アカデミー、忍者学校とも呼ばれるそれは、忍術、体術、学問などの忍にとって初歩的な技術や知識を学び、忍としての第一歩を踏み出すための場所ともいえる。
まぁ、そこに通って無くても優秀な忍びなど大勢居ると思うのだが…何故か俺達音の五人衆は、そのアカデミーに通うことになってしまった。
突然だが恋の王道といえば何だろう?
人それぞれ違いはあれど、一目惚れなんて正に王道ではないだろうか?
では、一目惚れの王道といえば何だ?
数ある一目惚れの中でも、出会い頭の衝突なんて良いのではないだろうか?
学校に向かい、遅刻しそうになりながら走っていると、角を曲がるときにぶつかってしまうあれだ。
勿論、口には食パンを咥え、ぶつかった拍子にパンツが見えたりのハプニング。
教室に入ったら先生から転校生紹介があり、なんとその転校生はぶつかった相手。
この場合、パンを咥えるのは女子。転校生は男子となる。
…正に王道だ!!
そして、今自分の置かれている状況について確認してみる。
俺は編入生? としてアカデミーに向かう。目の前には食パンの入った袋。時刻は若干間に合うかどうか微妙な時間。
多由也達には用があるから先に行っといて、と言ってある。
…もうこれはやるしかないだろう。先ほどの王道とは男女逆だが、こんなナイスなシュチュエーション、神様が用意してくれたとしか思えない。
俺は家を飛び出した。パンを咥え期待に胸を膨らませながら。
俺は走った。まだ見ぬ恋の為に。
そしてその時は突然やってきた。
角を飛び出した瞬間、目の前には綺麗な長い髪の女性の後姿が…
俺は迷わず突撃した。だが、その行動をすぐ後悔することにった。
当たる、そう思った瞬間目の前の女性が消えたのだ…
当たった後のことしか考えて無かった俺には何がなんだか分からなかった。自分の後ろから声を掛けられるまで。
「君麻呂…ちゃんと前を見て走らないとダメじゃないの…私じゃなかったら怪我してたわよ…」
俺が女性と思っていた人は、よりにもよって大蛇丸だったらしい…
「それとも、朝から私に飛びつきたかったのかしら?」
ウフフ、といいながら大蛇丸が後ろから俺の両頬に手を伸ばしてきた。
何で俺はもっと冷静になれなかったんだろう。
いくら舞い上がっていたからといって、大蛇丸と気付かなかったなんて…
大蛇丸の後姿を綺麗と思ってしまったなんて…
「チキショー!!」
溢れる涙もそのままにして、俺は大蛇丸の腕を振り払い走って逃げた。
「…朝の挨拶も無いなんて…育て方間違えたかしら?」
俺は走った。涙も流したまま。
走り続けた。パンも咥えたまま。
そんな中で俺は学習した。
漫画の中でも、漫画みたいな出会いは無いと言う事を。
そして、パンを咥えたまま走ると、息がしにくく呼吸困難になると言う事を。
息を切らしながら走っていると、前方に多由也達が見えてきた。どうやら追いついたらしい。
多由也達もこちらに気付いてるらしく、こちらを見ている。
横に並ぼうと俺は近づいていったが、ちょっとした事件が起こってしまった。
いまだパンを咥えたままの俺は、酸欠気味のせいか分らないが普段絶対につまづかない様な石につまづいてしまったのだ。
結果、俺はこける。目の前には鬼童丸。
鬼童丸は親切にも俺を受け止めてくれようとしているらしい。六本の腕が俺を待ち構えていた。
ダメだ!! このままでは鬼童丸と抱き合う事になる…
俺は無理やり身体を捻り、鬼童丸の隣にいた多由也のほうに倒れこむ。
多由也にとって俺の行動は予想外だったらしく、避ける事も、受け止める事もできずに俺と一緒に倒れこんだ。
多由也はスパッツを履いていたためパンツが見える、なんてうれしいハプニングは無かった。
けれど、これはこれでいいかも…なんてちょっと危ない事を考えてたら多由也に殴られてしまった。
「さ…さっさとどけ!! このクソヤローッ!!」
多由也は顔を赤くしながら言ってきた。
怒った顔も結構かわいいかもしれない…けれど、いい加減どかないと殺されそうなので、名残惜しいがどくことにした。
そして、多由也に手を貸して起き上がらせた後、俺達は当初の予定通りアカデミーに向かう事にした。
今日学習した事追加。
朝咥えて走るパンには、何か不思議な力があるのかもしれない…