大切って何だろう。
命よりも大きいのかな、自分よりも大事なのかな。
そうだな、きっとでかいんだろうなぁ。
狂った歯車の上で
斜陽が薄い掛け布となりぬるま湯のような暖かさで身体を包んでくれる。
ああ、そうか。昨日はサスケと組み手をやって………。
思い出すとまた苛付くのかと思ったら自分に嘘をついているかのように気持ちは軽かった。
昨日の昼から今に至るまで寝ていたというのか。そりゃ気持ちよかっただろうなぁ。
ザッ、ザッ………。
そんな時、オレの近くに1人の人間がやって来た。薄い着物を身に纏った美しい女性だった。
歳は若いのだろう。少女というのが正しい。
今まで見てきた中でも一番美しかった。
「こんな所で寝てると風邪ひきますよ」
こんなところで寝ていたら驚くだろうな、と冗談を聞かせるつもりだったのだが、声を聞いた瞬間飛び起きた。
――――仮面の声だ。
「へぇ……仮面を取るとこんなに綺麗なんだな、アンタ」
仮面、という言葉に少女も後ろに跳ぶ。
「貴方ですか……こんなところで寝ていたなんて」
「ここは気持ちが良くってね、随分と久しぶりに安眠できたよ」
悪夢を見ることさえなく、無心に寝れたのなんてどれだけ久しぶりだろう。
少女の手篭を見るとそこには薬草―――火傷に効くだろう摺れば粘質な液体のでる薬草がたんまりと摘まれてある。
「はは、再不斬の火傷は今だ癒えないってことかな?」
「いえ、これは予備です。もう十分治ってます」
なんだよ。つまんねぇなぁ。
「髪の毛は治んねぇだろうな、ありゃ」
はは、アレは傑作だった。
あれはその道を極めたって感じでかっこよかったぜ。
「あれはあれで可愛いのでいいんじゃないですか?」
「あんた頭大丈夫か?」
「記憶力には聊か自信があります」
だろうな、頭もよくなきゃ強くもなれない。文武両道こそが力となるもんだ。
だが気になることがある。
ガトーがいるから隠れ蓑に出来たっていうのに、何故まだここにいる?
「ガトーは死んだぜ? ここにまだいる必要も無いだろ?」
「知ってますよ」
ボクが殺したかった、などと顔に似合わないことを事も無しにいいやがった。
サスケの殺すとコイツの殺すは根本的な違いを感じる。
コイツの殺すってのはオレの殺すってのと同じのようだ。
「アンタを今ここで殺しちまったら再不斬は怒り狂うだろうなぁ」
こんなに有能なヤツを失って後悔しないやつなんていないだろう。
オカマだって泣き叫ぶかもしれない。
「まさか、道具を失ったら次のを手に入れるだけですからね」
「へぇ…アンタが道具、かぁ」
そりゃすごい。
こんなにそっくりなヤツは初めてだ。
「いいぜ、名前を聞いてやるよ。お前の名は?」
「白」
綺麗な名前だと、素直に賞賛しよう。
そして白と対称な紅い華を君へ。
普通の人間では出来ないような動きも軟の改造を施せば出来るようになる。
そして弓の如く捻り限界まで引いた手首から普通の人間では目視できない程度の速度でメスを飛ばす。
「随分と乱暴な人だ」
それをしっかりと目前で握り締め止めた白は笑みを浮かべずに睨みつけてくる。
やばいな、そそるよ。
心を消して、この一時の夢幻、オレは機械となろう。
後ろに三歩。
カカカッ! と、千本が見えなくなるまで地面に刺さっていく。
おいおい、この威力だったら人間くらい簡単に貫通するぜ。
左右に振って、如々に前へ詰める。
白の腕が霞むごとに左右に振ったオレの身体を掠っていく。
いいぞ、リズムに乗れている。
筋肉は音楽だ。小気味良く、音楽を奏でる。動物の鳴き声も、風の悲鳴も聞こえはしない。
今は、前を見て進め。
「どうした、こんなもんか?」
千本を投げるという動作の合間を縫って前へ詰める。白の綺麗な顔が視界中に広がる。
「くっ!」
「遅いッ!」
木の葉旋風の逆風、リーとは真逆の攻め方。下から蹴り崩し、上段蹴りで叩き潰す。
筈だったが下段蹴りは難なく避けられ締めの上段蹴りは額に掠るのみだった。
掠ったのは脚じゃない。チャクラのメスの方が掠った。思っていた以上に体術もレベルが高い。
下から攻めたのは単に蹴り易いから、それさえ避けられたら上に逃げればいいだけなのだが、こうも簡単にやられると自信を無くしてしまう。
「まさか脚から刃が出るとは……驚きました」
「奥の手まで避けられたオレはもっと驚いている」
まずいな。こいつ、忍術タイプなのに。体術も中々にやる。
そう思っていたら、空気が冷え始めているのに気付いた。
「こ…れは?」
秘術・千殺氷翔
気付いたら白の姿は消え、目の前に氷の針が殺到していた。
「なっ!?」
素材は水だ。分かっているのだが、目の前で木を貫通しているのを見て受け止めようなんて思う筈も無い。
鉄なんかよりも抵抗が極端に少ない。手で受け止めたとしても擦り抜けてしまうだろう。
「接近戦では勝てそうに無さそうなのでボクの戦い方に戻させてもらいます」
後ろで聞こえたと振り向けば、真横から千本が飛来する。
それをワザと受け止める。
「ククク、受け止めてみればどこから狙ってきたがすぐに分かる、ぜッ!!」
刺さる直前に経絡線からチャクラを噴出させて肉体には触れさせていない。抵抗は無いだろうが重みの違いか、水の千本は軽い。チャクラに押されて服に刺さって止まった。服の感触から方向を見出して、足の裏に溜めたチャクラを爆発させて一気にその方向へ跳ぶ。
「くたばれッ!」
爆発寸前の水風船の如く、チャクラを限界まで詰め込んだ拳で砕いたのは白ではなく、分厚い氷の鏡だった。
バリーンッ! と耳障りな音を立てて氷の塊は砕けていく。
この時期に、
「……氷?」
液体窒素で水でも凍らせた? んな面倒なことをする筈もない。
気が付けば、冷気を漂わせているのは氷の周りだけじゃなく、オレらの周りのみだ。
つまり、これは
「…血継限界」
「………知っていたのですか」
神経質過ぎるまでに高めた耳が白の居場所をつきとめる。
そこには、氷の鏡の中で音も無く立っている白の姿だった。
勝てるか、と聞かれたら勝つと豪語するだろう。だが、現実には厳しすぎる。
もし、相手が血継限界を完璧に扱うことができるとなら、勝てないだろう。
血継限界は才能だ。一族からの後押し、オレにはないまた別の力だ。
「さて、どういくかね」
左腕はまだ禄に扱えない。脚も引きつっている。さぁ、解決策を持っている人がいたら教えて欲しいもんだ。
ヒュッ、と風を切る音を耳にした瞬間、地に伏せるまでに身体を沈ませた。
さきほど立っていたオレの心臓、肝臓、関節の節々があった箇所を無数の千本が通過していった。
「すごい身体能力です」
「……どうも」
知らないうちにオレは氷の鏡に包囲されていた。枚数は5枚。すでに鏡の中には五人の少女の姿ある。
「苦しまないようにしますから」
「いらねぇよ、んな優しさなんて」
まるで雨が横方向に、オレにだけ降っているのかと錯覚してしまうほどの千本が飛来する。
さて、公開オペの開始だ。
風、そんな生易しい風なんていらない。竜巻だ。それを作って見せよう。
柔拳法奥義 八卦掌回天ッ!
今のオレは、竜巻だ。
雨の中、傘越しで雨を感じているようだった。
ボツボツボツ、と千本の衝撃を感じる。それでも、オレには届かない。
視界が抽象化する。そして、推進力を無くし、眼を開いたときには雨は止んでいた。
「雨は止んだのかい?」
オレが弾き飛ばした千本が幾本か氷の鏡に刺さっている。それでアイツがどれだけの強さで千本を投げたのかが分かる。
身に受けた瞬間に蜂の巣よりもひどい穴だらけになるだろう。
「貴方の目的はなんです。再不斬さんを狙っているのですか?」
やっとオレを敵として認めたようだ。
嬉しいと心から思う。こんな才能のある、それも強い道具がこんな不良品の道具を対等として見てくれたということに心が歓喜する。
ああ、何故だろう。
綺麗な顔じゃないか。凛々しく、儚い矛盾が一層に美化してやがる。
そうだ。欲しい。オレは目の前の少女が欲しい。
「オレはお前が欲しい」
何故だろう。心から嫌悪している顔をされた。
「オレはお前が欲しい」
またですか……これで13人目だ。買出しに出る度に言われる。だから今回は人の目に触れないところに隠れ家を建てたというのに。
ボクは男だっていうのに、なんで分からないんだ。
もしかして目の前の少年はボクが男だと分かっていて言っているのかも知れない。
あれほどの強さだ。洞察力も生半可なものじゃない筈。
ボクを女として欲しているのなら最低だが、ボクを男と理解して欲しているのなら最悪だ。
気持ち悪い。その一言に限る。
「貴方は…とても醜悪だ」
そんな言葉がすんなりと出てしまった。
「貴方は…とても醜悪だ」
言われても大してショックは無かった。
確かに、血継限界を持つものを拉致して解剖するのがオレの目的だが、今回は違うのだが。
目の前の少女は自分の顔を鏡で見たことがないのか? 鏡の中にいるくせに。
まるで童話だ。それだけに綺麗に見える。
汚れ一つ無い綺麗な真っ白な織物のようだ。
汚れきったオレにはない。本当に綺麗なんだ。アンタは。
恋愛とかじゃない。憧れに近い、そんな感じだと思う。自信はないが、きっとそうだ。
だから、
「それでも、オレは白が欲しい」
「ボクの名前を呼ばないでくださいッ!!」
何故理解してくれないんだ。
また、豪雨の如く千本が降掛ってきた。
「それでも、オレは白が欲しい」
鳥肌が立つ。吐き気も催す。
ああ、貴方はこれまでで一番気持ち悪い。
死んでしまえばいいのにッ!!
そして、
「ボクの名前を呼ばないでくださいッ!!」
それを呼んでいいのは再不斬さんだけだッ!!
死んでしまえばいいのにッ!!
旋廻、風を作って、これを結界と呼ぼう。
攻撃を防ぐためのモノを結界と呼ぶのならば、これは十分に結界だ。
オレの周りで吹き荒れる風で白の千本が一瞬止まり、方向が乱れる。
一瞬あればいい。その一瞬で全ての準備が終わる。
この針の豪雨を吹き飛ばす為の準備が。
「これが、オレの回天だ……ネジッ!」
オレが作った周りの風を巻き込んで、逆回転、風の流れの逆方向に、回天で全てを巻き込み吹き飛ばす。
氷の鏡も、その周りで生い茂る木々諸共全て吹き飛ばす。
それくらいじゃなければ白の全力の千本は防げない。
今のオレの最大級の攻撃力を持った攻撃だ。
螺旋丸の副産物、圧縮しきれないのならば、それを拡大してオレを中心に竜巻を作った。
圧縮することに螺旋丸の意味があるのならば、拡大することにこの結界の意味がある。
何も抉れない。なにも穿てない。だが、少し遅らせ、少し捻じ曲げることが出来る。
オレにはそっちのほうが良かった。
「……いなくなっちまったなぁ」
氷の冷気と木の木っ端、砂煙が晴れた頃には白の姿は無かった。
「おう今帰ったか! …何じゃお前、超ドロドロのバテバテじゃな」
帰ってきたら既に夕食の準備は終えていて皆は卓についていた。
サスケもアレだけ痛い目に遭わせて置いたというのに元気そうな顔をしてやがる。
さすがは天才様だ。何から何までオレと違ってやがる。
「随分と遅かったな、修行か?」
カカシが確かめるかのような目で見てくるが、生憎今のオレは気分がいい。
「ああ。明日が楽しみなくらいだ」
再不斬は既に戦闘可能なくらいに復活しているだろう。つまり、明日あたりにもう一度現れる。
白と共に。
「随分と嬉しそうだな」
皆が目を丸くしている。なんだ? オレが笑顔になるのはおかしいか?
「フ~…ワシも同じくらいに嬉しいわい! 何せもう少しで橋も完成じゃからな」
「ナルト君達も父さんも余り無茶しないでね」
サスケも春野も木の葉では体験できなかっただろう充実感を感じているようだ。
確かに、本当にこの任務は濃厚だった。色々なこともあった。
今はそれが気分が良い。
「何でそんなになるまで必死に頑張るんだよ!! 修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよ!!」
「ガトーが死んだって知ってる?」
オレが殺したんだ。絶対に死んでる。メスで心臓を真っ二つにしといたんだから。
それで生きていたのならばそいつはバケモンだわ。
「ガトーの手下って強いんだろ!? きっと復讐しにくるに決まってる!」
「はは、あの再不斬がんな殊勝な心構えしているわけないだろ。当事者じゃないんだから黙って目の前から消えとけって」
髪の毛の恨みかカカシとの決着くらいだろう。きっとそうだ。
こいつは自分にできないようなことをしているオレ等がうざったいのだろう。
気持ちは分かるが、同意は出来ないなぁ。
こういうのは潰れてくれたほうが更生するよりも何倍も面白い。
「自分じゃ何も出来ないくせにオレ等に八つ当たりか? お前はいつも弱ぇなぁ。いつも父親にピーピー泣いて助けてもらってたんだろ? でもそれはもういないんだ。だからいつもお前は『負け犬』なんだ。勝とうとも思っていない奴がどう足掻こうが勝つ意思の無い足掻きなんて時間の無駄で、本当に意味無いよなぁ」
ああ、なんてかわいそう。と最後に最高の笑みで言ってやった。
食欲も失せた。
今日はもう寝よう。ここでは寝首を掻かれることもない。だから気持ちよく寝られるだろう。
だから、今日は白のために早く寝てしまおう。
味気ない、無言の夕食を終え、夕涼みをしていたらイナリ君がわざわざ家の外で座り込んでいた。
ナルトの言葉で心身ともにボロボロなのだろう。
ナルトはどうもイナリ君のことを嫌っているようにしか見えない。ただ怒っただけではあそこまで的確に心を壊すようなことは言えない。
多分、ナルトはイナリ君のことを過去の自分として見ているのだろう。
イナリ君に対しての物言いは今のイナリ君のあり方に対しての嫌悪のみだった。随分と遠まわしな激励のようにも聞こえる。
『勝とうとも思っていない奴がどう足掻こうが勝つ意思の無い足掻きなんて時間の無駄』
随分と不器用だなぁ、と苦笑してしまう。
早く駆け上がって来い、という意味としても取れる言葉でもあった。
「ちょっと…良いかな?」
イナリ君はこちらを一瞥してまた同じ方向、空を見上げる。きっと天国のお父さんを見ているのだろう。
父が死んだとき、俺をよくやっていた。同じように、父親を探そうと上を見ていた。
「ま! ナルトの奴も悪気があって言ったんじゃないんだ…アイツは不器用だからなァ」
あの言葉の真意を取れたのは俺だけだろう。どうもナルトは俺に対しても嫌悪を吐き出している。
だが、その分ナルトの本音を聞いてきたのは俺が一番だろう。
イナリ君からしたらナルトは嫌悪の対象でしかないだろう。
自分の心の中身を指摘されるということは物凄く腹が立つ。だが、それは自分の間違いに気付いていない証拠でもある。
「お父さんの話はタズナさんから聞いたよ…ナルトの奴も君と同じで子供の頃から父親がいない……というより、両親を知らないんだ…ホント言うと君よりツラい過去を持っている」
九尾、それは最悪のブランド名だ。
それがナルトの人生を大きく狂わせてしまったのだろう。
「え?」
まさか近い境遇の人間だったとは気付かなかっただろう。生まれも場所も違う。だが、苦しいという感情に違いは無い。
「けどな…アイツは一度だって挫けもしなかった。そして強くなろうと独りで戦い続けてきたんだ」
そう、本当に独りだったのだろう。
自分以外は敵、そんな環境で生きてきたのならば…違うな。
生きてこなければ『皆に慕われていたくせに』なんて口が裂けても言えない。
強くなった。本当にナルトは強く育った。誰も必要としないくらいに。
良い言葉で孤高という言葉があるが所詮は孤独だ。
心は荒み、脆くなってしまう。
あぁ、先生。俺は何から何まで駄目みたいです。戻ってきて、零から教えを請いたい。
皆の前で先生の部下であり、生徒であると自慢が出来るように………
こんな自分でも出来るようなことは少しはあるのだろう。一瞬前は既に過去なんだ。もう戻りはしない。やるべきことに悔いなく終わらせることが今の最善だ。
「ナルトは止まらなかった。いや、止まれなかったんだ。弱いままだと生きていけない環境だったからね。だから、進もうとしない君が気に食わなかったんだと思う。進もうともしていない君が進もうとしているナルトを否定したからね」
今は理解できなくても、大人になったときに解ることもある。
だが、その時に後悔するのがほとんどだ。
だからイナリ君にはそんな目にあって欲しくないからここは強く言わせて貰う。
「君は一歩だって進んでいない。お父さんが死ぬ前から、君は一歩だって進んでいないんだ」
後は君の問題だ。
ナルトは……まだ寝ているようだ。
うまく誤魔化していたがアイツは昨日一度も左腕を動かしていなかった。怪我でもしていたのだろう。それも重症な。
ナルトは強い、それでも強い中に弱いモノも埋もれて隠れている。
サクラもサスケも強くなった。ここはナルトにこの家を守らせるという意味で寝かせておこう。
別に起こして更に嫌われるのが嫌なわけではない。
「じゃ! ナルトをよろしくお願いします」
「ハイ、行ってらっしゃい!」
さぁ、大人の意地を見せなくちゃな!
俺達がタズナさんの仕事場に付いたときには既に濃厚な血の匂いが充満していた。
「どうした! 一体何があったんじゃ!」
タズナさんが傷だらけの仲間も元へ行って肩を抱き問うが
「ば……化け物…」
予想していた通りの言葉で返ってきた。
周りは血だらけだ。なのに誰一人死んでいない。認めたくは無いが、さすがは再不斬というところだ。
「キャ―――ッ!!」
などという耳障りな悲鳴で目が覚めた。
外を見る。燦々と太陽が煌いている時点でオレが寝坊したということは分かった。
「母ちゃん!」
クソガキの泣き声染みた声も耳に入る。
「あぁ…最悪だ」
気分は最高に最悪だ。やばいね、殺したくなってくるくらいにやばいわ。
「ガトーが死んでよぉ、オレ達の仕事が無くなっちまってなぁ、気が立ってんだよ!!」
「悪いがストレス解消に付き合ってくれや!」
ああ、そういえばあの時にあの二人の姿が無かったなぁ。非番だったのか、まぁなんとも幸運だよ。
「出てきちゃダメ! 早く逃げなさい!」
「随分といい女が母ちゃんだな、坊主」
「どうするよ、ゾウリ」
下品な笑い声がここまで聞こえてくる。
呆れすぎて逆に笑えねぇよ。
少しの殺気が漏れた。どうやらあの二人はクソガキを殺すのだろう。
まぁ、本当にどうでもいいんだが。
「待ちなさい! …その子に手を出したら…舌を噛み切って死にます…」
いいよなぁ、こんな親がいるってのはそれだけで天国だ。
たとえ、周りが地獄だろうとも、一緒に居てくれる人が居てくれたらきっとそこは地獄じゃないんだ。我慢できる、その人と共にその地獄と思っていた壁を乗り越えて楽園へと辿り着けるんだ。
そうじゃなきゃやってられないよなぁ、きっとそうだ。
どうやら二人は猥談をしているようで二人の会話以外はなにも聞こえてこない。
クソガキはなにやってくも諦める馬鹿だってことらしい。
まぁ、もとから期待なんてしてなかったからどっちだってかまいやしない。
オレは自分に正直に生きていくと決めているから今更変えることなんて誰にだって出来やしない。
そう、誰にだって止めさせない。
「そこのお二人さん、ガキの前でくだらねぇ会話してんじゃねぇよ。衛生的にも教育上に良くないだろ、ただでさえ救いねぇんだからよぉ」
「て、てめぇは!」
「タズナの野郎と一緒にいた…」
へぇ、覚えていたんだ。
「オレの顔を覚えられる程度には知能があったんだな、見直したよ」
そういって盛大に拍手をしてやる。
嫌味じゃない。本当に驚いてやってるんだ。感謝してもらいたい。
「ふ、ふざけるんじゃねぇ!」
「ふざけてねぇし。オレは何時だって真剣だ」
「殺す!」
片方が刀を振りかざして突貫してくるが、自分が蟻んこ以下だってことを知らないらしい。
「はは、やっぱり馬鹿だ」
こういう馬鹿は本当に面白い。何度見ても面白いから好きだ。
「ぶっ殺す!」
ボキャブラリーが貧困なんだよ。学校行ってたか?
お前は本当に馬鹿だ。
昨日とは正反対。寝坊した自分に本当に苛立っているオレに刀を向けたんだからな。
傀儡用のチャクラの糸で二人を雁字搦めにする。強度はそこまで高くないから忍び相手には動きを遅らせる程度だが、こいつ等程度にはそれすら不可能だな。
「ど、どうなってやがる!?」
「か、身体がッ!」
うん。本当に知能が足りていない。猿だな、これじゃあ。いや、猿でも頭を使うぜ。
「無知ってのはその時点で大罪なんだよ。人は道を見つける為に一生懸命悩むもんだ。それなのにその選択肢に気付かず、大切なもんを失っちまう。馬鹿だった自分を恨んで逝っとけ」
二人の間を通り抜けながら呼吸管をぶった切る。これで静かに窒息死ってやつだ。
何かを喚こうとしているが声が出てくれない。そりゃ呼吸できないんだから空気も吐き出せないだろう。
次第に動かなくなって最後は小さく痙攣して二人の生は止まった。少しはストレスが解消された。
「な、ナルト君……?」
目の前で人が死んで放心状態のツナミさんがオレの名前を呼んだ。まぁ訳が分からなかっただろから混乱しているのだろう。
「眠ってもらっただけだよ」
永遠にだけどさ。
オレは自分に正直に生きているよ。