音の五人衆。
それは音の里でもエリートとされる存在。
リーダーの君麻呂を筆頭に左近、鬼童丸、多由也、次郎坊の五人で結成されている。
彼等の存在理由、それは大蛇丸を守護する為に。
彼等の存在理由、それは大蛇丸の刃となる為に。
彼等の存在理由、それはすべてが大蛇丸の為に。
…の筈なのだが今の彼等はというと。
「え~それでは第二回、音の五人衆定例会議を行います」
今彼等がいるのは君麻呂の部屋。
そして何故か第二回目と呼ばれる会議。
どうやら、前回の大蛇丸のセクハラ問題についてが一回目だったらしい。
「そういえば君麻呂、何で多由也がいないぜよ?」
周りを見渡し鬼童丸が言った。
「いい質問だ鬼童丸、だが次の発言からは手を上げるように」
鬼童丸の質問にあったとおり、今この場には多由也はいない。
居るのは君麻呂、左近、鬼童丸、次郎坊の四人。
その理由は簡単だった。
「時に鬼童丸よ、今日の日付は?」
「今日? 今日は二月八日ぜよ。多由也が居ないのに、それが何か関係あるぜよか?」
君麻呂は鬼童丸の答えに満足したが、鬼童丸の質問には答えず別の質問をした。
「そう、今日は二月八日。では一週間後は何日だ?」
「一週間後? 二月十五日ぜよ…だからそれが何の関係があるぜよ?」
鬼童丸はいまだ分からず首をかしげている。
だがそれはこの場に居る左近や次郎坊も同じようだ。
「お前たち本当に分からないのか?」
三人は同じタイミングでコクンと頷いた。
「………………」
三人の息の合った頷きに、君麻呂はただ無言だった。
無言でただ三人を見つめていた。身も凍るような冷たい目で。
「………………」
今度は三人が無言になった。
君麻呂と違うのは、三人は恐怖で何も話せないだけ。
三人とも二月十五日がなんなのか聞きたいが、聞いたら殺されるような気がして聞き出せないでいる。
………
……
…
沈黙が続いた。がその沈黙も終わりを迎える事になる。
突如として君麻呂が ダンッ!! と机を叩いて立ち上がったのだ。
三人は君麻呂のその行動に身構えた。
いつ攻撃されても対処できるようにと。
鬼童丸に至っては、蜘蛛粘金と呼ばれる術を使い、粘金の鎧を作り出し纏っていた。
「ヒントをやろう。ヒントは音の五人衆の紅一点、多由也だ」
そんな三人に君麻呂が言った。
三人は必死に考えた。多由也と二月十五日に何の関係があるのかを。
そして君麻呂は肩から骨を抜き出し三人に向かって突きつけた。ある言葉と共に。
「…五」
五? 三人にとってはまた疑問が増えた。五もヒントなのか?
なんで俺たちは棍棒みたいな骨を突きつけられているのか?
「…四」
三人は一斉に理解した。
今君麻呂が数えてるのは、ヒントなのではなく死へのカウントダウンだという事を。
そしてゼロになる前に答えなければ、自分達はあの棍棒で殴られるのだろうという事を。
「…三」
三人は必死に考える。殴られない為に。
けれど焦りが冷静な考えを出来なくしていた。
与えられたヒントは、二月十五日と多由也。
「…二」
その瞬間鬼童丸の顔が光輝いた。
「フフフ。分かったぜよ君麻呂!」
どうやら鬼童丸は答えが分かったらしい。
その鬼童丸の笑みを見て、左近と次郎坊は安心した。
これで助かったと…
だが二人は大切な事を忘れていた。
「ヒントで重要なのは紅一点だったぜよ。そして指定された日付、二月十五日という日。そこから導かれる答えは一つ」
ビシッという風に指を突き出して言った。まるでどこかの名探偵のようだ。
「…で答えは?」
「フフフ。答えは、多由也にとって二月十五日がせい」
ドカッ!!
君麻呂は持っていた骨の棍棒で鬼童丸を殴り倒した。
鬼童丸がただ殴られるのを見ていた二人は脅えている。
「下品な答えの奴は死ね」
そう二人が忘れていた重要な事。
それは鬼童丸が大馬鹿だという事。
「ぜ…ぜよ~…な…なら答えは何ぜよか…?」
どうやら鬼童丸は生きていたらしい。
粘金の鎧が役に立ったのだろう。
「二月十五日は多由也の誕生日だ!!」
「…誕生日?」
「そう多由也の誕生日…と言ったわけで二月十五日は誕生日会を決行する」
「…誕生日会?」
「そう誕生日会、各自プレゼントの容易と当日の部屋の飾りをやって貰うから。ちなみに場所はこの部屋ね。それと次郎坊には料理も作ってもらうから」
「……………」
「イヤ、なんて言わないよね?」
黙っていた三人に向かい君麻呂は棍棒を構えながら言った。
その君麻呂を見てからの三人の反応は早かった。
「…た…誕生日会ぜよね。もの凄く楽しみぜよ…」
「…あ…あぁまったくだ、早速兄貴と多由也のプレゼント考えないと…」
「…お…俺は新しい料理にでも挑戦してみるかな…」
君麻呂は三人の答えに満足し、最後に彼等に言った。
「そういえば、多由也には内緒で進めてくからね。ちなみに誕生日会の事をばらした奴、及びばれた奴は…」
そこまで君麻呂は言うと、持っていた骨の棍棒を改めて握り直し後を続けた。
「殺しはしないけど、それなりの罰が待ってるから」
「…わ…分かった」
三人は恐怖に脅え、小声になりながらも答える。
そして君麻呂が一言「本日の議会はこれで終了」といい締めくくった。
こうして誕生日会の主役、多由也の知らないところで新たな作戦が始まったのだ。
だがこの作戦には一つの問題があった。多由也にばれてはいけないという事。
後にこの事が問題になるなど、三人はおろか君麻呂でさえ気付いてなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二月九日
おかしい…あのゲスチンヤローのウチに対する反応が…
昨日までは普通だったのに、今日になったらいきなり変になった。
ゲスチンヤロー…鬼童丸はウチを見るやいなや逃げ出してしまったのだ。
…ウチがあいつに何かしただろうか。
いやしてない。
ここ最近はあのゲスチンヤローには手を出してない。
…分からない。元から変だったが、ついに壊れてしまったのだろうか…?
二月十日
やはりおかしい…昨日は他の奴等にあってないので気付かなかったが、今日クソデブヤローあって確信した。
朝、クソデブヤローに会ったのだ。
こいつは鬼童丸と違い逃げ出すなんて事はしなかったが、やはりおかしかった。
いつもはウチの口の悪さを注意するのだが、全く注意しなかった…
何を聞いても「あぁ」としか言わない。
ウチの知らないところで何か起こっているのだろうか…?
二月十一日
ゲスチンヤローとクソデブヤローに引き続き、クソ兄弟の二人まで変わっていた。
こいつ等の異変は気付きにくかった。
というか最初は全く気付かなかった。
まさか、ウチの前でだけ左近と右近が入れ替わっていたなんて…
ここまで来て、ある不安がウチを襲った。
このまま行くと君麻呂までウチを…
二月十二日
君麻呂に会いに行ったが居なかった。
それにアイツ達三人も。
どうやら特別な任務についたらしい。
帰ってくるのは十四日だそうだ。
ウチには何も伝えられてなかった。同じ音の五人衆だというのに…
いつもなら誰か教えてくれたのに…
二月十三日
「何か元気が無いけど大丈夫?」
そうアカデミーで聞かれた。
聞いてきたのは、一番仲の良いキンだった。
ウチは「大丈夫だから」そう答えるのが精一杯だった。
でも、嬉しかった。心配してくれる事が…
「ありがとう」ウチは心の中でキンに言った。
二月十四日
不安は的中した…君麻呂まで変わっていたのだ。
久々に会った君麻呂はどこか冷たく、ウチとの距離を離そうとしているのが、話していても直ぐに分かってしまった。
それでもウチは聞いた。
「最近アイツ達の様子が変だ」と。
「最近アイツ達がウチを避けている」と。
それを聞いた君麻呂は、ウチの疑問に答えるわけでもなく、用事があるからと言いどこかに行ってしまった。
悲しかった…別に誰にでも嫌われてもいい…
…でも、アイツ達には、君麻呂だけには嫌われたくなった。
「…ウチはまた一人だ…」
そう呟きウチは少しだけ涙を流した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二月九日
まず最初に多由也と接触したのは鬼童丸だった。
いや、接触とはいえないのかもしれない。
彼は多由也の姿を見るやいなや逃げ出したのだから。
二月十日
次に接触したのは次郎坊だった。
彼はずっと悩んでいたのだ、誕生日会に何の料理を作ろうかと…
そして、知らず知らずのうちに多由也の言葉使いを注意するのすら忘れていた。
二月十一日
次は左近の番だった。
彼は自分がボロを出すのを恐れて、多由也の前では右近と変わっていた。
勿論右近は拒否したが、左近も引き下がらない。
結果、話し合いでは決着がつかずにジャンケンで勝負をつける事になった。
そして負けた右近が今表に出ているわけである。
まぁ途中で多由也は気付いたようだが…
そしてこの日の夜、君麻呂たちは大蛇丸の部屋に来ていた。
「町に行くので十四日までアカデミーを休むですって?」
「そういう事です」
大蛇丸の問いに対しての、君麻呂の返事は簡単だった。
だが君麻呂の返事とは違い、大蛇丸は簡単には納得しない。
「理由よ、何か理由があるんでしょ…それを言いなさい」
「理由ですか?」
そして君麻呂は素直に話すことにした。
二月十五日が多由也の誕生日だという事を。
その準備のために町に行って、誕生日プレゼントや、料理や飾りつけに必要な材料を買いに行きたいということを。
多由也には内緒で進めているという事も。
「誕生日ね…まぁいいわ、好きにしなさい」
「…へ? 本当ですか!? ありがとうございます」
正直、君麻呂達は無理かな? という気持ちがあったが予想外の大蛇丸の答えに驚いている。
今では四人でハイタッチなどしながら喜んでいた。
(それにしても誕生日会ね…私も甘くなったかしら?)
二月十二日&十三日
君麻呂たちは予定道理に町に来ていた。
十二日は、それぞれ誕生日プレゼントを買いに。
十三日は、料理の材料や飾り付けに必要なものを買いに。
そして必要なものをすべて買い終わり、彼等は音の里へと帰路についた。
二月十四日
今度は君麻呂が多由也と接触する番だった。
君麻呂は焦っていた。
自分が『ばらしたり、ばれたりした奴はそれなりの罰がある』と言った手前、墓穴を掘ってしまったらどうしようという不安があったのだ。
しかし不安を抱いていたのは君麻呂だけではなかった。
そう、この時多由也も不安で一杯だったのだ。
君麻呂は、知らず知らずの内に多由也への態度が変わっている事に気付いていない。
多由也はいつもと違う君麻呂にすぐに気付き、より一層の不安に駆られる。
そして意を決して多由也は君麻呂に聞いた。
三人の様子が変だという事を…
本当は『君麻呂も変だ』そう聞きたかったのだろう。
しかし多由也にはそれを聞く勇気が無かった。
ただ単に聞くのが恐かったのだ…
多由也は答えを待っていたが、君麻呂から返事は貰えなかった。
君麻呂は「用事を思い出した」と言いどこかに行ってしまったのだ。
君麻呂が向かったのは三人のもと。 多由也が三人を変に思っている事を伝え、気を付けるように言うつもりなのだろう。
だが君麻呂は気付いていない。
彼自身が一番多由也を傷つけ、一番不安に思わせていた事を。
そして多由也が泣いている事にも…
二月十五日
ついに決戦? と呼ぶ日が来た。
それぞれの思いを元に、今日という日は始まりを迎えたのだ。
あとがき
今回はちょっといつもと書き方を変えてみました。
いつもと比べてどうでしょう?
読みにくかったりしたら、感想掲示板に書いてやってください。
感想等も待っております。
それでは失礼します。