数多の貴い犠牲を出し、四代目火影が命を懸け治めた九尾の妖孤襲来から4年。木の葉の里では九尾襲来以後行われてきた、日常的な光景となってしまった行いが為されていた。
今日も金色に輝く髪を持つ幼い子供が現れた時、それは始まった。
少年が現れた瞬間、周囲の人達の目は負の色のみとかす。
その視線は冷たく少年を射殺すようであり、瞳にある薄暗く燃える黒い炎は、少年を焼き殺すかのように苛烈だ。
瘴気といってもおかしくない感情を周囲から浴びせられていた少年は、俯いていた顔を上げると、蒼に煌めく眼で正面を見据え、笑顔を作る。
普通なら少年の眼に浮かぶ決意に心打たれ、浮かべた笑顔の痛々しさに心痛め眼を伏せるかもしれない。
だが、少年を囲む人々の反応は違った。
彼らは少年の蒼い眼に浮かぶ決意の色が、今は亡き四代目に酷似していることに喩えようがない不快感を抱き、少年の顔に浮かぶ笑みに、忌まわしき九尾の妖孤が浮かべた嘲笑を重ねた。
人々の脳裏に九尾の妖孤の嘲笑が浮かんだ瞬間、それまである一線で押さえられていた悲嘆、嫌悪、憎悪、あらゆる負の感情が爆発した。
少年を蹂躙する黒く濁った瘴気のような感情、大事な者を殺された人に対する様な仮借のない暴力、それを止めることなく愉悦の表情を浮かべ見つめる人々。
地獄絵図が現出する中、一人の男は出来の悪い喜劇でも見ているかの如く、醒めた目でその様子を眺めていた。
男は人々の狂気を嘲笑いながら踵を返そうとした。
――その瞬間
狂気と憎悪に彩られた地獄絵図の中心から、全てを凍り尽くす様なモノが溢れだした。
それは薄ら寒く、何かが欠け、どこかが壊れた、冷たく緋色に煌めく、人の心をも凍り付かす炎のチャクラ。
血を体中にこびり付かせ肌は青黒く変色させながらも、少年は立ち上がり歩く。
そして少年を囲む人の輪が裂け、歩む少年を遠巻きに囲む。
蒼い眼には見る者を凍てつかせる炎を宿し、顔には見る者の心を恐慌に落とす、ありとあらゆる全てが抜け落ちた笑みを浮かべ、少年は歩み去っていく。
恐怖に顔面を蒼白にしながらも、少年から目を離すことができずにいた人々は、少年が歩み去った後も動くことができず固まっていた。
そして、一人立ち去ろうとしていた男は爬虫類の如き冷血な眼に歓喜を浮かべながら、笑み崩れる口元を潤すかのようにゆっくりと舐めると、未だ硬直する人々を尻目に少年が消え去った方へと、追うかのように立ち去った。
『アナタに力を上げるわ』
『誰にも侵されることがなくなるだけの力を』
この日、木の葉の里から一人の少年がいなくなった。
人々は安堵に胸をなでおろし喜んだ。
嘆く者はただ一人でしかなかった。
そして時が経つにつれ、一人の老人を残し少年を忘れていった。
こうして木の葉の里で少年の存在は消え去った。