パーンッ!
パパパパーンッ!!
軽快な音と共に、空へと白煙が上がる。
大蛇丸が自身の暇つぶしの為に望んだ運動会は、あと僅かの時間もすれば開始となる。
「どういう事、鬼童丸?」
返答に困るような質問をしたのは君麻呂だ。
多由也に踏み潰された鼻の骨も今では何事も無かったかのように直っており、大蛇丸に渡された服装にも着替え終わっている。
そんな君麻呂からの質問。
「どいう事って、なにがぜよ?」
至極当然な事を鬼童丸は聞き返した。
質問の意図が分からなければ答えようもない。
「アレだよアレ」
指差したのはくノ一の集団。
鬼童丸も自然と顔をそちらへと向ける。
そしてしばらく見つめた後、
「太ももがいいぜよね」
「……お前って太ももフェチだったの?」
「いや、違うぜよ。太もももいいけど、やっぱり胸のほうがいいぜよ」
「……そうか」
「……………」
「……………」
「……………」
「……って違うわ!! お前の好みなんか聞きたいんじゃなくて、鉢巻だよ、鉢巻!! なんでくノ一は黄色なんだ?」
「あぁ、それぜよね」
鬼童丸は思い出すように語り始めた。
「俺も聞いた話だからそんなに詳しくないぜよ。まぁでも結論から言えば一騒動あったらしいぜよ」
「一騒動?」
怪訝な顔で君麻呂は聞き返す。
「そう一騒動。当初の予定ではくノ一も色別に分かれるはずだったぜよ」
「でもそうはならなかった」
鬼童丸は頷き続ける。
「本来ならくノ一は自由に好きな色のところに入っていい事になってたぜよ。だけどそこで問題が発生。大多数のくノ一が青を選んだぜよ。流石に教師達もこれじゃいけないという事で、今度は教師達が決めた色にくノ一は行く事になったぜよ。これで問題は解決すると教師連中は思ってたけど、今度はそれで暴動が起きたぜよ」
「ぼ、暴動!?」
目をぱちくりさせ、またも聞き返した。
「壮絶な戦いだったらしいぜよ……『青組に選ばれた者 VS 選ばれなかった者』 教室ではクナイが飛び交い、挙句には起爆札まで持ち出すものまで……で、最終的には大蛇丸様が出動して、くノ一はくノ一で一組という事で結論に至ったぜよ」
「大蛇丸様が……」
君麻呂は呟き、そして呆れていた。
自身、目の前にいる鬼童丸達とアカデミー内では何度も問題を起こしてきた。だが今まで一度も大蛇丸が出てくるということは無かったのである。
そんな大蛇丸が出動したのだ。
考えただけでも身震いしてしまう。
下手をすれば死人すら出ているかもしれない。
「……鬼童丸、くノ一の被害は…?」
「教室が半壊ぜよ」
「それだけ!? 大蛇丸様が出動したのに人的被害というか、誰も死んでないの!?」
鬼童丸はコクンと頷いた。
「ちなみに、教室の半壊もやったのは大蛇丸様じゃないぜよ」
「ウソだっ!!」
その発言に、思わず君麻呂は叫んだ。
「まぁ普通ならそう思ってもしょうがないぜよね。俺も、最初は半信半疑だったし。でも理由を聞いて納得したぜよ」
「どんな理由だ?」
「簡単な事ぜよ。くノ一の暴動の理由に、大蛇丸様が共感しちゃったからぜよ」
「共感?」
君麻呂は益々分けが分からなくなった。
大蛇丸が共感するほどの理由が、どう考えてもくノ一の暴動と結びつかないのである。
「なぁ、結局くノ一の暴動の理由って何なんだ?」
「あれ? 言ってなかったぜよか?」
どうやら鬼童丸は、肝心な理由について話していたつもりだったらしい。
「あれぜよ、あれ」
そう言い鬼童丸が指差した先にいたのは、
「左近?」
自分達と同じ、音の五人衆の一人左近だった。
「そう左近ぜよ」
鬼童丸は指差していた指を戻し続ける。
「君麻呂、前にくノ一のクラスに忍び込んだ事覚えてるぜよか?」
「あぁダンボール被って行ったのだろ」
君麻呂は迷いもなく即答した。
くノ一クラスに進入したのはあれが最初で最期である。
左近が受けや、右近が責めなど、あの時のくノ一たちの会話は忘れもしない。
そして気付いた。
「……おい、まさか暴動の理由って左近と同じ組になりたいって理由か!?」
「そうぜよ」
鬼童丸も迷いも無く即答で答えた。
「でも、そんな理由に大蛇丸様が共感……」
するわけ無いだろう!! とは強く言えなかった。
「君麻呂、大蛇丸様は左近が責めで、右近が受けを熱望らしいぜよ」
「……………」
「……………」
「どーでもいい情報だな」
「ぜよね」
「……………」
「……………」
「変態って伝染しないよな…?」
「…多分」
二人とも大きく溜め息をつき、自分だけはまともでいようと誓った。
「そういえば君麻呂?」
「何?」
「今回の騒動が無ければ、くノ一たちと同じ組で運動会やれてたぜよね」
心底残念そうに鬼童丸は言った。
「そうだろうね、まぁ俺には関係ないけど……」
そんな鬼童丸とは逆に君麻呂はどうでもいいという感じだ。
暴動が無くても、白組みは一人なのだから。
「関係ない? 何言ってるぜよか君麻呂。 多由也や他数名のくノ一は白組に行く予定だったぜよ」
「……マジ?」
「マジぜよ」
「……………」
君麻呂は何も言わず右手を差し出した。
「……………」
鬼童丸も何も言わず落ちていた石を拾い、それを差し出されていた手に乗せる。
会話など無くても二人の意思は一つだった。
君麻呂は静かに振りかぶり、思いっきり石を投げた。
手から離れた石は、左近へと向かい一直線に飛んでいく。
そして石は右近に当たった。
「……ま、まぁ良しとしよう。やつも同罪だからな」
「ぜよ、左近も右近も一緒ぜよ」
「じゃあ運動会がんばるか、鬼童丸!」
「負けないぜよ、君麻呂!」
そんなこんなで、音の里の運動会は開始をむかえた。