変な女。
それがあの試験官、みたらしアンコの第一印象だった。
誰だってそう思ったはずだ。
空気を読まずに、あれだけ派手な登場をするなんて。
……アレ? そういえば、身近にもあんな馬鹿な事を平気でするような奴が居るような…
第二の試験。
あの試験官はそこで合格者を半分以下にしてやると言った。
そしてウチ等は、その試験場へと向かっている。
だけど気になる事が一つ。
あの試験官、一瞬だが先ほどの教室で君麻呂を睨みつけていた。
恐らく君麻呂も気付いてないだろう。
どういう事だ?
まさか木ノ葉崩しの計画がバレた?!
…いや、それはありえない。
計画は大蛇丸様が立てたのだ。
そんな簡単に知られるわけがない。
何より、それでは君麻呂を睨む理由にならない。
じゃあなんだ?
何故あの女は君麻呂を…
もしかして単なる君麻呂の知り合い?
だが、仮に知り合いだとしても決して友好的ではなかった。
チッ、面倒だが君麻呂本人に聞いてみるか…
「なんぜよ~多由也、そんな難しい顔して~」
邪魔なのが来た。
いかにも私は幸せですって顔がムカツク。
「そんなんじゃ、幸せが逃げていくぜよ~」
ウザい。
鬼童丸の奴は常日頃からウザかったが、今日はいつにもましてウザい。
「恋は~人を~こんなにも~」
う、歌い出しやがった…
人が真剣に考え事してるというのにコイツは、
「…フッ!!」
短い息吹と共に放った右拳が、鬼童丸へと吸い込まれる。
かなり手加減をしたので、そう大したダメージはないだろう。
「…な、なにするぜよか……」
「ウゼぇんだよクソ野郎が! 少し黙ってろ!!」
「は、はい!!」
これで馬鹿は静かになった。
「君麻呂、ひとつ聞きたいことがあるん……なんだその顔?」
そこに居たのは君麻呂であって、君麻呂じゃなかった。
まぁよく分らないかも知れないが、厳密に言えば顔がいつもと違うのだ。
違うと言っても、変化の術で他人に化けたりしてるのではない。
所々は君麻呂のままなのだ。
あえて言うなら、顎とエラと鼻が普段の君麻呂と違う。
これじゃあまるで、
「これはな、君麻呂流忍術、プチ整形の術だ」
そう整形だ。
プチかどうかは問題のところだが。
「屍骨脈の能力をフルに使った素晴らしい術だと思わない?」
「…能力の無駄遣いだろ」
「む、無駄遣い……まぁいいや。聞きたい事って何?」
「いや、もういい…」
出鼻を挫かれた感じになってしまい、改めて聞く気は起きなかった。
第二試験 試験場
この第44演習場(別名死の森)は鍵のかかった44個のゲート入り口に円状に囲まれてて、川と森、中央には塔があり、その塔からゲートまでは約10キロメートルある。
試験内容は、なんでもアリアリの巻物争奪戦。
27チーム中、13チームには「天の書」を、残りの14チームには「地の書」をそれぞれ1チームに同意書と交換で一巻きずつ渡す。
そして、この試験の合格条件は天地両方の巻物をもって中央の塔にたどり着く事。
失格条件は二つ。
一つ目は時間内に天地の巻物を三人で持ってこれなかった場合。
二つ目は班員を失ったチーム、又は再起不能者を出したチーム。
これがこの試験のおおまかなルールだ。
「そろそろ巻物と交換の時間だ」
小屋に待機していた試験官から声がかかる。
ちなみに、小屋には暗幕が掛けられており、渡される巻物や、誰が巻物を手にするのかが分からなくなっていたのだが、これって白眼を使えば見えるのではないのだろうか?
「君麻呂、ウチ等の番だぞ」
「あぁ分った」
軽く返事を返し、同意書を片手に小屋へと向かう。
三人の同意書と交換に渡されたのは『地の書』だった。
「で、誰が持つぜよか?」
「俺パス」
「ウチも」
「俺もぜよ」
「…………」
「…………」
「…………」
三人の視線が交差し牽制しあう。
そして徐々に溢れ出す三人の殺気。
「誰も持つ気はないと…?」
俺の質問に二人は黙って頷いた。
「…なら仕方ないか」
指の骨を鳴らしながら告げる。
「あぁそうだな」
多由也は肩を軽く回しながら同意した。
「じゃあやるぜよか…」
三人とも準備は万全だ。
「ちょ、ちょっと待てお前らこんな所で「ジャンケンポンッ!!」 …へ?」
試験官が止めに入るが、そんなのは無視した。
大方、俺たちがここで殴り合いでも始めるのと勘違いしたのだろう。
「…俺の勝ちぜよね」
不適に鬼童丸が笑う。
ちなみに俺がグーで多由也はパー、鬼童丸はチョキを出している。
「いや、あいこだろ」
「フッ、上を見るぜよ」
「上?」
言われるがままに視線を上げる。
見上げた先には鬼童丸の残りの二本の腕があり、その腕はグーとパーを出していた。
「君麻呂には真ん中の手のパーで、多由也には一番下の手のチョキぜよ」
「…………」
「ん? どうしたぜよか」
「……ていッ!」
グーのまま鬼童丸の頭を殴りつける。
多由也もすかさずパーのままビンタを繰り出した。
巻物は鬼童丸が持つ事になった。
突然ですが、本日最大のピンチが訪れました。
巻物を受け取った後は、担当の者についてそれぞれのゲートへ移動するのだが、その担当のものというのが何故か……
「ねぇ、アンタ前にあった事あるわよね…?」
みたらしアンコだったりするわけです。
「人違いだと思います」
俺は多由也の影に隠れながら言った。
多由也は迷惑そうに睨んだがそれどころではない。
「人違いね…でも似ているのよね」
プチ整形の術が役に立ったようだ。
「そうだ、名前は? 私の知ってる子は君麻呂って名前だけど」
「君麻呂ならヘブッ!!」
とりあえず邪魔でアホな鬼童丸を黙らせた。
「名前は、え、えーと彦麻呂?」
慌てていたとはいえ、この名前には無理があったかもしれない。
「なんで自分の名前が疑問系なのよ。それにしても、顔だけじゃなく名前まで似てるわね」
「いや平凡な顔にありきたりな名前ですよ」
「…………」
「…………」
ジトーといった感じで睨んでくるアンコ。
100パーセント気付かれていると思うが、ここは意地でも譲るわけにはいかない。
「一つ聞いていいか?」
ここまで無言だった多由也が口を開く。
「いいわよ、何かしら」
「そのアンタが言ってる君麻呂とはどういう関係なんだ?」
「関係ね……いろいろな説明を省くならカップル?」
「ちょっと待てぃ!?」
咄嗟に口を閉じるがもう手遅れだった。
「やっとシッポをだしたわね」
ウフフと大蛇丸と同等の不気味な笑みを浮かべるアンコ。
だがそれよりも恐かったのは、
「…君麻呂、カップルってどういう事だ…?」
振り返った多由也は何よりも恐かった。
「いや、あのね、カップルと言っても半ば無理やりというか、むしろカップルの説明は激しく間違っているような」
冷や汗が流れるのを感じながら必死にうめく。
というか、何で俺はこんな言い訳をしているのだろう? 多由也から迫る拳を見ながらそう考えていた。
眼を覚ましたとき、視界に写ったのは談笑している多由也とアンコの二人。
「あっ気付いたようね」
「まぁ死んだわけじゃないですから…」
「そりゃそうね……まぁでも悪かったわね」
鼻の頭をかきながら謝るアンコ。
「この子にはちゃんと説明しておいたから」
この子こと、多由也の頭に手を乗せながら言った。
なんだかこうして見てると姉妹に見えてくる。
「というわけで、本当は私がぶん殴ってやりたかったけど、多由也が殴ったのでチャラにしてあげるわね」
「そりゃどうも…」
いまいち納得できなかったが、
「君麻呂、その……悪かったな」
普段、謝る事のない多由也が顔を赤くして謝っているのだ。
これを見れただけでも良しとしよう。
「時間ね。これより中忍選抜第二の試験! 開始!!」
腕時計で時間を確認し、アンコが試験開始の号令を出した。
ゲートが一斉に開かれ、中へと入っていく。
「頑張んなさいよ!!」
俺たちの背中にアンコから声が掛けられた。
振り返るのもアレなんで手を上げて返事だけをしておく。
「じゃあ行きますか」
大地を蹴り駆けて行く。
でも何か忘れてるような……
「アンタ達、一人忘れてるわよーッ!!」
「………あ」
多由也と同時に声を出す。
どうやら多由也も鬼童丸の事を忘れていたようだ。