」

あばら骨が数本折れているんだぞ。意識を保っていただけでも凄いというのにあんな重いものにスポンジの上からでも踏まれたら致命傷だ。

ドスを轢いてからどうやれば出来るのか理解できないが方向転換してザクの方向へ転がっていくチョウジ。

「そんな正直に当たると思うなよ!」

ザクも弱くない。寧ろ強い方に入るかもしれない。

シカマルの影に注意を払いつつチョウジの肉弾戦車を避け続ける。

このままでは二人がチャクラを切らせたとき、あいつ等の負けが決まってしまう。

数分、ザクは見事と言ってもいいくらいに二人の攻撃を避け続けた。

そしてぴったりとシカマルの影が伸びなくなりシカマルは息を切らしている。

このままではチョウジのチャクラも切らしてしまう。その前にどうにかしなくては、そう思っている時それは起こった。

ザクの動きが止まった。そして止まったまま経ち続けている。

どういうつもりだ。何か攻撃の溜めの策でもあるのか、そう思いあぐねていた時、

「な、なに!?」

突然ザクが驚愕の声を上げた。

訳が分からない。何がしたいのかも何もかも。自分で止まってたんだろ、そう言いたかった。

ザクが驚いている間に既にチョウジはザクの目の前にいた。

これでは避けられない。そして土をスポンジにしている暇もない。

「ぐおおおあああ!!!!」

派手に吹き飛ばされた。速度を弱らせぬまま大木にザクが叩きつけられる。

首をだらりとして起き上がってこないザクを見てシカマルは言った。

「突然目の前にチョウジのこれがあったら誰だって一瞬は動きが止まるよな…って聞いてねぇか」

「なによ、勝手にかっこつけちゃって! 最後のは私のおかげなんだからね!」

わぁってるよ、とシカマルは後ろに派手に倒れた。チャクラを使い切って体力もからっぽなのだろう。

「もうちょっと心転身の術を速く掛けられたら僕もあんなに緊張せずに済んだんだけどね」

そう言って食べかけだったポテトチップスを摘まみ口へ運ぶチョウジ。

「うっさいわね、相手が男だとなんかイマイチうまく噛みあわないのよ!」

つまり、最後の時いのはザクの精神を奪っていて、そしてチョウジが轢く前に術を解いたという訳か。

そして時間が掛かる故にシカマルはその術のカモフラージュとしてチャクラが切れるまであの術で翻弄させていた、ということか。

そしてもしシカマルの術で捕まえられてもそれでチョウジが、シカマルが駄目でもいのの術で確実に。つまり二段構えの作戦であったという訳だ。

「すげぇな…」

「うん…」

俺達はあんなにうまくはいかない。事前に打ち合わせをしていた様子は無い。あそこまで以心伝心出来ているチームは他に無いだろう。



いつの間にか立ち上がって帰ろうとしていたリーを俺達は呼び止めた。

「今回のことは本当にありがとうございました。リーさん」

サクラが本当に申し訳ない、と頭を下げる。それに俺も頭を下げる。

リーがいの達が俺達のもとへやって来てくれるまで戦ってくれていなければ俺達は確実に死んでいた。

「いいえ、僕はあまり助けになれませんでした」

そう言って恥ずかしそうに顔を赤くする。

本当にそう思っているのだろう。ここまでまっすぐな奴は見たことが無い。

「お礼を言うのであればあの人達だと思いますよ」

既にまた巻物を探しに言ったシカマル、チョウジといののことを言ってリーは森の奥へ向かおうとしていた時、風が吹いた。

「テメェ等、ふざけやがって!!」

意識があるとは思っていなかったザクが放った斬空波はリーに直撃しリーが吹き飛んだ。

完全な不意打ち、リーは反応も出来ずに吹き飛び大木に叩きつけられ昏倒する。

「ああ、まったくだ。本当にふざけてますね…」

聞きたくもなかった声と共に派手に地面が吹き飛んだ。

あれは、超音波。ドスの攻撃だ。

そして土の中からゆっくりとドスが這い出てくる。

「キンも何時までも寝てんじゃねぇ!」

そう言ってキンと呼ばれた少女の頭をザクが蹴り上げる。そして少ししてキンが眼を覚ました。

やばい、もうシカマル達もいない。そして頼みのリーはザクの不意打ちで意識が無い。

俺とサクラでは三人そろっている音の忍びに抵抗する術を持っていない。俺達はチャクラすらもう残っていないのだから。

「さて、どう殺してあげましょうか…」

ドスの手の周辺がぶれて見れる。遠くからも空気が震えて見えるというのはどれほどの振動なのだろうか、想像するだけで怖くなってくる。

「フン…気に入らないな。田舎者の音忍風情が、そんな二線級を相手に優越感を浸るとはな…」

そんな声が森の中で響き渡った。

その声が聞こえた方向を向く、そこにはリーと一緒にいたあの男がいた。

「(あれは…たしかネジ)」

ナルトが自分から声をかけていた。それがひどく印章的だった。

ネジの横にはナルトがヒナタ以外に名前で呼ぶ女、確かテンテンといったか。

「ワラワラとゴキブリみたいに出て来やがって……」
そう言って不機嫌さを更に増すザク。

しかしネジはそんなザクのことなど見ようともしていなかった。

「ヘマしたな」

そういい捨てるネジ。だが心配している様子もある。

そうでなければリーのことなで最初から目にしていないだろう。

「そこに倒れているオカッパ君はオレ達のチームなんだが……」

そしてネジは眼を閉じた。何かに耐えるように。

ナルトも同じ仕草をする。

そう、それは……。

「好き勝手やってくれたな貴様等!!」

暴走しそうになるのを防ぐためだ。

ネジは本当に怒っている。それはリーを心配しているからこその行動なのだろう。

そして新たに開かれた瞳は全てを見透かしているかのような瞳だった。

音の忍びを見ているはずなのに俺まで見られているかのように感じる。そう、心臓を鷲掴みされているみたいな圧迫感。

「フフ…気に入らないのなら…格好つけてないで、此処に降りて来たらいいじゃないか」

疲れが限界を超えているからだろうか、ドスは感じていないようだ。この圧迫感を。

「言われなくても降りて行くさ…二度と木の葉の門を潜れなくしてやる」

そう言って飛び降りようとしている時、ずっと待っていた声が小さく呟かれた。





「止めとけ、ネジ」





いつからそこにいたのか、俺とサクラの背後にナルトが立っていた。

しかし、振り向けない。ネジのような視線の問題じゃない。

ナルトの存在だけで心臓を鷲掴まれている、そう感じた。

サクラも同じだ。両手で身体を抱きしめて震えている。

「ナルト…起きたのか」

ネジはこの感じになんの抵抗も無くナルトに話し掛ける。

何故そんなことが出来るんだ、そう尋ねたかったが口が開かなかった。

「今しがたな…とても気分がいいんだ」

ナルトの一言一句でこの辺り一帯の音が一瞬にして消えたかのような静寂が訪れる。動物達が一斉に逃げ出すのが分かる。

肌を突き刺す感覚、喉がカラカラに渇く。ガクガクと膝は振るえ、背中に嫌な汗が絶え間なく流れている。

意を決して後ろを向いた。

そして言葉を失くした。

何故なら、ナルトの体中に禍々しい刻印が染み渡っていたのだから。

俺が後ろを向いたからか、サクラも同じようにナルトの方を向き言葉を失くす。

「サクラ…サスケ…誰だ、お前達をそんなにした奴は…」

多分、初めて名前で呼ばれた。

だが、そのことに喜ぶ前に恐怖が俺の心に満ちていた。大蛇丸との戦いの時、そして俺とサクラで音の忍び三人と対峙した時よりも、怖い。

「ふふ…私よ」

馬鹿だ。あいつ等は本当に馬鹿だ。

疲れだかなんだかでこの恐怖がわかんないんだ。それともこの殺気…違う、殺意の塊がでか過ぎて気付けないのか!?

「そうか…ありがとう」

ナルトの姿が一瞬ブレた。

そしてまた目の前に現れた時にはナルトの左手にはキンの頭が握られていた。

「探すのが面倒だったんだよ」

キンの頭を確認してから慌てて後ろを見た。そこにはまだナルトが握っているキンの頭に気付いていないドスとザク、そして首より上の無いキンの身体があった。

「きゃああぁあッ!」

サクラの悲鳴が上がった。

それと共にネジのため息も聞こえた。

馬鹿な奴らだ、と。

グシャッ、とナルトがキンだった頭を握り潰してやっとドスもザクもキンが殺されたことに気付いた。

「リーもいるじゃないか……んで、誰がやったんだ」

手についた血糊を白衣で拭い取りながらナルトがそう言った。

声が微かに震えている。サクラの髪の毛のことよりもナルトは頭にきている。

ドス達は何時キンがやられたのかで答えられないでいる。

それにナルトが吼えた。

「誰がやったんだって聞いてるんだ!!」

森が震えた。ナルトから際限なく噴出すチャクラに樹が揺れる。たったそれだけで森自体を揺らすナルトが信じられない。

「う、うるせぇ! 斬空極波!!」

今までの奴の攻撃がそよ風にしか思えないほどの風の奔流、しかし今のナルトに届くとは思えない。

「よせ、ザク!! 分からないのか!?」

やっと気付いたドスは必死にザクを止めようとするがもう遅かった。

奴は他の二人よりも冷静だったのだろう。故に気付いてしまった。ナルトから吹き荒れるチャクラの奔流を。

「きゃっ!」

後ろからテンテンの声が聞こえた。

それはザクの攻撃に驚いたのではない。

テンテンが驚いたのは、俺等毎包み込んだナルトの風の結界にだ。

俺達とテンテン、ネジとでは距離があった筈、しかしそれを埋めてしまうほどの巨大さが今のナルトの風の結界にはあった。

それは波の国でナルトが扱っていた赤い風の旋廻よりも禍々しく強大だった。

恐ろしい範囲、それなのにザクの斬空極波を完全に防ぎきった。こちらにはまったくの影響すら感じさせない。感じるのは吐き気すら感じるナルトの黒いチャクラの風の結界。

そしてザクの術が終わったあと、まるで風船が割れるかのように渦巻いていた黒い風は周りへ溶け込んでいった。

「お前か…」

ナルトの否定を許さない声がザクへ向かった。

それだけでザクは尻餅をついた。腰が抜けたようだ。

何時から持っていたのだろう、ナルトの手にはあのアイアンナックル。

そのアイアンナックルからは黒い刃が長々しく伸びている。そこにあるだけで全てを飲み込んでしまいそうな黒い刃、見ているだけで胃液が込みあがってくる。

「ち、ちがっ…俺じゃ……ッ!!」

首が千切れそうに必死に首を振っているザク、俺にはこの先が見えていた。

おそらくネジにも見えているだろう。

ナルトがあの唇だけを歪ませた笑みを浮かべているのだから。

「いいから死ねよ」

殺すことには変わりない。

腕がぶれると同時にザクの首が刎ね飛んだ。そしてナルトの腕がまたぶれる。しかし、今度のは少し長かった。それでも見極めることは出来なかった。

なんの音も無く、空中をさ迷っていたザクの頭が粉々に、ミンチになってドスの目の前に落ちた。

ククク、とナルトが笑っている。

どこか無邪気で楽しそうだ。だがそれをとめることは出来ない。止めようとした瞬間自分の首が飛ぶかも知れない。

「ん…」

ナルトの視線が俺のもとへ向く。

俺がなにかしたのか、頼むから何もしないでくれと俺は心の中で願った。

「その足…どうした?」

「え、ああ…」

あ、足を怪我していたのを忘れていた。ナルトのことで頭の中が一杯一杯だったからな。

「ひっ!」

ドスの短い悲鳴が聞こえた。

俺の返答一つでアイツの寿命が決まるということらしい。

確かに、俺はアイツを殺そうと思った。しかし、いいのか。これで。

俺はもうこれ以上ナルトに俺の目の前で人を殺して欲しくない。

だから、

「これは……」

「あいつか」

俺が言い終わる前にナルトがドスを見た。

ドスも腰が抜けて逃げ出せないでいる。このままでは死んでしまう。

俺は殺されることを覚悟にナルトを止めようと腕を掴もうとしたが、既にナルトはドスの目の前に立っていた。

「オマエには…」

ナルトの手がドスの額へ伸びていく。

ドスの表情は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。アイツは敵にしてはいけない奴を敵にしてしまった。

これで終わった、俺はそう思った。

「これで十分だ」

ぴこん、と額に軽くデコピン一つしただけだった。

そりゃねぇよ。おい。

「ほ、本当で……」

ドスが確認をしようとしていた時、

「んな訳ねぇだろ、くそったれ」

口に手を突っ込み舌を引き千切った。

「ーーーーッ!!」

ドスは急な激痛に、痛いなんてもんじゃない、あれでは何があったかも分からずに脳が悲鳴を上げてるのだろう。

「テメェもサクラやリーにも手ぇ出したんだろ、あぁ?」

今度は両目を抉られた。

身体を痙攣させて悶えているドス、そんな時に意外な奴の声がナルトへ向けられた。

「遊ぶのはもうその辺にしておけ、ナルト」

ネジだった。

ネジだけだ。この異常な状態のナルトに恐怖を抱いていないのは。

「あぁ? 邪魔すんのかよ、ネジ」

殺されてぇのか、そうナルトの眼がそう言っている。

「そりゃ邪魔するさ…そんなことよりもリーの治療を頼みたいんだからな」

そう言ってネジはもう喋らなかった。

ナルトも納得したように頷いた。

ドスは痛みに堪えながらもネジにありがたいと思ったのだろう。

最後の一言さえなければ。

「すぐに終わらせろよ…本当はオレがやりたいんだ」

忘れていた。ネジのあの時の怒りはナルトの怒りとまったく同じだった。それが可哀想だからと言って、もう十分だからといって気持ちが変わる筈が無い。

本当ならばネジもザクもキンもその手で殺したかったのだろう。

そうだな、とナルトは言って虫でも潰すかのようにドスの心臓を踏む潰した。

あまりにも呆気ない、ドスの最期だった。







「サポート頼むぞ」

ナルトはそれだけを言ってポーチの中からメスや俺には名前も分からないような器具を出した。

「かなり酷いぞ…出来るのか?」

ネジの額には汗が見え隠れしている。リーの状態を考えると相当酷いのだろう。

写輪眼では見えないところも白眼ならば見ることが出来る。

ネジの真剣な問にナルトは簡単に答えた。

「オレに出来ないと思うのか」

それで十分だった。ネジもそれに苦笑し、すぐに真剣な表情に戻っていた。

服を切って胸を曝け出す。そこは紫に変色している。

「胃が少し傷ついてるな…それと超音波を受けすぎたか、一時的に難聴気味になってるかも知れない」

ここまでは分かるがそれからは俺には理解出来ないような用語が出てきて話についていけなくなる。

ナルトが口寄せで薬液に漬けられた胃を取り出したところで我慢できずに俺はその場を離れた。





何時間たったのだろう、本当は一時間位なのかも知れないが俺にはそう感じた。

穴倉から出てきたナルトとリーを背負ってきたネジを見てホッとした。

何時の間にかナルトのあの禍々しい刻印は消えていた。

ナルトは深く深呼吸をして、ぶっ倒れた。

「ナルト自身が限界を超えていた。休ませてやれ」

倒れたナルトを地面に叩きつけられる前にテンテンが支える。

「ナルト君も仲間を傷つけられて怒ってたのよね」

そう言ってナルトを抱きしめながらテンテンはそう言った。

耳を疑った。ナルトが? そんなこと在り得ない。

「ネジっていったか?」

「なんだ。すぐにここを離れたいんだが」

ネジの眼は冷たい。今まで見た中でもナルトとそっくりな眼をしている。

何かを切り離したような、淋しい眼だ。

「なにも感じなかったのかよ、あのナルトに」

これだけは聞きたかった。それは悔しいからかもしれない。あんなナルトにただ一人だけ普通に接していたネジが羨ましかったのかもしれない。

この問にもネジはくだらなそうに答えた。

「俺にはいつもあんな感じだった。懐かしいくらいだ」

そう言って初めて笑った。それも嘲笑っているように。

「お前たちは知らないみたいだから言っておく。随分とナルトは丸くなったな、弱くなったんじゃないかと心配してたくらいだ」

それはどういう意味だ、そう問い詰めたい衝動を感じたが事実なのだろう。

ナルトと同期だったテンテンとネジはあの時のナルトにあまり驚きを示さなかった。あれが本当のナルトの姿なのかもしれない。

「最期のは寧ろ安心した。あれが本当のナルトなんだからな。勘違いしているのはお前等だ」

どっちが本当のナルトなのかが分からない。あんな快楽殺人を平気でするのがナルトなのか、それとも距離を取って本当に危ないときは何かと理由を言いながらも助けてくれていたナルトなのか。

テンテンは最後にナルトに何かを呟いてネジについて消えてしまった。

俺は首から上が綺麗に無くなっているザクの懐を探り巻物を手に入れる。

地の書、俺達が探していた巻物だった。

それをサクラに見せて二人してそこで気を失った。

俺もサクラも疲れすぎた。すぐ真横で聞こえるナルトの静かな寝息を聴きながら俺達も意識にさよならを告げた。







黒い波に飲まれながらオレは流れている。

抗うことは難しく、流れることは簡単だった。そして抗うことは痛く厳しく、流れることは楽で快感だった。

一度流れてしまったら、もう二度と抗うことが面倒になってくる。

そしてその快感に浸っている最中にあの時最も聞きたかった声が聞こえた。

「今になって分かったこともあるの、もう少し頼ってもいいと思うよ」

何が分かったのだろう。声と名前は出てくるが生憎腐ってるオレの頭じゃ顔までは思い浮かんでこない。

接点がなかったわけじゃない。興味がなかったわけでもない。ただ、一度出会ったからなのかも知れない。

あの夜に、あの時に、あの場所で君と。

術が解けてしまうほど未熟だったオレに感謝しながら今一度思った。

もう少しだけ抗ってみよう。

もう少しだけ、あとちょっとだけ。

抗うことを決め、一度眼を閉じ自分に嘘を吐いていないかを確かめる。そしてそんな必要が無いと分かって眼を開けた。

眼を開けるとそこは真っ黒なカーテンと金色に煌いている月が一つ、まるで化け物の目のようだった。そんな不気味さを吹き飛ばすような白く儚い月光がこんな泥まみれなオレに降り注いでいた。

たった一つだけのオレの為の照明、それだけで何もかもが明るく見えた。何もかもが美しい光景のようで、やっぱり何もかもが美しかった。















死の森の中で一本だけ揺れている木が一つあった。

そこの根元で会話は続く。

「も、もう止せってヒナタ!」

ズゥン、ズゥン、とあんなに細い腕からどうすればこんな太い木が揺れるのだろうか、俺は思った。

「抱き合ってた…抱き合ってた……抱き合ってた…………」

それだけをブツブツとヒナタは言い続けて手を振るう、って怖すぎる。始終顔が俯いていて顔色が見えないところが更に怖さを引き立てている。

さっきこれの途中で襲ってきた雨隠れの忍びは人質にしようとでも思ったのだろう。ヒナタの方へ向かっていった。

俺は同情したね、今のヒナタはやば過ぎる。

相手が攻撃を加えようとした瞬間に柔拳を喰らって悶絶してた。

「あと20分は続くな…」

シノまでもあまり近づこうともしないなんて……。

結局ヒナタの奇行は木が折られるまで続いた。








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