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No.5794の一覧
[0] 水鏡の映すモノ Naruto (憑依or転生)[ゆめうつつ](2009/01/10 22:57)
[1] 01 僕が来た世界[ゆめうつつ](2009/05/01 11:24)
[2] 02 危険な世界[ゆめうつつ](2009/01/14 09:54)
[3] 03 意思確認[ゆめうつつ](2009/01/10 23:14)
[4] 04 体力テスト?[ゆめうつつ](2009/01/10 23:19)
[5] 05 血脈の過去[ゆめうつつ](2009/01/10 23:29)
[6] 06 砂の少年[ゆめうつつ](2009/01/10 23:53)
[7] 07 砂との共闘[ゆめうつつ](2009/03/13 11:13)
[8] 08 砂との対話【前】[ゆめうつつ](2009/01/10 23:50)
[9] 09 砂との対話【後】[ゆめうつつ](2009/01/11 00:00)
[10] 10 砂の姉弟[ゆめうつつ](2009/01/11 00:12)
[11] 11 砂の乱入[ゆめうつつ](2009/01/11 00:14)
[12] 12 砂との別れ[ゆめうつつ](2009/03/19 21:32)
[13] 13 木の葉の奇縁[ゆめうつつ](2009/01/10 23:22)
[14] 14 木の葉の転生人[ゆめうつつ](2009/01/10 23:24)
[15] 15 木の葉アカデミー[ゆめうつつ](2009/01/11 00:32)
[16] 16 木の葉、うちは邸[ゆめうつつ](2009/10/25 16:36)
[17] 17 模擬戦[ゆめうつつ](2009/02/23 10:43)
[18] 18 脅迫と贈り物と謀略と[ゆめうつつ](2009/01/11 00:24)
[19] 19 退屈な映画、頭悩ます手紙[ゆめうつつ](2009/01/11 00:29)
[20] 20 回想 刹那の暗躍[ゆめうつつ](2009/01/14 09:56)
[21] 21 回想 マフィアたちの思惑    (最後に付け加え)[ゆめうつつ](2009/01/14 09:55)
[22] 22 回想 争乱雲の国[ゆめうつつ](2009/01/11 00:34)
[23] 23 回想終了[ゆめうつつ](2009/01/12 19:16)
[24] 番外 ナズナちゃん奮闘す[ゆめうつつ](2009/01/12 19:15)
[25] 24 眩魔登場[ゆめうつつ](2009/01/14 09:52)
[26] 25 眩魔のいる所[ゆめうつつ](2009/01/26 23:05)
[27] 26 『柏』への信頼[ゆめうつつ](2009/01/26 23:02)
[28] 27 新居白亜邸+α[ゆめうつつ](2009/02/12 12:48)
[29] 28 別れは寂しく[ゆめうつつ](2009/02/06 14:34)
[30] 29 祝初登校![ゆめうつつ](2009/02/12 16:46)
[31] 30 シギ、ナズナと話す[ゆめうつつ](2009/02/17 10:43)
[32] 31 VSサスケ[ゆめうつつ](2009/02/23 10:58)
[33] 32 虐殺回避に向けて[ゆめうつつ](2009/03/13 11:28)
[34] 33 その頃、砂[ゆめうつつ](2009/03/13 11:26)
[35] 34 刹那、砂での策謀[ゆめうつつ](2009/03/30 15:35)
[36] 35 回想 鴨襲撃![ゆめうつつ](2009/03/30 21:51)
[37] 36 回想 鴨侵入![ゆめうつつ](2009/04/12 15:57)
[38] 37 回想 鴨決着!   (最後にちょっと大切な一言付加)[ゆめうつつ](2009/05/01 11:23)
[39] 38 天才との交渉[ゆめうつつ](2009/05/01 11:21)
[40] 39 写輪眼攻略[ゆめうつつ](2009/05/07 09:28)
[41] 40 やはり刹那は外道[ゆめうつつ](2009/05/23 15:24)
[42] 41 策謀が芽吹く時[ゆめうつつ](2009/05/23 15:22)
[43] 42 木の葉流し 序[ゆめうつつ](2009/06/17 13:47)
[44] 43 木の葉流し 詭[ゆめうつつ](2009/06/19 11:58)
[45] 44 木の葉流し 終[ゆめうつつ](2009/07/10 10:42)
[46] 45 サスケという名の後始末[ゆめうつつ](2009/08/12 11:37)
[47] 46 日常 風影一家のキャンピング[ゆめうつつ](2009/08/26 15:56)
[48] 47 日常 対決! IQ200と算定演舞 【前】[ゆめうつつ](2009/09/11 08:48)
[49] 48 日常 対決! IQ200と算定演舞 【後】[ゆめうつつ](2009/09/24 16:25)
[50] 49 日常 日向の少女[ゆめうつつ](2009/10/25 16:35)
[51] 50 日常裏 偽装人家[ゆめうつつ](2009/11/16 13:46)
[52] 51 奪われた瞳[ゆめうつつ](2009/12/17 09:56)
[53] 52 【日向】[ゆめうつつ](2010/01/18 10:25)
[54] 53 人生は出会いの連続[ゆめうつつ](2010/01/25 16:58)
[55] 54 ココロノハナシ 【前】[ゆめうつつ](2010/03/09 11:04)
[56] 55 ココロノハナシ 【中】[ゆめうつつ](2010/03/09 11:04)
[57] 56 ココロノハナシ 【後】[ゆめうつつ](2010/03/23 12:09)
[58] 57 あくまでこれは日常[ゆめうつつ](2010/04/23 13:20)
[59] 58 伸びる糸[ゆめうつつ](2011/03/16 12:04)
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[5794] 48 日常 対決! IQ200と算定演舞 【後】
Name: ゆめうつつ◆27410725 ID:a1a10a1d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/24 16:25

 朝郵便受けを開けると、新聞手紙に混じって場違いな……いや世界的には何ら場違いではないがさておき、刹那としては理解に苦しむ物体が鎮座ましましていた。
 和風かつ古めかしく、折り畳まれた和紙に書かれた達筆な――『果たし状』の一言。

 「…………………僕何かしたっけ?」

 身に覚えがないと、本気で首を傾げる刹那だった。










 「つまるところ、決闘状ですか……」
 「相似の関係で括れないこともないけど、ここは果たし状って言う方が正しいかな」

 登校してナズナと語る傍ら、教室の椅子に座ってなかなか姿を見せないシカマルを待つ。

 「そして刹那君は断ると」
 「当たり前。昨日の今日で何が変わる訳でもないし……しかもこれ、僕が負けた時には猪鹿蝶三人に何でも好きな物を奢るって何……。チョウジはともかく、いのまで入ってるし意味不明……」
 「あれです。いのちゃん一人仲間はずれにすると、きっと後が怖いのですよ」

 まあ、そうだろうとは思う。思うが、僕が勝った時の特典が聞いてからのお楽しみって何だ。おふざけか。まあそれ次第でやってあげても良いけれど、今日は少々、“都合が悪い”。
 と言うか、もう始業五分前のくせしてまだ来ないのか。
 囲碁の勝負なのに果たし状とはまた不思議な感じだが、そこには昼休みに勝負とあった。断るなら早い内が良いだろうと、今日はそこそこ早く家を出たと言うのに。

 「よーし、みんな揃ってるなー?」
 「先生、シカマルがまだ来てません」
 「ああ、あいつは家から連絡があってな。家の仕事させるから遅れるそうだ。昼には来るらしい」

 いのと担任の、そんな会話を聞いて。

 「……………」

 刹那は僅か、目を細めた。
 気配の変化を敏感に察したナズナが、視線で問うてくる。

 「……本気だね」
 「本気?」

 うん、と頷き、それ以上は何も言わない。ナズナも、特に聞こうとはしない。
 ホームルームが始まる中、帰ろうか、と刹那は思案した。
 嫌な予感がする。隠れた殺意と言うか、見えざる敵と言うか、そんなあやふやな、文字通りの予感。
 こういった第六感的な判断は、余り前世じゃ信頼してなくて、実際ほとんど役立たずではあったのだけれど、この世界で暮らしてもう五年近く。虫の知らせの重要性は骨身に染みている。
 そしてこの状況は、何だかとっても拙い気がした。
 奈良シカマル。
 IQ200。
 戦略の天才。
 ……と言っても、それは下忍任官後の話であるから、現時点でどの程度かは昨日の囲碁でしか測れないのだけれど……油断は禁物。
 何せ彼らは、『奈良家』なのだ。
 その策に、乗る必要はない。

 「先生」
 「うん? どうかしたか、刹那」
 「家のポットに火をかけっぱなしなのを忘れてました」
 「早く帰って消してこいっ!」
 「はーい。ナズナもおいで」
 「了解です刹那くん」
 「あっ、おい! 一人で充分だろう?!」

 と、騒ぐ担任の声すら聞き流し。
 そんなこんなで、脱出成功。










 隠れ里の中でスーツを着る人間はほぼ皆無。
 それでも各自の仕事着で、出勤する人々に混ざりながらも反対に、帰り道。

 「……変な気分です。まだ朝なのに、ナズナたち下校してますよ」

 まあ、そうかも知れない。かくいう僕も初めてだ。

 「それで……刹那くん。何でわざわざ帰るですか? その場で断ればそれで済みますよ」
 「んー………何か企んでるみたいだからね。シカマルって、ああ見えてかなりの切れ者だから、念のため」
 「……考え過ぎか、神経過敏な気がビンビンですよー」

 ビンビンって……いや、深くはつっこまないで置こう。
 嘘は方便と言うけれど、一から十まで嘘の言葉でアカデミーを早退したのは、シカマルの多分策らしき物から逃れるため。
 過程はともかく目的ははっきりしてるから、さっさと舞台から退場したまでだ。
 ……で。
 マンションの階段を雑談しながら登って、大きな入口一つしかない最上階の、玄関扉の前に広がるちょっとしたスペースに到達し、

 「あー……」

 天を――というか、天井を仰いだ。

 「そっかそっか……いや、これは大失敗。見事に謀られた。見くびってた。策士って呼んだのはそもそも僕だったはずなのにね」

 その、通常よりも大きな、横滑りする扉に背を預けて、目つきの悪い子供が飄々と、腕を組み、待ち構えていて。

 「遊びに来たぜ、編入生」

 奈良シカマルは、にっと笑った。










 事ここに及ぶと、もう断る方が疲れるだろう。下手すると一日中扉の前に陣取られるかも知れない。
 仕方なく中に招いて、帰ってから湧かしたポットでお茶を振る舞った。日本茶。シカマル和風っぽいし。ナズナは隣でほくほく顔で昨日買ってきた団子をモグモグしてる。

 「アカデミーサボってまで碁を打ちたいと?」
 「おう」
 「…………暇人だね」

 パキッ、と煎餅をかじり、日本茶をすする。
 シカマルの様子はまるで気負いなく、本当に遊びに来た感じ。……それも間違いでは、ないけれど。
 昨日、こてんぱんにされて懲りてないのだろうか?
 それとも、ただ単に囲碁仲間として打ちに来たのだろうか?

 「賭け碁……って話らしいけど」
 「ああ。俺が勝った暁には、まあ、俺はどうでもいいからチョウジに好きなだけ奢ってやってくれ」
 「……一食とデザート一回分までだよ。取り置きはなし。お持ち帰りもなし。それ以上は負からないよ」
 「いいぜ。……で、お前が勝った場合の、俺が用意する賞品だが……」

 持ってきた鞄の中から、取り出し、それをテーブルに置く。

 ――秘伝、と、銘打たれた……巻物。

 「……………………、正気?」
 「正気も正気。本気も、本気だ」
 「………うっわ……バカだ。今度から奈良家は馬も飼育するようになったんだね」
 「うるせーよ。お前みたいにがめつい奴が欲しがるようなのが、他になかったんだよ」

 だからって……普通子供の賭け事に持ち出す?

 「親の許可は――」
 「オヤジに持ってけって渡された」
 「………あっそう」

 親子そろってウマシカか。鹿ではあるのは知ってたが、これはない。予想外を超越した感じすらある。

 「どうだ刹那。お前の眼鏡に適ったか?」
 「……正直、なくてもいいけど、あっても別に困らないし……でも、それだと互いのチップが釣り合わないけど?」
 「乗り気じゃねーお前に頼み込む必要があったからな。何だったら、スポーツ精神に乗っ取って帳尻合わせてくれて構わねーぜ?」
 「…………最初の果たし状にあった通り、君たち三人に好きな物を奢るってことでチップを上乗せするよ」
 「良いのかよ? 破産しても責任取れねーぜ?」

 若干こちらを案じる気配のある発言を、鼻で笑う。

 「生憎だけど前に宝くじの一等当ててるからね。このマンション勝ったのも僕のお金だし、まだまだ数百万両は自由に使えるお大尽だから、心配される謂われは欠片もないよ」
 「金遣い荒れーとは思ってたが成金かよ、めんどくせー……が、それなら安心して勝てるな」
 「くすくす……昨日真っ向勝負で負けた人が何吠えてるんだろうね」
 「やる気になってくれて結構なこった。……ところで、俺はこの後アカデミーに行くつもりだから早碁で良いか?」
 「早碁? ……普通に打たない?」
 「……オヤジはこれに協力してくれんだけど、母ちゃんが一刻も早く登校しろってうるせーんだよ」
 「仕方ないなぁ……それじゃ、何秒間隔で打つの?」
 「十秒」

 一瞬、空白が横たわる。

 「十秒で、一手だ。それを過ぎたら、負け」
 「……………普通は、短くても三十秒だよね?」
 「……やめるか?」
 「…………………………いや、打とうかな」
 「よし」

 荷物置きの方から、刹那が足つきの立派な碁盤と石を用意して。

 「先攻後攻は?」
 「……昨日は僕が先だったから、先攻どうぞ」
 「んじゃ、黒な」

 ジャラ、と石を摘んだシカマル。
 と、そこへきて、ようやくずっと感じていた引っかかりの正体が、見えた。
 囲碁は、一朝一夕で強くなれるような、そんな簡単で単純な物じゃない。好きな場所に石を置けるから、将棋以上に先を読むのが難しい盤上の遊戯だ。
 更に言うと、シカマルは囲碁よりむしろ将棋の方が趣味で、得意だったはず。
 なのに昨日敗北を喫した囲碁で、まだ勝負が見えない将棋を選ばずに、比較的ではあっても苦手な囲碁を何故選んだのか。
 その理由は、シカマルの最初の一手で、窺い知れた。

 「…………!」

 パチン、と打たれた、九つある星の中心。
 天元。
 初手、天元。
 思わず、目を瞠った。










 一瞬で表情を変えた刹那に、シカマルは内心でガッツポーズ。
 正直、ここまでは予定通りだ’’’’’

 「五秒過ぎるぜ?」
 「…………」

 無言で、一手。左下隅。乗ってこない。
 ならば乗らせるだけと、中央付近に黒石を。
 昨日は淀みなく打っていた刹那の手が、未だ全くの序盤でありながら、止まった。

 「……………………」

 時間いっぱい使って、左上隅。迷いが、目に見える。
 追撃として、中央から下方の辺に石を置き。
 一秒後、指は離さず二つの白石に睨みを利かせるような、左の辺にズラした’’’’

 「…!」
 「次、打てよ」
 「……ん」

 そこで、刹那が目を細めて、表情が抜け落ちた。
 昨日よりも、早い。昨日は中盤に差し掛かって、『こう』なった。

 「強い癖して、囲碁は面白くねーのか?」
 「…………」
 「それとも、囲碁だから’’’’’面白くねー……か?」
 「…………………」

 無反応を貫く刹那に、シカマルは打ちながら言葉を続ける。
 これは、策の一環だ。

 「昨日は変な打ち方してたよな。俺の石を無視して……まるで、棋譜を適当に並べているような打ち方」

 打ち、打った石を全く別の場所に、またズラし。

 「――あれ、本当に棋譜を並べてたんじゃねーか?」
 「――…さあ、ね」

 さすがに、無視できなくなったのか、中央を切り崩すように、刹那が白石を打ってきた。

 「……!」

 ここからが正念場だと、シカマルは唇を湿す。
 昨日とはかけ離れた、最早別人の打ち方で、曖昧模糊と煙に巻く石の配置から一転し。
 あの一手。
 石の繋がりを断絶させた、棋聖であるとさえ錯覚しそうな、理想の一手。
 次々と、それに匹敵する手’’’’’’’’が迫ってきていた。
 防戦一方。凌ぐばかりで攻勢に回れない。刹那が、全力で叩き潰しに来ている。
 だがしかし、シカマルはこう考えた。


 刹那は全力を出さざるを得なくなっている――!


 「……オイ、いつもの余裕ぶった態度はどうしたよ」
 「――――」

 刹那は答えない。答えられない。
 無言で、無表情なその顔に、大粒の汗が幾条も、流れていた。
 それが証拠だった。
 それが証左だった。
 仮定が確定へと姿を変える。
 確信が確証へと名を変える。
 決してシカマルだけが追い詰められているわけでは、ない。

 「昨日対局が終わった時、テメーは言ったよな? “囲碁は神経をすり減らす”、“将棋はそうでもない”」

 打つ手は休めず、秒を数えるのと並行して、口を開く。
 刹那の意識を、僅かでも引きつける。

 「将棋は良くて、何故囲碁が悪いのか。……ついさっき、当て推量じゃない答えが出たぜ。それは、囲碁と将棋の――“可能性”の差だ」

 名前通りの一刹那、手が遅まり――ほとんどノータイムで打っていたゲーム展開もまた、遅くなる。

 「将棋で使える駒は両方合わせて四十。マスは九×九の八十一マス。……四十引いて、単純に考えても動かせる場所は四十カ所かそこらだ。比べて囲碁の場合……」

 ここぞとばかりに、間を空けず可能な限りノータイムで打ち続け。

 「三百六十一カ所。相手の先を読み尽くそうとしたってな、どう考えても毎回数千から一万以上の可能性が――相手の打つ未来が、あるんだよ。全てを読むなんざオヤジでも無理だ。つまり不可能手段。………普通ならな。だが、お前は普通じゃない’’’’’’’’’らしい」
 「…………」
 「数十手先を考えた流れを一撃で、しかも一瞬で断ち切る。………そんなのは、先の先のそのまた先まで、たったの一瞬で読み尽くせる奴じゃなきゃ無理だと、俺とオヤジは結論づけた」
 「…………………」
 「膨大な思考。莫大な計算。本来何十分も必要とするはずの数式を一瞬で解く――頭脳。無表情になるのは、思考に没頭するあまりの反動だろうな」

 対面の水色に向けて言い放つ。





 「てめーの能力は、一瞬を限界まで引き延ばすほどの驚異的な集中力だ」





 何故、経験のない刹那が、有段者にも劣らない棋力を持つのか?
 その正答は、言葉にすればとても単純だ。
 ――“相手の打つ手を全て読み尽くせばいい”

 「言うだけなら、簡単だけどな……てめーの桁外れな記憶力と集中力、計算力が合わさって初めてできる芸当だ。……まず誰にも真似できねーよ」

 しかし、けれども。
 脅威の一言に尽きるその集中は、長時間、続かない。
 否――刹那本人の感覚では、果てしなく長い“時”を思考に消費しているのだから……些か語弊のある表現だろうか。
 その集中を、如何にして崩すか。それが今日、この時、シカマルの取った戦法だ。
 早碁は、集中する時間を削るため。
 石をズラしたのは、刹那の計算に乱れを生むため。
 初手天元は、序盤から先の読みにくい乱戦へ持ち込むため。
 将棋を選ばなかったのは、可能性と確率を、格段に引き上げるため。

 ――刹那の限界時間を削り取る戦術――

 つまるところ、自滅を狙ったのだ。
 脳を酷使しすぎたことによるオーバーヒート。
 真っ向からやって勝てないのなら、敵の勝利手段を間引きする。
 交わした言葉は、実際には少ない。
 しかし刹那にせよシカマルにせよ、僅かな取っかかりから相手の考えを読み取る力に長けている。
 故に刹那は、シカマルの一晩かけて練り上げた戦術を――容易く、壊せた。

 「………話は、それで終わり?」

 汗を拭い、く、と刹那は、笑う。否………嗤う。

 「昨日教えたはずなんだけどね。……策士は、策に溺れるんだよ」
 「……お前も俺と同タイプで、策を張る奴だと思うが?」
 「僕は良いんだよ。僕は策士じゃなくて、言うなれば――詐欺師だから」
 「!?」

 今や終盤に近づいた盤へと、刹那は、白石を打ち込む。
 それは、これまでのような理想ほどではないものの、充分に強力な、一手。
 一発で分かった。一瞬で悟った。

 「っ……てめぇ刹那!」
 「くすくす……ごめんね」

 悪びれず、会心の笑みを浮かべて。





 「昨日言った、囲碁を数回しかしたことのないってあれ、数百回’’’の間違いだったみたい」





 「……こんっ…の………大嘘つきがっ!」
 「あはははは」
 「……刹那くんのウソはいつものことですよー、シカマルくん」

 沈黙していたナズナの慰めともつかない言葉で、逆に苛立ちを煽られる。
 練りに練った戦略が、根本から破綻した。
 あの集中力を発揮するまでもなく刹那が強いのならば、どうあっても勝てる要素がない。
 ただでさえ防戦一方で押されていると言うのに、だ。
 最早まな板の上の鯉に等しい。石寄せをするまでもなく中押しで終わる結末が目に見える。

 ……くっそ……ここまでかよ…!

 愉快げに笑う刹那が白石を取り、盤上へと運び、刹那にとっての勝利を、シカマルにとって敗北を意味する一手を、

 「……………」
 「……………?」

 ―――打たな、かった。

 「……オイ、刹那?」
 「……………………十秒だ」
 「――は?」

 石を戻し、いつの間にかナズナが用意していたタオルを受け取って、刹那は汗を拭き。

 「十秒が過ぎたから、僕の負け。約束通り三人に好きなだけ奢るよ」

 そんなことを、言われて。
 ――突発的に殴りかかった拳を、ナズナに受け止められた。
 手の平で、綺麗に。

 「文句があるなら、言葉で返してください」
 「っ……!」

 その言葉にすら、冷や水を浴びた頭では、言葉も見つけられず。
 さりとて、屈辱を受け入れる余裕もなく。

 「……要らねえ。賭けは………白紙だ」

 お情けで頂いた戦利品に価値などない。
 刹那が手を止めなければ、二秒を残して、シカマルの番が回っていたと言うのに。

 「………っ」

 ぶつけどころのない感情を持て余して、席を立ったシカマルに、玄関まで送りますと、ナズナが付いていく。
 逆に刹那は、見送りにさえ来ない。それがまた、眼中にないと言われてるようで、腹立たしい。

 「……リベンジしますか?」

 靴を履く途中で、訊かれ。

 「………二度とやりたくねぇ」

 心底、そう思い。
 奈良シカマルは、白亜邸を辞した。
 この後、アカデミーがあることもまた、憂鬱だった。
 マンションを一階まで降りて、振り返り。

 「……まあ、あのまま負けてても、実害なかったけどな」

 鞄にしまった巻物を脳裏に浮かべながら、呟く。

 「奈良家秘伝―――鹿の世話大全。誰が影真似の術を教えてやるかっての……」

 策士と、詐欺師は、正に紙一重。
 此度の対戦は、その見本であった。










 「……色々勘違いしてくれてたようで、助かりました」

 建物の陰にクラスメイトが隠れるまで、ナズナは見送り、部屋に戻る。リビングへ、足を踏み入れると、
 白亜刹那が、倒れていた。
 近くのソファへ、たどり着く寸前で。
 意識を無くし、ぐったりと四肢を伸ばして、うつ伏せで。

 「…………」

 それにナズナは、驚きも慌てもせず、むしろ当然だと思いながら、ソファに引っ張り上げる。膝枕する。

 「……やせガマンにも、程があります」

 両目が滲みそうになって、拭う。
 あの瞬間。
 奈良シカマルがお情けと断じた、あの二秒と少しの時間。

 「………意識、飛んでたですよね」

 ぽつりと、口に出して。尚一層、確信して。

 「算定演舞……いつもは使っても、笑顔の振りぐらいしてますけど……」

 タイミングが、悪かったのもある。
 昨日の今日で、脳髄の疲労が抜けきってない時に、囲碁なんてするから。
 こんなところまで、追い詰められた。
 限界まで出して、ギリギリで、勝ちを譲った形に、持っていき、そして倒れた。
 手抜きして、適当に負ければいいのに。相手に花を、持たせてればいいのに。

 「前より……負けず嫌いになりましたか?」

 それとも。
 負けず嫌いに、“戻って”いるのだろうか。
 いつだったか、昔に、修行途中の息抜きに、そんなことを漏らしていた気がする。

 「むー…言葉遊びは刹那くんの領分です。ナズナには、よく分からないです」

 でも、と。
 言葉を連ねて。
 想いを繋げて。

 「いつか“全部”、“本当のこと”を教えてくださいね?」

 綺麗な笑顔を、咲かせた。
 想い人の、隙だらけな寝顔を、眺めながら。















 「……こ、これはもしや、普段は隙を見せない刹那くんの唇を奪うチャンス……!?」

 言いながら、恥じらいが勝って結局できないナズナだった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
後編!ということでお待たせしました、ゆめうつつです。……あんまり反響なかったかな?やはりバトルの方が盛り上がりますかね?……まあいっか。
今回初めて斜体を入れてみたり。……初めてだったと、思うのですが。まあ、これもどうでもいいことですね。

シヴァやんさん 黒いのはとっくにミミ先生にばれてますし。さて、勝負の結果はいかがでしたか? 勝ちは勝ちですが、辛勝、という形にしてみました。

00000さん シギと我愛羅。会った瞬間に殺し合い勃発……!?(笑)

野鳥さん 自分で確認した範囲で、誤字は訂正しましたよー。まだ抜けてるかも知れませんが。さて、しかし、チートのくせに刹那追い詰められました。どうでしたか?

ニッコウさん シカマル大好きでしたか。結局こういう形に終わり、刹那の悔しがる姿はまたの機会になりましたが、どうでしょう?一応、シカマルが映えるように書いたのですが。

nasubiさん んー……書くとオリキャラ化してしまう人柱力は、考慮からは外しています。が、ゆめうつつは心変わりするやも知れませんので、あまり断言できませんが。期待して、お待ち下さい。


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