「どうするぜよ?」
担架で運ばれるザクを見下ろしながら鬼道丸は呟いた。
「…何が?」
横で同じようにザクを見ている多由也が答える。
「能力つかうな、だってさ」
「能力ね…ウチの場合は笛って事になるのか…」
「俺の場合は糸、って言ったところぜよか」
言い終え、二人して大きなため息を付く。
「メンドクせ~」
「面倒くさいぜよね」
これまた二人して同じような事を口にする。
「…で」
振り返り、多由也は俺を見て続けた。
「さっきからお前は何してんだ?」
「お祈りを」
即答で答える。
「は?」
怪訝な表情で多由也が口にした。
「まぁ確かに。 膝をついて、両手を合わせそれらしいポーズはしてるぜよが…一体何に祈ってるぜよ?」
「神に決まっているだろう」
「はあ? 君麻呂、神なんて信じてるぜよか?」
「無論だ、神を信じ─」
言い終える前にふと考える。
『神』
奴には今まで何度も裏切られてきた。
何度も、何度も、何度もだ。
そう、俺は神なんてもう信じないと誓った筈ではなかったのか?
なら答えは決まっている。
「信じるわけ無いだろう、馬鹿かお前」
立ち上がり、合わせていた手を解き言う。
「え? でもさっき神にいの─」
「祈りは、亡き父と母にだ」
鬼道丸の言葉を遮り続ける。
「実は今日が命日だったんだ」
「どう考えても嘘ぜよ」
「で、本当のところは何を祈ってたんだ?」
「俺とアイツが対戦できるように」
多由也に視線を移し答える。
「アイツ? あぁあのヤローか」
「下っ端Aが無理となった以上、下っ端Bだけは何としてでもこの手で始末をつけなければ」
そう言い、俺は電光掲示板へと両手をむけた。
「今度は何だ?」
「ウム。念を送っている」
「…あっそ」
そっけない返事が返ってくるが、構わず念を送り続ける。
目を瞑り、一層集中して強い念を。
俺と下っ端Bの名前が出ますように。
俺と下っ端Bの名前が!
俺と下っ端B!!
「君麻呂」
「何だ多由也」
肩で息をしつつ答える。
「良かったな」
「…何!?」
目を開け、電光掲示板へと視線を向ける。
『ツルギ・ミスミ VS タユヤ』
何度見ても、何度目を擦ってみても、電光掲示板に映し出された字が変わる事はなかった。
「多由也~」
唸るように声を上げる。
「お前にはヘンテコな力が無いって分かったんだ、良かっただろ」
俺はその場に崩れ落ちた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(どうしようか…)
階段を下りながら独りごちる。
(笛が使えない)
多由也にとってそれが大問題だった。
何故なら、彼女の使用する術には笛が、笛の音が欠かせない。
幻術を使うにも、物質化霊や口寄せした怒鬼を操るにも笛の音が必要となる。
さらに不幸な事に、彼女はクナイや手裏剣といった武器の類は一切持ち歩かない。
(キンにでもクナイ借りるべきだったか?)
こうなると、戦いの手段は限られてくる。
自身がもっとも苦手とする接近戦。
(メンドクせ~)
大きなため息をつき、最後の一段を下りた。
舞台の中央には、既に対戦相手のツルギが待ち構えている。
早く来いと言わんばかりの形相だが、構わず自分のペースでゆっくりと歩いていく。
(相手は仮にも大蛇丸様の部下)
そう考えれば、何か特殊な能力があると考えて妥当だろう。
(一回戦で戦ってた奴はチャクラ吸引の能力)
間違いなくツルギも特殊な能力を持っているはずだ。
その能力がヨロイと同じチャクラの吸引だとしら接近戦は危険すぎる。
別の能力を有していたとしても、その能力が何か分からない以上、極力接近戦は避けたい。
「多由也、負けんじゃないわよ!!」
キンの声が耳に入る。
「多由也、やっちまえぜよ~!」
鬼道丸だ。
簡単に言う二人に少々怒りを覚えるが、ふと声のしなかった君麻呂が気になり視線を向ける。
「…………」
相変わらず、鬼道丸の隣でうな垂れてる。
(ホント、メンドクせ~)
「それでは、第三回戦はじめてください」
試験官が言い終わると同時、ツルギが口を開いた。
「俺はヨロイと違ってガキだろうが女だろうが容赦はしない。はじめに言っておく、俺が技をかけたら最後…必ずギブアップしろ。速攻で」
「あっそ、じゃあ降参」
「ケリをつけてやる?」
予期せぬ多由也の言葉に、思わず語尾を上げてしまうツルギ。
「審判、降参だ」
「……え、あ、はい」
コホン、と咳払いを一つし、
「対戦相手の降参により、勝者ツルギ!」
「はぁぁぁ!?」
君麻呂と鬼道丸、キンの絶叫する声が聞こえる。
何時の間にか、君麻呂は復活していたようだ。
(ま、大蛇丸様からは勝てとは言われてないから問題は無いだろ…多分)
若干の不安を抱えつつ、つい数分前に下っていた階段を反対に上っていく。
恐らく、上った先にはキンが待ち構えているだろう。
君麻呂や鬼道丸も同じはずだ。
下手をすればつかみかかって来るかもしれない。
「待て」
歩みを止め振り返る。
見下ろせばツルギの姿。
「貴様どういうつもりだ?」
「別に…勝たせてやったんだからそんなのどうでもいいだろ」
「…勝たせてやっただと? その言い方だと」
「黙れクソヤロー。それ以上しゃべんな、クセーんだよ」
「なっ、貴様」
「黙れって言ったのが聞こえなかったか?」
声を低くして言う。
これだけで十分効果があった様だ。
ツルギは黙り、多由也を見上げている。
その反応に満足し、多由也は反転し階段を一段上った。
「そうだ」
思い出したように多由也が口を開く。
「祈っといた方がいいぜ、本選で君麻呂と当たらないように」
予想通りなのを喜んでいいのか悲しんでいいのか分からないが、三人が待ち構えていた。
「で」
「どういう事」
「なんぜよ?」
三人で口合わせでもしたのか分からないが、一人一人綺麗に分担してしゃべっている。
「ウチが殺っても良かったのか?」
「は? 何言ってるのよ多由也」
「キンには後で説明する。で、どうなんだ?」
視線を君麻呂へと向ける。
「良いに決まってるぜよ」
「テメーには聞いてねーよ」
「ぜよっ!? 最近こんなのばっかりぜよ」
小声で何か言ってるが無視をしておく。
「…そりゃあ俺の手で生きてるのを後悔してるほどの目に合わせてやりたいけど」
「なら、本選で戦えるように今から祈っとけ。今からなら、多少なりとも効果があるかもしれないだろ」
君麻呂は目を大きくして驚いている。
どうやら本選の事は考えていなかったらしい。
「それとも何か? テメーこの予選で負けるつもりか?」
今度は首を大きく横に振って意思表示をしている。
「なら問題ないだろ」
ウンウンと、首がもげるんじゃないか? という勢いで首を縦に振りなおす。
まるで首の部分がバネで出来ている置物のようだ。
「まさか多由也がそこまで考えてるとは、正直驚いたぜよ」
「た、多由也がこんな良い子に育ってくれるなんて、お兄ちゃん嬉しいぞ」
突然泣き出す君麻呂。
しかも何故か頭をナデナデされている。
……
…
悪い気はしない。悪い気はしないのだが、
「やめんか!!」
恥ずかしい。
「って言うよりお兄ちゃんてなんだ!?」
「多由也、良く分からないけど私のことはお姉ちゃんて」
「呼ばないっ!! というかそのネタはもういい!!」
あとがき?
君麻呂の対戦相手…
①王道? の一人あまりでそのまま予選通過 ○
②我愛羅との絶対防御対決 ×
③リーとの熱い肉弾戦 △
④その他 ◎
さぁどれでしょう?
……
…
②は100%ありません。