胃が痛い…
視線で人を殺せるなら、間違いなく俺は殺されているだろう…
下っ端二人組みの殺気のこもった視線。
正直、こいつ等はどうでもいいのだがムカつく。
問題なのはサクラの視線だ。
恐らく、大蛇丸や呪印の事について聞きたいのだろう。
そして最後、大蛇丸の舐め回すような視線。
……大蛇丸様、火影の斜め後ろなんて絶好のポジションに居るんでしたら、此方を見る前に色々やる事あるでしょうが…
あぁ胃が、胃が痛い…
火影の話している言葉なんて頭に全く入ってこない。
というか、何時の間にか火影ではなく別の人物が第三の試験の予選について説明している。
「えー、というわけで…体調のすぐれない方、これまでの説明でやめたくなった方、今すぐ申し出てください」
手、上げようかな…
第一回戦
『ウチハ・サスケ VS アカドウ・ヨロイ』
電光掲示板に名の上がった二人が、舞台の中央で対峙している。
この戦いに一番喜んでいるのは間違いなく大蛇丸だろう。
時おり出てくる舌が激しく気持ち悪い。
「あれが噂のうちはサスケぜよか…」
鬼道丸が興味津々といった目で見ながら言った。
「あら? 知っていたの?」
視線が此方へと向けられる。
「俺が話しましたからね」
「そう」
短い返事を残し、大蛇丸は視線を戻した。
「にしても、残念だったぜよね君麻呂」
「残念?」
意味が分からず聞き返す。
すると、鬼道丸は顔を近づけ小声で返してきた。
「サスケの相手ぜよ。あのヨロイとか言う奴、君麻呂が戦いたかったんじゃないぜよか? この予選なら、なんだかんだで殺しちゃっても大蛇丸様からはお咎めなしだったんじゃ…」
(殺していい…大蛇丸のお咎めなし)
聞こえた内容を、心の中で確認する。 目を瞑り、何度も何度も、そして─
「あああああっ!!」
目を見開き叫び声を上げた。
「ぜよっ!?」
至近距離にいた鬼道丸は驚き耳を押さえる。
気づけば試験会場の視線は俺達に集まっていた。
これから試合をするという、サスケとヨロイの視線さえも。
とりあえず、二人で愛想笑いをして場を乗り切ったのだが、
「何なのよ貴方達」
「何がしてーんだよテメー等は」
この二人は駄目なようだ。
多由也はいいとして、大蛇丸にはどう説明すればいいのか。
「簡単に言えば、サスケの相手のヨロイとか言う奴とは自分が戦いたかったかな、なんて話を」
「まぁ当然だろうな」
「…どういう事かしら?」
当たり前といえば当たり前なのだが、両者それぞれ別の反応をする。
さて、どうしたものか。
「それでは、始めてください!」
決して大きいとは言えない試験官の声が響き渡った。
「…まぁいいわ…貴方達も良く見ておくのよこの試合。面白くなるはずから」
どうやら助かったらしい。
言われたとおり試合でも見ておこう。
「君麻呂はどっちが勝つと思うぜよ?」
「サスケ」
迷いも無く答える。
鬼道丸は怪訝な顔をして言ってきた。
「どうしてぜよ? どう見ても押してるのはヨロイの方ぜよ」
「確かにね」
鬼道丸の言うとおり、今有利なのは誰が見てもヨロイの方だ。
致命的な攻撃は受けてないにもかかわららず、ヨロイに掴まれる度サスケの動きは確実に鈍くなっている。
「チャクラの吸引といったところか」
多由也が呟く。
「恐らくそうぜよね、これでもサスケが勝つと?」
「…何なら賭けるか? サスケに俺は100両」
「乗ったぜよ。多由也もどうぜよ? 君麻呂から金を取るチャンスぜよ」
「…そうだな、ならウチもサスケに賭けさせてもらう」
「な、なんでぜよ!?」
鬼道丸が驚きの声を上げ、二人の戦いを指差した。
「見るぜよ、今だって頭を押さえられチャクラを吸い取られている。勝負あったも同然ぜよ」
「確かにな、だが君麻呂が自分から負けるような賭けをするとでも?」
その言葉に俺はニヤリと笑みを浮かべた。
当たり前だ。試合内容は覚えていなくても、どっちが勝ったのかは覚えている。
「ぜ、ぜよ!?」
「それに、勝負はこれからみたいだぜ」
多由也が言い終わると同時、サスケが動いた。
突っ込んできたヨロイを、カウンターの形で蹴り上げ中に浮かす。
それを追う様にしてサスケも飛び上がり、ヨロイの背後を取った。
影舞葉。
相手を木の葉に見立てて追尾する技だ。
しかし、なんとか形勢を逆転したサスケだったのだが、その体に突如異変が起きる。
「あれは…呪印ぜよか」
サスケの首から全身に呪印が広がっていく。
隣にいる大蛇丸は満足気に笑みを浮かべ、それを見つめている。
思惑通りということか。
………もしかして、この二人の戦いって大蛇丸が仕組んだ?
ヨロイにチャクラを全て吸い取られれば、サスケは嫌でも呪印に頼るしかなくなる。
サスケの性格からして降参なんてことは無い。
なら、サスケが生き残り勝つためには呪印を使うしか…まさかね、流石に大蛇丸でも電光掲示板を操作して対戦相手を選ぶなんてことは……できそうだな、大蛇丸なら。
「呪印が」
多由也の声に顔を上げてサスケを見ると、呪印はサスケの半身を侵食しようとしていた。
だが、半身以上侵食は進むことなく、逆に呪印は一気に退いていく。
「呪印をねじ伏せた!?」
呪印を持つものとして、それは信じられない光景だった。
鬼道丸も多由也も、大蛇丸でさえも信じられないのだろう。
三人とも驚いた顔でサスケを見ている。
だが二人の勝負はまだ付いてない。
先に動いたのはサスケだった。
足から放たれる一撃。
ヨロイは辛うじてこれを防いだのだが、次々と繰り出されるサスケの攻撃に対しては防ぐ術を持っていなかった。
そして最後の一撃。
サスケは体を反転させ強烈な踵落としを放ち、ヨロイを地面へと叩き付けた。
「これ以上の試合は私が止めますね…よって、第一回戦、勝者うちはサスケ…予選通過です!」
「賭けは俺の勝ちだな、鬼道丸」
そう言い、俺は掛け金を受け取るため手を出した。
多由也も同じように、手を出している。
「ぜ、ぜよ~ さ、里に戻ったら払うぜよ」
「…あっそ、まぁいいや」
「え?」
驚いた顔で鬼道丸が此方を見た来たが、今は無視だ。
今重要なのは、
「おじゃる丸さま、一つ聞きたいことがあるのですが……もしかして、電光掲示板で対戦相手操作したりしてます?」
「まさか、いくら私でもそれは無理よ」
出来ないのか、残念だな。
「というか君麻呂」
「何です?」
「おじゃる丸って何かしら?」
「…いや、名前をそのまま呼ぶのは不味いかと思いまして」
「別のにしてくれるかしら」
「別のですか?」
しばらく考える。
「…なら略して、おまる様でどうです? ピッタリだと─」
ゴンッ!!
「痛いじゃないですか」
「どういう意味かしら…?」
目が笑ってなかった。
「…し、白いイメージがピッタリだな~なんて…」
「別のにしなさい」
「例えば?」
「そうねぇ」
腕を組み考え始めた大蛇丸。
「白雪ひ─」
「ふざけないでください」
「かぐや─」
「何考えてるんです」
「シンデ─」
「そうですね、死んでください」
「…………」
「…………」
「あなた、師匠に対する敬意とかないのかしら」
「少なくとも、この一分間の間は全くありませんでした」
「…もういいわ。話を戻しましょう」
「そうですね」
「あなたヨロイと戦いたがってたけど何故かしら?」
そこまで戻るんかい!
面倒くさいけどちゃんと説明するしかないのか…
一応声を抑えて大蛇丸以外には聞こえないように話す。
と言っても、近くにいる多由也や鬼道丸なら聞き耳を立てれば聞こえるかもしれないが、木ノ葉の連中に聞かれなければ問題は無いのでいいだろう。
「あいつ等、大蛇丸様の部下ですよね?」
「…そうよ、それを知っていて貴方は戦いたいと言うのかしら?」
「そうですけど」
「理由は? それだけ戦いたいと言うのならそれなりの理由があるのでしょう」
「あいつ等、前の試験で…」
「前の試験で?」
「俺が口にするのも恐ろしい事を言ってきたんです!」
自然と声の大きさが元に戻っていた。
「…そ、それだけかしら」
大蛇丸は呆れた顔でこっちを見ている。
「…それだけじゃないんです、あいつ等俺の自慢の銀髪を白髪だって…」
「白髪じゃないの」
即答だった。
「それにね、悪いけど彼等はまだ利用価値があるわ」
「…そうですか」
なんか、もうどうでも良くなってきた。
こうなったらイジけてやる。
お決まりの体育座りをして、『の』の字を書き続ける
「…多由也、後のことは任せたわね。私は少し外すから」
恐らくサスケのところに行くのだろう。
試合が終わるとカカシに連れられて出て行ったから。
「それと、言い忘れてたけど貴方達の試合が来ても、能力は使わないようにね。特に君麻呂、絶対に使っちゃ駄目よ」
「は?」
6個目の『の』が書き終わると同時俺は立ち上がり声を上げた。
「貴方の能力はまだ見せるときじゃないわ。 それとも、木ノ葉に来てからもう使ったのかしら?」
「公には使ってませんけど…」
「なら大丈夫ね、切り札は取っておくものよ」
そう言い残し大蛇丸は姿を消した。
気付けば第二試合『ザク VS シノ』の戦いが終わっていた。
あとがき?
カブトが辞退して、予選を受けるのは23人…
ひ、一人余る…