「─以上です」
一通りの報告を終え、数枚の書類を渡す。
「音の里。大蛇丸…」
それは予想以上に落ち着いた声だった。
声の主は、焦りなど微塵も感じさせることなく続ける。
「それに、お主が接触した君麻呂という少年」
「…はい」
「どう思う?」
「どう、と言いますと?」
質問の意図が見えずアンコは聞き返した。
「君麻呂と言う少年じゃ。率直な意見でよい、お主はどう見る?」
「…あくまでも私見なのですが…少なくとも『敵』という感じは受けませんでした」
「ならば味方とでも?」
「それは…」
言葉に詰まる。
「すまんな、意地悪な質問をして」
「いえ…それよりも火影様」
「分かっておる」
火影はキセルを吹かし続ける。
「試験はこのまま続行する。大蛇丸の動きを見ながらじゃがな…」
「分かりました」
それを聞き、アンコは部屋から退出するために体を反転させた。
「にしてもじゃ…君麻呂という少年、一度会ってみたいものじゃな」
「という訳なのよ」
あっけらかんと言うアンコだったが、どういう訳か激しく問い詰めたい。
いや、普段の俺なら声を荒げて突っ込んでるだろう。
が、今の状況がそれをさせないでいる。
「どうするぜよ君麻呂」
「どうすんだよ君麻呂」
左右の耳から、小声でそれぞれの声が入ってくる。
「知るか」
とりあえず二人に簡単な答えを返しておく。
どうするかなんてこっちが聞きたいぐらいだ。
とりあえず現状把握が第一優先。
目の前には、俺達をこの部屋まで案内してきたみたらしアンコ。
後ろには、壁に沿うようにして暗部の姿。
そして、その暗部以上に問題なのが部屋の真ん中のイスに腰をかけお茶をすすっている火影と、火影の背後にいるカカシなどの上忍。
………
……
…
死んだねこりゃ。
このメンバー相手に生き残る自信が全くありません。
…でも、早蕨の舞を最大範囲で使えば逃げ延びれる可能性が…
チラリと左右を見る。
二人を連れては無理だな…
骨の中を移動できるのは俺だけだし、かといって見捨てるのも。
一か八かで骨で包んでしまえば俺以外でも移動できるかもしれないな。
となると、流石に一瞬で二人は無理だからその場合は……
『ガチャ』
鬼道丸の肩に伸ばしていた手と、「悪いな」と言おうとした言葉を引っ込め、扉のほうへと視線をやる。
部屋に入ってきたのは、見知った顔だった。
「君麻呂君、多由也、一体どうなってるの!?」
「…もう一人いるぜよ~」
声をあげ近づいてくるキン。後ろにはザクとドスが付いてきている。
三人とも此方と同じように、上手く状況ができてないようだ。
そんな俺達などお構いなしに話は進んでく。
「そろったようじゃな、まぁ腰でもかけてくれ」
あれから俺達は促されるまま席へと付いた。
人間、諦めるのも肝心だと思うんだよね。
ちなみに、左からザク、ドス、キン、俺、多由也、鬼道丸の順で座っている。
火影はというと、不幸な事に机を挟んで俺の真正面に座っている。
「どうした、飲まんのか?」
薦められたのは、先ほど運ばれてきたお茶。
「飲んじゃだめぜよ、薬か何か絶対入ってるぜよ」
鬼道丸は小声で言ったつもりだろうが、
「そんなもの入ってないわよ」
火影の後ろに控えていたアンコが口を開いた。
火影も笑っている。
「だから安心して飲みなさい」
鬼道丸の言うとおり何か入ってる可能性もあるが、それをするメリットが見つからない。
となると、
「信じますよ、アンコさんの言葉」
そう言い、お茶に口をつけた。
「き、君麻呂!!」
「…普通に美味しいお茶だけど、お前達も飲んだら?」
「ほ、本当ぜよか? じゃ、じゃあ」
鬼道丸も湯飲みを手に取りお茶に口をつけた。
「ふ、普通に美味しいぜよね」
「………」
「………」
「な、なんぜよ皆こっち見て」
鬼道丸の指摘したとおり、ザク、ドス、キン、俺、多由也の視線を鬼道丸は独占していた。
「………」
「…ふむ、大丈夫みたいだな。皆飲んでいいぞ」
俺の言葉を聴き、皆湯飲みに手を伸ばした。
「ま、まさか君麻呂、さっきのは飲んだふりだったぜよか!?」
「正解。99パーセント大丈夫だと思ったけど、やっぱ最初は何か嫌じゃん?」
「お前達全員分かってたぜよか?」
お茶を片手に頷く四人。
鬼道丸はその答えに項垂れた。
「あんた達、火影様の前よ!!」
「よいのじゃアンコ。お主達のやり取り楽しませてもらったわい」
ほっほっほっと笑いながら言う火影。
「まぁ、しかしそろそろ本題には移りたいのじゃがな」
俺達の体に緊張が走る。
「本題?」
問い返す俺に対し、火影はあっけらかんと返してきた。
「なに、簡単な事じゃ。お主達と話をしてみたいと思ってな」
「…話?」
「そうじゃ」
全くもって意味が分からない。
俺達が大蛇丸の部下である事を承知で話がしたいなんて。
それにこの状況。
暗部や上忍で取り囲んでおいて話がしたいなんて、冗談にも程がある。
「ふっ……」
その時、唐突に横に座っている鬼道丸が笑みを浮かべた。
「スリーサイズ以外なら何でも答えるぜよ」
………
……
…
時が止まった。
冗談なんかじゃなく確かに止まった。
暗部も、上忍達も、火影でさえも。
とりあえず、
「話がしたいというのが本当なら、後ろに居る暗部だけでも外してもらえませんか?」
「そ、そうじゃな」
さっきの鬼道丸の発言は無かった事にした。
思えばこれはチャンスなのかもしれない。
このNARUTOの世界に来て早十数年。
当初の目的では、木の葉に亡命するはずだった。
一瞬だがハーレムなんて幻想を夢見てたりもした。
そう、これは振り出しに戻るチャンス。
都合よく、木ノ葉の長でもある火影が話をしたいと言っている。
何でもかんでも話して上手く進めれば…
大蛇丸様、悪く思わないでください。元はと言えば、貴方が悪いんですから。
「先に言っておくが、これは強制ではないからの」
「…なら退席しても問題は無いわけだな」
火影を相手に、いつもと口調を変えずに言ってみせる多由也。
素直に尊敬します。
「あぁ、それでも構わんよ」
「…そうかい。なら俺は失礼させて貰うぜ」
「僕もそうさせて貰います」
ザクとドスは湯飲みを置き、席を立った。
「キン、多由也、鬼道丸。 お前達はいいのか?」
問いかける。
まぁ、一人の方が話しやすいっていうのがあるからなのだが。
「君麻呂こそどうなんだよ?」
「俺? 俺は残るよ。 話ってのに興味があるからね」
正直に答えるわけにもいかず、それらしい答えを返しておく。
「そうか、ならウチも残る」
「私も」
「俺もぜよ」
結局、退席したのは最初の二人だけだった。
「フム。ならそろそろ初めてもよいかの?」
此方の反応を伺いつつ、火影は続ける。
「単刀直入に聞こう。お主らはなぜ大蛇丸に従う?」
予想外の質問だった。
てっきり、大蛇丸の目的などを聞かれると思っていたのだが。
「従う理由?」
「大蛇丸がどんな人間なのか、お主達も知っておろう?」
「まぁ一応は…」
「だったらなぜ!」
いきなり、声をあらげてアンコが言う。
「なぜ? と言われてもね…」
「アイツは、大蛇丸は部下の事を道具としか思ってない人間よ!!」
知っている。
大蛇丸がどんな人間なのかは、嫌と言うほど身にしみている。
「アンコ」
熱くなっているアンコを戒めるかのように、火影はその名を呼んだ。
「…申し訳ありません」
「それで、どうなのじゃ?」
「私は」
唐突にキンが口を開く。
「私は、大蛇丸様に出会わなければ死んでいたと思う」
小さな声だったが、誰もがその声に耳を傾けた。
「私はね、真っ暗な闇の中に居たの。地獄って言ったほうが早いのかな? 親の居なかった私は、私達はあの時生きるのに必死だった。 生きるために食べ物を盗んでは、見つかって力任せに殴られる。歯が折れても、体中痣だらけになっても殴られ続けて、それでも盗んだ食べ物だけは手を離さなかった。 何回も何回も繰り返し、中には死んでいく仲間もいた。あそこでは大人達は誰も手を差し伸べてくれない」
「そこに手を差し伸べたのが大蛇丸じゃったと」
キンは頷き続ける。
「そうよ。大蛇丸様だけが手を差し伸べてくれた。大蛇丸様だけがあの闇から救い出してくれた」
「違うわっ!! 大蛇丸はもっと深い闇に引きずり込もうとしてるだけよ」
反論するアンコをキンは真っ直ぐ見つめた。
「それでも、私にとってはそれが唯一の光だった」
「でも─」
「なら、ならなんで貴女が助けてくれなかった?」
「…………」
言う言葉がなくなったのか、アンコは沈黙した。
……
…
それにしても、まさかキンにそんな過去が有ったとは。
不覚にも少し涙が…
「か、悲しい話じぇよ」
「そうだな」
泣いてるせいか、語尾が上手く言えてない鬼道丸に賛同しておく。
「キン、俺の事お兄ちゃんって呼んでいいじぇよ」
「なら俺はお父さんでいいぞ」
「…遠慮しとく」
薄っすらと潤んだ目でキンは答えた。
「…お主達、三人はどうなんじゃ?」
「ウチは─」
多由也が語りだした。
大蛇丸に出会う少し前からの話を。ただ、呪印の事には触れずに。
………
……
…
「た、多由也、俺の事はお兄ちゃんて呼んでいいぞ」
「お、俺はお父さんてよんでいいじぇよ」
俺は袖で涙を拭い、鬼道丸は鼻水まで垂れ流していた。
「…遠慮しとく」
先ほどのキンと全く同じことを言う多由也。
「わ、私のことはお姉ちゃんて─」
「お前もかキン! というかウチのほうが年上だろうが!!」
「…お主ら、わしの事はお爺ちゃんと─」
『ゴホン』
わざとらしい咳が火影の言葉を遮った。
咳の主は火影の後ろに控えているカカシ。
ちなみに、その隣に居る全身緑も号泣していた。
「…で、そういう君麻呂はどうなんだ?」
「俺? 俺は…」
しばらく考え続ける。
「…と言うか、いつのまにか話が大蛇丸様との出会いに変わってない? まぁいいけどさ。 そうだな。あれは俺が四、五歳のころだったかな。森の中で大蛇丸様と出会い戦った。 それはもう死闘だったよ、お互い全身傷だらけでも倒れることは無かった。 あのときの俺は負けたくないと言う一心で─」
「嘘ぜよ」
「嘘だな」
「……お兄ちゃんの件は無し?」
鬼道丸と多由也、キンの三人が頷くのを見て取れたが、何故だがこの場に居る全員が頷いてるように感じた。
「次は俺の番ぜよね、俺は─」
「その話長くなりそうだからいいや」
「…ぜよ?」
「話を少し戻すけど言いですか?」
確認を取るように火影を見る。
火影は頷き俺は続けた。
俺が思っていることを。
今、改めて分かったことを。
………
……
…
「…驚いたのぉ。大蛇丸からお主みたいなのが育つとは」
「その言葉そのまま変えしますよ」
「それは言ってくれるな アレも昔は違ったんじゃ、真っ直ぐで良い少年じゃったんだが両親を─」
「あーいいですそれ。昔のことなんて聞いても、肝心なのは今ですから」
「…そうか」
「じゃあ俺達はこれで失礼します」
「…すまんかったの」
火影の呟きは何に対しての謝罪だったのだろう?
…まぁ何でもいいか。
「行こうか、多由也、キン、鬼道丸」
俺達は部屋を後にした。
「…君麻呂って、結構色々考えてるぜよね。見直したぜよ」
「ウチもそう思った」
「私も」
「そいつはどーも」
俺って一体どういう風に思われていたのだろう……
予告
ついに始まった三次予選。
電光掲示板にあがる君麻呂と犬塚キバの名前。
「いくぜ赤丸!」
「犬か…」
君麻呂は呟き、右手を頭上に上げ指をパチンと鳴らし高らかに叫んだ。
「出ろーーっ!! タマーーーー!!」
「ま、まさかあのトラは!?」
突如として現れたトラに、驚愕の表情を浮かべる火影。
「どういう事? 何故君麻呂があのトラを?」
「大蛇丸様、あのトラについて知ってるぜよか」
「…えぇ、あのトラはね…」
語られるタマの正体
最終章 「第三試験会場の中心でタマと叫んだもの」
ウルセーよ! ウチはアイツを信じる、ただそれだけだ!!
それでも、それでもアイツならやってくれるぜよ!!
できるとか、出来ないとかじゃない。 ただアンタを倒す、それだけだ!!
すばらしいわ、貴方がここまでやるなんてね…さぁ、もっと楽しませて頂戴!!
あとがき?
予告の最後の4行は縦読みで…