介入
改変
自ら動くからこそ、愉しい。
僕がこの世界に来て、4年の月日が経っていた。
7歳。日本で言えば小2か。教育機関なるものに通ったことがない僕としてはイマイチ想像しづらいが、まだまだ子供っぽい年代のはず。
この4年でだいぶ背が伸びたけど、ナズナに負けてるのは何故だろう。女性の方が成長が速いと分かってはいるが、この胸の奥に悶々とわだかまる心情は――悔しい、だろうか?
・・・・・・まだ実感は湧かないので答えは保留しよう。
「!」
突然の突風に目をつぶり、砂の侵入を防ぐ。ある意味我慢強い性格だと僕なりに思ってるけど、さすがにこの気候は辟易する。砂や日光から身を守るため、長袖長ズボンは必需品だ。
ガラガラと歯車鳴らす二台を牽くのはラクダ。見渡す限り砂漠の世界において、馬では心もとないと心底から思った。
「・・・・・・あ」
「どうした、刹那」
「しゃこつさん、砂の里が見えましたよ」
「は?何キロ先だと思ってんだ。見えるわけないだろ」
「いやでも、見えてますし。ちょうどここが里より標高が高い砂丘だからでしょうけど、10キロぐらい先にポツンと見えてます」
「・・・・・・あのな、俺はお前やアゲハみてーに忍びの身体じゃないの。んな10キロ先のもんがこの天気で見えるかっての!」
「・・・・・・」
実際その通りなのに今更気付く。熱気に炙られ揺らめく陽炎。舞い上がる砂塵。いくら晴れていたって限度のある直射日光。・・・・・・見辛くて当然か。
というか、まさか木の葉より先に砂の国に来ることになるとは思わなかった。
各国津々浦々、行かぬとこなどないようなカシワ商隊だけど、この4年で行ってないのは隠れ里を除けば水の国ぐらい。あそこは血継限界が迫害される所なので、カシワさんがわざわざルートから外してくれているのだ。
隠れ里も、砂と木の葉、そして湯隠れの里以外ではほとんど寄り付くこともないとか。
砂の里と聞いて、真っ先に思いつくのは我愛羅だ。この世界の年号などマンガに出ることはなかったので、今がいつの頃か見当も付かない。
けれど、もし会えたならば始めよう。
――歴史の、改変を。
「・・・・・・見つからない」
適当な日陰で身を休め、僕は大きく嘆息した。
入国審査を受けて里に入り早4日。カシワ商隊の行商は成功し、物価の関係から大もうけをしたと昨夜は宴会を開いていた。適当なところで退席し、警戒のため僕と母さんだけはいつも通り床に入ったけど、他の人は朝まで騒いでいたらしい。
町の人から話を聞いたところ、風影は現在4代目。子供は3人いるけど木の葉と何かあったとかは聞かないので、NARUTOの憑依転生ものとしては妥当な期間と言える。
滞在期間はもう一週間ほどあるが、今後の交流のためにも今日辺りには接触したいところだ。
「・・・ほんっと、どこにいるのかな・・・・・・」
昼の時間をほとんど費やして探しているのにろくな情報が得られないのは何故だろうか。やはり人柱力の捜索は簡単なことではないのか。
結局その日も諦めて、夕暮れ時に僕は宿へと帰還した。
「ただいま」
「おかえり、刹那。今日は早かったのね」
割り当てられた宿部屋で、母さんはすりこぎ片手にゴリゴリやってた。
「・・・・・・ああ、酔い止め?」
「うーうーあーあーうるさいのよ。いい加減自分の限界を知って欲しいわね」
耳を澄ませば広間の方からそれらしき声が聞こえてくる。
「・・・・・・懲りない人たちだね」
宴会の度にこうなっているのだから他に言いようがない。
別の薬草を鉢に放りながら、母さんはチラリと忍びの目を向けてきた。
「そう言えば刹那、ここに来てから毎日出歩いてるけど、何してるの?」
「――ちょっと気になることがあって。・・・・・・大丈夫、下手は打たないよ」
暗に忍者との接触は避けろと言われたのだけれど、僕の返答は接触を前提とした上で血継限界を知られないよ
うにするというものだった。
「・・・・・・あのね、確かにあなたは他の同年代の子と比べたら抜きん出てるけど、上忍からすれば赤子も同然な
のよ?」
「心配ないよ。警告はされるかもしれないけど、何かされるって事はないはずだから」
「警告される時点で危ないじゃない・・・」
諦念を吐息として漏らし、母さんは止めていた手を再開した。
「全くこの子は・・・・・・昼間っから外に出て何してるかと思えば・・・・・・」
・・・・・・あれ?
独り言だったろう言葉に、齟齬を感じた。
「昼に出歩いちゃ行けないの?」
「灼熱地獄の中歩き回る子供はそういないわね」
「・・・・・・・・・・・・あ、それでか」
「どうかした?」
「もっかい出てくる」
「そう。余り遅くならないようにね」
「はーい」
沈む夕日を背景に里を歩き、自分の馬鹿さ加減に心底溜息した。
考えてみればそうだよね・・・・・・気温の下がった夕方から夜にかけてが一番過ごしやすいのは当然だよね・・・・・・
つまり、子供である我愛羅もこの時間帯に出歩く可能性が一番高いと言うことだ。わざわざ直射日光の一番厳しい昼に遊ぶ必要はないのだから。
知識として知ってはいても実際の体験として活かし切れてない。自分の常識知らずを今一度実感した瞬間だった。
・・・・・・あそこは完璧に環境が機械で制御されてたから、逆にこういう日常豆知識には気付かないことが多いね
・・・『人間』を育てる場所じゃなかったからそれも当然かな。
子供の寄り付きそうな公園や大通りは捜索対象から外す。むしろ人気の少ない裏路地等を中心に里を歩き回る。
「・・・・・・!」
不意に、悪寒。
隠す気がさらさら無い純然たる殺気と――真紅に色付く生暖かい液体が降ってきた。
そして更なる落下音。グシャッ、と生肉が叩きつけられる音がして、かつて人間だった(と思われる)物体が裏路地に散らばった。
「最悪・・・・・・戦闘中だよ」
反射的に身を隠した頭上では、金属音、静かなる裂帛。そして禍々しいチャクラで溢れていた。
・・・・・・そういえば暗殺者に狙われてるって漫画で言ってたっけ。
さておきぼうっとしてても埒が開かない。
気は進まないながらも、僕は音なく地を蹴った。
多勢に無勢とはこのことである。
我愛羅と暗殺者達の戦闘を離れた建物の頂上で観戦しながら、僕は呑気に評を下した。
見た感じ我愛羅の年齢は僕と同じくらい。『愛』の文字が刻まれていることからして、夜叉丸イベントは終わった後か。
というか、我愛羅のあのチャクラ量はふざけてるとしか思えない。他の暗殺連中と比較しても隔絶している。
「やっぱ主役は違うなー」
それだけに、ここで手を出さずとも死ぬようなことにはならないはずだ。・・・・・・多分。
「・・・・・・ん?」
眺めるように観戦している内に、奇妙な点に気が付いた。
・・・・・・この配置と動き方・・・連携・・・回避方向・・・・・・
一連の事象から推測されることはただ1つ。
「・・・誘い込まれてる?」
つまりは罠か。だが生半可な罠では我愛羅の盾は破れない。
「当然そんなことは百も承知だろうから・・・・・・あー・・・ちょっとマズいかも」
杞憂に終わるに越したことはないが、備えあれば憂いなし。
気配を殺し、チャクラを練りながら移動を始め、懐の忍具に手を伸ばした。
「・・・・・・」
――数が多い。
一匹目を砂瀑送葬で片づけた我愛羅は、傍目には分からないほど微かに表情をしかめた。今も砂は自動で苦無や手裏剣を防ぎ未だ一太刀も喰らってないとは言え、いつになく敵が多いのは事実だ。
しかし、
「雑魚が何匹いようと無駄だ」
グシャッと肉の潰れる音が響き、また1人この世から失せる。数をそろえたせいか、やはり質は低い。
奴らにとって持久戦は下策だろう。下手をすれば守鶴が出てくる。
――ならば、こちらは持久戦を選ぶまでだ。
時間とともに、奴らの焦りを大きくしてやろう・・・・・・
屋根から屋根へ跳び移り、そう結論した直後。
「!!」
堅いはずの石造りの屋根が、着地した瞬間に消え失せた。――幻術?いつの間に!
「ちぃっ!」
舌打ち。崩れた体制を立て直しつつ部屋の内部を見、瞠目する。
壁、床、天井。全てが千にも及ぶ起爆札で埋め尽くされた、いわば爆殺の処刑場。
――マズい・・・・・・!
砂の盾は間に合ったとしても、これだけの起爆札の前には紙ほどに頼りない。――数をそろえたのは、最初か
らここへ追い込むためか!
起爆札から一斉に白煙が上がり、対抗手段もなくまさに爆発する――その、寸前。
突如我愛羅の目と鼻の先を何かが通り抜け、甲高い破砕音が耳に届き、
――爆裂と閃光が、弾けた。
・・・・・・何が起きた。
覚悟した爆発は一向に訪れず、しかし爆音だけは響きただガラガラと石壁の崩れる音がする。
真球を形作った砂の盾の一部を解くと、信じられない光景が飛び込んできた。
完全に崩壊し屋外と化した部屋。これはまだいい。あれだけの起爆札を使えば当然の結果だ。
だが、その爆心点の中心にいる自分が、全くの無傷なのは何故だ。
とそこで、自分を覆うように取り巻く破片に気付いた。チャクラの糸で繋ぎ合わされ1つの網か膜のように展開するそれら。一目見てこれが原因だと分かる。・・・が、このような術は聞いたこともなかった。
「やれやれ・・・危ないところだった」
声に頭上を仰げば、片手で奇妙な印を結び壁に直立する同年代らしき少年の姿。・・・・・・こいつの仕業か?
「・・・・・・何のつもりだ」
「助けてあげたのに礼の1つもなし?別に良いけど・・・」
よっ、とそいつは飛び降りると、まるで警戒もせずに歩み寄ってきた。途中刺客どもに牽制の手裏剣を投げることも忘れない。
「・・・・・・何だ、お前は」
我愛羅に、人柱力である自分に、何の気負いもなく近づく人間に、戸惑い、訊く。
「僕?僕はね、白亜刹那」
君は?――と、純粋で、後ろめたいものが欠片もない笑顔を浮かべて、今度はそいつが、訊いた。・・・・・・俺を知らない?
「・・・・・・我愛羅だ」
その時、自分が何を思ったのか。
後になっていくら思い返してみても、明確な形にすることはできなかった。
ただ、何かが変わったということだけは、たとえようもないほどに、確信していた――