化物
怪物
創った奴らが、何を言う。
訳が分からなかった。
化け物を上手く誘い込み殺ったかと思った瞬間、何故か本来の2倍近い爆発が起き、その上でアレは無傷で現れた。いくら砂の盾が堅牢でも無傷はあり得ない。家屋1つが丸ごと吹き飛んでいる。それほどの爆発だった。
それに、あの水色の子供だ。いきなり湧いて出たかと思えば化け物へ好意的に話しかけている。しかも口振りからすればあの子供が化け物を助けたらしい。馬鹿が、ソレがどんな奴かも知らないで・・・・・・!
「・・・・・・そこの子供」
振り返った水色の子供は、場違いなほどに笑顔だった。・・・・・・知らないのだろう、化け物の存在を。知らないのだろう、そいつがどれほど恐ろしい奴かを。
ならば、教えてやろう。
「知らないだろうから教えてやる。お前がかばったソレの中には、化け物がいる」
「へー」
「ソレも完全にコントロールできてるわけではない」
「ふむふむ」
「近くにいれば、何かの拍子で殺されるぞ」
「ほー」
「・・・・・・」
余りにふざけた返事に、少しだけ殺意を覚える。
「・・・・・・冗談でも、脅しでもないぞ?」
「だから?」
その言葉に、俺達だけでなく化け物の方も、一瞬呆気にとられていた。・・・・・・こいつは、何を・・・?
「仮に我愛羅の中に化け物がいたとして、それが何?殺される?大いに結構。我愛羅が落ち着くまで僕は隠れてるから。これでも遁走術には自信があるんだ。それに、我愛羅が化け物だって?馬鹿馬鹿しい。中に何がいようと外側の人格を否定することには繋がらない。ねえ、聞くけど、誰か1人でも、まともに我愛羅と接しようとした人間はいるの?ほら、答えなよ」
・・・・・・何だ、こいつは・・・何を言っている・・・・・・
「1人もいないの?あなた達馬鹿?幼少期の人間には人との触れ合いが人格形成に一番重要なんだよ?それが、何?誰も触れ合わなかったわけ?我愛羅、よく生きてたね」
怒濤のような言葉の乱射で半ば放心していた我愛羅はいきなり話を振られてはたと我に返り、動揺を隠すためにも口を開く。
「・・・・・・・・・・・・昔、1人だけ俺に接する人間がいた。俺の世話役・・・夜叉丸だ」
「あ、いたんだ、1人だけでも」
「その夜叉丸も、最後には俺の命を狙う刺客として襲ってきた」
「・・・・・・う~ん。なんか、どうしようもない話だね」
「昔のことだ」
「そう。ならいいけどね」
・・・・・・この子供は、何なのだ?というか結局、何が言いたかったんだ・・・・・・?
今回の任務で隊長を任された男は、多少以上に頭を混乱させつつ首をひねっていた。
・・・・・・参ったなぁ。
周囲はとっくに夜の帳が降りている。街灯の明かりも遠いからかなり暗い。
取り敢えず言いたいことだけ言って、周りで困惑というか半ば惑乱しているだろう暗殺連中を視認しながら、僕は内心吐息を漏らす。
正直戦闘になる予定ではなかった。適当に歩いている我愛羅を見つけていかに信用を引き出すかが当初の課題であり、現状では半ば以上それがクリアされているとはいえ、戦うとなればデメリットの方が大きいかもしれない。
しかも、既に血継限界を使っている。
「・・・・・・考えるのは後で良いか」
面倒が勝って思考放棄した僕の呟きを我愛羅が聞きつけた。
「何がだ?」
「こっちの話。それよりさ、こいつら殺して問題とかある?」
「ないな」
「じゃ、共同戦線。前衛行くから、バックアップお願い」
「・・・いいだろう」
ふむ。予想以上に信頼を得たらしい。やはり窮地を救ったのは高ポイントか。
あの爆発から我愛羅が無傷で現れたことによる動揺から、連中は立ち直りつつある。今を逃せば、好機はない。
・・・・・・では、白亜刹那での初実戦。
「――行くよ!」
口の端を歪めながら手近な奴らに手裏剣を投げ、腰に仕込んであった脇差を抜き、話しまくってる最中にこっそり練り上げてたチャクラをもって地を蹴った。
我愛羅の人間不信は濃い。
生を受けて絶える事のない里人からの拒絶、そして唯一信じていた夜叉丸の裏切り。我愛羅にとって人間とは憎しみの対象であり己が生存意義を奪う敵でしかなかった。
よって自分を助けた相手とはいえ、初対面に等しい人間に共同戦線を持ちかけられた時、即答してしまった自分に驚いた。一瞬間が空いたのは、人からお願いされるという世界が引っくり返っても有り得ない(と思っていた)事態に思考が凍りついたせいである。
固まった思考でありながら瞬時に了承した。――それは紛れもなく反射による応答であり、即ち刹那を信頼しているという証であった。
故に戸惑う。自分は一体何を指標として刹那を信頼するに至ったのか。
助けられたから?否。その程度で心を開くはずもない。思い出せ。自分の心が変わったのは――
・・・・・・目か?
気付き、理解する。あの水色の双眸は、自分を見ていた。人柱力ではなく、我愛羅という名の、『個人』を。
「・・・・・・」
チャクラを練り、意識を外へ向けながらも、我愛羅は自らの思考に意識を傾ける。その横で、刹那は脇差を逆手に抜き放ち――消えた。
「!?」
我愛羅の視界から外れた一瞬後には、10数メートル離れた石壁に着地していた。
同時、ほぼ一直線上に立っていた、恐らく中忍クラスの忍び4名が、頚動脈から血を吹き倒れる。
砂はかろうじて反応できても、自分では捉えきれない――
我愛羅をして戦慄せしめるほどの、早業だった。
僅かに放心していた我愛羅は自身の役割を思い出し、回り込ませてあった砂に命じて、3名の忍びの頭部を包ませた。
――砂瀑柩!!
拳を握り、砂の圧力に負けた人体は容易く砕け命を散らす。
・・・・・・4と、3・・・・・・
ギロリと残りの刺客を睨みつける。
なんとなく対抗心が刺激された我愛羅であった。
タンッ、っと足音立てて壁に直立し、脇差を振って血を払う。・・・・・・うん、やっぱりこれは初撃にもってこいだね。
刹那が何をしたかと言えば、単に足元でチャクラを集めた足で走っただけ。原作で綱手が馬鹿力をを発揮していたが、それを速度に変換したものと言える。しかしこの走法、意外にチャクラを喰うので今のところ連発は不可。・・・・・・チャクラ総量が多いとは言えない僕なので、現状では溜めが必要なのです。便利なのに・・・
ん・・・・・・我愛羅も3人倒して後6人。けどねぇ・・・・・・あの人思いっきり上忍だよね。他は中忍みたいだけど。
『上忍にとっては赤子・・・』とか母さんは言っていたけど、果たしてどうなるやら。
「っと!」
飛んできた苦無を脇差で弾き、そのままの体勢で足に流すチャクラを止める。自由落下。苦無と同時に放たれていた風刃は背後の壁だけを多きく削った。
・・・・・・風遁か。やっぱり風影に命じられた砂の忍びかな?
「ま、関係ないけどね・・・!」
地面に着地。脇差を上に放り投げ、両手で適当に印を組む。術が来ると警戒した刺客達の意に反し何も起こることはなく、続いて苦無を投擲。
術に失敗したと思ったのだろう。嘲笑の気配を感じる。額を狙った苦無を最小限の動きでかわした4人の刺客は、接近戦に持ち込もうと足を踏み出し、瞬間反転した苦無に後頭部を穿たれ血の海に沈んだ。
――水鏡・森羅転進の法
「くすくす・・・・・・油断大敵だよ?」
彼らが見た最後の光景。それは、悪戯を成功させた子供の、無垢故に恐怖を誘う純粋なる笑顔だった。
・・・・・・不可解な技だ。
チャクラを練り上げ砂に送りつつ、我愛羅は思う。
投擲した苦無が慣性を無視して突如鋭角的に軌道を変えるなど、糸では不可能。何らかの術と考えた方が良い。・・・見当も付かないが。
一息に11人が倒され、3個小隊いた刺客も残りは2名。・・・・・・8:3。残りを仕留め、最初の2匹を足しても8:7・・・・・・
「・・・・・・」
――砂時雨!!
己の苛立ちを即座にぶつけ、ぶつけられた方はたまったものではなく、高速で射出された砂の弾丸に打たれた片方の忍びは砂瀑送葬へ繋げられ、あえなく冥界へ住まうこととなった。
「――ちっ!」
不利を悟った最後の忍びは煙玉を投げ逃走に転じた。
気配でそれを悟った我愛羅は自分の機動力では追いつけないと冷静に判断し、7どころか6になってしまった腹いせに潰れた肉塊をさらに押し潰すのであった。
哀れ、名もなき忍び。