鬱陶しい…
あたりに立ち込める血の匂いが…
あたりを埋め尽くす死体の山が…
イラつく…
計画が白紙になってしまった事が…
求めていたものが消えてしまったことが…
血の匂いは好きだ…
それでも、今は不快にしか感じない…
死体は見慣れている…
それでも、今は目を背けたかった…
計画が白紙になった…
かぐや一族を引き込むという計画が…
消えてしまった…
かぐや一族そのものが…
私の名は大蛇丸…
永遠を求めるもの…
私の名は大蛇丸…
最強を欲するもの…
私の名は……
ついてない。その一言で終わらせればいいのかしら?
私が求めていた物は、死体の山となって転がっている…
なぜ? そう思ったが簡単なことだろう…
いくら優れた能力を持つ者でも…
いくら優れた血継限界を有する一族でさえ…
相手の圧倒的な数には勝てなかった…そういう事なのだろう。
「馬鹿な一族ね…」
思わずそう呟いてしまった。
彼らは分かっていた筈だ…自分たちが勝てないという事に。
それでも、挑まずにはいられなかったんだろう…
彼らは戦いを求める一族なのだから…
もし、一日でも早く私が行動していたら、彼らを引き込めたかもしれない…
もし、彼らが一日でも遅く戦う日をずらしていたら…
「馬鹿なのは私ね…」
『もし』なんて言ったらキリがないのだから…
それだけ思うほど、私はかぐや一族の力を求めていたのだろう…
戻るとしましょう。
もうこの場所には用はないのだから…
森の中を移動中、人影を見つけた。
「子供?」
別に普段なら気にも留めなかっただろう。
でも、何故か今日は目に留まってしまった。
そして、何時の間にか私は観察していた…茂みに隠れてまで。
「何をしてるのかしらね? 私ったら…」
自問自答だった。
気配まで消して、本当になにをしてるんだか…
気付かれる事など絶対に無いというのに
そう思って少年を見たとき、その少年の雰囲気が変わった…
「何かしら?」
少年はこちらを見ていた。
年相応のつぶらな瞳で…
そして、その小さな両腕をこちらに向けて…
まさか気付かれた!? いやありえない。
あんな少年が自分に気付くなど。
だが、その考えは一瞬で覆された。
「俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)!!」
ダダダダダ!!!ダダダダダ!!!
「なっ!?」
少年の指から放たれた十の弾丸。
油断していた…まさか攻撃を仕掛けてくるなんて…
少年から放たれた弾丸はすべて私に向かっていた。
そのほとんどが、一発でもあたれば致命傷になる場所に…
ちっ! 完全に避けきれない!
……
…
何発かかすってしまった。
やってくれるじゃないの…
「気配は消してたつもりだけど……やるわねぇ、面白いわあなた…」
「お、大蛇丸!?」
私を知っている?
どういう事かしら…
一応、私は伝説の三忍の名で知れ渡っているけど…こんな子供が知っているなんて考えにくいわね。
「私のこと知ってるのね。それに、さっきの攻撃といい楽しませてくれそうね」
そう、私を知っていることも問題だが、それより重要なのは攻撃の方だ。
気配は完璧に消していた。
それなのに彼は狙ってきた…私の頭や心臓といった急所を。
なにより、彼が放ってきたもの…多分あれは骨だろう…
つい先ほどまで滅んでしまったと思っていた一族の力だ…
「え~と すいませんでした! お怪我はないですか?」
「えぇ 大丈夫よ。 少し服が破れちゃったけど、あんな所にいた私が悪いんだから…気にしないでちょうだい」
…変な子ね。攻撃を仕掛けておいてこちらの体を気遣うなんて…
「いや~ まさかあんな所に人がいると思わなかったので。でも怪我がなくてよかったですよ」
人がいると思わなかった。ですって…
よく言うわ…あれだけ完璧に私を狙ってたというのに。
それに、この私を前にして笑うなんて…
こちらを油断させる気かしら?
だとしたら、侮れない子ね…
「気付いていなかった? 謙遜しなくていいわよ。あなたの攻撃すばらしかったわ。あんなにヒヤリとしたのは久し振りだったんだから」
本当に久し振りだった。
掠っただけとはいえ、この私が攻撃を受けてしまったのなんて。
フフフ…
何故だろう…笑みがこぼれてしまった。
らしくない…分かってはいるが、やはり笑ってしまう。
多分、私は嬉しいのだろう…
攻撃を受けて殺したいはずなのに…
何故だろう…笑みを止められない。
「あなたのさっきの攻撃、かぐや一族の力よね? 屍骨脈という血継限界を持つ一族の」
そう、これが笑みを止められない理由なのだろう。
彼が、目の前の少年が、私の求めていたもの…かぐや一族の可能性がある事が。
………
……
…
どういう事かしら?
私の出した質問にも答えず、いきなり泣き出したと思ったら、今度は笑い出してる。
理解できないわね…
それにしても、この私を前にしてこれだけの行動をするなんて。
よっぽど余裕があるのかしら?
それとも、ただの馬鹿?
いや、馬鹿ということは無いわね…あれだけの攻撃をしてきたのだから。
ならやはり、それだけ自分の力に自信をもってるんでしょう…
なめられたものだわ。
「聞いてるのかしら? 答えなさい。あなたはかぐや一族の生き残りなの?」
若干の殺気を混ぜながら言ってみた。
どう答えるのかしら? 楽しみね。
まぁ多分攻撃という答えが返ってくるでしょうけど…
「え~と、まぁ一応かぐや一族ですけど」
えっ!? 普通に返してきた?
でも…
フフフ…
「私はついてるわ。もう諦めていたのに、まさか生き残りがいたなんてねぇ」
本当に私はついてるわ。
だって、一度諦めていたものが目の前にあるのだから…
「まどろっこしいのは嫌いなの。単刀直入に言うわ。私と共に来なさい」
かぐや一族という力。
そして、まだ幼いのというのに先ほどの攻撃…
今から私が育てれば、超えられるかもしれないわね…
あの自来也が育てた彼を…
「あの、断った場合はどうなるのかな~なんて思ってるんですけど…」
「断った場合? そうねその時は」
断らせるわけ無いじゃない。
あなたは、私の大切な駒になってもらうのだから…
だから、少し私の力を見せておいたほうがいいわね。
「その時は、死んでもらおうかしら」
少しだけ本気をだしてみた。
彼の目では追えなかったんだろう…
後ろから覗き込んだとき、彼の顔を見てわかった。
驚きと恐怖の混じった顔を。
「で、どうするのかしら?」
もし断られても殺しはしない。
力ずくで連れて行くだけ。
その後のことはどうにでもできるのだから。
でも、そんな考えは必要なかったみたい。
「行きます。ついて行きます」
彼はそう言ったのだから。
「賢い選択ね。 賢い子は好きよ」
私はそう言って彼の頬を舐めた。
舐めたことにたいした理由など無いが、その後の彼の顔は面白かった。
真っ青な顔が…
「それじゃあ、行こうかしら。 ついてきなさい」
私はアジトに向かうことにした。
何箇所もあるが、ここから一番近いところに…
一刻も早く彼の力を見てみたかった。
それに、これからの事もいろいろ考えなくてはいけない。
新たな里を興すためにも、木の葉を潰す為にも、優秀な人材がいる。
やる事だらけね…
そういえば、まだ彼の名前を聞いてなかったわね
彼は私の名前を知っていたけど…
「ねぇ、あなたの名前って……やられたわね…」
振り返ったときには彼はいなかった。
まさか、この私が気付かなかったなんてね…
怒りよりも笑いが込み上げてきた。
「フフフ…ホント楽しませてくれそうね 」
とりあえず引き返してみましょうか。
こんなに簡単に見つかるなんて…
正直、もう見つからない可能性だって考えていたのに。
まさか一番最初の場所にいるなんてね…
「どういうことかしら? ついてくる、と言ったのは嘘だったのかしら?」
返答しだいでは少し痛みつけてから連れて行こうかしら?
そんなことを考えてると、脅えながら彼は口を開いた。
「あ、あの…その何と言うかですね。まだ僕は素人みたいなもんでして、その、木の上を移動するなんてできないんですけど…」
「…は?」
何を言ってるのかしらこの子は…
血継限界を使えるのに木の上が飛べない? そんな馬鹿なことが…
ダメ…理解できない…
…きっと今の私の顔は、自来也や綱手、弟子だったアンコにさえ見せたことのないような間抜け面でしょうね…
先が思いやられるわ…
あとがき
今回は、なんとなく大蛇丸の話が書いてみたくなり、外伝? みたいな感じで書いてみました。
感想などよろしくお願いします。