音の里 野外訓練場
この野外訓練場、忍術などの訓練をするだけあってそれなりの広さをもっている。
そして、今は四人の忍びによってその訓練場は使用されていた。
その四人というのは、
「東門の鬼童丸」
「南門の次郎坊」
「西門の左近」
「ほ、北門の多由也…」
音の五人衆のうちの四人、いずれも音の里のエリート達である。
「多由也、恥ずかしがるな」
「そうぜよ、恥ずかしいのは皆一緒ぜよ」
「ったく、またやり直しかよ」
そう彼等はエリートなのだ。
だが今の彼等を見ても、誰もエリートだとは思わないだろう。
「だーっ、ウッセーんだよクソ野郎共がっ!! 大体なんだよこのポーズ、北門とか東門とか名乗るのはまだ分かるが、コレは必要ないだろ!?」
「多由也、必要か必要じゃないかは問題じゃない。コレは大蛇丸様の命令でやってるんだ」
「んな事は百も承知だクソデブ」
「なら問題ないな、もう一度やるぜよ。大蛇丸様が帰ってきたとき、完璧に出来てなかったら何を言われるか分からないぜよ」
この鬼童丸の言葉に多由也は渋々でも納得するしかなかった。
彼等にとって大蛇丸は絶対的な存在だからだ。
たとえそれが理不尽な事であっても、大蛇丸の命令は絶対なのだ。故に今回の事も渋々だろうがなんだろうがやらなければいけないのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
音の里に着いた俺は、開口一番
「あー疲れた」
そう口にした。
今回の任務は本当に疲れたのだ。肉体的ではなく精神的に。
普通の任務なら此処まで疲れなかったはず…いや、正確には任務で疲れたのではないのだが、
「疲れているところ悪いけど、任務の報告書を作成してほしいから私の部屋に来て頂戴」
隣りにいた大蛇丸、疲れの原因がそう言った。
「今からですか?」
「そうよ」
あっさりと答え歩き出す大蛇丸。
拒否できなかった俺は、ただ恨みがましくその背中を見るしか出来なかった。
「ほら、行くわよ」
「は~い」
大蛇丸が振り返ると同時、恨みたっぷりの顔から笑顔へと変え後をついて行く。
いつの日か、大蛇丸に面と向かって文句の一つでも言えるようになる事を願って。
大蛇丸の部屋へと歩き出して数分、野外訓練場の傍を通りがかったとき不思議なものが目に入ってきた。
立ち止まり目を凝らしてみたる。多由也、鬼童丸、左近、次郎坊の四人が何かやっているようだが、距離があるので何をやっているのかまではよく分からない。
「大蛇丸様、アレって何やってるんです?」
四人の方を指差しながら、前を歩く大蛇丸に聞いてみる。
「アレ? あ~アレね」
口ぶりからして、大蛇丸は四人が何をしているのか知っているようだ。 横顔でも分かるぐらい不気味な笑みを浮かべた後、こちらに向き直り続けた。
「説明するよりも、近くに行って見ましょう。その方がいいわ」
「…報告書は書かなくていいんですか?」
「それは後でいいわ。さ、行きましょう」
促がされるまま四人のいる場所へと向かう。先ほどの笑みが多少気になっていたが…
「で、何で後ろから近づくんです? 気配まで消して」
「なんとなくよ」
「なんとなく、ですか…」
くだらない会話をしつつも、四人との距離は縮まっていく。
四人までの距離百メートル。
四人は左から順に、鬼童丸、左近、多由也、次郎坊と横一列に並んでる。
一体何がしたいのだろうか?
四人までの距離五十メートル。
それぞれポーズをとっている様だが、後ろからなのでよく分からない。
益々何がしたいのか分からなくなった。
四人までの距離十メートル。
四人はまた初めからやるようだ。
俺と大蛇丸は気付かれないように岩陰に隠れながら覗いてるのだが、
「東門の鬼童丸」
「南門の次郎坊」
「西門の左近」
「北門の多由也…」
それぞれ自分の名前を名乗った後にポーズを決めている。
多由也だけ歯切れが悪く聞こえたのだが、声が聞こえても何が何だか分からなかった。
結論、大蛇丸に聞くしかないようだ。
「何なんですアレ?」
「やってられるかっ!!」
ほぼ同時に発したせいで、小声だった俺の声は多由也の怒鳴り声に消されてしまった。
「なんでウチ等だけこんなのやって、君麻呂だけは任務なんだ? 普通に考えておかしいだろ」
「多由也、何度も言わせるな。これは命令なんだ」
怒鳴り散らす多由也とは正反対の落ち着いた口調で次郎坊が言う。が、
「くせーんだよクソデブ!! 大体、こんなポーズに何の意味があるってんだ!? 大蛇丸様の嫌がらせか、あぁ!?」
火に油を注ぐように多由也の苛立ちは増し、怒りの矛先は大蛇丸に移ったようだ。
多由也の剣幕に押され、三人は何も言えなくなっている。
「…君麻呂、多由也って怒ると恐いのね…」
横から聞こえた声に、とりあえず頷いておいた。
その後、改めて視線を四人に移したのだが…何故か鬼童丸達三人は此方に背を向ける形で正座をしていた。勿論多由也は三人の前に立ち怒鳴っている。これじゃあまるで、
「叱っている母親と、叱られてる子供みたいね」
そう、大蛇丸が言ったとおりその様にしか見えない。
二分後
「大体、君麻呂がいればこんな事しなくてもすんだんじゃないのか!?」
音の五人衆のリーダーである君麻呂なら、こんな馬鹿げた事にも平気で文句を言ってくれたはず。それだけの力が君麻呂にはあると思い多由也は言ったのだが、
「多由也、君麻呂はコレ楽しんでやると思うぞ」
「あいつは自分が楽しければいい奴だからな」
真っ先に反論したのは次郎坊と左近だった。
「二人の言うとおり、君麻呂だったらこんなポーズ喜んでやるに決まってるぜよ。そしてあいつの事だから俺たちのポーズを見て大爆笑するに決まってる。」
これは鬼童丸。
というか、あんな訳の分からないポーズを進んでやるように思われてる俺って…
「血も涙もないとは、あいつの為にあるような言葉ぜよね。何か気に入らない事があれば十指穿弾。機嫌が悪いなら早蕨の舞。暴力で何でも解決すると思ってる愚か者、あれはもう人間じゃないぜよね。悪魔、悪魔ぜよ」
話題というか内容が大分変わってきているが、これも鬼童丸。
「…酷い言われようね君麻呂、って居ないじゃないの」
大蛇丸が視線を向けた先、と言っても今まで居たのは大蛇丸の隣りだったのだが、居ないのは当たり前だ。俺は怒りに肩を震わせながら鬼童丸の下へと向かっているのだから。
そんな俺に一番初めに気付いたのは多由也だった。多由也だけ此方を見ていたのだから当然だが、普段より大きく目を開き、驚きを隠せないでいる。
次郎坊と左近は、多由也より多少遅れて俺に気がついたようだ。
二人はこれから起こる事が分かったのだろう。即座に鬼童丸から離れ安全圏へと非難している。
鬼童丸はというと、
「なんであんなのがリーダーなのか不思議ぜよ。 暴力しか知らない根性曲がったあんな奴が………き、君麻呂、いつからそこに…?」
やっと気付いてくれたようだ。
ギギギ、という音が聞こえてきそうな感じで鬼童丸は振り返った。
「お前達が変なポーズしているところから」
「そこからっ!?」
何故か多由也が声を上げたが、それはたいした問題ではない。
「さて、鬼童丸」
気合を入れて、一歩近づき、
「とりあえず死んどけ」
笑顔とともに、無数の骨をプレゼントした。
………
……
…
「大蛇丸様、いい加減あのポーズが何なのか教えてほしいんですけど」
多由也達にポーズの事を聞いたのだが、多由也達もよく分からないらしい。
「そうね、でもその前にあなた達さっきみたいに並んでくれるかしら」
「…大蛇丸様、俺はどうすればいいんです?」
「君麻呂は左近と多由也の間に入って頂戴」
「はぁ…」
とりあえず言われたとおりに横一列に並ぶ。
「この後どうするんです」
「多由也達はさっきのポーズをして頂戴。君麻呂は…右手を突き出す感じでポーズをとってくれるかしら」
これも言われたとおりポーズをするが、実際にポーズをしてみて分かった事。
これは確かに恥ずかしい。
隣りを見るが、多由也は顔を赤くしてやっていた。
「あの、結局何をさせたいんですか?」
至極当然の質問をするが、
「いいわ! あなた達いいわよ!!」
突如として大蛇丸は大きな声をだし、歓喜に震えていた。
俺たちは、壊れてしまった大蛇丸が恐くて震えている。
「ちょっとあなた達、これも着てくれるかしら」
そう言って、五人の真ん中に居た俺にある物が手渡された。
横にいる左近と多由也も俺の手の中のものを凝視している。俺も視線を落とし、手渡されたものを確認するが、
「あれ、これって…」
「ヒーロー戦隊スーツ!?」
両サイドの二人が同時に声を上げる。
そして納得した。
この変なポーズも、横一列に並ぶのも全部ヒーロー戦隊を意識しての事だろう。
誰もが小さいときに一度は憧れるヒーロー戦隊。
勿論俺も例外ではない。
「そう、それを着てあなた達は変身するの。その名も、忍び戦隊、音レンジャーよ!!」
ビシッ!! と音が出てきそうなくらいの勢いで指を突き出し大蛇丸は言った。
「はぁ?」
四人が口にする。
五人ではなく四人だ。
「鬼童丸は黄、次郎坊は緑、左近は青、多由也はピンク、君麻呂、あなたが赤よ」
「はぁ?」
また四人が口にする。
残りの一人、俺はというと、
「さ、最高です大蛇丸様。赤なんてもう言う事無しです!」
この時、俺は初めて大蛇丸を尊敬した。
「お前達、早く着替えるぞ!」
「…………」
「聞いてるのか?」
「…だ、誰がやるかーっ!!」
四人はそう叫び服を叩きつけた。
その後、音レンジャーについて話し合ってみたのだが、賛成二 反対四の多数決により却下となった。
「大蛇丸様、多数決って誰が決めたんでしょうね?」
「君麻呂、今更愚痴っても仕方ないわ。私達は負けたんですもの、それよりもこれ。多由也と鬼童丸も」
今度渡されたのは紙切れだった。
真ん中より少し上に大きな字で、中と書かれており、右上には志の字が、左上には忍の字が書いてある。
「何なんですこれ?」
「中忍試験の志願書よ、書いておいてね」
なんだ志願書か…
あれでも中忍試験って
「木の葉崩し、いよいよ実行するわよ」
「…はぁ!?」
今度は五人同時に口にする事が出来た。
それにしても木の葉崩しか…もうそんな時期なんだ。
「あれ? あなた達に言ってなかったかしら…?」
コクンと五人同時に頷いた。